train train縦書き表示RDF


train train
作:夕焼け


夢を見た。

夢の中で俺は昼間の仕事だかバイトだかをしてて、それが終わって夜帰る時、仕事場を出たすぐのところで歌いながら歩く、背の小さい黒人のおっさんに出くわす。

でも、その歌が余りに酷い。
酔っ払って気分よく歌ってるんだろうけど、その歌がなんだか妙に嫌で、おじさんに俺は言っちゃうんだ。
これじゃダメだよ、とか、もっとこうしたほうが良いよ、とか。

おじさんは俺って言う人間を推し量るような目で俺を見る。
で、おじさんは言う。

「あなたの言いたい事は分かるけど、ワタシはこれでいいんです。
ご指摘はありがたいと思うけれど………」

なんだかとってもきまずい感じになる。
だから俺は慌てて言う。

「べ、別にあなたがそれでいいって言うならそれでいいんだ。
でも僕は歌を歌ってる人間だから色々と教えてあげられることがあるし、それっていうのはあなたの損にはならないと思ったんだ。
でもあなたがそこまで嫌がるならもういいよ。
悪かったね。
楽しんでるところ邪魔しちゃって」

おじさんは相変わらず気まずい感じの笑顔を浮かべてる。

俺はさっさと歩いて駅に向かう。
なぜか駅のホームに切符を買う自販機がある。
それにお金を入れて買おうとすると、横に立ってたおばさんが俺の財布からどうどうとお金を取り出そうとする。

「ええ!?ちょ、おばさん何してんの!?」

「ええ、ちょっとね、10円足りないのよ。だからちょっとね、ああ、さっさとしないと電車が行っちゃうよ!」

言いながらおばさんは俺の財布から500円玉も、1000円札も抜き取ろうとする。
もう意味が分からない。

「いい加減にしてくれよ!」

っておばさんの手を振り払って、自分の切符を買おうとする。
すると電車がもう出てしまう。

「ああーー!
どうしてくれるんだよ!おばさん!
あんたのせいで電車行っちゃったよ!」

俺はおばさんに怒鳴る。
おばさんは俺を無視し、何事も無かったかのように電車に乗り込む。

ん?
電車?
さっき行ったんじゃないの?
なんでまたここに止まってんの?

ちょっと嫌な予感はしたけれど、俺は急いでたからそれに乗り込んでしまう。
明日も仕事が早番なのだ。

で、電車に乗ってドアがしまる。
しばらく走ると電車の先頭車両が消えてしまう。

「えええええ!?」

とみんなで愕然とする。
もう車内騒然だ。
でも次の瞬間うっすらと先頭車両が見え始める。
まるでCGみたいにうっすらとぼやけて、線路が透けて見える。

そして俺は思う。
ああ、やっちまった、と。

俺は直感する。
これは死者の国に運ばれる電車だ。
間違いない。
俺は以前にもこの電車に乗ったことがある。
で、まんまと死者の国に連れてかれたんだ。
その後どうなったかは覚えてないけど、酷い目にあったような気がする。
またやっちまった。
また連れてかれるんだ。

そんなことを考える。
んで、そこではっと気づく。
あの運転手、さっきの黒人のおっさんじゃないか!
俺は慌てておっさんに話しかける。
おっさんはさっきと同じような表情で俺を見る。
でもその表情に込められた感情はさっきのそれとは少し違うかもしれない。
俺はおじさんに言う。

「さっきはごめんよ。
楽しく歌ってる途中にさ、茶々入れるような事言って。
でもおじさんを不愉快にさせようとか、そんな事考えてなかったんだよ。
本当だ。
そりゃあ酷い歌だと思ったけど、おじさんの歌がうまかろうが酷かろうが、俺の知った事じゃないものね。
だけどなんか言わなくちゃいけない気がしたんだ。
言わないのは間違ったことだとあの時は思っちゃったんだよ。
今はなんであんな事したんだろうって思う。本当に恥ずかしく思う。
でも、まあ、もう過ぎちゃったことだ。
ごめんよ」

するとおじさんは操縦桿を握ったまま言う。

「そうだったのか。
実はね、あんたの事、ゲイなんじゃないかって思ったんだよ」

「はあ?俺がゲイ?
なんでそうなるのよ?」

「だってこんないい夜に、女の子じゃなくてこんな知りもしない外国人の男に話かけるなんて、絶対ゲイだと思ったんだ。
僕はそういうのを生理的に受け付けなくて、だからどうやって切り抜けるかばっかりをずっと考えていたんだ」

「なんてこった。
誤解だよ!
俺は別にゲイじゃない。
あんまり女の子に関心を示さないから誤解されることはあるけど、断じてゲイなんかじゃない!」

「なんだそうなのか。
じゃあなんで君はいっつもそんなに女の子に興味無さそうに振舞うんだい?
そんな態度だから誤解されちゃうんだよ」

「別に、なんていうか、そういうんじゃないんだよ。
俺はね、男も女も、人間として同じくらい好きなんだ。
変な意味じゃない。
なんだかんだ言って人間っていう生き物が好きなんだよ。
んで、そういう博愛的な事ばっか言ってると今度は「個人」に対する個人的な感情ってのがなかなか持てなくなっちゃうんだ。
だからあんまり多く恋をしたりしないし、今だって恋なんてしてないけど、だからといってゲイになんてならないよ」

おじさんは一瞬俺の言葉の真意を探るような目で俺を見る。
俺がゲイかどうか、を探ってるんじゃない。
もっと深い何かを探ってる。
そんな目。

でも次の瞬間おじさんの目はとても優しく澄んだものになる。

「そうかい。
君の事を誤解していたよ。
君みたいな考えを持ってる人は少なくないけど、君みたいに態度でそれを体言してる人間に出くわした事がないんだ。
そういう考えを持つことは実際的な危険を伴わないけれど、そういう考えを態度で表すと、僕達の世界ではとても危険な立場に立たされる事になる。
あるいは、今回みたいにね」

そういっておじさんが笑う。
なんだか打ち解けてしまった。
妙に親密な空気が流れている。
不思議なもんだな。

でも忘れちゃいけない。
このおじさんは死神なんだ。
俺はもうすぐ天国だか地獄だかよく分からない、でも死後の世界である事は間違いない、そんな場所に連れてかれるんだ。

そういえば以前にも死の国に連れてかれる電車に運悪く乗り合わせちゃったけど、あの時はどうだったんだっけ?
どんな運転手だっけ?
うまく思い出せない。
でもこんな人じゃなかった気がするな。
あるいはあの時もこの人だったのかもしれない。
話さなかったから気づかなかっただけで。

でも不思議なもので、ちょっと言葉を交わす事でこんなにも親密な気持ちになれる事がある。
ほんとに不思議なものだ。
さっき駅前の坂で声をかけてなかったら、おじさんとこんな風に知り合えただろうか?
そもそもそれだったらこの電車に乗り合わせなかったんじゃないのか?
よくも悪くも運って不思議だ。

そんな事を考えてると、唐突に線路の先が真っ白になる。
ものすごい光が電車の窓という窓から差し込んでくる。
とてつもないものを感じる!

「ちょっと!おじさん!これなによ!?
何が起きてんの!?大丈夫なの!?」

おじさんは何も言わない。
ただ進行方向のみを見つめている。

全てが白い光に包まれたかと思うと、俺は全く別の場所にいる。
どこだかも分からない、なぜそこにいるのかも分からない。
どこかの駅前みたいだ。

そこに一人の女性が立ってる。
俺が何年も前に付き合ってた女の子。
あの頃のままの姿でそこに立ってる。
彼女を凝視しすぎたのか彼女と目があう。
でも彼女は俺に気づかないようだ。

何となく悟る。
ああ、これは過去なんだ。
彼女と出会うよりももっと昔。

彼女は俺と出会うよりもっと昔の、とある夜に俺の知らない場所にいて、俺の知らない駅で、俺の知らない何かを待ってるんだ。

俺は彼女に声をかける。
なんて声をかけたのかはよく覚えてない。
でも付き合ってた頃と同じ感じで気さくに話してくれる。
だからこっちもつい調子に乗ってしまう。

ああ、そういえばこんなだったな、って思った。
なんかすごくリアルにあの当時の気持ちが蘇ってきた。

俺は彼女の前で常に慌てふためいてて、彼女はそんな俺を気にも留めず、
言いたい放題やりたい放題。
彼女の機嫌次第で、その日俺の成すべき事が変わる。
そんな毎日。
悪くなかった。

彼女がゲームセンターにいきたいと言う。
だから俺もそれに付き合う。
何かテンションのあがるゲームがしたいと言う。
んで、なぜかじゃんけんの対戦ゲームがあって(じゃんけんくらい生ですりゃあいいじゃんって話なんだけどね)、俺たちはそれをする事にする。

とっさに思い出す。
昔付き合ってた頃、ゲームセンターとか来ても俺がムキになって勝っちゃったせいで、彼女嫌な思いをしただろうな。

今回はわざと負けてあげよう。

問題は、
と俺は思う。

これ、ジャンケン。
負けようとして負けれるもんでもない。

とりあえず後出しをしてみる。
でもゲームだからそんな後出しはカウントされない。
てかそもそも相手が何を出したのかがこの段階じゃまだ見えない。

で、次の瞬間に勝敗が出る。
俺の勝ち。

彼女はオーバーに落胆する。
そして不機嫌そうに言う。

「なんで遼が勝つのよ!意味わかんない!」

そんな事言ったってしょうがないじゃないか!

ああ、そういえばそうだった。
彼女はいつも自分勝手。
自分の思惑通りに事が運ばないとオーバーに騒ぎ立てる。
でもそんな彼女も嫌いじゃなかった。
だから俺はとりあえず謝ってみる。

「ごめん」

「なんで謝るのよ!」

もっと怒りだす。
のは見せ掛けで、次の瞬間にこぼれる様に笑う。

彼女は俺の手をとって前へ前へと歩いている。
もうゲームセンターじゃない。
知らない街の知らない夜。

これは死神のおじさんがやった事なんだろうか?
もしそうなら一体何が目的なんだろう?
それともこれが死後の世界?

なんだかわかんないけど、嬉しくて、寂しくて涙が出る。

俺は彼女に泣きつく。
子供が母親にそうするように、彼女の胸元に顔を押し当てて、声を上げて泣き咽ぶ。
彼女は細く小さい手で優しく俺の頭を撫でる。
何度も、何度も。

彼女を感じる。
彼女の匂い。彼女のぬくもり。彼女の柔らかさ。
あの時のままだ。
ああ、よくこうしたな。
そういえばこんな風に泣きついた。
いい大人がみっともないよな。

そんな事を考えた。
気づいたら目が覚めてた。
目が覚めても涙が出てて、現実なのか夢なのかが分からなかった。
でも今ここでこうしてる俺が現実のものであるのならば、これは現実なんだろう。
もちろん横に彼女はいない。

今でもこんな夢を見るなんて、未練たらしい男だな、と我ながら思う。
もう5年以上も前の事だ。
こういう未練って、今時の人からしたらそれこそキモイんだろうな。
もう忘れちゃいなよって話なんだろうな。
未練だけじゃない。
未練が連動して引き起こす事象ってのがある。
俺の今の振る舞い、態度、考え、やり方に彼女との出来事は深く関わっている。
多分そのどれかが皆にとって間違ったやり方なんだろう。
だから人から煙たがられる。

終わっちゃったものばっかり引きずるのは間違った事なのか?
多分そうなんだろう。

でもね、不幸じゃないんだよ。
信じてはくれないかもしれないけど。
俺の横には今誰もいないけど、俺は思い出してにやにやしちゃうことがある。
で、にやにやした後にちょっと寂しくなる。

これが間違った行為の後についてくる感情なら、間違いも悪くないと思う。


死神で黒人のちいさいおじさんは俺に考えを正して欲しくてあんな夢を見せたのか、それともこれでいいんだよって言ってあんな夢を俺にみせたのか。

どっちともとれるし、どっちでもないような気もする。

もちろんこれはメタファーだ。
死神なんてこの世界に存在しない。
ただの「夢」の話だ。

でも、久しぶりに悪くない夢を見た気がする。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう