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ガチャ26 過酷な修業を終えた青年を労う少女

「ーーーー完成だ。貫け、稲妻投槍ブリューナク


 目の前でリュウを観察し続けるリィオスに向かって、圧縮した稲妻で形作った大槍を投げ飛ばした。咄嗟に展開した魔力障壁にぶつかる。目も眩むような光を放ちながらも障壁を突破できずに消えていった。


「……ハハハ! 流石はリュウ君。詠唱短縮か。君も十分、怪物級だね」


 余力を持って防いだはずのリィオスの額からは冷や汗が流れていた。


「簡単に防いでおいて、よくもそんなことがいえるな……」


 褒め言葉が癇に障り、額に青筋を浮かべている。

 1度に放出できる魔力を限界まで引き出し発動させた稲妻投槍ブリューナク。それをリィオスはまったく詠唱もせずに展開した魔力障壁で打ち消した。リュウにとっては、実力の差が魔法においてもかなりあるとわかっただけである。


「魔力障壁の展開なら君もすぐにできるさ! これは原初魔光オリジンエーテルの応用だからね。それに、今は魔力値が高ランクとは言えないから私の障壁を突破できないのも仕方がないさ。そんなことより、注目すべき点は詠唱短縮だよ!」

 

「あれで、詠唱短縮してたことになるのか?」


「なるね! 王国では私と宮廷魔術師団の団長しか使えないんだ。何年も修業してイメージをつかんでようやく詠唱短縮できるようになったというのに、リュウ君は初めて魔法を使う時から詠唱短縮してるじゃないか! 末恐ろしいね……」


「へぇ。そんなに凄いことだとは思わなかったな」


 リュウは雷の発生するメカニズムを覚えていた。ユグドラシルにはない地球の科学。図形や説明文を思い出し、はっきりと現象をイメージできた。それが成功の要因だと感じている。

 リュウが気がついていない要因もあった。

 転移してきたばかりのリュウは固定観念を持っておらず、独創的な発想を可能としている。それが功を奏して、最高レベルの詠唱短縮をいきなり発揮できることに繋がったのだ。


 この世界は地球程創作物は溢れておらず、教育機関もほとんどない。知識を得る機会が圧倒的に少ないのだ。素質があって魔法使いになれたとしても、現象をイメージする時は詠唱に多くの文言を必要とする。そして、戦闘中は仲間に守られながら長い詠唱を唱えて魔法を行使するというスタイルが常識とされているのだ。


「詠唱短縮だけじゃないよ。魔力値が88のはずなのに、障壁で受け止めた時の感覚からすると倍まではいかないけど、それに近いくらい威力があったよ。

 詠唱短縮に加えてこの威力。魔法だけでもCランクモンスター相手に余裕で勝てるんじゃないかな」 


「そうか。お前が言うんだから間違いないな」


 元Sランク冒険者からお墨付き貰ったリュウ。

 自身の得た力が、本当にCランクモンスター相手に通じるのか。リュウは明日、実戦で試そうと心に決めたのだった。


「それじゃあ、雷魔法も使えるようになったし、今日のところはこれで終わりにしよう。次からはここで修業をするから、次の休日になったらまたここに来るようにね」


「わかった」


 特に荷物もないリュウは簡単に返事をして、既に階段を昇ろうとしている。

 リィオスは無理をするであろう弟子に一言釘を刺すことにした。

 

「待ちたまえ」


「なんだ?」


「今日は帰ったらすぐに寝なさい。魔力を使い切るのは危険だよ。人体に過酷な負担を与える『極大魔力エーテルの試し』に続いて、深い集中が必要な魔法の行使を行ったんだ。無理をしてはいけないよ」


「ああ」


(案外、優しい所もあるじゃないか)


 意外なリィオスの優しい言葉かけ。了解したと示すように片手だけ上げた。

 リュウは後ろを振り返らずそのまま歩き出す。長い階段を昇り切り、シリウスに挨拶をして屋敷の外へ出た。やすらぎ亭へ向かう途中、ほんの少しだけ師匠のことを見直していた。

 

 ◇◇◇


 やすらぎ亭につくなり、栗色の髪を揺らしながら少女が走ってきた。規模の小さな宿屋であり、若い女といえば看板娘のエリーしかいない。


「リュウさん! 遅かったで……これ、どうしたんですか?」


 エリーは兄のように慕うリュウが戻ってきたことが嬉しかった。少しでも話をしたい駆け寄ると、リュウの顔が真っ白になっていることに気が付く。

 下からリュウを見上げるエリー。小動物のような瞳が心配そうに潤み始めた。


「そんなに顔色悪かったか? 今日は1日修業して、なんとか1つだけ魔法を使えるようになったんだよ。その時の修業が結構大変だったから、その所為だ。休めば治るから気にするな」


 リュウは周囲に誰もいないことをさりげなく確認しながら、エリーにギリギリ聞こえる声で話した。


「えっ! リュウさんって1日で魔法使いになったんですか!?」


「静かに。他の奴にまで聞かれるのは困る。面倒事に巻き込まれるからな」

 

「ご、ごめんなさい。でも、そんな話きいたら普通はびっくりしちゃいますよぉ」


 確かに魔法使いになれたという事実は秘匿すべき重要な情報。しかし、普通は素質があるものでも何年も魔力操作の訓練だけを続けることが常識となっているのだから、エリーの反応は当然のものであった。


「確かにな。俺も迂闊うかつだった。エリーがあんまり心配そうに俺のことを見つめていたから、嘘をつくのも悪いと思ってな」


「それは……だって、とても辛そうな顔をしてたから……」


「大丈夫だから、心配するな。可愛い顔が台無しだぞ」


(可愛い顔だって! は、恥ずかしい……。でも、これだけは言っておかなきゃ! だって、最近疲れた顔ばっかりしてるよ。元気なリュウ兄さんに会いたいよ)


「……じゃあ、心配をかけさせるような無茶はしないで下さい!」


 表面上は注意をしつつも、心許せる異性から可愛いと言われたことのないエリーは、胸の高鳴りが止まらなかった。 


「善処するよ。そうだ……」


 やきもきするエリーに気がつかないまま、リュウはマジックポーチに手を入れ、グリードムントの指環を起動。空っぽのバスケットをつかむ。マジックポーチからバスケットごと手を引き抜いた。


「エリーの作ってくれたサンドイッチ、美味かった。修業が成功したのはエリーのお蔭かもしれないな。助かったよ。ありがとう」


「本当ですか? 良かったです」


 頬を赤らめながらバスケットを受け取る。気持ちを込めて作ったサンドイッチは綺麗になくなっていた。口元には自然と笑みが零れている。エリーは心の中で毎日サンドイッチを作ろうと決めたのだった。


「やっぱり、エリーには笑顔がよく似合うな。じゃあ、もう行くよ。おやすみ、エリー」


 挨拶を済ませたリュウはエリーの横を通り抜け、自室へ向かって歩いていく。


(きっと、嫌われないよね? 今日もとっても優しい目で私を見てくれてたもん。今日は思い切って呼んでみよう!)


 笑顔がよく似合う。慈しむような眼をしながら言われたその言葉を聞いた瞬間、決意が固まった。


「おやすみなさい…………リュウ兄さんっ」


(ん? リュウ兄さんっていったか? 俺も妹みたいに思っていたし、そう呼ばれたら嬉しいだけだが……)


 リュウは気になって後ろを振り返った。走り寄ってきたエリーがリュウの身体をつかんでつま先で立つ。驚いているリュウの頬に、小鳥のような口づけをした。


(……えへへ。兄妹なら、こういう挨拶もするって友達が言ってたよね)  


 初めてのキス。


 義理の兄妹がするイケない挨拶の仕方ということまでは、友達から聞いていなかったエリー。義兄は驚愕のあまりに顔を真っ赤にして固まっているようだ。


 頬にもう1度だけキスをする。

 恥ずかしさの限界を迎えたエリーは、逃げ出すように走って行った。


(頭がボーッとしてきたな。深く考えるのはやめよう。異世界の兄妹はこういうもんなんだろ、きっと……)


 リュウは考えることを放棄して自室に戻った。

 ベットに入るなり、今日は止めておくようにと言われた魔力を使い切る課題をこなす。熱くなった体温が明日には戻ることを祈りながら、気絶するように眠りについた。

お読み頂きありがとうございます。

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