御庭番、少年記PDFで表示縦書き表示RDF


※徳川将軍家様、服部半蔵様、ほか忍びのファンの方々に、お願い申しあげます。これらの方々のイメージを壊したくない方は、この物語を読まない事を、強くオススメ致します。尚、読んだ後の苦情は、一切お受け致しません。ご注意ください。
御庭番、少年記
作:麗蘭


刀は、何かを斬るために存在する、と人は言う。
ならば、それを握る人々は、何の為にものを斬る―――?
江戸の時代に繁栄が掛かりしその頃、その男は、愛剣一つを手に、江戸の町でその生涯を賭けた――。


徳川の御上に、水戸の光國様が御即位なされた、という報が江戸に渦巻いた。
江戸幕府将軍の移り、それが初代から数えて五代目であった。
無論、その頃日の国の第一繁栄地であった江戸の町では、すぐさまその報せは話題になった。
「報せじゃ報せじゃ!!水戸家の有権者、水戸光國公が将軍の座につかれたぞ!!!」
町の報道屋が、江戸の朝に報せを叫び、幾枚もの半紙を配る。
「おやまあ〜」
「今度のまつりごとが見物だね」
これだけ報道屋がいつも以上に声をあらげれば、何事と人が集まって来るのは目に見えている。
報道屋の周りには、まだ朝だというのに、あっていう間に人だかりが出来、皆口々に自分の感想を述べている。
そこから少しばかり離れた小さな茶屋で、蒼の着物を纏った、まだ若いせいぜい十七・八の一人の男が腰を降ろし、その人だかりを薄目で気だるそうに見ていた。
「はい、注文の団子と茶だよ」
と、男の休んでいる座に、店の娘が品を届けに来た。
「おう、ありがとな」 彼は背中で束ねた漆黒の長髪を揺らし、軽く会釈した。
娘は彼に軽く頭を下げ、奥に退いて行った。
それから暫くして、一輪の浅い風が辺りを過った。
髪を靡かせる程度の小さな風。
それが過ぎると、今度は行き違いに、先程報道屋が配っていた半紙が、彼の足下に吹かれて来た。
彼はそれを手に取り、無意識のうちに目を通す。
「……な…?」
途端彼は立ち上がり目を見開くと、刀を腰に刺した。
そして驚く店の娘の手に、空になった皿と多目の金を押し付けると、ある場所に向かって、大股の素早い足取りで走り出した――。

彼が見ていた半紙。 そこに書かれていた記事に刻まれた名は、彼がよく知るものだった―――。


“御庭番衆・初代頭” 御庭番衆――、徳川家将軍より、江戸城守護を任されし忍びたち。
そんな彼らを、一つにまとめ導いていったのが、初代頭・服部半蔵だった。
彼は先代綱吉公からの信頼も厚く、忠誠心の強い、仲間からの信頼も厚い、立派な忍びであった。 しかし、彼はある日突然何者かに暗殺された。
任務に出る前日、何者かが彼の部屋に忍び込み、彼を刺したのだ。
それからだ。御庭番たちが荒れ始めたのは。
頭を失った御庭番衆らは、任務の遂行率が下がったり、任務中の死傷者が増えたり――。
だから、彼は辞めたのだ。信頼し、自分の全てで忠誠していた頭を失い、何かが抜けてしまった御庭番を。
そんな彼の名を、飛田 萱楽ひだ かんらくといった。 幼少の頃より、忍びとして育った萱楽は、忍び一族の名家を捨て、十五で独り身になった。
そして生活費に稼ぐため、気紛れで御庭番衆に入った。
彼は持ち前の身体能力、共に忍術力で、次々と昇格していった。 仲間との仲も良好で、頭の半蔵からは特に気に入られていた。
萱楽も半蔵を尊敬者として慕っていた故、二人の上下関係にも幸をもたらした。
しかし。
「萱楽、お前この御庭番が好きか?」「…?勿論です」
それに萱楽は、少し首を傾げて、笑顔で答えた。
「はい」
「そうか…」
半蔵は顔に皺を寄せ、微笑んで萱楽の頭を撫でる。
その会話を最後に、半蔵は暗殺された。江戸城の自室で、腹部を短刀で刺されて。
残された萱楽は、涙に明け暮れ、日に日に犯人に対する憎悪が増していった。
「……半蔵様……」
だから彼は、御庭番を抜けたのだ。半蔵を殺めし、穢れた罪人を、野放しにしておかないために。


あれから二年の月日を経て、萱楽は数え十七になった。
その間、御庭番を抜けるまでの二年、彼は密かに半蔵を殺めた罪人を探っていた。
そして手に入れた情報は二つ。
「一つは、半蔵様の殺害予想時、城の者に半蔵様の部屋から出て行く不審な男が目撃され、その数秒後半蔵の遺体が発見された事」

「二つは、その者の名を、芝田 葵助しばた きすけと申す事」
こうなれば、もう犯人は決まったものだ。
これを知った萱楽が行う事は、ただ一つ。 誰にも告げず、自らの手で、芝田を牢獄に入れる事――。「芝田葵助を捜しだし、半蔵様殺害についての事情聴取を行う」


数刻後、萱楽は息を切らせ、二年振りの江戸城前に来ていた。門番がおっかないのは、相変わらずだ。
此処にもう二度と訪れようとは、全く予想もしていなかった。
先程の半紙に書かれていた記事。
それは、篭に乗った光國公が、江戸城を帰還した際、何者かに矢で狙われた光國公を、近くにいた芝田が間一髪救い出したというものだった。
そして、光國公から御礼を受けた芝田は、直々に江戸城へ招かれたそうだ。
ちなみに、光國公を狙った者は、未だ捜索中らしい。
しかし、話が上手すぎではないだろうか? 光國公を狙った者が、何人もの御付き達がいたにも関わらず逃走し、さらには彼らを差し置き、たまたま通りかかった芝田が将軍、御上を救出した。
どこか引っ掛かるものがある。
不審に思った萱楽は、懐かしき匂いのする、江戸城門前へと足を運んだ。
しかし、いくら元御庭番衆でも、そう簡単に通してくれよう筈もない。
ならば、少々無礼ではあるが、忍びなりの訪れ方をしようではないか。
「………………」
萱楽は門前の橋脇に、息を潜み様子を伺っていた。
「……ここに、我が仇がいると…」
しかし、芝田はどうして御上を助ける事が出来たのだろうか。
萱楽は暫くじっと考える事にした。
そして、
「……御上の御命か……!!!」
結論に行き着いた萱楽は、目を見開かせ小さく声を上げ驚愕する。
「もし、光國公を襲った者と葵助が繋がっていれば……?そうすれば全て納得がいく!!」 萱楽の額から、一筋の汗が流れる。
「動機は兎も角、芝田が仲間に光國公を襲わせ、そこで芝田が光國公を押し助ければ、そちらに集中がいく。その間に仲間を逃がし……」
確かに考えづらい読みだが、半蔵殺害容疑者である彼だ。万一もあるかもしれない。
そうなると、今一番危ういのは――。
「光國公!!!」
萱楽は門番に気付かれぬよう、城の裏へと周り、それから屋根上へと高く跳躍した。


江戸城屋根裏。
萱楽は未だ頭に鮮明に残る、江戸城内装を頼りに、将軍・光國の部屋の上に身を置いていた。
辞めたとはいえ、今まで情報収集をしていた、元御庭番衆忍びの彼にとって、たかが城の屋根上に忍び込むなど、容易い事であった。
「いやいや、大儀であった、芝田ノ葵助よ」
「有り難きお言葉…」 屋根下から聞こえてくるは、二つの男の声。辺りに人の気配も無いことから、どうやら室内には二人だけのようだ。
おそらく、もう一人を誉める声が、将軍のものであろう。
そして、もう片方が自分の待ちわびていたあの――。
萱楽は、ギリリと唇を噛み締める。今にも飛び出して、芝田を捕まえて、問いただしたかった。
「ところで、将軍様」
「ん?なんじゃ、申してみよ」
辺りに短い沈黙が流れる。
「将軍様は、芝田懸七しばた けんしちをご存知でしょうか?」
それは、感情の籠っていない、冷たい声であった。
「芝田懸七?誰かな、その者は」
「お忘れですか。ならば教えてしんぜましょう」
屋根上からでもわかる。芝田は今、御上に強い念を持っている。 萱楽の眼に、鋭い力が入る。
「二年前、まだ綱吉様が将軍の座につかれていた時。貴方様は我等忍びの小一族を雇い、綱吉様に将軍の座を光國様に譲るよう脅す事を、ご依頼されました」
すると光國の表情がいっきに強張る。
(何だ……?まさかこんな事が…)
「しば、た…?……お前、まさか…!!!」
「思い出されましたか?……私はあの日、貴方のご依頼通り、かの綱吉公を脅そうとこの江戸城を訪れました。しかし、私はその時、重大な失敗をした」
光國公は、僅かに震えたまま、動こうとしない。その目は、恐怖に駈られている、ともとれる。
そんな光國公を目線を下げて見下し、芝田は言った。
「決定的な誤りだった。私はあの時、無関係の御庭番の頭を刺してしまった」
屋根上にいる萱楽の瞳が、驚きの色へと変わる。
(………!!!!)
「最初のうちは、私も自分を責めた。しかしよくよく考えてみれば、彼方も御庭番衆だ。忍びとして、死の覚悟は出来ていた筈だ。なら、仕方がないのではないか、と」
仕方ない――?
こいつは何を言っているのだろうか。
そんな事で、そんな理由で、半蔵は殺されたのだろうか?こんなやつに。
萱楽の頭にふつふつと怒りが込み上げてきた。
眼に力がこもり、黒い長髪が、肩からさらりと零れ落ちる。
白い頬も、だんだんと朱が混ざってきた。 その間も、下での会話は続けられる。
「綱吉公の脅迫に失敗した私は、一度一族に戻ろうと、その日のうちに自宅へと帰宅した」
芝田の表情が曇る。
「しかし、私が帰って来た時には、一族は皆息途絶えていた。そして、唯一息をしていた者が、死に間際にこう言った。『あれは徳川の使者だ』とな」
シャッ―――……
「ひっ…」
刀を抜刀する音と、御上の甲高い小さな悲鳴が、萱楽の耳を過った。
萱楽はそれを頭で理解する前に、本能的に体が先に動いていた。 キン―――……
耳に響く、刀が交わる音が辺りに轟く。
光國は、恐る恐る瞼を開けた。
「……何者だ」
葵助が先に口を開く。
生憎、葵助と光國からは、萱楽の目元は髪に隠れて覗けないが、彼から漂う空気で、彼が怒っている事がわかる。
すると今度は、萱楽がゆっくりと口を開く。
「……人を殺しておいて、侘びる心の一つも持てないのか…」
萱楽は乾いた音を立て、葵助の刀を弾き飛ばした。
「な……?」
刀を無くした葵助は、恐怖と驚愕の眼差しを、萱楽に向ける。
同様に光國もだ。
「お前は……、いったい……?」
何者だ?と、告げる前に、萱楽は素早く葵助の喉すれすれに、刀を突き付ける。
「お前が、もし依頼を拒否していれば、」
萱楽は、膝をついて腰を抜かしている光國の腹に、亀裂な蹴りを入れる。
すると光國は後ろに脆く倒れ、すぐに気を失った。
「もし、御上がこの男に依頼をしていなかったら、頭は、半蔵様は死なずにすんだんだ……」
「お前……」
「半蔵様は、お前達に翻弄されて、亡き者となったんだ……!」
萱楽は最後、空いているもう片方の手で、葵助の面を思いっきり殴った。


その後、江戸はどうなったかはよく知らない。
私はあの後、御上を殴った事がばれたらまずいと悟り、すぐに江戸を立ち退いた。
風の噂で聞いた話、光國は即位後すぐに解雇されたらしい。これで私が手配される事はないだろう。
そして、芝田葵助という男も、重罪の刑に処された。
そして私はというと―――。


「…あら?萱楽さん?」
江戸の小さな茶屋の娘が手を止め、一人の男を見つけた。
此方に向かって来ている彼は、数月前と全く変わらない、穏やかな表情であった。



『萱楽、お前この御庭番が好きか?』
『はい!』
『そうか…』

――半蔵様、私はやっぱり、半蔵様の御庭番衆が好きです。






三年後、御庭番衆に、齢二十歳という史上最年少の、新たな頭が誕生した。

傍らには、小さな茶屋の看板娘を置いて――。






※この物語は、フィクションです。実際の歴史と違うところが所々御座います。ご了承下さい。尚、字の誤りがあるかと思いますが、御承諾願います。

※このように下手な作品ですが、この作品の著作権は、放棄しておりません。


最後まで読んで頂きまして、誠に有り難う御座いました。













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