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蒼日記
作:SCHIP



第10章〜掌に置かれたもの〜


モスコミール。

初めて逢ったこの夜。そして、これから幾度が過ごす夜。
アオイはいつも、このカクテルをオーダーした。

「お酒・・ホントに弱いんですぅ。でも、これって
ジュースみたいでのみ易いでしょ?」

ほの暗い店内は個室で仕切られ、目の前にいるアオイだけが、
俺の眼に映っていた。

この日・・俺にとって朝から続いている"二人だけの時間”は新幹線、
帰りの時刻を忘れさせていた。

「ヤバァイですぅ〜。信じられないっ」

これから、何度も聞く事になるアオイの口癖。
アオイはそう言うと、少し赤らんだ顔でうつむいた。

「何?どうしたの?」

「これ・…このモスコミール・…お酒いっぱい入ってますぅ
信じらんな〜いっ」

確かにアオイの顔は、グラス半分程のモスコをのんだ時点で
ほんのりと赤らみ、視線もどこか、宙を泳いでいた。

「本当に?何だか、見た眼はジュースっぽいじゃない。
本当にアオイちゃん、酔っ払っちゃったの?」

「じゃあ!ス☆キップさん!呑んで見てくださいっ。ジュースじゃ
ないですよぉ〜」

アオイは少し、ふくれた顔をして自分のグラスを俺に押し付けた。

今日の朝、初めて逢ったアオイ。
うちの会社の"宣伝商品”として契約したアオイ。

アオイの口をつけたグラスを、当たり前の様に、俺は今、
口をつけようとしている・…。

大体・…なぜ・…俺は今、この遠い見知らぬ街で、二十歳の
娘と、こうしているんだろう・…。

これから、俺を苦しめる"なぜ?”
最初に、そう思ったのは、この時だったのかもしれない。

信じられない事に、アオイはグラス半分のモスコミールで、一人で
しっかり歩けない程、酔っていた。

「私・…酔っ払うと、誰とでも友達になっちゃうんですよ〜
いろんな人とたくさん喋っちゃうんですよ〜」

小柄なアオイの身体を、支えながら、居酒屋を後にし、
俺は駅へと向かった。

「少し休んでいいですか・…」

俯いたまま、少し辛そうなアオイを駅まで続く繁華街の一角
にあるベンチに座らせた。

下を向いたまま、呼吸の荒いアオイ。

「私・…酔っ払うと、弱くなっちゃう・…
それで泣いたりするんですよぉ」

そう呟きながら、酔い覚ましにと俺が差し出したガムの包み紙
で、アオイは俯いたまま、「鶴」を折っていた。

アオイとの"関係”が深まるにつれ、アオイの過去を知る事に
なるが、今の俺には、"泣きたくなる”アオイの想いを
理解する事が出来なかった。

ただ俺は、アオイの折った「鶴」が、俺の掌にそっと置かれ
俺をじっと見つめるアオイを見た時

強く抱きしめてやりたい・…。そう思った。。

それは、掌に置かれた「鶴」が、折り紙では無く、アオイの心
そのものだと感じたからかも知れなかった。

俺はこの時、今にも、壊れてしまいそうな脆さをアオイに
感じていた・・・。












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