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闇の書編
第十七話 最後の平穏
「むふふ、なのはちゃんとフェイトちゃんが指につけているものはなんなのかにゃー?」

月曜日の放課後、暁子、ミリアを誘って月村邸へと遊びに来ていた。
もちろん学校では外していたのだが、こっそりと放課後つけようとしたところを目ざとい暁子が発見したためこうして月村邸に着いてもなおしつこく迫っていた。

「こ、これはおにいちゃんに・・・ゴニョゴニョ」

「ぷ、プレゼントしてくれたの・・・ゴニョゴニョ」

「神代君ってそういうことには奥手だと思ってたんだけど、やるじゃない」

「・・・それがどういうことなのかは知らないけど、たぶん間違っているとだけ言っておくよ」

「えっそうなの?でも皆はどう思っているかしら?」

暁子に指摘されて公太が周りを見渡してみると・・・

「あ、あんたついになのはとフェイトにそこまでしたのね。ただの兄貴分だとは思わなかったけどまさかそこまで・・・・・・」

「すずかちゃん大丈夫?」

「だ、大丈夫だよミリアちゃん」

一人テンパっているアリサは別にして、すずかとミリアは何が大丈夫なのか。
どちらにしろプラスに思われていないのだけは察することができた。

「(たとえ兄であっても、男性が女性にプレゼントをあげるのはそれなりに覚悟がいるらしい)」

一般常識に自信がない公太は、間違った方向に学習していた。

「そういえばはやてちゃんはどうしたの?ほら、前に紹介してくれたじゃない?」

「はやては今日は病院。定期健診だよ。あとで僕は行くつもりだけど」

「え、神代君ってはやてちゃんにもちょっかいだしてるの?」

「すごく気になる言い方だけど、別におかしいことじゃないでしょ。知り合いなんだから」

「そうだけど、定期検診にわざわざ出向いたりするかなあ」

間違った方向ではあるが、なかなか鋭い。

「いや、実はそのあとに夕食をご馳走してくれる約束になってるんだよ」

本当は定期的な気の操作。
しかし、夕食の話も嘘ではないものの、どうやら公太の選択は間違いだったようだ。

「えっ」

まるで聞いてないといった顔をするなのはとフェイト。

「なぜ君たちがそんな顔をする。たいしたことじゃないでしょ」

「駄目だなあ神代君。他の女の子と食事なんて気になるものだよ」

「でも二人きりじゃなくてシグナムやヴィータも一緒だぞ」

「まさかその人たちも女の子じゃないでしょうね?」

「・・・女の子ではないよ」

シグナムは女の子という年齢じゃないし、ヴィータも実際の年齢はかなり上だ。
微妙にごまかしを入れてみた公太だったが、暁子には効かない。

「今日はやてちゃんのお家にお邪魔しちゃだめかなあ?」

「あ、私聞いてみるね」

なぜか暁子の言葉にいち早く反応したなのは。

「もしもしはやてちゃん?今日おにいちゃんに夕食をご馳走するって本当?」

「(なぜそこから聞く?)」

「あ、本当なんだ…」

「(なぜ落ち込む?)」

「その夕食に私たちも行っていいかな?あ、暁子ちゃんたちもいるんだけど。うん、けっこう大人数になる」

「(あの家には全員は入らないんじゃないかな?)」

ちょっとした期待を持つ公太。

「あ、うん。ちょっと聞いてみるね」

そう言ってなのはがすずかに耳打ちをして、すずかがうなずいた。
もちろん聞こえていた公太は落胆する。

「すずかちゃん大丈夫だって。じゃあ今日すずかちゃんのお家で夕食ね」

無情にもなのはのいきいきとした声が、公太の期待をぶち壊した。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

はやての中の闇を除去する作業はこれで4回目になる。
はやての調子は良くも悪くもならない状態を維持できたが、公太の様子が少し変わっていた。

(・・・闇に好かれ始めている)

初めてはやての闇に触れた時、闇の書の闇は公太を拒絶した。
そして初めてはやての家に行ったとき、闇が充満している家の中で、またも公太を拒絶していた。
しかし、初めてはやての中の闇を除去する作業をしていた時、今まで拒絶していた闇が拒絶しなくなっていた。
それから回を重ねるごとに、だんだんと公太の中へ闇が入ろうとしていたのだ。
闇の勢いからして、4回目はまだ耐えられる。
しかし、あまり時間を伸ばせなくなってしまったのも事実だ。

「じゃあ今日も始めるよ」

「お願いします」

横になったはやてに手をかざして、自身の気を流し始める。
当初の拒絶よりも強い勢いで公太の中へ侵入しようとする闇を牽制しながら、公太ははやての中に潜む闇を除去していく。

「この治療はあたたかくて好きや」

なのはとフェイトと同じ反応をしてくれるはやてに、公太はつらいながらも微笑んだ。

「!?」

油断をしていたわけではなかった。
急に勢いを増した闇のほんの一部が公太の中へ流れ込んできたのだ。

「(闇も学習しているということか)」

緩急をつけてきたことに対しての感心と恐怖。
流れ込んできたのは闇だが、その感情は恐怖だった。
今回はすぐに反応ができたおかげで本当に一部しか入らなかった。
それでもこの恐怖だ。

「どうしたん?」

「なんでもないよ。はやては最近調子どう?」

「公太君のおかげでなんともあらへんよ。ありがとう」

「それはよかった」

はやての手前、実際どんな状態であっても何事もない様子を見せないとならない。
だがはやての笑顔ももなのはやフェイトと同様、心安らぐものがあった。

「今日はごめんね。うちのなのはたちが無理言って」

「ふふっ」

「僕、なにかおかしいこと言った?」

「ううん、違うんよ。やっぱり公太君はお兄ちゃんやなあって思って」

「そりゃまあ僕は兄のつもりだけど」

「・・・・・・」

「なんか微妙な反応だね」

「公太君はもうちょっとなのはちゃんとフェイトちゃんを見たほうがええと思うよ」

「・・・よく見ているつもりなんだけどなあ」

だがはやての言っていることがそれに当てはまらないことは予想できた。
なぜなら、今のはやての言葉は暁子たちと同じ言い方をしていたからだ。

「そろそろすずかの家に行こうか」

「そういえばすずかちゃんも・・・」

「ん?」

「なんでもあらへんよ。さあ出発や」

妙にテンションが高くなったはやてだが、公太は気にしないようして車いすを押した。

「そういえばけっこうな人数になるけど大丈夫?」

「ん~、材料はすずかちゃんのほうで全部そろえてくれるみたいやし、メイドさんも手伝ってくれるゆうてたから」

「ならいいけど、体力にはくれぐれも気を付けてね。最近活性化し始めてきているから」

「活性化って病気のこと?」

「まあね」

「まるで生きてるみたいな言い方やね」

「生きてる・・・か」

あながち間違ってはいないのかもしれない。
闇の書の分身がはやての中に入り込んでいるという認識で間違ってはいないのだから。

「そういえばすずかちゃんのお家に行くんは初めてやな」

「まあ御屋敷みたいな家だけど・・・まあはやては問題ないな」

パッと見普通の家よりかなり広いくらいの家だが、玄関にいたるまでの銃火器の数々。
普通に見回す分には視界に入ることはないが、普通の人ではない公太からしたら常に自分が狙われている気がして落ち着かないのである。

「なんや気になる言い方やなあ」

「それはお互い様」

さっきのお返しとばかりに言う公太。
そんなことを話している間に2人は鉄壁の要塞月村邸に到着した。
公太たちが門の前に立った瞬間に、はやての目にも見える監視カメラが公太たちに向くと同時に公太にしか見えない銃火器が公太たちをロックオンする。

「・・・・・・」

『はい』

「あ、はやてです」

『お待ちしておりました。公太さんに解除しましたのでゆっくりこちらにいらしてくださいとお伝えいただけますか?』

普段なら必ずノエルかファリンが出迎えに来るのだが、公太をいじめるためだろう。

「って言ってるんやけど、解除ってなに?」

「門の鍵のことじゃないかな。とりあえず待たせちゃ悪いしさっさと行こうか。さっさと」

「なんか急いでる?」

「待たせちゃ悪いからね」

公太は早足で車いすを押しながら玄関まで歩いたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「うわあおいしそう」

「ほんとだね」

「メイドさんたちがおったからな。いつも以上においしくなったよ」

「いえいえ、はやて様のお手際はすばらしいものでした」

「私もびっくりでした~」

みんなで楽しく食事をして、笑顔が絶えなかった一日。
その日は最後まで公太も含めてとても賑やかな一日であった。
はやてがなのはとフェイトの指輪に気づいてそれについて聞くと、周りも一緒になっていじり始める。
公太は最後までなんでもないと貫いたが(実際なんでもない)、なのはとフェイトは終始顔を赤くして照れていた。
そんな一日。
守護騎士たちと和解してから一週間。
その一週間は実に平和であった。
しかしそんな日も長くは続かなかった。
苦難な過去を突破し、平穏な現在を得たところで、未来にはまた苦難が待ち構えている。
それは未来を視ることができる公太だからこそ分かっていること。
闇の書の闇が活性化しているという事実が、公太に不穏な未来の現実を突きつけていた。




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