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鈴の鳴る方へ

作者:雨音ネコ
初投稿です。
よろしくお願いします。
 

 楽しいことはすぐに終わってしまう


 終わってしまって独りになれば


 また悲しくなる


 楽しいと悲しいの繰り返し


 それは 本当に楽しいといえるのだろうか


 終わった後の悲しさを思うと


 これっぽっちも楽しくない


 だったら 楽しいことなんて


 始めからやらなければ――


   φ     φ     φ


「・・・・・・また、あの夢か」
 僕――篠原 (アマネ)は、寝転がっていた芝生の上から身体を起こしそう呟いた。
「いったい何なんだよ。僕は今の生活が・・・・・・」
 本当に楽しいのだろうか?
 楽しくなんてないから、あんな夢を見たんじゃ・・・・・・

 チリン と、どこかで鈴の音が聞こえた。

 まるで、僕の思考を中断するかのように鳴った鈴の音は、再び、今度ははっきりと聞こえた。
「猫でもいるのかな・・・・・・?」
 辺りを見回しても、鈴の主はおろか人影すらも見当たらない。そもそも隠れられる場所がないのだから姿が見えないのはおかしい。
「空耳だったのかな」
 あまり深く考えないようにして、僕は再び芝生に寝転がり目を閉じる。
「随分のんびりとした午後をお過ごしだな、少年」
 今度は声が聞こえた。
 声の主は、二階堂 薫子先輩。僕らの部活の部長で、姉御的存在だ。目を開けなくても分かる。
「いや、開けてもらわないと困るけどね」
 仕方なく目を開けると、そこには薫子さんだけでなく、クラスメイトで同じ部員の東條 慎哉の姿もあった。
「よっ、周。お前年寄りくさいな」
 彼によると日向ぼっこ=お年寄りらしい。
「ところで、なんでこんな所に二人がいるのさ。僕に何か用?」
「任務だ」
 薫子さんが端的に告げる。
「今、学園内で猫が大量発生している。こいつらを学園外にだし、かつ、この件の原因を突き止めろ。と学園から依頼がきてね。教師どもは好かんが、放っといたら業者でも雇って猫たちを一掃しそうだからな。おとなしく請け負うことにしたんだ」
 薫子さんは、というか僕らは、今まで学園からの依頼を受けたことが無い。
 今回のような依頼は異例の出来事だ。
「謙吾とみゆきは既に捕獲に向かっている。私たち三人は捕獲しながら原因を探るぞ。ついて来い!」
 薫子さんは長い髪をなびかせながら踵を返す。
「さくっと終わらせようぜ!」
「簡単に済むといいけど・・・・・・」
 慎哉に引っ張られて立ち上がる。
「何をぶつぶつ言っている。私たちはただ与えられた任務をこなすだけだ。できるできないではなく、やるんだよ。何が何でもね」
 そう言って振り返る薫子さんは、ものすごくかっこよく、頼もしく見えた。
「さあ、狩りの始まりだ!」
「って、違いますよ! 何自信満々に言い放ってるんですか」
 前言撤回だ・・・・・・。見えただけだった。
「お、やっと元気になったか。うむ、それでこそ少年らしいぞ」
 はっはっは、と笑いながら僕の背中をバンバンと叩く薫子さん。・・・・・・やっぱりこの人には敵わないな。
「よし、じゃあ行くか」
 薫子さんは不敵に笑いながら任務開始の合図を告げた。
「ミッションスタートだ!」


   φ     φ     φ


「・・・・・・で?」
 部室に戻ってきた副部長の高村 謙吾先輩がわなわなと震えている。
「ん? どうした謙吾。何か言いたそうだが」
 10匹の猫と戯れながら話す薫子さん。
 と、
「いったいどういうことだこれは! お前らは、原因を探しに行ってたんじゃなかったのかよ!」
 高村先輩がキレた。
 まあ、起こるのも無理はない。
 今、僕らの部室には何10匹もの猫が集まり、ちょっとした猫屋敷と化している。
 その原因はもちろん薫子さんにあるわけで・・・・・・。
「ああ、原因は分かったよ。ホラこれだ」
 そう言って高村先輩に何かを投げ渡す薫子さん。
「は? 猫缶? 何でそんなもんが・・・・・・」
「そこまでは分かってないけどね。ただ、猫を捕獲している最中に一際大きな猫の塊を見つけてね。近寄ってみるとその中にコレがあったんだ。何と20個もね」
 一緒に行った僕らもその光景を見たけど、アレはある意味怖かった。
 いや、猫が塊になってたのは別に問題なかったんだけど、その猫を掻き分ける薫子さんの目がヤバかった。
 アレは獲物を狩る狩人の目だった。
「ん、少年。何か失礼なことを考えていないかい?」
「い、いえいえ全然まったくこれっぽちも薫子さんのことなんて考えてませんよっ?」
「・・・・・・それはそれで悲しいが。ところで少年。私は別に『誰の』失礼なことかは言ってなかった気がするんだが?」
 そこんとこどうなんだ? と詰め寄る薫子さん。笑顔が怖い。
「そんなことより。どうしてその猫缶がここにあるんだよ?」
 成り行きを見守っていた高村先輩が割り込んでくれた。
「私が持って来たに決まっているだろう? こう自由の女神のように猫缶を高くかざし、わらわらと猫の軍勢を引き連れてね。・・・・・・待てよ? この戦力があればこの学園を支配することも容易い、か?」
「容易いわけあるかよ・・・・・・。つーか、何で持ってくる必要があるんだ。さっさと捨てりゃいいもんだろーが」
「もちろん、こうして謙吾で遊ぶために決まっているじゃないか!」
「・・・・・・殺す」
 うあ、高村先輩がマジで怒ってしまった。
「面白い。やってごらんよ」
 そして、なんで挑発してるんだこの人は・・・・・・。
「面白いことになってるなぁ。あ、俺は謙吾先輩が勝つ方に500円な」
「僕が薫子さんに賭けないと成立しないよね、その賭け。まぁ、いいけど」
「なんだなんだ。もうちょっと乗り気になってくれよぉ。つまんねーだろ?」
「いや、というか、賭けてる場合じゃないから。止めないと――」
 僕らがああだこうだ言ってる間も二人は睨み合ったまま動かない。
 薫子さんはハサミ、高村先輩は雑誌を丸めて作った雑誌ブレード(?)をその手に持ち対峙している。いや、薫子さんハサミは危ないです。
「二人とも危ないですよ――っ!?」
 瞬間、僕の言葉を合図にしたかのように二人は同時に動き出す。
「失せろ、秘奥義・ファイナルフォルフェクス!!」
「食らえ、必殺・破威矢斬!!」
 下段から高速で突き出されるハサミ。それに対して上段から振り下ろされる雑誌ブレード。
 互いの渾身の力をこめた一撃が重なろうとした瞬間――。
「なっ・・・・・・!」
「くっ・・・・・・!」
 その両方が弾かれた。
 驚きに二人の体勢が崩れる。そこへ――
「いいかげんにしなさーいっ!!」
 巨大ハリセンの会心の一撃。
 スパンスパーン! と綺麗に二人の頭を叩いた。
「・・・・・・お疲れ様です。笹森先輩」
「やっぱりみゆき先輩は強いっすねー」
 ハリセンの主は笹森みゆき先輩。
 高村先輩の幼馴染で薫子さんの親友。二人が喧嘩を始めると、いつもどこからともなく現れて仲裁してくれる。ある意味部内最強の人だ。
「お二人とも、見ているだけでなくちゃんと止めてくださいよ」
「すいませーん。でも俺らじゃまったく歯が立たないっすよー」
 ちなみに慎哉の初恋の人らしい。多分成就しないと思うけど。
「フッ。敵の攻撃のさらに上を行く攻撃か。Higher Thanとは上手く言ったもんだな、謙吾」
「そっちこそな。まさかハサミ片手に特攻してくるとは思わなかったぞ。『最後のハサミ』とはそういうことか」
 向こうの二人は、格闘マンガのノリで互いに褒めあってるし。そのネーミングセンスはどうかと思うことや、英語とラテン語が混じっていることとかは言わないほうが良いんだろうな。雰囲気壊しそうだし。
 まぁ、なんというか、良くも悪くもいつも通りの騒々しい時間。
 でも、こういうのは嫌いじゃない。
 僕があの輪の中に入っていなくても、外から眺めているだけだとしても、こういう人たちの近くにいたいと思う。
 これは、『楽しい』と言えるのだろうか・・・・・・?


  チリン と、鈴の音がした。


 ふと足元を見ると、一匹の黒猫が僕の足によじ登ろうと奮闘していた。
 僕は苦笑しながらその猫を抱き上げる。
 何となく気になって周りを見渡してみても、黒猫はこの一匹のみ。
 部室内にこれだけ大勢の猫がいるのにもかかわらず、だ。
「キミは・・・・・・独りぼっちなのかい?」
 猫は、ニャア と答えた。


   φ     φ     φ


 結局、その後は皆で手分けをして猫たちを外に連れ出した。
 その中に、あの黒猫の姿はなかった。
「生徒からの依頼を迅速かつ的確に遂行する・・・・・・。それが、『生徒隊疾行部』だ。ちなみに、生徒会非公認であることは秘密だ」

 それが、部長・薫子さんの第一声だった。
 非公認であるにもかかわらず、体育館で行われた部活動紹介で堂々と部として発表しているのはどうかと思ったが。というかもはや秘密ですらない。
「何か面白そうだな、あの人たち」
 隣にいた慎哉が呟く。正直に言うと、僕も慎哉と同意見だった。
 馬鹿なことをやっていると笑う人もいるけれど、そんなことを考えるよりもまず彼女たちに対する憧れのほうが強かった。ステージの上で堂々と発表するその姿は何よりも輝いて見えた。その一瞬一瞬を全力で生き抜いているように。
 事実、彼女たちは、今という一瞬を、精一杯真剣に、楽しく、時には悲しく、誇らしげに生きていた。
 できるだけ誰とも関わらないような日常を過ごしてきた僕にとって、彼女たちは憧れだった。


  だから、僕は近寄れなかった。


 こんな鬱屈したつまらない僕が、彼女たちの輪の中に入っても迷惑になるだけだ。僕には、彼女たちの真似はできないから。


 部活動紹介から一週間たったある日。僕がいつものように芝生で寝転がっていると、不意に誰かが僕の傍にやってきた。目を開けると、そこには二階堂薫子さんの姿。


 「やあ、少年。キミを救いに来たよ」


   φ     φ     φ


 それが、僕と薫子さんの最初の出会い。
 僕が生徒隊疾行部に入ることになった理由。
 芝生の上で寝返りを打つ。
「なんだ。僕は元々部員じゃなかったじゃないか」
 そうだ、初めは任務の対象だった。
 誰の依頼した任務かは分からなかったけど、僕を、孤独から救い出すという任務。
 初めて会った時から、何かある度に薫子さんに連れ出され、この間の猫騒動のような馬鹿騒ぎに巻き込まれ続けた。それは、決してつまらなくはなかった時間。楽しくて、面白くて、その一つ一つは心に残っている。
 それから、なし崩し的に部員に仮登録された。でも、イヤではなかった。数少ない知り合いだった慎哉もいたし、高村先輩や笹森先輩も悪い人じゃなかったし。
 でも結局、僕は救われていない。


  チリン と、鈴の音が聞こえた。


 体を起こす。
 不意に聞こえたその音が、僕を呼んでいるような気がして。何の根拠もないのに、その時の僕はただただその音が聞こえる方へ歩いていた。
 救いを求めるように、導かれるようにして、鈴の鳴る方へと足を運ぶ。

「待っていたよ、少年」

と、少し歩いたところに薫子さんがいた。その足元には、この前いた黒猫もいる。
「あの時の約束を果たそうと思ってね」
「……約束?」
 約束なんてしただろうか。
「ちょっとついてきてくれないか? 見せたいものがある」
 そう言うと、黒猫を抱き上げて歩き出した。


   φ     φ     φ


「ホラ、見てみなよ」
 薫子さんに黙ってついてくるように言われて到着した場所。
 そこは屋上だった。
 他の校舎よりも少し高い位置にある部室棟の屋上。
 そのフェンスの向こうに見えるのは――
「この町が一望できるだろう?」
 ――夕日が沈んでいく僕らの町。
「ここは私のお気に入りの場所なんだ。誰にも言ったことはなかったんだけどね」
 薫子さんはフェンスにもたれかかってこちらを振り向いた。
「この景色を見せれば多少は変わるかとも思ったけど、やっぱり駄目だったかな……?」
 心なしか落ち込んでいるようにも見える。
 あの薫子さんが……?
「私には分からないんだ。どうすればキミを孤独の中から救えるのかが……」
 薫子さんはそう言って、顔を伏せる。
「ずっと考えてきたんだ。試せるものは全部試してきた。キミを入部させたのも、この前の猫騒動もそうだ。確かに最初に会った時よりはマシになっただろう。でも、それは結局、表面上だけだろう?」
 そうだったのか……。
「だから、私は――」
「薫子さんは、依頼だったから、僕を助けてくれた」
「――っ。違うっ! そんなことを言いたいんじゃない! 私は!」
 薫子さんが慌てたように顔を上げる。焦っている。なんでだろう? 図星だったから?
「だって、依頼だから、任務だから僕とかかわるようにしたわけですよね。だったら何も違うことなんてない」
「……」
 そうだ。僕がいたから。
「僕がいたから薫子さんはこんな面倒なことをしなくちゃいけなかったんですよね。だったら、もういいです。僕は……」
「……キミが」
 不意に、薫子さんが呟いた。
「キミがいたから、私は救われたんだ」
 救った? 僕が、薫子さんを?
「何の、何の話ですか? そんなことあるわけ」
「キミが覚えてないのも無理はない。以前の私と今の私では全然違うし、そもそももう3年くらい前の話になるから」
 薫子さんは僕の両肩を掴んで、僕の目を見て言った。
「でも、私は、キミのおかげで救われた。それだけは絶対に本当のことなんだ」
 そう言った薫子さんの目はどこか不安そうで、でも、とても真剣に語りかけてきていて。
 僕の目をまっすぐに見つめていた。
「……」
 その目を見た時、ふと、誰かとダブって見えた。
「……ふふ」
「?」
「ふふふ、はは……」
 なんでだろう。何故か笑いがこみ上げてくる。
「お、おい。少年。どうした? なんで……」
 この人がずっと僕のことを考えてくれていた。ずっと僕のことを思っていてくれた。そのことがとてもとても嬉しくて、
「なんで、泣きながら笑ってるんだ」
 嬉しすぎて、涙が、止まらない。
「……はは。薫子さん、変な顔ですね」
「なっ。変な顔とはなんだ。これでも私はキミを心配して――」
「ええ、ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですから」
 僕はあふれ出る涙を拭きながら、薫子さんの目を見る。
「僕は……」
 ――伝えなければならない。
「あなたに会えて、あなたに会えたことで……」
 もう、何も怖くないから。
「すくわれ……」


  チリン、と、鈴の音が聞こえた。


 振り返ると、フェンスの向こう側にいる黒猫の姿があった。
 どうやって向こう側に移ったのだろう。ぼんやりとそんなことを考えていると薫子さんが焦っていた。
「……まずいぞ、少年。ココはよく突風が吹く。早くあの猫をこちら側に――」
 薫子さんの言葉を聞いた瞬間、僕の体は動いていた。
 少しでも早くあの子のところに行かなければ――。

 でも、そんな僕の思いを嘲笑うかのように、屋上に強風が吹き付けた。

「――っ!」
 子猫の軽い体が宙を舞う。
 迷っている時間はなかった。
「やめろ、周っ!」
 薫子さんが後ろで叫んでいたけれど、もう止まれない。
 僕は、勢いに任せてフェンスを乗り越え、そのまま青空に向かって飛び出した。


 重力に従い落ちていく。
 その中で、黒猫をしっかりと抱きしめた。
 腕の中で、ニャアと、不安げな鳴き声が聞こえる。
 でも、
「大丈夫、だって、もう、独りじゃ――」
 そこで、僕の意識は途切れた。


   φ     φ     φ


 幼い頃、交通事故で両親を亡くした。
 多分、その頃からだ。僕が周囲の人と深く関わらないように過ごすようになったのは。
 仕方なかったんだ。だって、もうこれ以上大好きな人たちがいなくなるのはイヤだったから。

 でも、それじゃダメなんだ。

 失うことを恐れていたら、何も始まらない。
 悲しいことを恐れていたら、楽しいことはやってこない。
 それを、僕は、薫子さんや部の皆から教えてもらったはずなんだ。
 だから、早く起きてお礼を言わないと。
 早く――


  チリン と、鈴の音が聞こえた。


   φ     φ     φ


 目を開けると、そこには薫子さんの顔があった。
「……何泣いてるんですか、薫子さん」
 きれいな顔が台無しですよ。
「……っ。バカ者。キミのことが心配だったからに決まっているだろ。たまたま木がクッションになったから良かったものの。もっと自分を大切にしろ。もうキミは我が部の大事な部員なんだからな」
 ああ、そうか。良かった。ちゃんと伝わっていた。
 それに、もう傍観者じゃない。僕は、あの楽しい仲間の、輪の中に入れたんだ。
 仲間だと思っても良いんだ。
「……それに、キミが死ぬと私が困る」
「?」
 薫子さんが呟いた一言はうまく聞き取れなかった。
「何でもない。それより、キミが命懸けで助けた猫はここにいるぞ。……ホラ」
 ベッドの下から出てきた黒猫が、薫子さんに抱きかかえられて膝の上に乗る。どこも怪我はなく、元気そうだ。
「良かった。……この猫、僕が飼っても良いですか?」
「ん? ああ、良いと思うよ。その首輪と鈴は私がつけた物だし。うちの寮の規則にペット禁止とは書いてないしな。ただし、途中で投げ出したりはするなよ?」
「はい、それは大丈夫です。……おいで」
 頭を撫でであげながら優しく語りかける。
「もう独りぼっちじゃないよ。キミも……僕も」
 猫は、ニャアと嬉しそうに鳴いた。
「周、キミは――」
「……薫子さん」
 薫子さんの言葉を遮って、大切なことを伝える。
 ずっと気付けなかった、伝えなければならなかった言葉を。
 もう一度、はっきりと。
「僕は、あなたに会えて、部の皆に会えて、救われました。孤独じゃないって、恐れていたら何も始まらないって気づけました。本当にありがとうございました」
「周……」
 薫子さんが僕に手を伸ばしてくる。
 と、
「ちょ、押すな、押すな――って、うわぁ!」
 病室のドアが開き、生徒隊疾行部の皆がなだれ込んできた。
「オイ、貴様ら。この個室のドアは引き戸だ。押されても開くわけないだろうが――」
「いやぁ、悪いな。せっかくいい雰囲気だったのに」
「ごめんなさいねー」
「よっ、周。生きてるか?」
 三人はわなわなと震えている薫子さんを無視して、僕のところに駆け寄ってきた。
「あ……皆、ありが――」
「おっと、お礼ならさっき聞いたからいらないぜ。さっさと退院して戻ってこいよ? 我が部にはお前の冴えわたるツッコミが必要だ」
 謙吾先輩が、笑いながら僕の頭をポンポン叩く。
「そうですね。ツッコミは置いておいて、周君のいない疾行部はもう考えられないですからね」
 みゆき先輩は、いつもの包み込むような優しい笑顔で。
「いえいえ、やっぱツッコミは必須でしょ! おい周、俺はお前の親友だ。……以上」
 慎哉は、自分で言ったセリフに赤面している。
 みんな僕の大切な仲間。
 そして、
「はっはっは。まあ、そういうことだ。周、退院したらこき使うから覚悟しておけよ?」
 いつの間にか立ち直っていた薫子さんは、相変わらず不敵な笑みを浮かべている。
「いてっ、ちょ、痛いよ」
 ニャアニャアと黒猫がねこパンチをしている。
 ……励ましてくれているのだろうか?
「ふふっ、これでやっと生徒隊疾行部が一つになったな」
 薫子さんは皆を見回した後、惚れ惚れするような満面の笑みで任務終了の合図を告げた。


「ミッション・コンプリートだ!」



  チリン と、僕らの輪の中で鈴が鳴った。











                           『鈴の鳴る方へ――Fin』
ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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