ガチャ30 狂鬼オーガを穿つ雷槍
オーガを遠距離から狙い撃つと決めたリュウは、体内で循環する魔粒子を爆発させて魔光圧気エーテルグラストを開放。
全身から紫電を放出させる。
不規則な動きの閃光が空中を走り抜けて行った。
目標は馬車を取り囲んでいる大鬼族のオーガ。数は10体。醜い緑色の顔が、人間という極上の餌を胃袋に収めて、嬉しそうに歪められていた。
リュウは千里眼に映る数キロ先での光景に胸糞悪さを感じつつ、自身の周囲に稲妻の槍を形成していく。
高圧縮された『貫くもの』の名を冠する雷槍は、リュウの怒りを体現するかのように、激しく内部で放電を起こしていた。
(……配置が悪い。
射線上に半分位被っているオーガもいるな。
数で圧倒するか。
1体につき、稲妻投槍3本でケリをつけるぞ)
詠唱短縮に加え、その天才的な魔力操作を利用し、次々と稲妻投槍を精製していく。
空中で待機している稲妻投槍が数秒ほどで、30に到達。
稲妻の化身達は整然と並び、主の号令を静かに待っていた。
数キロ先にいるオーガ達は食事に夢中で、リュウが雷魔法を準備していることに気づく様子はない。
(せいぜい今のうちに喜んでおけ!!)
極限まで研ぎ澄まされた雷槍の穂先がスパークしながら高速で回転していく。
……キィィィィィィィィィィィィィィィイン!!
微かに聞こえる超高音。回転速度が頂点に達した瞬間、リュウは稲妻の化身達に命令した。
「貫け、稲妻投槍!!」
初撃の雷槍10本が、秒速150キロで飛び出した。
轟音を置きざりに突き進む閃光。
オーガは危機察知スキルによって、瞬間的に背後から近づいてきた生命を脅かす何かを感知し、僅かながら逃げようと身体を動かそうとしていた。
しかし、圧倒的な速度から逃れること叶わず、全てのオーガへ雷槍が1本ずつ突き刺さった。
「「ガアアアアアア!!」」
大腿部を貫かれたオーガ達は強烈な痛みに絶叫した。
高耐久を誇る鎧のようなオーガの皮膚を、雷槍が何の抵抗も感じさせずに貫通している。
限界まで魔力を圧縮し、螺旋回転で威力を高めた穂先はリュウの想像を超える貫通力を生み出したようだ。
避けるために必要な足に、痛恨のダメージを負ったオーガ達。
立っているのがやっとの状態であった。
攻撃がどこから来たのか探るために、首を振ろうとしたオーガの元に、時間差で発射された2撃目の雷槍が飛来する。
「「ガッ!!」」
オーガ達は腹に風穴を開け吐血した。
傷口が電熱で焼き焦がされて、異臭を放っている。
驚愕と痛みに歪んでいるオーガの醜い顔を、3撃目の稲妻投槍が穿ち、悲鳴を叫ぶ時間も与えず絶命させた。
千里眼でオーガ達の末路を見届けたリュウは1度に大量のMPを消費した影響でふらつきながらも、身体に満ちる大きな力を感じ、大幅にレベルアップしたことを確信した。
しかし、まずは魔石と死体回収を1番にすべきだと考えたリュウはオーガ達の死体へ走って近づいていく。
あと10メートル程でオーガの死体にたどり着くというところで、死体の中から1体だけ、幽鬼のように立ち上がってきた。
(……なんだ? あいつだけ、2~3撃目の稲妻投槍を避けたのか?)
リュウが観察を続けると、立ち上がったオーガの左大腿部にこそ雷槍でできた穴が開いていたが、腹や頭に損傷が全く見られていない。
そのオーガの前には、全身穴だらけになった同胞が転がっていた。
リュウは手負いのオーガを鑑定する。
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名前 オーガ
種族 大鬼族
レベル 65
HP 745/1289
MP 81/81
筋力 270
魔力 23
耐久 245
敏捷 195
器用 97
幸運 61
スキル 【棍棒lv5】【危機察知lv3】【進化の系譜】【同族支配】
魔法
加護
状態 【生贄の盾の紋章】 刻印中
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初めて見る状態【生贄の盾の紋章】の項目に注目すると、詳細な説明が浮かび上がった。
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名前 生贄の盾の紋章
説明 命を脅かすような攻撃を察知できた場合に限り、半径10メートル以内にいる支配している生物にダメージを肩代わりさせることができる。3回使用すると紋章は消える。残り1回。
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手負いのオーガは馬車近くに転がしていた金属製の大きな棍棒を拾い上げ、リュウを見る。
新しい獲物を見つけたとばかりに顔を歪めて笑っていた。
手負いのオーガは左足に負傷しているのにも関わらず、駿馬より速くリュウへと接近してくる。
(手負いの野郎、味方を盾にして生き残りやがったのか……。同胞を殺してまで助かったのに、誰にやられたのかも忘れて目の前の新鮮な人間を喰らおうとするなんてな……。
流石は化け物。考え方が腐ってやがる)
「上等だ! 燃え上がれ!!」
フレイムタンを手にしてリュウが叫ぶ。
陽光を受けて煌めく紅い刃が、開戦の合図代わりに派手な炎を噴き上げた。
リュウに向かって迫る手負いのオーガが、金属製の棍棒を脳天めがけて降り下ろす。
尋常ならざる腕力が超重量の棍棒を加速させた。
リュウは頭上から高速で落ちてくる棍棒の根本に狙いを合わせ、フレイムタンで掬うように斬り上げる。
硬い金属を、紅刃に纏った炎が高熱で溶かしながら通り抜けた。
先端を失った棍棒が何もない空間に振るわれる。
怪物の眼に僅かな動揺が走った。
「覚悟しろ」
戦闘において致命的な隙を見せた手負いのオーガ。
鋭く振り抜かれた魔法銀製の刀身が、オーガの首を一撃で斬り飛ばした。
地面に落ちた首が、一瞬にして炎で焼かれ塵と化す。
「討伐、完了だ」
リュウはオーガの凄惨な死体に囲まれながら、戦闘の結果を振り返っていく。
雷魔法の試し打ちの結果は上々。
今回は魔弾の拳銃という切り札の1つを使わずに倒せたことについても達成感を覚えていた。
確認していないものの、身体に満ちる力の大きさから大幅にステータスが上がっていると予想できる。
リュウは勝利の余韻に浸りながら、その場でしばらく満足気な表情を浮かべているのだった。
◇◇◇
秋から冬に変わっていくことを予感させる冷たい空気が吹き始めた荒野。
リュウの回りには複数のオーガの死骸が並んでいる。
フレイムタンを使い死骸から魔石を取り出すと、死体だけ先にグリードムントの指環へ収納した。
残っているオーガの魔石は、赤色で歪な形をしており、大きさは手の中に納まるほど。
リュウにとって、魔石はガチャを回すために必須なアイテムという認識になってきている。
単独でCランクの危険度を誇るオーガの魔石とあって、その価値がある程度高いことを期待し、鑑定をした。
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名前 オーガの魔石(中)
評価 B
価値 金貨5枚相当
説明 狂暴なオーガから採れる歪な形をした中型の魔石。保有魔力量がAランク魔石並みに多い。魔力を使い切った場合、再充填できない。
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(……これが10体分あるのか! ガチャがまた回せるな!!)
オーガの魔石の価値がリュウの想定よりも高かったため、リュウは気分を高揚させている。
リュウはガチャを回すため、スマートフォンを手に出現させようと念じようとした。その瞬間、帝国側から敵意のある強大なプレッシャーが放たれる。
リュウは魔石を手早くグリードムントの指環へ収納し、いつでも応戦可能なように構えた。
警戒態勢のまま、千里眼で前方を確認する。
遠く離れた場所に、周囲の景色が歪ませながら灰色の人形が現れた。
「あいつがこの魔光圧気を出してやがるのか……」
呟いたリュウは千里眼越しに体格の良い男を睨みつけている。
男は全身を灰色の外套で覆っていた。顔は深く被ったフードではっきりとは確認できなかったが、鼻から下はフードで隠しきれず素肌を晒している。左頬に、縦へと走る古傷が見て取れた。
灰色尽くめの男から伝わってくる圧倒的な魔力量。
嫌な汗がリュウの額を流れる。
灰色尽くめの男が口を動かしたかと思うと、千里眼越しにリュウと目が合った。
視線が重なった瞬間、男は凄まじい速度でリュウへと接近し始める。
(……身体能力も高いのか! まだ、こいつには勝てん! クソッ。撤退だ)
悠長に構えている暇はない。
あれほど離れていたはずの彼我の距離は、既に心許ないほどに詰まっていた。
リュウは魔力枯渇現象を起こすことを覚悟して、ありったけの魔力を開放。
相手の視界と聴覚を奪うために強烈な光を放つ落雷を発生させ、雷鳴を轟かせた。
灰色尽くめの男の動きが、閃光と轟音を直に浴びて僅かに鈍る。
しかし、そんなことを確認する余裕もないリュウは、続けてグリードムントの指環を起動し、マギ・スクロール【ワープ】を手早く取り出した。
リュウがマギ・スクロールを取り出した頃には、超人的なスピードで目と鼻の先まで接近してきた灰色尽くめの男が、腰に下げていた漆黒の魔剣を振りぬき始めていた。
(間に合えええええっ!)
「ワープ!!」
リュウが叫んだとほぼ同時のタイミングで振るわれた黒い魔剣は標的を見失い空を切る。
間一髪。
ギリギリで魔剣を躱したリュウは、リィオスの屋敷内にある修練場へと空間転移を果たす。
集中力が切れた瞬間、魔力枯渇現象に耐えきれずにその場で倒れ、リュウは気絶した。
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