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コンビニ強盗は役者がつとめる。

作者: 氷純

「その節は本当にご迷惑をおかけしまして」

 コンビニ店長は額に吹き出す冷たい汗をさり気なく拭いて正面に仁王立つ男性達に頭を下げる。

 それを受けて男達のリーダーらしい筋肉質の男が一歩前に出た。

「全くだよ。事情聴取を一晩中やられたんだからな!」

 リーダーの言葉に後ろに立っていた男達が重々しく頷いた。中には泣き出す男もいる。

 コンビニ店長も泣きたい気分だったが、怒り心頭の男達は赦してくれない。

「俺たちは家族サービスして警察呼ばれるとは思わなかったぜ」

「本当に申し訳ありません!」

 リーダーが自嘲気味に笑うのに店長は思い切り頭を下げた。


 事の発端は数日前の夜、コンビニの近くであがった男性の悲鳴から始まった。

 闇夜をつんざく悲痛な声の主は未だ見つかっていない。国道沿いのコンビニとは言え田舎のそれも山中にあるため、近くにあるのは畑と牛舎と墓地だけだ。

 コンビニにただ一人居た店長は悲鳴に怯えつつ店の外に出た。

 警察に連絡するのも考えたが可能な限り大事にしたくない。勘違いだったなら迷惑をかけてしまうし、店にケチが付く。そう思っての行動だった。

 街灯もまばらな夜道にうごめく集団を発見したのはすぐの事。

「ギャァァアァ!!」

 覚悟を決めてきた店長すら恐怖に悲鳴を上げてしまう。

 暗がりで息を潜めていたのは、白装束を着て長い髪を振り乱しながら地面を這う者やホッケーマスクを被ったチェーンソーの男、多種多様な危険人物達だった。

 店長自身よく腰を抜かさなかったものだと思う。勿論、即座に逃げ出した。

「待てぇぇ」

「奴を追えぇぇ!」

 叫びながら必死に逃げる店長を追いかける危ない人たち。

 何とか逃げきった店長がすぐに警察を呼んだため彼らは連行され、今日になって文句を言いに来たのだ。

 この騒ぎ、ふたを開ければ何のことはない。子供達の肝試しを盛り上げるべく準備と練習を行っていたお父さん集団だったのだ。

「本当にご迷惑をおかけしました」

 本来、謝るべきは紛らわしいことをしたお父さん集団の方だが、店を構えている立場の店長に強く出ることは出来ず平身低頭してお父さん集団を宥めるしかなかった。

「お詫びにこちらのクーポン券をーー」

「そんなもんで納得できるか! 裁判起こしてぶんどった慰謝料全額募金する構えじゃコラ!!」

 裁判と聞いて店長の顔が青くなる。見かねた様子でお父さんの一人が口を開いた。

「まあまあ、皆さんそろそろ気が済んだようですし。ここらで終わりにしましょうよ」

 どうやら許してくれるらしい。店長はほっと胸をなで下ろした。

「それじゃあ、こちらをお受け取り下さい」

 店長はそう言ってクーポン券と幾らかのお金を男たちに配った。早くこの場が収まればもはや身銭を切るのも厭わない。

 幾人かの男達はまだ納得いかない風だったが渋々引き上げていった。



「いやはや、ボスには本当に恐れ入ります。こんな形で金を毟り取るとは」

 コンビニを後にした男達は戦利品を片手に笑い合った。

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