ファンタジーショートショート:召喚
厳かな雰囲気王の間においてその雰囲気を壊すような大声が発せられていた。発信元は王その人である。
「まだ勇者は呼び出せんのか!もう儀式を開始してどれだけ経つと思っとるんだ!」
目的は自分の領土に侵攻し始めた魔王軍を討つべく勇者を召喚するというものであった。
ここの国の召喚のシステムは、魔力を与えることによってその召喚陣の中に住んでいる精霊に連れてきてもらうと言うものであった。尚どういった人物を連れて来て欲しいか等々細かい設定もできるようになっていた。しかし今回の依頼は精霊にとって余りにも細かすぎた。容姿などのことではなくステータス関連についての設定が細かすぎたのである。精霊も最初は「やたらステータス関連の設定が細かすぎるやしないか?」とも思っていたが魔力は貰っているし、早速仕事に取り掛かった。いくつもの世界を飛び回ってみたものの当てはまる人物が居ない。精霊自身も焦りだして来た。
そしてその召喚が中々されないために王が怒り始めたのであった。
「精霊は何をしておる!魔力はきちんと渡したのか!」
王は魔術師達を怒鳴り始める。
「もちろんでございます。お国の一大事手を抜くことなどありえませぬ!」
「ぐぬぅ…」
勿論王はそれについては信頼していた。あまりの時間の係り具合につい怒鳴ってしまったのである。
「もうかれこれ5日も経っておるのだ。一体どうなっている?」
「もしかしたら、設定が細かすぎて該当の人物が居ないのでは?」
魔術師の1人が答えた。
「あれくらいで細かいなどということはあるまい。この国が滅びるかもしれん一大事。あれ位でも大雑把かと思っとるくらいだ。」
と王は言い切りました。
それからまた3日が過ぎました。精霊もとことん困り果てていました。幾ら探しても該当する人物が居ないのです。そんな中精霊の耳に王からの声が聞こえました。
「もう我慢ならん。あの召喚陣は破壊する!」
しびれを切らした王が突然宣言をしたのです。壊されてはたまらないと大慌てで探しました。しかしやはり該当者は居なく時間だけが過ぎてしまいます。そんな中精霊に該当者が見つかります。もうここしかないと強制的にその該当者を転送させました。
「ん?」
先ほどまで王の間で壊してやるなどと宣言した途端、意識が暗転したと思ったら自分がなんとその召喚陣の中に居ました。まさか自分が選ばれるとは思っても見なかった王もこれには慌てました。
「まさか余が選ばれるとは…」
しかし王も満更ではなさそうです。若干うれしそうに
「やはりこの国を救うのは王でなくては!皆のもの我に続け!」
と行って魔王軍を討つべく一転攻勢に出ることにしました。
その後何とか魔王軍を討つことに成功した王は喜びながら勇者の像などと言いながら自分の彫像を彼方此方に作ったりしては悦に入っていました。
召喚陣の精霊もあれでよかったのかと若干後悔しながらも壊されずに済んでよかったとまた眠りにつきました。