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な…長くなりすぎました〜(><;)
なかよし兄妹
作:HEERO



兄妹の絆【2】


 少しずつ、確実に、妹に対する暴行は激しさをましていた。
 「凄い凄い! こんなに泣かない娘は初めてだよ!」
 妹は必死で痛みをこらえた。こんな男には絶対に弱みを見せたくない。泣き顔も見られたくない。しかしもう限界だった。見たこともないような酷い痣、そして多量の出血。崩壊してゆく己の体に恐怖しない人間はいない。ましてや、妹はまだ幼い子供なのだ。
 「う…うえ……」
 我慢できない。妹の肩が震える。
 「おや? 泣いちゃうの?」
 誘拐犯の嘲るような笑い。妹は震えを押し止めるように、自分の体を抱き、攻撃的な目で誘拐犯を見上げた。
 「泣かないよ…! きっと……きっとお兄ちゃんが助けに来てくれるもん……!」


 「君、大丈夫か!? 今、救急車に運ぶからな!」
 ドジな兄。妹を助けなければならないのに、このままでは病院に送られてしまう。
 「は…なせ……! 行く所があるんだ……!」
 「何を馬鹿なことを……! 車にひかれたんだぞ!!」
 「チィッ…!」
 兄は掌の血を撒き散らした。周りの人間が、その血で怯んだ一瞬の隙をつき、兄は立ち上がって走りだした。
 「こんなもん痛くねえ…! 痛くねえ!!」
 携帯電話はさっきの事故の際、どこかへいってしまった。でも大体の場所は記憶している。
 「ハア……ハア………ハア……嘘……だろ……。」
 道端に捨てられている携帯電話。あれはまさしく妹のものだ。誘拐犯は自分の携帯電話からメールを送っていたのだ。
 (畜生!! 畜生畜生畜生!! このままじゃ……このままじゃ……!!!)

 
 『お兄ちゃん…!』


 兄の頭に妹の声が響く。
 「そうだ……あいつはきっと……俺の助けを待っている………。信じてるはずだ!!」
 兄の瞳に力強さが戻る。
 「落ち着け……落ち着くんだ……。恐らく犯人はロリコンの類だ……。シスコンであるこの俺なら、ロリコンの行動パターンを読むことも可能なはず。」
 それはどうだろうか。
 「まずは妹がどこで連れ去られたか……これはまあ下校中だろうな。でもあいつはいつも友達と一緒に帰っている…。きっと一人になったところを狙われたんだろう。そして肝心の犯人がどこにいるかだが……自宅じゃないだろうな。犯人は妹を暴行する目的で連れ去ったんだ。近隣に気付かれるかもしれないから、自宅でそんなことをするとは思えない。それにあの携帯に送られてきた写真。背景がコンクリートだったような気がする。」
 兄はここで行き詰まった。
 「くそっ! 駄目だ! もっとよく考えろ!! もし俺が犯人だったら………そうだ、きっと『ハアハア』しちゃうだろうな。あんな美少女さらったら、『ハアハア』しちゃうのは当然だ。そしてすぐにでも、『あんなことや、こんなことをしたい!!』という欲求が湧いてくるはず…。」
 兄の思考は何かを超越している。
 「帰り道、妹が一人になるのは家が近くなってからだ。そこで犯人が妹をさらい、『ハアハア』しちゃって我慢できないという状況に陥ってしまったのだとしたら……犯人は俺の家から割と近い場所にいる! だとしたら……怪しい場所はひとつしかない!!」


 「ハア、ハア、いいねえ……君、今までで一番いいよ…。そろそろ次の段階に行こうかぁ。」
 誘拐犯はナイフを取り出した。
 「ヒッ…!」
 妹は思わず声をあげた。初めて見るナイフ。しかもそれはほぼ確実に、これから自分に使われるもの。
 「さて、どうしようかなぁ。指を切り落とそうか? 目をえぐり出そうか?」
 「……こ……恐くないもん……! そんなの出したって……あんたなんて全然恐くない! あんたみたいな変態、お兄ちゃんがやっつけてくれるもん!」
 お兄ちゃんも変態だ。
 「馬鹿が……誰も助けになんかこねえんだよ!!」
 誘拐犯はナイフを妹の太ももに突き刺した。
 「うああああああ!!」
 傷口の中で捩られる切っ先。さすがにこれには耐えられない。
 「俺はガキの根拠の無い強がりが大っ嫌いなんだよ!!」
 「ウッ…ギャアアアアアア!!」
 その時、激しい音とともに扉が蹴り開かれた。開かれたと言うよりは、破壊されたと言うべきだろうか。破壊された扉は一直線に飛び、誘拐犯に直撃した。
 「やっぱりこの『廃工場』だったか…!」
 砂埃の中からあの男が姿を現す。妹は鳴咽混じりの声で男の名を呼んだ。
 「……お……お兄ちゃん!!!!」
 兄は妹の方を見た。そして気付いた。彼女の体中の痣、傷。染み渡る血。溢れ出る涙。
 全部見たくないものだった。世界で一番幸せでいてほしい人なのに。その体には傷つき、苦しんだ証が嫌というほど刻まれている。
 妹は兄がすぐに自分の元へ駆け寄ってきてくれる、そう思っていた。でもそうはならなかった。兄が妹との再会を喜ぶには、まず体の内から溢れ出る怒りを消し去る必要があるのだ。そしてその方法は……
 「誘拐犯…てめえをぶっ殺す……!」
 体にのしかかる扉を退かし、誘拐犯がゆっくりと立ち上がった。
 「こ…こいつの兄か…。フフ……馬鹿が……こっちにはナイフがあるんだよ…!」
 誘拐犯は閃くナイフの尖端を兄の方へ向けて構えた。
 「だからどうした、この変態野郎…!」
 しつこいようだが兄も変態である。
 「死にやがれぇぇぇ!!!」
 けたたましい叫びをあげ、誘拐犯がナイフを振り上げて兄に襲い掛かる。
 「がら空きだ!!」
 兄は誘拐犯の腹部に強烈な前蹴りをお見舞いした。
 「ぐ……おおお……!」
 悶え苦しむ誘拐犯。
 「ハア…ハア……見事にカウンターが決まったからな…。相当なダメージだろ…。」
 兄が勝った。妹はおもむろに立ち上がった。
 「…お…お兄ちゃん……お兄…ちゃん……?」
 兄が両手でナイフを逆手に持っている。
 「お前は……生きてちゃ駄目なんだ………。」
 「駄目!! お兄ちゃん!!」
 妹の叫びに兄は我に返った。隙間の開いた手からナイフが滑り落ちる。
 「俺は……!?」
 その時だった。兄が落としたナイフを誘拐犯が咄嗟に拾い上げ、兄に切り掛かった。
 兄は身を退いてナイフをかわす。すると誘拐犯は駆け出し、今度は妹の方へと向かった。
 「し、しまった!!」
 誘拐犯は妹の背後に回り込み、彼女の首にナイフを宛った。
 「お……お兄ちゃん……。」
 首のナイフに視線を向け、妹が震えている。
 「う…動くなよ……!? 動いたら……分かってるよな…!?」
 誘拐犯は兄の方を向いたまま、ゆっくりと工場の出口へと向かう。
 誘拐犯と妹が兄の横を通り過ぎるその時だった。
 「おい、犯人……お前にステキなぞなぞだ…!」
 「何…!?」


 『ダイヤよりも硬く、星よりも巨大な鎖。誰もが羨む心地よい束縛。それは目には見えなくとも、常に俺と妹を繋いでくれている。さて、それが何なのかお前に分かるかな……?』


 「な…何言ってやがる……!?」
 誘拐犯が眉を歪める。
 「フッ……分からんだろうな!! 貴様のような下等な人さらい野郎には!!」
 兄はズボンのポケットから何かを取り出し、誘拐犯に投げ付けた(兄は野球部を甲子園に導いた経歴を持つ、凄腕ピッチャー)。
 「いっ…!!」
 誘拐犯の手に直撃したのは、妹の携帯電話だった。彼の手からナイフが落ちる。
 「えい!!」
 完璧なタイミングだった。妹は誘拐犯のみぞおちに肘鉄をかまして怯ませ、その反動を利用して、兄の元へと駆け出した……が、ナイフで刺された足の怪我に耐え切れず、妹の体は前のめりになってしまった。
 「おっと…!」
 間一髪、床に倒れ込みそうになった妹を兄が支える。
 「……くそっ!! テメエら……!!」
 ナイフを拾いあげようとする誘拐犯。しかし突然その体が何者かに押さえ込まれる。
 「おとなしくしろ!!」
 警察である。兄が予め妹の携帯電話で、この廃工場に警察を呼んでいたのだ。
 「君達、大丈夫か!?」
 兄妹はお互いを強く抱きしめたまま気を失っていた。二人の口元には笑みが浮かんでいる。
 その光景を見て、警官の一人がこう言った。
 「フッ……何者にも断ち切ることができない兄妹の絆か……敵わねえな……!」
 誰なんだお前は。


 朱く染まった病院の屋上。兄と妹が並んで夕日を眺めていた。
 「お兄ちゃん。」
 「何だ?」
 「ありがとう。」
 「お前そればっかだな〜。もう少し違ったお礼のしかたもあるだろ?」
 「たとえば?」
 「ホッペにぶちゅ〜とか。ホッペにぶちゅ〜とか。ホッペにぶちゅ〜とか。それから……そう、ホッペにぶちゅ〜とか!」
 妹が兄の方へ体を向けた。
 「ぬおっ! ごめん!」
 殴られると思った兄は後退りをした。
 「…え? あれ?」
 妹が兄を見上げ、目を閉じている。
 (こ……これはまさか……『さあ、私の唇を奪いなさいポーズ』!!?)
 兄はおもむろに妹の両肩を掴み、顔を近づけた。
 (夕日をバックにした屋上……ぬおお……最高のシチュエーションじゃけえ……!!)
 兄の唇がゆっくりと妹の唇へと近づいてゆく。
 その時、つと妹が目を開けた。
 「な〜〜んて、そんなことするわけないでしょ!!」
 どうやら冗談だったらしい。
 「何だってー!? でももう間に合わないぜー!!」
 兄は容赦なく唇を奪った。
 「んー!! んんんん!!!」
 妹は抵抗した。
 「あ、あなたたち、何やってるの!?」
 屋上にやってきた母親。彼女に見られてしまった。禁断の愛(成立はしていないが)の現場を。
 「お…お母さ……違うの!!」
 母親は泣きながら屋上の階段を駆け降りていった。
 「さあ! 妹よ! もっと! もっとだ!!」
 「いい加減にしてよ!!」
 兄の顔面を妹の拳が捉らえる。
 「ブハッ!!」
 その場に倒れ込む兄。
 「待ってお母さーーーん!!」
 倒れている兄をそのままに、妹は母親を追って屋上の出入口から出ていってしまった。 


 「ハハハ…! いや〜〜、やっぱいいわ、妹って! 」
 兄は屋上で大の字になった。
 「……おっ、いいこと思いついた。怪我が治ったら、夏休みを利用して、あいつと日本一周旅行でもしてみよう! ウシシシ……絶対…楽しく……なるぜ………。」
 兄は幸せそうな顔のまま眠りについた。


 これから先も、兄妹の身には数々の試練が待ち受けていることだろう。しかし彼らなら、どんな苦しみも困難も、二人力を合わせて乗り越えてゆくはずだ。彼らは世界一の『なかよし兄妹』なのだから……。


「なかよし兄妹」はこれで終わりですが、これからもこの兄妹に色々なことをさせてみたいです(^^)
「なんやねんこれ?」と思いつつも最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!













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