童話 フクロウと王様と黄金の剣(戦争論理理解と戦争を永遠に止める方法と永遠平和創出の為の童話)。
前書き
童話 フクロウと王様と黄金の剣(戦争論理理解と戦争を永遠に止める方法と永遠平和創出の為の童話)は、戦争論理を解析し、その論理構成と過程を解りやすく童話化したものです。
本作品を読んでいただければ、様々な人類史上の戦争の真の構造を理解していただけると共に、戦争論理を理解できるようになる事によって、様々な戦争を生み出そうとする歴史進行に免疫を持つ人々が増える事を目的に書かれた物です。
本作品の本質である
「全ての苦しみの解決を全ての者が目標とする」
事こそが、戦争が生まれない世界、戦争を生み出す人が生まれなくなる世界を生み出す方法なのだと理解していただけると思います。
本作品は純粋に論理の童話化作品であり、全ての政治宗教団体などとは全く関係ありません。誤解無きようあらかじめお断りしておきます。失礼があればお許しくださいますようお願い申し上げます。読んで下さい、またお気に入り登録積極的によろしくお願いします。
筆者 D Mito
著書 ドリームワールド記憶共有世界―The bigdata simulator machine― Amazon http://www.amazon.co.jp/%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89-%E8%A8%98%E6%86%B6%E5%85%B1%E6%9C%89%E4%B8%96%E7%95%8C-bigdata-simulator-machine%E2%80%95/dp/4286131157/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1353560973&sr=1-1 楽天などで好評発売中!。初刷完売重版済み。
第一章 タタカエ国という大きな国
昔々、遠い遠い深い森の向こう側に、タタカエ国という大きな国がありました。
その国は、緑豊かな土地で、清らかで豊富な水にあふれ、すがすがしい風が吹く、青空の美しい、人々の笑顔が絶えない良い国でした。
その国の王様の名前はツヨイゾ王といいました。
王様は、人々に自慢の品物をたくさんたくさん持っていました。
その中の一つは黄金の剣でした。
とても強い、世界で一番強いと言われている黄金の剣で、王様はその剣で戦いに勝ち続け、王様になったのでした。
王様の誕生日に、王宮の前に人々が数多く集まり、王様の誕生日をお祝いしていました。
人々は言いました。
「王様はなんと素晴らしく強い王様だ、あの輝かしい黄金の剣は無敵だ、王様は素晴らしい」
王様はみんなからのほめ言葉にとても喜んでいました。
また王様は、とても大きな羽を持つ、とても大きなフクロウを飼っていました。
フクロウの名はワイズと言いました。
人々は言いました。
「王様はなんと素晴らしく強い王様だ、そしてあの素晴らしい大きなフクロウは、きっとこの国の幸せを見守ってくれているのだ」
晴れ晴れとした青空の下、王様の誕生日には、王様の住む王宮を取り囲む、大きな壁の前に、数多くの人々がお祝いに駆けつけ、王様も王宮の頂きから、駆けつけた人々にお礼を言いました。
その側には、王様の自慢のフクロウ、ワイズが大きな羽を広げたり閉じたりしながら、静かに立木にとまって人々を見守っていました。
人々は口々に
「王様、バンザイ」
「黄金の剣にバンザイ」
「フクロウのワイズにバンザイ」
と大声で喜びと歓迎の声を上げました。
王様もワイズも、人々の歓喜の声に包まれて、幸せに感じていました。
タタカエ国は、とても幸せな国でした。人々も、とても幸せに暮らしていました。
フクロウのワイズは、青空の下で大きく羽ばたくと、王様や王宮や人々の上を優雅に飛んで見せました。
その姿を見た人々は、ワイズの大きな羽根と風に乗って飛んでいる姿を口々に褒め称えました。
喜んで微笑んでいる王様に、ワイズは聞きました。
「王様、どうして王様は黄金の剣をもっているの?」
ツヨイゾ王は答えました。
「私は黄金の剣で戦い、そして勝ち続けた、だから王様になり、人よりも偉くなり、贅沢な暮らしが出来るようになった、この黄金の剣はとても素晴らしい、強くて美しいものだ、だから持っているのだ。」
再びワイズは聞きました。
「王様、なぜ人と人同士が戦わなくてはならないのですか?」
「それはなワイズ、人は一人では弱いので自然の中で生きていく事が出来ない、人は助け合うために集団を作らなくてはならない、しかし、それぞれが勝手な振る舞いをして、助け合わないと、人同士がまとまりと秩序を失う。だから戦って罰していく事で、人をまとめていく事で、助け合うようにさせることが必要なのだ。」
「しかし王様、そのように暴力を振るい続ければ、より強い暴力を持つものが表れるたびに争いになり、より暴力を高めていく事になってしまうのではないですか」
「だからこの黄金の剣があるのだ、これがあれば私は誰よりも強い、だから皆が私に従うのだ」
再び王様にワイズは聞きました。
「でも王様、より強い剣の持ち主が表れれば、王様は負けてしまって、王様で居られなくなるのではありませんか?」
王様は答えました。
「私と黄金の剣は世界で一番強い、無敵なのだ、だから私がずっと王様だ、私がずっと偉いのだ」
そこでワイズは聞きました。
「戦って強いものが王様になって、偉くなって贅沢な生活が出来るのなら、皆がより強い剣を作って、戦いを引き起こし、人々の平和で静かな生活が無くなってしまうのではないですか?」
そこで王様は答えました。
「人々が暴れまわるのならば、より強い者が暴れまわっている者を押さえ込んで静かにさせなければならない。町中に犯罪が増えれば、人々の生活は苦しくなってしまう。だからより強い者が、より強い力を持っていなければならないのだ」
そこでワイズは言いました。
「暴れまわる人々を押さえつける為に、より大きな暴れる力が必要になるのは、なんだかへんな話ですね。皆がそう考えるので、自分が一番暴れまわることが出来れば偉くなれるからと言って、皆が暴れまわります。だからいつまでたっても、人々は暴れまわる事を止めないのですね」
そう言うと、ワイズは静かに立木に舞い降り、首を振って静かに周りを見渡しました。
王様は賢いワイズの言葉に静かにうなずきましたが、本当はワイズの言葉の意味はよく解りませんでした。
王様はワイズの立木の方向から振り返ると、誕生日の式典を終わらせる為に、王宮の側に集まっている人々に向かって再び話しました。
「私も黄金の剣も永遠のものだ、王国に栄光あれ!!!」
王様も人々もおおいに喜び、王宮を大歓声が包みました。
解説
上記文は、暴力連鎖構造について解説しています。より暴力の力を持つ者が社会的優位性を持つ事が出来ると考える者が、より暴力を強くしようと競争する動機の心理的構造の解説です。
第二章 キレイナ川と町の人々の話
誕生日の式典からしばらく経ったある日、国一番の大きな川のキレイナ川で、とてもおかしな事が起っている事が見つかりました。
それは、大きな川にいつも住んでいる、色とりどりのきれいな魚達が、口から泡を吹いて死んでしまっていたのです。
死んだしまった魚達を見つけた人々は、川の魚達が死んでしまっているのだから、これはきっと川の水がおかしくなってしまったのだ、と考えました。
町中の人が困ってしまいました。なぜなら、町中の人たちが、魚を食べて暮らしていたので、魚を食べられなくなると、食事に困ってしまう事が解ったからです。
大勢の町の人々は、子供達に、危なくなってしまった川の近くで遊ばないように教え、漁師達に魚を取らないように教えあうと、川の水を調べないといけないと考えて、川の水を調べさせて欲しいと頼む為に、町の中心に建つ、町一番のコンクリートの大きな家の町長さんの家に行って、相談してみることにしました。
その中には、川の近くに住んでいる、マジメさんの一家と、その家の娘の一0歳の女の子、グッドちゃんがいました。一家は、自分の家の近くの川で起っている大変な事を知ってもらおうと、町長さんに話しに出かけたのでした。
町一番の大きな家に住む、カンリョウ町長さんは、いつも威張ってばかりで、町の人々から大変嫌われていました。
でも町の出来事に責任がある人で、町で一番偉い人だったので、人々は町長さんに断らずに勝手に川の水を調べると、後で町長さんに怒られてしまうので、川の水を調べる事を許してもらおうと、相談に行ったのです。
小雨が降ってきた黒雲深い夕方に、町の人々は、カンリョウ町長さんの家にくると、コンクリートの大きな大きな家の中の、豪華な絨毯や豪華な絵や飾り物がある応接間で、豪勢なソファに、とても威張って人々を見下ろしながら座っている、大きな体のカンリョウ町長さんに、話し始めました。
グッドちゃんのお父さんのマジメさんが、眼鏡を鼻の上に掛けなおし、きちんとしたお辞儀をした後、
「カンリョウ町長さん、この町の頼みの綱である、この国一番の大きな川、キレイナ川の水がおかしくなっているようです、川に住む魚達が、おかしな死に方をしています。調べて見なければ、危なくて川の魚を食べられません、このままでは私達は、生活に困ってしまいます。カンリョウ町長さん、どうか川の水を調べていいと言ってください。あなたが許してくれたら、私達が調べて見ます」
と言いました。
ところが、カンリョウ町長さんは、マジメさんや町の人々の皆を、面倒くさそうな嫌な顔をして見下ろすと、こう言いました。
「国一番の大きな川で、そんな事が起っているはずが無い。何かの間違いか、そうでなければ、お前達が間違っているか、言いがかりを付けて、この町長である私を、困らせようとしているのだ。それに、そんな調べ事は今までやった事が無いし、新しく行う事も無い。ばかばかしい事は言うものではない、間違っていましたと、反省して、さっさと家に帰れ、。」
と言いました。
そこで、マジメさんと一緒に話し合いに来ていた漁師のムカットさんが持ってきた、死んでしまった魚をカンリョウ町長さんに見せながら、大声で話しました。
「この魚をみれば解るでしょう、魚達が泡を吹いて死んでしまっている、何か大変な事が川で起きている、だからまず調べてみようと言っているのですよ!!!」
グッドちゃんも小さな女の子らしい可愛い声で話しました。
「お魚さん達が可愛そう、とても偉いカンリョウ町長さん、どうか川を調べさせて下さい。お願いします」
ところが、カンリョウ町長さんは、町の皆の一生懸命の話を、面倒くさそうな顔をしながら聞き終わると、皆に大声で怒鳴りました。
「その魚は、お前達がここに持ってくる途中で死なせてしまったか、私をだます為に持ってきたのか、私のやらなければならない仕事を増やして、私を困らせる為に殺して持ってきたのか、とにかく、私には関係ないことだ、私は今とても忙しいのだ、さあ、さっさと帰れ!!!」
カンリョウ町長さんの余りに悪い態度に怒ったムカットさんは、町長さんと喧嘩になってしまいました。
ムカットさんは大声で怒鳴りました。
「キレイナ川で魚を取れないと、漁師の私は生活が出来ない。魚が食べられないと、皆が食べ物に困ってしまう。私達に死ねと言うのか、それが町に責任を持つ町長の態度か、町長とは、町の人々の困った事の為の仕事なのに、あなたは何もしようとしないというのか、私達町の人々に対して、なんだその態度は!!!」
カンリョウ町長さんも、ムカットさんの言葉に怒り出して言いました。
「お前達は魚さえ食べていればいいんだ、それでお前達の体がどうなろうが、とても偉い町長の私には関係が無い、私はとても高い値段の肉を食べれば満足だ、魚など食べないぞ、さあ、さっさと家に帰れ!!!」
そう言うと、カンリョウ町長さんは大切にしている銀の剣を取り出して、皆に見せびらかしました。
驚いた人々は、町長さんに剣で叩かれたらとても痛い事になると怖がってしまい、後ずさりして黙ってしまいました。ムカットさんも黙ってしまっておとなしくなりました。
カンリョウ町長さんは、町のみんなを屋敷から追い出してしまうと、そのまま扉を閉じて鍵を掛けてしまいました。
大勢の町の人々は、町一番のコンクリートの大きな家の町長さんの家の前で、皆で静かに目を合わせあい、そして困ったことだと相談を始めましたが、しかし誰一人、良い案を思いつく人がいないので、そのまま一人ひとりと少しづつ家路に付いて行きました。
みんな困った事だと思いながら、どうする事も出来ませんでした。
雨はぱらぱらと降り続け、不安な人々の心は、より一層の不安と恐怖に包みこまれていました。
マジメさんの一家も、大勢の人々も、これからどうなってしまうのだろうと、うなだれながら歩いて帰って行きました。
グッドちゃんは思いました。
「きっとお魚さん達も元気になってくれる、そうしたら町の人々も、きっと元気になってくれるわ」
町中を黒い雲が覆っていました。
グッドちゃんはまっすぐ空をみつめました。
そして不安な気持ちに負けまいと、真っ黒な雲に覆われた空をじっと見つめ続けました。
解説2
上記文は、官僚主義について具体的事例として解説している文章です。
1 問題無認識主義 問題の存在自体を認めようとせずに門前払い的態度にこだわる。
2 その為人々の問題が解決せず人々が苦しんでも、官僚である人々にとっては人々の苦しみは公的セクターではなく民間セクターの人々の苦しみであって、公的セクターの人々である官僚や政治家などには関係がないという態度を取ります。
3官僚の給料は税金から自動的に支払われるために、民間セクターの売り上げの減少からの収入減少が関係ない。だから問題に対処しようとしない。(この物語では魚の売り上げ減少)むしろ社会問題の拡大が官僚の責任と問われる事を恐れ、(つまり官僚や政治家の収入安定とはその地位を維持し続けて税金から収入を得続ける事であるため)官僚の地位を守るため社会問題の発覚を恐れ隠蔽にかかる。その為にまず問題自体を認識しないようにする、もしくは問題の過小評価をする。
4官僚の門前払い的態度、官僚は手続きさえ守っていれば、官僚としての地位を追われることはまず有りません。官僚にとって重要な事は、前例的な手続きをいかに守ったかであり、人々の苦しみをどれだけ解決したかでは問われません。社会問題が発生し拡大しても、苦しむのは一般の人々で官僚には関係ないために手続きを理由として人々を見捨てます。官僚主義の構造である前例主義と手続き主義です。この的態度を町長が取っています。官僚主義の構造を解りやすく示しています。
第三章 グッドちゃん家の隣のカワルちゃん
村はずれの川の近くで魚を採って生きているマジメさん家の隣には、チェンジさん一家が住んでいました。
隣の国からやってきたマジメさん達を暖かく迎えてくれた、とてもいい人たちでした。
チェンジさん一家には、母親のナカイイさんと、カワルちゃんとカワイ子ちゃんという二人の姉妹が住んでいました。
マジメさん家とチェンジさん家はとても仲が良く、グッドちゃんとカワルちゃんとカワイ子ちゃん達もとても仲が良いお友達同士でした。
皆でいつも仲良くキレイナ川で遊んでいました。そしていつも漁師のみんなと一緒に泣いて、笑って、楽しく暮らしていました。
でも、川がおかしくなって、みんな涙を流して悲しみました。もうあの楽しい日々は戻ってこないかもしれない。
皆とても不安になりました。
そこで、皆で励ましあおうと、隣近所で集まって家族みんなで食事をすることにしました。
でも皆貧しいので食べるものがありません。
そこで、子供たちの親達は、川から取ってきた、泡を吹いていて見るからにおかしくなっている魚達を、仕方なく焼いて食べることにしました。
そして、子供たちには少しばかりのパンを分けて食べさせてあげることにしました。
グッドちゃんたちは
「大きな甘ーいパイが食べたいよう」
とお母さんに頼みました。
でもお母さんは
「今はこれしかないからね、これをおいしくお食べ」
と言って、少しばかりのパンを与えました。
皆食べるものが少なく、お腹をすかしていました。
でも皆仲の良いお友達。いっぱいお話をして、楽しく笑いあっていました。
少ない食事でしたが、でも皆集まればとても楽しいお食事会です。
お食事会が終わり、皆で助け合って食器を洗い、そして帰ろうとしました。
その時です。
「ううっ、ああっ」
といううめき声と共に、グッドちゃんのお母さんが、泡を口から出しながら、苦しそうに倒れてしまいました。
「うわー、お母さん」
グッドちゃんは驚くと、大急ぎでお母さんに駆け寄りました。
グッドちゃんのお父さんも、チェンジさん一家も皆心配そうに駆け寄ってきました。
でも、お母さんは、ぐったりとして動かなくなってしまいました。
グッドちゃんは
「お母さん、お母さん、大丈夫、ねえ、ねえ」
と何度も助けようとしましたが、お母さんの大きな体は動きません。
その内、大人の皆が
「うう」
「あああああ」
といいながら、倒れてしまいました。
大人の皆が倒れてしまったので、グッドちゃんやカワルちゃんもカワイ子ちゃんも、みんなで泣きながら親達を助けようとしました。
カワルちゃんが、
「お医者さんを呼んでこなくちゃ!」
と叫びました。
グッドちゃんは町外れのメイイ医師のお家を知っていました。
グットちゃんは言いました。
「あたしのメイイ医師の家を知っているわ、今から走って呼んでくる!」
そう言うと、グッドちゃんは大急ぎで家を飛び出して、町外れのメイイ医師の家に、一生懸命に走っていきました。
大雨の中、道は滑りやすく、グッドちゃんは何度も何度も走って転んで怪我をしました。お気に入りのワンピースもずぶぬれになって、泥まみれになりました。
でもグッドちゃんは思いました。
「お母さんとお父さんを助けないと、はやくはやくお医者さんに助けてもらわないといけない、痛くても走るんだ、一生懸命走るんだ。」
何度も何度も転びました、赤い血が出る怪我がいくつも出来ました、でもそのたびにグッドちゃんは、立ち上がって走り出しました。
解説3
上記文は、収入の総量によって食料を選択する事が出来ない人々の悲劇を描いています。カンリョウ町長は高い肉を食べれば済みますし、また王様は贅沢な食べものを食べます。
第四章 ワイズの思い
その頃、フクロウのワイズは、大雨を避けて、町一番の大きな木の枝に乗って、静かに夜が来るのを待っていました。
でも、その木の上からは、町の出来事がとても良く見えました。
するとどうでしょう、町中のいたるところで、泡を吹いて倒れる大人たちが見えるではありませんか。
ワイズは思いました。
「これはただならぬことが起きている、大変なことだ。」
ワイズはその大きな翼を広げると、高く高く飛び立ちました。
高く高く空の上まで上っていくと、ワイズはその大きな眼を大きく開いて、国中の起こっていることが何もかも見えるように、大地を見下ろしました。
ワイズはとてもとても驚きました。国中のいたるところで、人々が倒れて苦しんでいました。
ワイズは、その大きな耳を澄まして、人々が何を話しているかを聞いてみました。
するとどうでしょう、人々は口々に
「魚が危なくなっている」
「キレイナ川の魚を食べてはいけない」
と話していました。
そこでワイズは、大きな翼を翻すと、キレイナ川に向けて羽ばたいていきました。
途中でワイズは、国中で人々が倒れている姿を見ました。
誰もが口から泡を吐いて倒れていました。数多くの人が苦しんで泣き叫んでいました。
家族の人々が泣いて看病していました。
ワイズは思いました。
「これは王様にお知らせしなければ。これはこの国のとても大きな危機だ」
キレイナ川に到着すると、ワイズは目を凝らして川の水を確かめました。
ワイズの目はごまかせません。
キレイナ川の水の中に、大量の毒が入っていました。
それは透明な色で、何の匂いもしなかったので、人々が気付かなかったのです。
「なんということだ、毒が川に流れ込んでいる、これでは魚が毒に汚されて、魚を食べた人たちも、皆毒を食べてしまう」
ワイズは再び翼を翻すと、王様のいる王宮に向けて飛び始めました。
その途中、道の途中で、時々転びながら一生懸命走っているグッドちゃんに出会いました。
グッドちゃんは叫びました。
「ワイズさん、ワイズさん、あたしのお父さんもお母さんも倒れちゃったの、口から泡を吹いて倒れちゃったの、カンリョウ町長さんに相談しても、助けてくれないの、これからメイイ医師に薬をもらいに行くの、ワイズさん、お願い助けて、助けて」
ワイズは応えました。
「おお娘よ、解った、私は王様に助けを求めるから、お前は大急ぎでお医者さんに行きなさい、そして薬を貰ってきなさい」
「あたし、グッドという名前なの」
「おお、ではグッドよ急ぎなさい、そしてはやくお父さんとお母さんを助けてあげなさい」
グッドちゃんは大空高く飛び立っていくワイズに向けて手を振りました。
「またね、そして助けに来てね」
そう言うと、グッドちゃんは、大急ぎで再び走り始めました。ひざもすねも転んだ怪我で赤い血がいっぱい出ていました。でもグッドちゃんは泣かずに歯を食いしばって走り続けました。
第五章 王宮の出来事
ワイズは何度も何度も大きく羽ばたき続け、大急ぎで王宮にたどり着きました。
王宮にたどり着くと、その中では、王様とその一家が、大きな大きなテーブルの周りに、とてもきれいな大きな装飾品や、たくさんの美しい金銀に彩られた食器の上に、とてもたくさんのごはんや、肉や、野菜や、フルーツの贅沢な贅沢な料理の数々をのせた、何十人もが集まった食事をしている最中でした。
ワイズは大きな王宮内の天井に舞い上がると、くるくると廻りながら、王様の隣に立ててある、金でできたフクロウの為の立木にふわりと舞い降りました。
食事会では、王様の一族が一同に集まって、そして贅沢な料理をたくさんたくさん食べあっていました。
王様の娘のゴーマンちゃんが王様に言いました。
「王様、あたしこのお野菜大嫌い。だってとても臭いんだもの。お願い、あの大きな甘いケーキをあたしにちょうだい。ねぇ、王様、ねぇ」
ツヨイゾ王が応えました。
「おお可愛い娘よ、ちゃんと野菜を食べないといけないよ、さあお食べ」
「嫌よ嫌、絶対嫌、ケーキがいいの、ケーキ、ケーキ!」
集まった何十人もの人々が、皆で贅沢な食事を腹いっぱい食べていました。
皆嫌いなものは何一つ食べず、高価なお肉や、珍味と呼ばれる珍しい食べ物を、争うように食べあっていました。
皆が食事を取るのに夢中なので、食器を叩くような音が王宮中に響き渡りました。
贅沢なたくさんのごはんや、肉や、野菜やフルーツが、あっという間に食べられていきました。
皆が、がつがつと食べている中に、ワイズの小さく、しかし凛とした声が響き渡りました。
「王様、国中で人々が苦しんでいます、キレイナ川の魚が透明な毒で汚されて、その魚を人々が食べてしまい次々と倒れてしまっています、王様、どうか王様のご命令で、国中の病人達を助けてあげてください」
王様は食事をする手を休めると、不機嫌そうな顔をして、ワイズをにらみつけて言いました。
「ワイズよ、お前は何を言っているのだ、今は食事の時だぞ、魚が汚れているのなら、肉を食べさせれば良いではないか、さあ、ワイズよ、お前もこの贅沢な食事の数々を楽しみなさい、不愉快な事は話し出ないぞ、解ったな」
「しかし王様、貧しい人々にとって肉は高価なのです、魚を食べて暮らしている人々が死に掛かっているのです、キレイナ川には支流がいっぱいあります、国中の川が汚されてしまいます、どうか助けてあげてください」
王様は突然立ち上がりました。そして怒って言いました。一族の皆が、驚いて食べるのをやめてしまいました。
王様は激しく怒鳴りました。
「無礼だぞワイズ、国民がどうなろうが知ったことではない、今はこの贅沢な食事を楽しんでいるのだ、邪魔をするな!」
そう言うと、王様は再び食事に戻ってしまいました。
皆も王様が食べ始めると、食事に戻ってしまいました。
集まっている王族の皆が、誰も人々が死に掛かっている事を気にかけていませんでした。
ワイズは驚いてしまいました。
誰よりも強い黄金の剣の持ち主の王様は、人々の苦しみには関心がないのだと知りました。
「王様はなんと無情なのだ」
王様は苦しんでいる人々を助けてくれません、あのグッドちゃんもどうなってしまうのだろうと、ワイズは思いました。
このままではたくさんの人々が死んでしまうと思ったワイズは、再び大きく羽ばたいて王宮から飛び立つと、人々を助けようと大雨の空の中を飛び立って生きました。
解説4
上記文は、フクロウは人を助けようとしているのに、王様は全く助けようとしないという事を示しています。王という立場になると問題認識能力自体が欠けた人物たちがその地位についていることが良くあるということを示しています。問題は王という立場が、立派だから何かしてくれるのではなく、フクロウであっても人の苦しみの解決に熱心なものがより多くの人のためになろうとする事の事例です。
第六章 川を汚した原因
ワイズはキレイナ川に辿り着きました。そして川の水を汚している理由を突き止めて、川が汚れてしまうのを止めようとしました。
ワイズは大空の中から、その大きな眼で、毒が流れ始めている場所を辿っていきました。
川の上流から上流へ、どんどん山を登っていくと、一つの工場がありました。
その工場は、王様が自慢にしている黄金の剣を作った、戦争をする武器や防具を作る工場がありました。
その工場の主はアームさんと言って、あまり評判の良くない人でした。
いろんな人たちに、人を傷つける武器をたくさん売っている人でした。
どうやらこの工場が、毒をキレイナ川に流していると解ったワイズは、高い空から一気に工場の中に舞い降りました。
ワイズの姿に気付いた工場の人々が、王様の大切にしているフクロウがやってきたと、
アームさんを呼んできました。
とても雄雄しい優雅なワイズの姿に、アームさんと工場で働いている人々は口々に言いました。
「あの有名な王様の鳥、ワイズ様がいらしたぞ」
「なんと素晴らしいお姿なのだ」
ワイズが濡れた羽を口で整えていると、アームさんがワイズに話しかけました。
「これはこれは素晴らしいフクロウ、ワイズ様、本日はようこそ、私どもの工場にいらっしゃいました。」
ワイズは済んだ声で言いました。
「アーム殿、キレイナ川が毒に汚されています、それはこの工場から出ています、どうぞ毒を流すのをやめてください、魚が汚されて人々がその魚を食べて次々と倒れています、子供たちが皆泣いています、今すぐにやめてください」
「はて、工場から毒など流しておりません、工場から流している毒とは、王様から作る様に言われている、剣を作るときに出る水の事でしょうか、しかしその水はとてもきれいで毒など入っているはずありませんし、もし工場を止めてしまったら、剣を作れなくなってしまいます。それは王様の命令に反することです、工場を止めるわけには参りません。どうかお許しくださいませ」
工場を止めようとしないアームの態度に、ワイズは怒りながら、しかし静かに言いました。
「剣を作り続けても、人々が死んでしまえば剣を買う者がいなくなってしまい、あなた達も困ったことになるでしょう、剣よりも今は人々の体が大切です、工場を止めて剣を作るのを止めなさい」
でもアームさんは言い返しました。
「王様の命令に反するとお叱りを受けてしまいます、また、私どもも、剣を売って生活をしておりますので、止めるわけには参りません。それよりもワイズ様、この見事なダイヤモンドの剣をご覧下さい」
そう言うと、アームさんは新しい剣、ダイヤモンドの剣をワイズに見せました。
「この剣は、あの王様の自慢の剣、黄金の剣より更に強い、ダイヤモンドの剣でございます、今日始めて出来上がったばかりです、どうぞご覧下さい」
ダイヤモンドの剣は美しく光り輝き、周りを光で照らし出しました。その美しさは人々をうっとりとさせる魅力をとても持っていました。
「この剣の硬さは黄金の剣より更に強く、恐らく世界でもっとも強い剣でありましょう。私共はこの剣を王様に差し上げようと、仕上げた後に王宮に出向くつもりでおります。では、失礼」
そう言うと、アームさんはすたすたと歩いて去っていきました。
工場の人たちも、ワイズから離れて次々に作業に戻ってしまいました。
誰もが皆、工場を止めてキレイナ川を汚すことを止めようとしませんでした。
ワイズはここでも大きく驚きました。
「なぜ人々は人々が苦しんでいることを解ろうとしないのか?」
ワイズは大きく嘆き悲しむと、工場から羽ばたき、どしゃ降りになった大雨の中、大空に向かって羽ばたいていきました。
解説5
上記文は、民間セクターであっても収益のためならば問題無認識を通そうとする構造を示しています。理由は違いますが人の苦しみの解決には関心がないのです。
第七章 グッドちゃんの旅路の末
その頃、グッドちゃんは町外れのメイイ医師の診療所に辿り付きました。
何度も転んでひざに青あざがいくつも出来ましたが、泣きそうになるのを何度もこらえて、グッドちゃんは走り抜きました。息ははあはあと大きく切れながら、なんども息がつまり苦しいと思いながら、それでもグッドちゃんは、お父さんとお母さんの為に走り抜きました。
町外れのメイイ医師の診療所は、古びた小さな白木の一階建ての家で、メイイ医師は貧しい人たちの為に、お金を殆ど貰わずに皆の体の世話をしている、町の人々にとっても愛されている先生でした。
グッドちゃんは玄関でチャイムを押すと、大きな声で叫びました。
「先生、せんせーい、お父さんとお母さんが泡を出して倒れたの、助けて、せんせーい」
大声で何度も叫びましたが、誰も玄関にやってきません。
「せんせーい」
何度叫んでも誰も出てきません。
だんだん不安になってきたグッドちゃんは、それでも勇気を振り絞って、思い切って玄関のドアノブをまわしてみました。
驚いたことに、玄関は鍵が掛かっていませんでした。
そっと玄関を押してみると、玄関はそのまま静かに開いてしまいました。
グッドちゃんは静かに家の中に入ると、
「せんせーい」
と大声で叫びながら、中にどんどん入っていきました。
暗くて明かりが一つも灯っていない診療所の中、古びた板の廊下は、一歩一歩踏みしめるごとに、
「ぎしっ、ぎしっ」
と泣くような音をたてました。
そのたびにグッドちゃんは、真っ暗な診療所の中に、なにかお化けでも出てくるのではないかと、どんどんどんどん心が暗くなっていきました。
診療所の廊下の隅までたどり着きましたが、何度
「せんせーい」
と叫んでも誰も出てきません。
真っ暗な診療所の中で、グッドちゃんは一人ぼっちです。
グッドちゃんは、どんどんどんどん暗い気持ちになってしまいました。
しーんと静かな暗闇の中、たった一人でぽつんといる、お父さんとお母さんはどうなってしまうんだろう、メイイ医師に出会えないなら、もうどうすればいいのか解らない、グッドちゃんはそう思いつめました。
「せんせい、せんせーい、うわーん、うわーん、せんせい、えーん」
グッドちゃんはついに泣き出してしまいました。大声で泣いてしまいました。
指でほほの涙をおさえました。涙があふれて止まりません。
その時、バン、と扉が開いて、突然大きな女の人が現れました。扉の開く大きな音に、グッドちゃんは
「キャー」
と大きな声を出しながら驚いてしまいました。
「まぁ、マジメさんの娘さんのグッドちゃんね、どうしたの、可愛そうに」
そういうと、大きな女の人はグッドちゃんを大きな手でしっかりと抱きしめてくれました。
その女の人は、メイイ医師の奥さんのアタタカ看護士さんでした。
グッドちゃんはやっとほっとすると、アタタカ看護士さんにグッドちゃんとカワル子ちゃんとカワイ子ちゃん のお父さんとお母さんが倒れて大変なことを教えました。
アタタカ看護士さんは、
「今、メイイ医師は、町中で倒れている人を助ける為に出かけているの、私も薬を取りに戻ったところよ」
アタタカ看護士さんは、グッドちゃんを抱っこして膝上に乗せてあげると、濡れた髪をタオルで拭きながらやさしく話しかけました。
「いい、このお薬をお父さんとお母さんに飲ませたら、すぐに近所の人にお父さんとお母さんをここに運んでもらいなさい、今は町中で急病人が出ていてパニックになっているわ、だからあなたも気をつけて帰るのよ、まあ可愛そうに、ひざもすりむいてしまっているのね」
そう言うと、アタタカ看護士さんはグッドちゃんの膝を消毒液で汚れを取ってあげました。
消毒液は傷口にしみこみ、とても痛い思いをしましたが、グッドちゃんは歯を食いしばって必死に耐えました。
「まあ偉いわね、お父さんとお母さんの為にここまで走ってきたのね」
グッドちゃんは思いました、何度も何度も転んだこと、その度に涙を流しそうになることを我慢して立ち上がった事。
我慢していた気持ちが緩んで、グッドちゃんは涙が出て来ました。
「うわーん、うわーん、お父さんとお母さんが、えーん、うわーん」
大きな大きな声でグッドちゃんは泣きました。
アタタカ看護士さんは、グッドちゃんの手の中に薬のビンを手渡すと、グッドちゃんを膝からおろして泣き止む様に優しく言いました。
アタタカ看護士さんはグッドちゃんの前で膝まづくと、グットちゃんの目線に自分の目線を合わせて言いました。
「さあ、急いで帰って、お父さんとお母さんにこの薬を飲ませてあげるのよ、がんばって!」
グッドちゃんは泣きやむと、歯を食いしばりながら、悲しい気持ちを我慢して、再び診療所の玄関に向けて、歩き出しました。ぎしぎしと廊下がきしみました、でももう怖くありません。
「気をつけてね、グッドちゃん」
「うん、おばさん、ありがとう」
そう言うと、グッドちゃんはますます大雨が降り注ぐ町の中に、走り始めました。
はやくはやく家に帰って、お父さんとお母さんに薬を飲ませてあげるんだ。
そう思うとグッドちゃんは、膝の痛みも忘れて走り続けました。
第八章 グッドちゃんの旅路の末
グッドちゃんは走りました、一生懸命走りました、来るときと同じように、何度も何度も転びました。
でも泣こうとはしませんでした。
はやくお家に帰って、お父さんとお母さんに薬を飲ませてあげるんだ、そうすれば、お父さんとお母さんも直って、きっと元通りになるんだ、だからはやく、はやく帰るんだ、走って走って帰るんだ。
そう思うと、グッドちゃんの心の中から、限りのない力が満ち溢れてくるようでした。グッドちゃんはどんどん走りました。息を切らせながら、それでも必死に走りました。
その時、大空を舞っていたワイズが現れました。ワイズは人々を少しでも助けようと、大空を舞いながら、困っている人々を大きな病院に運んであげていたのでした。
「ワイズさーん、ワイズさーん」
グッドちゃんが大声で叫ぶと、ワイズは大きく回りながら、グッドちゃんの前の地面に降り立ちました。
凛々しいワイズの素晴らしい姿に、グッドちゃんは驚きました。
「グッドちゃんといったね、そういえ君はメイイ医師に会いに行っていたのだね」
「せんせいはいなかったの、皆を助けに出かけていたの、でもおばさんに薬を貰ったの、だから早く家に帰らなくちゃ」
「おおそうか、では私の背中につかまりなさい、お家まで連れて行ってあげよう」
そういうと、ワイズは大きな背中をグッドちゃんに向けて、背中に乗るように誘いました。
グッドちゃんはワイズにおんぶしてもらいました。
「しっかりつかまっているんだよ」
「うん」
グッドちゃんをおんぶしたワイズは、大きな羽を優雅に羽ばたかせて、大空に向けて高く高く飛び立ちました。
ワイズの大きな背中につかまって、グッドちゃんは大空の真っ只中に浮かび、空の風を体いっぱいに受けながら、小さくなった大地を見下ろしました。
見ると、数多くの人々が、ばたばたと道で倒れているのが見えました。それだけではありません、余りにも数多くの人たちが倒れていて、町中から立って歩いている人々がいなくなってしまっているように見えました。
「ねぇワイズ、どうして町中がこんなになってしまったの、ねぇどうしてなの」
大空の風の音の中でも聞こえるように、グッドちゃんは大声で聞きました。
「それはね、山の上の剣を作る工場が、剣を作るときに出てしまう水を、川に流してしまったからなんだよ」
「じゃあその工場の水を止めてしまえばいいのね」
「それが工場は水を出すのを止めることが出来ないというんだよ、工場の人々は止められないそうだ、王様も王宮で食事に夢中で、誰も止めようとしないのだよ」
「どうして、あんなに人が倒れているのに、どうして誰も元に戻そうとしないの」
ワイズは答えられませんでした。なぜ人々は苦しんでいる人を、この子の様に助けようとしないのだろう。
そう思うと、ワイズはとても悲しい思いになりました。
しばらくすると、グッドちゃんの家の近くが見えてきました。
「あそこ、あそこに降ろして、お願いワイズさん」
グッドちゃんがそう指差すと、ワイズは、グッドちゃんをやさしく大地におろすために、いつもよりおおきく周りながら、大地に静かに降り立ちました。
グッドちゃんは、大急ぎでワイズの背中から降りると、再び家に向かって走り始めました。
走り続けて目指した家はもうすぐそこです、その坂の上に、その塀の向こうに、どんどん走って近づくと、家の玄関にたどり着きました。
「ただいまー、お父さんお母さん、帰ってきたよー、薬貰ってきたー」
大声で元気よく叫ぶと、皆がいるだろうキッチンに向かって、グッドちゃんは走っていきました。
ずっとずっと長い間走った事も、何度も何度も転んで痛い思いをしたことも、暗闇の診療所の中で怖い思いをした事も、お父さんとお母さんの為でした。
苦しい思いを歯を食いしばって耐えて、手の中の薬を運んできました。
グッドちゃんは家にたどり着きました、そしてお父さんとお母さんが倒れているキッチンにたどり着きました。
キッチンには、カワルちゃんとカワイ子ちゃんが、座り込んで泣いていました。
グッドちゃんのお父さんとお母さん、カワルちゃんとカワイ子ちゃんのお父さんとお母さんは、床の上で泡を吹いたまま、倒れて動かなくなっていました。
「お父さんお母さん、起きてー、薬を飲んで、ねっ、ねっ」
そう言うと、グッドちゃんは、ガラスの薬ビンの中から薬を一錠取り出して、倒れて動かなくなっているお父さんの口の中に、薬を指で入れました。
続いて、倒れている三人の口の中にも、一錠ずつ薬を指でつまみ入れました。
そして倒れている四人の体を、ゆさゆさと揺すってみました。
「お父さんお母さん、起きて、カワルちゃんとカワイ子ちゃんのお父さんとお母さんも、はやく、ねぇ」
グッドちゃんは何度も何度も体を揺すりました。
四人の体を交互に揺らし続けました。
カワルちゃんとカワイ子ちゃんは、泣きつかれて沈み込んでいます。
いくら待っても、いくら揺すっても、薬を飲ませたはずのお父さんとお母さん達は、まるで動き出そうとしません。
「お父さんとお母さん、起きてー、一生懸命走って薬を貰ってきたの、何度も転んだけど、痛いの我慢して走って持ってきたの、ワイズにも大空の中を連れてきてもらったの、だからねぇ、お母さん、起きて、起きてよぉー」
いくら待っても、いくら呼びかけても、四人共起きようとしません。
「ねぇ起きてよー、お父さんお母さん、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
グッドちゃんは泣き出しました。カワル子ちゃんとカワイ子ちゃんも一緒に泣き始めました。世界中に響き渡るくらいに泣きました。
でも四人のお父さんとお母さんは、もう起き上がることはありませんでした。
グッドちゃんの泣き声が、周りに響き渡りました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、お父さんお母さん、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その泣き声は、グッドちゃんの家の屋根の上で、心配になって様子を伺っていたワイズの耳にも届きました。
ワイズも大声ですぐに解りました。グッドちゃんのご両親も死んでしまったのだと。
そして悲しくなりました。
同じようなことが、この国中で起こっているのだと知りました。
ワイズの眼にも涙があふれてきました。
しかしワイズは少しでも困っている人を助けようと、雷が鳴り、大雨が降り注ぐ大空に飛び立とうとしましたが、飛ぶことが得意なワイズでも、酷い空模様では飛び続けることは出来ません、
仕方なくワイズは、グッドちゃんの家の側の木まで歩いていくと、その葉っぱの下で雨宿りをすることにしました。
グッドちゃんの泣き声はまだ続いています。
空の大雨も止みそうにありません。
真っ暗な空の中を稲光が何度も走り、大雨が大地を叩きつける激しい音の中、騒音を貫く泣き声が、ワイズの耳に突き刺さるようでした。
ワイズは思いました。
「この子はどうなってしまうのだろう、これからどうなっていくのだろう、この国の子供たちが、同じように苦しんでいる…」
また雷光が輝きました。その輝きのたびに、人々の悲しい知らせが増えていく、そんな風に、ワイズには思えてなりませんでした。
第九章 ダイヤモンドの剣
それから三日たちました。
国中の人々が、いっぱいいっぱい死んでしまいました。
余りにも多くの人が死んでしまったので、お墓を建てる場所が足りなくなるほどでした。
でも、王宮では、今日も贅沢な料理と宴会が催されていました。
国中で起こっている大変なことは、王様もその家族の人たちも、余り考えていませんでした。
国中がお葬式ばかりになっている中、あの山の上の工場から、アームさんが新しく出来たダイヤモンドの剣を持って、王宮に来ました。
王宮の大広間の謁見の間で、王様と国の政治を行う偉い人たちが、アームさんの持ってきたダイヤモンドの剣を見ようと集まってきました。
金銀財宝で着飾った豪華な衣装を身にまとった、王様と偉い人たちが集まっていました。
大きな大きな大広間の大理石の上で、跪いているアームさんの持ってきたダイヤモンドの剣を、兵士の一人が受け取り、頭を垂れながら、王座に座る王様の前に持ってきました。
アームさんは言いました。
「王様、これが新しく出来ましたダイヤモンドの剣で御座います、これこそは正に黄金の剣を越える、とても強い剣で御座います。」
その剣を眺めると、王様はとても不機嫌になり、アームさんに言いました。
「この剣が私の自慢の黄金の剣より強いとは、信じられない」
アームさんは答えました。
「しかし王様、王様がより強い剣を作れと、私に剣を作る様におっしゃられました、私は山の上に工場を作り、この剣を完成させたのです」
ここでとても偉いガッシリ大臣が話しました。
「あなたの工場から出ている水のせいで、人々が苦しんでいると言う噂がある。そのような工場から作られた剣が、名誉ある黄金の剣より強い剣であるはずがない。無礼者は立ち去るべきだ」
アームさんは再び言いました。
「これは王様のお言いつけどおりに作った剣で御座います。キレイナ川の水が汚れてしまったことは、私の工場とは何の関係もありません、この剣を買っていただけませんと、私どもの工場はお金が足りなくなって困ってしまいます。どうかこの剣をお買い上げいただきますようお願いいたします」
王様が言いました。
「人々を苦しめる工場で出来上がった剣など、王である私が持てるはずもない。人々から私は嫌われてしまい、王様でいられなくなる。この剣などいらぬ、さっさと帰れ」
アームさんは涙を流しながら言いました。
「この剣を買っていただきませんと、私の工場は潰れてしまいます。どうか王様、お慈悲を」
しかし王様は立ち上がると、王座の後ろにある大きな金細工の扉を開けて、出て行ってしまいました。
他の王様の家族達も、偉い人たちも、皆アームさんを置いたまま、扉の向こうに立ち去ってしまいました。
アームさんは泣き崩れました。そして投げ捨てられたダイヤモンドの剣を大事そうに抱え上げると、兵士達に連れられて、広い広い大広間の先にある、お城の玄関へと通じる通路に向かって帰り始めました。
アームさんは思いました。
「この剣をどなたかに買っていただけなければ、私の工場が潰れてしまう、大変だ」
アームさんは泣いていました。でも、王様は戻ってきませんでした。
解説6
上記文は、支配者が国民からの評判に神経質である事を示しています。集団性とは相互保障関係であり、その為には自発的に助け合う関係を築いておく必要があります。評判が悪くなればこのような理想的関係は崩れ、一方による暴力的抑圧による指示とその強制の為の暴力を用いなくてはならなくなります。その事を考えると、支配者は常に国民からの評判を気にしています。しかしそれは人々のためになろうとしているというよりは、支配者にとって人々が都合よく働き続けるための環境整備として考えているのです。この話の中では王様たちは、工場を停止して汚染水を排出することを止めろ、とまでは言わないのです。
第十章 人々の反乱
アームさんが王宮の玄関にたどり着くと、数多くの人々が、王宮の前に集まっていました。
何万人もの人々が王宮を取り囲み、王様に向かって怒りをぶつけていました。
「王様、出てこい、キレイナ川が汚れたのは、お前のせいだ」
「人々が死んでいっているのに、王様は贅沢な生活ばかりしているぞ、その金で人々を助けろ」
「キレイナ川を汚したのは誰だ、出て来い」
何万人ものたくさんの人が王宮に詰め掛けていたので、王宮前の大きな鉄の扉が今にも倒れてしまいそうになりました。
アームさんは驚いて、近くの木陰に隠れてしまいました。見つかるわけには行きません。
本当はアームさんも、自分の工場のせいで川が汚れて人が死んでいった事を知っていました。
みつかってしまったら、アームさんも人々に殺されてしまいます。
王宮の王様も、玄関前の人だかりに気付きました。
王様は恐れました。
なぜなら、人々から嫌われてしまったら、王様でいられなくなるからです。
王様とはつまり、人々からの人気があるからこそ出来る仕事なのです、人々に嫌われてしまったら、王様から引きずりおろされてしまいます、そうなれば、もう贅沢な食事も出来なくなってしまいます。
人々が王様に反乱したら、王様にとっては大変です。
そこで王様は、王宮の頂きの演説台の上に立つと、玄関前に集まっている人々に向けて、お話を始めました。
「国民の皆さん、キレイナ川の汚れの事は私も知っています、皆さん大変な思いをされました、お悔やみを申し上げます、しかし、みなさん、私はキレイナ川を汚した悪い人たちを知っています。」
この話を聴くと、人々はいっせいに
「おおおおお、誰だ、それは、王様、教えてください」
と言いました。
そこで王様は言いました。
「キレイナ川を汚した犯人は、となりの国イイヒト国のゼンリョウ王です。隣の国が私達を襲おうと、川を汚したのです」
人々はいっせいに言いました。
「なんだって」
王様は続けました。
「隣の国の人たちに責任を取ってもらわなくてはなりません、皆さん、国のために戦争をしましょう」
戦争とは、大勢の人同士で殺し合いをすることです。みんなで殺し合い、数多くの人が辛く苦しい毎日を過ごすことになるのです。
「隣の国が私たちを襲ってきたんだ、なんて悪い人たちなんだ」
「イイヒト国の人たちと戦争をするぞ、家族の仇を討つんだ」
「そうだそうだ」
と言い始めました。
何万人もの人々が、大きな声でどよめきました、そして王様に
「戦争しよう、戦争しよう」
と言いました。
この大きな国民の声に、王様はほっとしました。
なぜなら、国民の人々の怒りの向かう先が隣の国になるなら、自分が人々から襲われて、王様の座から追い出される事がなくなるからです。
国のために、と王様は言いましたが、本当は、自分が王様でい続けるために、人々のためにならない殺し合いをさせようと、人々に嘘を言って煽ったのです。
王様の言う、国のため、とは、王様自身のために、皆が関係のない赤の他人と殺しあってくれ、その間も自分は王様として贅沢な食事を続けるんだ、という理由でした。
王様はこのために、嘘をついたのでした。
しかし、その嘘を見抜いているものがいました。
誰よりも賢いフクロウ、ワイズです。
ワイズは王様の嘘を、王宮の黄金の立木の上から、見守っていました。
演説を終えて王宮の中に帰ってきて、家族の皆と笑いあっている王様に、ワイズは話しかけました。
「王様、戦争になれば、多くの人たちが殺しあって、数多くの人が死んでいきます、より多くの人々が死んで、国中が悲しみにあふれてしまいます、それだけではありません、もっと多くの人が死んでしまえば、国の力も弱くなってしまいます、それに嘘をついて国民を騙してしまえば、その嘘がばれてしまうと大変なことになりますよ」
しかし王様は言いました。
「もし人々があのまま怒り続けたら、私は人々に襲われて王様でいられなくなってしまうだろう、しかし、キレイナ川が毒で汚れたのは、他の国の人々の責任だと皆が思い込んでいる間は、私を襲ってはこないだろう、戦争を続けている間は、私は王様でい続けられるし、戦争で死ぬのは普通の人々で、私の家族ではない普通の人々が死んでいくのだから、私は安心だ。だから私は、王様でいられなくなるくらいなら、戦争をしようと思う」
そこでワイズは言いました。
「でもそれは正義に反します、善良な無実の人々を殺すことは許されないことです」
しかし王様は答えました。
「うるさい、私は王様だ、戦争をしている間は、暴力を振るうのが上手いものが皆から尊ばれる、だから戦争の間は軍人はえらいと言われる、その間は私は王様でい続けることが出来る、例え人々が殺しあって死んでいったとしても、私と私の一族はお城の中に住んでいるから大丈夫だ、私は王様だ、私の決めたことが正しいのだ、ワイズよ、黙れ!」
「より暴力が上手いものがより良い者だと人々に思われたいために、人々に殺し合いをさせようとは、とても世のため人のためと言える態度ではありません」
ワイズはため息をつくと、王宮の黄金の立木から飛び立ち、大空に向けて飛び立っていきました。
空は夕焼けに染まっていました、でもその色と同じ色のものが、とても悲しい色となって、大地を染めることになるだろうと、ワイズは良くわかっていました。
解説7
上記文は、戦争の階級格差を表しています。戦争を煽るために国家の自尊心を強調し対立を煽るのは政治家や官僚の常套手段ですが、それらの美辞麗句の世界の本当の構造を解りやすくあらわしています。つまり、王様の戦争の真の理由は自己の地位保全のためであり、その為に民族や国家を強調し他国との対立を煽る事で、支配者に国民の敵意が向かう事をそらそうとします。そして支配者たちは傷つくことなく、国民たちが殺される構造にはめ込まれていくのです。対立歴史の強調と国家間対立の扇情をする政治家官僚の構造なのです。そしてこの集団全体に合成の誤謬の連続が世界を破壊します。
第十一章 イイヒト国との戦争
それから一ヶ月もしないうちに、ツヨイゾ王のタタカエ国と、その隣のゼンリョウ王のイイヒト国は、戦争を始めてしまいました。
ツヨイゾ王のタタカエ国の嘘の話に、イイヒト国の人々とゼンリョウ王は
「自分達はキレイナ川に毒を流したりなどやっていないし、もしそういう人が自分たちの国にいたとしても、自分達の内の一部の人が起こしてしまったことです、申し訳ないと思いますが、イイヒト国の皆が川に毒を流したわけではありません、どうかその事をよく考えて、戦争という、皆が殺しあうような事は止めましょう」
と言いましたが、ツヨイゾ王は
「イイヒト国の皆が悪い、皆が悪い」
と言い張って、国同士の戦争しようと国民に呼びかけて、戦争を始めてしまいました。
どちらの国も同じくらい強かったので、たくさんの戦いをしてもなかなかどちらかが勝って終わることになりませんでした。
どちらの国の人も、たくさんの人々が死んでしまいました。
たくさんの親達も子供たちも、男も女も、男の子も女の子も、友達も親戚も、たくさんたくさん死んでしまいました。
皆がみんな、泣いていました、悲しんでいました。
でも、戦争の理由を皆が間違えていたので、いつまでたっても戦争を止めようとしませんでした。
皆が言いました。
「戦争で皆が苦しんでいる、それは相手の国のせいだ、だから相手の国と戦うんだ」
お互いがそう思いあっている限り、戦争をして苦しめあうことを止むはずがありません。
でも、どちらの国の人々も、その事を解ろうとしませんでした。
グッドちゃんも、戦争に巻き込まれてしまいました。お父さんとお母さんがいなくなってしまったので、グッドちゃんは十歳で、一人で生きていかなければならなくなりました。
毎朝一生懸命畑を耕すと、昼間は市場で野菜を売り歩いて、細々と暮らしていました。
グッドちゃんはいつも、心の中でお父さんとお母さんを思い続けました。
まじめに働いて、一生懸命、立派になって、お父さんとお母さんに、大きくなった自分を見せてあげるんだ、きっと天国で見ていてくれるから、あたしは頑張るんだ、そう心に誓っていました。
でも、戦争の影が、グッドちゃんにも襲い掛かってきたのでした。
グッドちゃんが住んでいた町に、ある日、イイヒト国の兵士達が襲いかかってきました。
グッドちゃんは、なぜ自分が襲われようとしているのか、理由がわかりませんでした。何も悪いことはしないで、毎日マジメに生きていたからです。
グッドちゃんは来る日も来る日も、たった一人で辛いこと苦しいことに耐えて来ました。あの町外れの診療所まで、お父さんとお母さんの為に薬を貰いに行った時の様に、どんなに辛く苦しいことがあろうとも、涙を流すのを耐えて来ました。
でも、イイヒト国の兵士が、銅の剣でグッドちゃんを襲ってきたのです。
「あたしなんにも悪いことしてないもの、どうしてあたしを襲うの、おじさん」
イイヒト国の兵士は言いました。
「それはお前がツヨイゾ王のタタカエ国の人間だからだ、タタカエ国の人間は皆悪い人たちだ」
と言いました。
グッドちゃんは言いました。
「あたしは何にも悪いことはしていないのに、この国に生まれてまじめに生きてきただけなのに、同じ国の人だからって、どうしてその国の皆をまとめて嫌いになるの、同じ国の人ってだけじゃない!」
でも、興奮しているイイヒト国の兵士は、グッドちゃんに向けて銅の剣で切り付けました。
「きゃああああああああああ」
グッドちゃんは叫びました、グッドちゃんの左手が大きく切られてしまいました。たくさんの赤い血が、左手から流れ出しました。
「痛い、痛いよぉぉぉ」
グッドちゃんが涙を流して座り込んでいる間に、更にイイヒト国の兵士が襲いかかってきました。
グッドちゃんが、
「いやああああ」
と叫びました。
そこへ、あのフクロウのワイズが、大空から急降下して、イイヒト国の兵士めがけて急降下してきました。
ワイズは、イイヒト国の兵士の背中を蹴飛ばすと、そのままの勢いでグッドちゃんに素早く近づきました。
「ああ、ワイズさん」
グッドちゃんは感激しました。
ワイズは、王様と喧嘩してしまったので、町外れの森の中に、他のフクロウたちと一緒に仲良く住んでいました。そこはグッドちゃんの家にとても近かったので、ワイズは時々、グットちゃんを見守っていたのでした。
ワイズは、傷ついて倒れてしまったグッドちゃんの腰のスカートのベルトをその大きなカギ爪で掴むと、グッドちゃんの体を大空へと運んで行きました。
高い高い大空の上で、ワイズとグッドちゃんは大地を見下ろしました。
タタカエ国の人々とイイヒト国の兵士たちが、至る所で殺し会っていました。逃げ回る人々、泣き叫ぶ子供たち、その人々の泣き叫ぶ声が、遠く高い空の向こうまで、大きく響いていくようでした。
「ねぇワイズさん、あたし、降りたいの、あそこに降ろして」
そう言うと、グッドちゃんは、小高い岡の上にある、共同墓地を指差しました。
ワイズはグッドちゃんの左手の傷を見ました。傷はとても深く骨まで達していて、血がいっぱい流れ出していました。
ワイズの眼には涙が溢れ出してきました。賢いワイズには解ったのです。
グッドちゃんの傷はとても深く、もう治療の仕様がない事が解ったからです。
ワイズは自分を責めました。どうしてもっと早く、グッドちゃんを助けてあげなかったのか、そうすれば襲われて怪我をすることもなかっただろうに、と。
ワイズはグッドちゃんが指差した場所に、そっと舞い降りて、グッドちゃんをやさしく降ろしてあげました。
共同墓地とは、数多くの人たちをまとめて弔ってあげる墓地のことです。
キレイナ川に毒の水が流れて死んだ人の殆ど、ここで弔われていました。
グッドちゃんはふらふらと歩きながら、三m以上はあろうかという、大きな墓石に近づいていきました。
たくさんの人が死んでしまったので、その石にはたくさんの人の名前が彫り付けてありました。
大きな大理石の墓石の中に、グッドちゃんは自分のお父さんとお母さんの名前を見つけると、グッドちゃんはその名前に手を当ててそっとつぶやきました。
「お父さん、お母さん、天国で一緒にお食事しようね、約束だよ、きっとだよ」
そう言うと、グッドちゃんはゆっくりと崩れ落ちてしまいました。
グッドちゃんは、血が流れすぎて、死んでしまいました。
可哀想なグッドちゃん、何にも悪い事をしていないのに、襲われてしまいました。
ワイズは大粒の涙を流して泣きました。大声で泣きました。
「可哀想なグッドちゃん、きっと天国で、お父さんとお母さんにやさしくしてもらうんだよ」
そう言って、ワイズは大きく羽ばたくと、再びどこかへと飛び立っていきました。
解説8
上記文は、国家というものに対する認識上の数字と実際の国民数の違いという「数のずれ」を表現しています。~国、と聞くと人々は相手の国の全ての国民の事を含んでいると考えがちですが、その無意識的前提は実際の国民数とは違います。例えば自分の国の政治家や官僚が政策の失敗を犯したとしても、だれが失敗したのか、その個別の個人名を同じ国の人々は知っていますから、自分の国の全ての人が悪い、とは考えません。ところが、他の国のことになると、他の国の全ての人が悪い、と考えがちになります。(ある国の政策者の実際数)と(その国民の全体数)は違うのです。にもかかわらず、相手国の政治問題となると、~国のせいだ、とその国の国民全体を憎んでしまうのです。この「数のずれ」は、単に政治的失敗をした者だけでなく、同じ国の全く関係ない他人もまとめて憎悪するという誤認識を生み出し、関係ない人を攻撃しあい、それがテロの拡大から戦争の拡大へと続いていくのです。これが戦争が永続化する構造なのです。
第十二章 更に続く戦争
戦争が続く中で、数多くの人を殺し続ける人がいました。
名前をゴカイさんといいました。
あまりに数多くの人を倒してしまうので、イイヒト国の人々から恐れられ嫌われました。
戦場で数多く倒しているゴカイさんが、大空で困っている人助けをしているフクロウのワイズを見つけました。
ゴカイさんは言いました。
「知っているぞ、お前はツヨイゾ王のペットのフクロウ、有名なワイズだな、おお、なんという大きなフクロウだ、これほどの大きさのフクロウは見たことがない。」
大空を優雅に舞いながら、ワイズは答えました。
「そこの人、あなたは多くの人を傷つけている、皆がそのように傷つけあってばかりでは、いつまでたっても争いは終わらず、傷つく人々が増えていくばかりです、そのようなことはおやめなさい。」
「うるさい、我々タタカエ国の者たちは、歴史と伝統の中、イイヒト国とずっと戦ってきたんだ。だから、我々も戦って勝利するのだ、それが当然だ」
ワイズはとても高い大きな木に舞い降りると、ゴカイさんと話し始めました。
「あなたは、今、歴史の話をしましたが、それは具体的に誰ですか?」
ゴカイさんは大声で言い返しました。
「昔からの伝統で、同じ国の昔の人々だ」
「あなたはその人々と会ったことありますか」
「あったことはないが、知っているぞ、昔の人だから当然会ったことは無い。」
「知っているといいましたが、それは本や語り草で知っているのですか」
「そうだ」
「でも会ったことはないのでしょう?」
「だからなんだ?」
「会ったことも見たこともない他人の殺し合いを、昔からの言い伝えだけで、ほんの少し知ったからって、あなたがなぜ続けるのですか」
「それはそれが私の名誉であり、国の名誉だからだ、素晴らしいだろう?」
「名誉とは人に認められることでしょう、なぜ人を多く殺したら、認められるのですか?」
「敵を多く倒したら、当然人々に誉められる、その何が悪い?」
「あなたは、見たこともあったことも無い、昔の人の争いを、自分がほめられるからと続けるというのですか?それはおかしな話ですね、皆がそうやって、まったく知りもしない赤の他人の殺し合いも、自分が続けるんだ、それが歴史と伝統だ、と殺し合いを続けるので、いつまでたっても殺し合いが終わらないのです」
「何が悪い、そうすれば私は人々に誉められ称えられる、敵を倒せば倒すほど、私は偉くなるのだ、それは素晴らしいことだ」
「あなたは自分が誉められ自分が喜ぶために、殺し合いの歴史を続けるのだと言っているのです、あなたは要は自分が偉くなるために、赤の他人の殺し合いを、勝手に続けているだけではないですか」
「何を言うか、相手の国が襲ってくるから、私が戦って同じ国の人々を守っているのではないか、同じ国の人々は、私の戦う姿を褒め称えるべきだ、そうすればより私は偉くなれる!。」
「お互いの国の者同士が、相手が襲ってくるから、といっては他人の殺し合いの歴史を続けようとする、そうやって偉くなろうとするものが、自分以外の他人を、同じ国の歴史と伝統だから、といって、殺し合いの関係に巻き込もうとする、そういう人同士が、両方の国にいるから、いつまでも殺し合いが終わらないのです。」
ワイズは首を大きく振ると、再び大空に飛び立って行きました、傷ついた多くの人を助けるためです。
戦争は続きました。
最初はツヨイゾ王のタタカエ国のほうが勝っていました。
王様の自慢の黄金の剣は、とてもとても強く、どんな戦いにも勝てるものでした。
しかししばらくすると、ゼンリョウ王のイイヒト国の方がより多く勝つようになりました。
なぜなら、あの山の上の工場のアームさんが、大切に作ったダイヤモンドの剣を、となりの国のイイヒト国の人々に売ってしまったからです。
ダイヤモンドの剣は、ツヨイゾ王の自慢の黄金の剣よりも強いので、タタカエ国は負け始めました。
怒ったツヨイゾ王は、アームさんを王宮へ呼びつけました。どうしてイイヒト国にダイヤモンドの剣を売ってしまったのかを問いただす為です。
金銀財宝で着飾った豪華な衣装を身にまとい、王様と偉い人たちが、大きな大きな大広間の大理石の上で、跪いているアームさんに向けて、とても怒った顔をして言いました。
「なぜ、となりのイイヒト国に、ダイヤモンドの剣を売ってしまったのか。私たちは戦争で苦労している、それはダイヤモンドの剣のせいだ、お前は裏切り者だ」
アームさんはずるがしこい笑いを顔に浮かべながら言いました。
「それは、ダイヤモンドの剣が売れなかったら、私どもも困ってしまいます。お金を得られなければ食べ物を買うことも出来ずに死んでしまいますので売りました。王様は、ダイヤモンドの剣を他の誰にも売るなとはおっしゃいませんでした、ですから、私どもはイイヒト国の皆様にお売りしたのです」
これを聞いて、王様は激しく怒りました。
「そんなことをしたら我々が負けてしまうではないか、なんていうことをしてくれたのだ!」
「しかし王様はおっしゃいました、ダイヤモンドの剣が黄金の剣より強いとは信じられない、と。しかし今はそれか解るでしょう」
そう言うと、アームさんは、長いマントの中から、長いダイヤモンドの槍を引き出して見せました。
「どうでしょうか王様、更に強い暴力の力を作りました、これがダイヤモンドの剣より更に強い、ダイヤモンドの槍で御座います」
そう言うと、アームさんは、ダイヤモンドの槍を高々と掲げて見せました。
槍は持つ部分が剣よりも長いので、剣よりも、より遠くから相手を傷つけることが出来るので、剣よりも更に強くすることが出来たのです。
それを見た王様は途端に上機嫌になると、アームさんに駆け寄ってきて言いました。
「でかしたぞ、アーム、より強い武器を作れば、イイヒト国との戦争にも勝てるではないか、良くやった」
そう言うと王様は、喜びを体一杯に表現しました。そして踊りだすと、王様の家族も一緒に、踊り始めました。
王宮の中がパッと明るくなりました。最近戦争で負けていたので、王様とその家族、国の偉い人たちも、とても気分が落ち込んでいました。
でもより強い武器を持てば、戦争に勝てると思ったので、明るくなったのです。
アームさんは明るく踊り続ける王様に近づくと言いました。
「では王様、この槍の素晴らしい力を、お楽しみください」
そう言うとアームさんは、突然ダイヤモンドの槍を大きく振りかぶると、その先端を、そのまま王様の体に叩きつけてしまいました。
王様は大声で
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
と悲鳴を上げると、そのまま死んでしまいました。
びっくりした王様とその家族、国の偉い人たちは、自分たちの持っている金や銀の剣を振りぬくと、アームさんに戦いを挑みました。
でもアームさんは、その長いダイヤモンドの槍で、遠くから簡単に、王様とその家族、国の偉い人たちを倒してしまいました。
護衛の為の兵士達も、皆簡単に倒されてしまったか、逃げ出してしまいました。
王宮の中がとても静かになりました。
アームさんは、他人よりもより強い暴力を持てば王様になれると思い、自分でダイヤモンドの槍で、王様とその家族、国の偉い人たちを皆倒してしまったのでした。
そう、今やアームさんが、王宮の主、つまり王様なのです。
アームさんは喜んで叫びました。
「やったぞ、これでツヨイゾ王はいなくなった、タタカエ国の王様は、この私、アームだ!!!」
高々と槍を突き上げると、血だらけの王宮の中の窓から、外を眺めて叫びました。
「このアームが新しい王様だ、王様だー」
外では、イイヒト国の軍勢が何万人も王宮に押し寄せて、今にも攻めあがろうとしていました、既にタタカエ国は、負ける寸前だったのです。
「このアームが新しい王様だ、王様だー、どうだー」
アームさんはそう叫びました。
そこへ、イイヒト国の兵士達が、王宮の上の、アームさんが外を覗いている窓めがけて、ダイヤモンドの弓矢で狙いを定めました。
弓矢は遠くまで刃物を飛ばせる武器なので、ダイヤモンドの槍よりも、更に遠くから相手を傷つけることが出来る武器でした。
イイヒト国は、アームさんからダイヤモンドの槍を買うと、更により強い武器を自分たちで作ったのでした。
イイヒト国の、ダイヤモンドの弓矢隊の隊長さんが、弓矢を身につけた隊員達に、狙いをつけるように命令しました。
「狙え、打てー」
隊長さんがそう言うと、隊員たちが、王宮に向けてダイヤモンドの矢を放ちました。
遠い距離から突然来るダイヤモンドの矢を、アームさんは気付くことが出来ませんでした。
何本かの矢は王宮の窓に届きませんでしたが、五本ほどが窓の中に入り、そのうちの二本が、アームさんの頭と胸に深々と突き刺さりました。
「ぐわああああああ」
と叫び声を上げると、アームさんは死んでしまいました。
こうして、ツヨイゾ王のタタカエ国は、戦争に負けてしまいました。
ツヨイゾ王のタタカエ国も、ゼンリョウ王のイイヒト国も殆どの人が戦争で死んでしまったか、家族が死んでしまいました。
たくさんの人が死に、泣いていた人も更に死んで、みんないなくなってしまいました。
解説9
上記文は、戦争による暴力技術の開発競争が高まると、武器自体がどんどん強くなっていき、制御不可能になっていく事をあらわしています。武器開発の究極化は人類全体を一瞬にして滅ぼす力の開発に向かっていき、それはどんどん制御不可能になっていくのです。単に支配者が暴力の頂点に立とうとする暴力の競争は、副産物として人類全体を滅ぼす力の開発競争でもあるのであり、それは同時に個別の権力の奪取構造を民主主義ではなく暴力によるものにし続ける限り、人類全体では、人類滅亡の可能性を高めていく形を継続することを示しています。また、内乱の危険性として、支配者より、より多くの武器の持ち主が暴力の頂点に立つ、という権力構造が起こしやすいのであり、それは軍人や武器の持ち主たちであるという、国家指導者の下に直接いる者が起こしやすいということを示しています。より暴力の強いものが、暴力の頂点に立つ形での統治構造は、支配者より暴力がより強い者が現れるとすぐに瓦解しやすいのはこのような構造理由によるものであり、民主主義のように国民の支持による統治との違いでもあるのです。
第十三章 戦争の行き着く果て
戦争の争いの為、余りにも多くの人が死んでしまい、国中の田畑が荒れてしまい、動物たちも食料として食べられてしまい、人々は食べるものが手に入らなくなってしまいました。
すると今度は、イイヒト国の中で、より強い武器を持つものとそうでない者とで、争いが起こりました。
食事が出来なくなった人々は、争いあって、より奪い合うようになってしまいました。助け合うことを止めてしまったのです。
イイヒト国が勝ってしまいましたが、イイヒト国の中で、今度は一緒に戦い合ったもの同士で、同じ国の者同士なのに、殺したものと殺されたもの、より強い武器を持つものと持たないものとが、より良い食料を、そして贅沢な物を得る為に奪い合おうとして、そして王様になろうとして、銅の剣より銀の剣を、銀の剣より黄金の剣を、黄金の剣よりダイヤモンドの剣を、ダイヤモンドの剣よりダイヤモンドの槍を、ダイヤモンドの槍よりもダイヤモンドの弓矢を人々は奪い合い、より強い武器を持つものが、より弱い人を殺して物を奪う様になりました。
誰もが、より強い武器を持てば、自分が王様になれるからと、より強い武器を持つようになると、より弱い人はどんどん殺されていきました。
誰も田畑を耕さず、動物もいなくなって、海も川も水が毒で汚されて、魚が皆死んでしまいました。その為食事が出来なくなった人々は、お互いを殺しあって物を奪っては、また殺しあう、といった事を繰り返し続けました。
そしてある日の夕方、最後の人がたった一人勝ち残りました。
名前はサイゴさんと言いました。
サイゴさんは言いました。
「俺がサイゴに生き残ったぞ、俺が王様だー、ははははははははははは」
サイゴさんは高笑いしました。しかしもう、他に誰も人はいません。サイゴさんは最後の人の生き残りなので、最後の王様になりました。
父親も母親も、おじいちゃんもおばあちゃんも、親戚も友達も、見ず知らずの赤の他人も、皆皆死んでしまいました。
サイゴさんは最後の王様でした、でも、王様になったのに、仲良く話す友達も、助け合う仲間も、一人もいません。
食事も出来ず、のどが渇いてしまったサイゴさんは、水が飲みたくなって、キレイナ川に向かっていきました。
大地を広く見渡す限り、死んでしまった人々の亡骸と、荒れ果てた大地が果てしなく続いていました。
もうどこを探しても、どこにも誰も生き残っていません。
とてつもなく大きな孤独感が、サイゴさんを襲いました。
サイゴさんは泣き崩れました。大きな声で泣きました。でももう手遅れです。皆、人殺しに熱中してしまいました。そして自分たちがやっていることが、最後にはどうなってしまうのかを、誰も考えていませんでした。
皆、いつか誰かがどうにかしてくれる、そう思っていました。でも本当は、いつでも誰も、どうにもしてはくれなかったのです。
皆、他人任せにし続ければ、誰もが自ら何もやろうとしなくなります。皆が皆、戦争に熱中し続けていても、どこかで、誰かが止めてくれる、いつかどこかで止まるはずだ、そう思っていたのでした。
でも誰もが戦争に熱中していたので、最後まで誰も止まらなかったのです。
こうして、最後には、人殺しに熱中した人々は、サイゴさんを残して、皆死んでしまいました。
サイゴさんは、キレイナ川に辿り着きました。
水を飲みたくて仕方がなかったのです。
でもきれいな水は、もうどこにもありません。
大空を舞っていたフクロウのワイズが、毒の入った水を吸い上げて枯れ果てた、キレイナ川の森の枯れ木に立ち止まると、サイゴさんを見つけました。
ワイズは枯れ木の上からサイゴさんに話しかけました。
「そこの人、その水は毒で汚されている、だから飲んではいけないよ」
でもサイゴさんは言いました。
「何を言うか、私は王様なのだ、王様が命令すれば、キレイナ川も、水をきれいにするに決まっている。さぁキレイナ川よ、王様の命令だ、水から毒を取り除け、そうすればこの王様が、水をたらふく飲んでやる」
そこでワイズは言いました。
「そんなことをしても、水はきれいになりません、さあ、私と一緒に、きれいな水を捜し求めるたびに出かけましょう」
でもサイゴさんは
「もう咽喉が渇いた、これ以上歩きたくはない、人殺しに熱中しすぎて、疲れ果ててしまった。さあ川よ、水をきれいにしただろう、何しろ王様の命令だからな、さあ川よ、王様が水を飲んでやるぞ、さぁどうだ」
そう言うとサイゴさんは、両手のひらで、キレイナ川の水をすくうと、そのままゴクゴクと飲んでしまいました。
ワイズはただ静かに、そのおおきな眼で、サイゴさんを静かに見守っていました。
サイゴさんは、しばらくは、おいしそうに水を飲み続けていましたが、突然
「うおおおおおお」
と天に向けて叫ぶと、そのまま泡を吹いて川に倒れこんでしまいました。
こうして、サイゴさんも死んでしまいました。
人々は皆死んでしまいました。
動物たちも殺されるか食べつくされてしまいました。
植物も皆、水の中の毒のせいで枯れ果ててしまいました。
わずかに残った枯れ木の上に、鳥達だけが生き残っていました。
解説10
上記文は、戦争による暴力競争の果てが、文明の破壊に行き着くと最後にはどうなるかという事を示しています。
第十四章 小さな目標と大きな目標の違いに気づく事
ワイズは、誰もいなくなった広い広い台地の上に残った枯れ木の上で、考え込みました。
なぜ、こんなに酷いことになってしまったのだろうと。
「タタカエ国のツヨイゾ王が嘘をついたことでこんなにもひどいことになった。」
最初はそう考えました。
でももっと深い理由があるはずだ。
ワイズは、とてつもなく静かな大地の上の枯れ木の上で、静かに考え続けました。
夕闇が迫り、夜が近づいていました。それでもワイズは考え続けました。
あの可哀想なグッドちゃんのことを思い出すたびに、考え出さずにはいられないのでした。
そして夜も一回りして、朝の太陽が緩やかに大きく昇りだし、朝の輝きが大地を 照らし出した頃、ワイズは気付きました。
「そうだ、王様は自分たちだけよければ他の人たちは苦しんでも良いと考えたんだ、そして、それぞれの国の人々が、自分たちさえよければ相手のことなどどうでも良いと考えたんだ、だからお互いの国同士が、相手のことなどどうでも良いと考えあい、お互いがより暴力が強い方が相手から奪えるからと、暴力をふるうようになり、いつの間にかお互いを暴力で傷つけあうようになってしまったんだ。そして暴力が強い方が、より多くのものを相手から奪えるからと、どんどん暴力を強めていって、最後にはどちらもが最後まで殺しあうことになってしまったんだ。」
日が開けて、太陽が昇ってきました。太陽の強い輝きが、遠くの大地まで照らし出しています。
ワイズは考え続けました。
「そうだ、自分たちだけを助けて他人は助けないと考えるからこうなってしまったんだ、だったら最初から、自分たちだけでなく、他の人々も同じように助け合おうと、全ての者が同時に考え続けるならば、こんな殺し合いの世界は生まれなくなるだろう。それが、永遠に平和の世界を作る方法なんだ。」
「全ての苦しみの解決を全ての者が同時に目標とし続けること、それが永遠に戦争が生まれなくなる方法なのだ。」
ついに、ワイズは悟りを得ました。
人々の目指すところが、自分たちだけという、最初から小さな目標になっていたので、いつのまにかそれ以外の人々と暴力で争う様になっていたことに気付いたのです。
ワイズは思いました。
「もうここには誰もいない、飲む水も無くなってしまった、でも私には羽がある、羽ばたいていけばきっと新しい仲間たちに、めぐり合えるはずだ。その時には、新しい仲間たちの全ての苦しみを解決するよう心がけよう。皆がそう思い会えば、皆がお互いを助け合い続ける、そうすれば、こんなことにはもうならない」
高く上り始めた太陽が、大地を明るく照らし出していました。
ワイズは大きく羽を広げると、力強く羽ばたいていきました。空高く舞い上がると、もう二度と、戻ってはきませんでした。
第十五章 エンディング
それから、何年も何年も月日が過ぎました。
かつてタタカエ国だった土地には、毒水が流れて、木々や草花も枯れはて、広大な荒地になってしまいました。
でも、月日が経ち、毒も土の下へと流れ落ちていき、そして再び、地表には草花が生き生きと生える様になっていました。
さんさんと降り注ぐ太陽は、再びタタカエ国だった土地に、緑あふれる大地を与えました。
そして夜になり、静かな山の上に立つ大きな森の主の木に、フクロウたちが再び舞い戻ってきたのです。
そのフクロウの大群の中には、年老いたワイズが、凛として立っていました。
ワイズは、自分の家族、妻や子、孫達と共にここにやってきました。
ワイズは、夜の風に吹かれてなびいている、木や草花たちが、月光に照らされて美しく輝く様を、自分たちの家族に、見せるために、ここにやってきたのでした。
ワイズは言いました。
「私の愛する家族達よ、ここに皆を連れてきたのは訳がある、どうか聞いて欲しい、かつて私は、この土地の国、タタカエ国という国で、ツヨイゾ王という国王の下で、数多くの人々と一緒に暮らしていた。」
ワイズの家族の皆が、ワイズの昔話に、真剣に耳を傾けました。
長老である、ワイズの言葉には、かつての時代への畏敬と尊厳ある響きがあり、フクロウたちの一羽一羽が、心に刻み込もうと、真剣に聞きました。
「私はその時、国王のよき相談相手として、また民にとっての良き見本として、大空を舞って見せた、だが、タタカエ国の国王も、その民達も、また、となりの国のイイヒト国の人々も、人殺しに夢中になってしまった、皆がみな、相手をのけ者にさえすれば、自分たちは安心だ、と思いたいと思った、そしてお互いをのけ者にしようと暴力を振るい合う内に、暴力が暴力を呼び、その暴力に打ち勝とうと、より暴力の力を高め、最後には、皆死んでしまうまで、殺し会ってしまった。」
ワイズの言葉に、皆が真剣に聞き入っていました。ワイズの妻も、親戚も子供たちも、数多くのフクロウたちが、この土地で起きた出来事に、思いを馳せました。
「皆が皆、お互いを苦しめる事を喜び始めれば、より苦しめる事の出来るものの方が偉くなり、より偉くなったものはより苦しめる事で、もっと偉くなろうとした、暴力の強いものが、より暴力で苦しめれば、苦しめられたものは、苦しめられたものより大きな暴力を持とうとする、皆がそう考えてしまい、苦しめあう事が大きくなっていき、最後には取り返しの付かない事になってしまった。」
「人々の誰もが、自分たちだけは助け合うが、それ以外はのけ者にしようとした、そして誰の苦しみも解決しようとしなかった、カンリョウ町長は、汚れてしまった川で取れる魚が危ないから調べればよかったのに、仕事が増えるのが嫌だからと、門前払いにした、その為、汚れた川で取れた魚しか食べるものが無かった人々は、その魚を食べて死んでしまった、川を汚した商人は、自分の責任も忘れて、自分の作った武器を売る事に熱心になって、その武器で人々が殺しあえば最後にどうなるか、考えもしなかった、ツヨイゾ王は、自分が王様を続けたいからと、川が汚れてしまった責任を人々に問われて、魚が汚れてしまった責任は、となりのイイヒト国の人々の責任だと、責任逃れをした、そして人々は、国王の嘘を見抜こうともしなかった、そして皆が皆、相手を苦しめる力をもっと強く持てば、自分たちは大丈夫なんだ、と思いたい、と、間違った事を考えてしまった。そして、みんなが傷つけあい殺し合い、最後には皆死んでしまい、人々はいなくなってしまった。」
白い月光が明るく辺りを照らし出しました。
大きな木の周りの木に止まっている数多くのフクロウたちが、風が大きく吹き荒れる大地の上で、かつて起こった出来事を思いました。
ワイズは、その澄んだ瞳で皆を見つめながら、はっきりとした声で語り掛けました。
「全ての人々が死んでしまった後で、私はひとりで考えた、人々は最初から、こうなる運命だったのだろうと、なぜなら、誰もが、自分たちの苦しみだけは解決すれば、それ以外の人々の苦しみは考えない、そして助け合わず、のけ者にしようとし続ける、全ての人の集団が、そうやってお互いを助け合わずに見捨てあおうとすれば、必ず暴力の力が必要になる、暴力を振るえば、暴力を振るわれた方は、より大きな暴力を振るおうとする、そして最後には皆が死んでしまう、そう、人々は、最初から、全ての人の苦しみを解決する事を目標にしなければならなかった、そうしなければ人々はお互いを助ける事を止めてしまい、最後には殺しあってしまうのだ。」
「グッドちゃんという、とても賢く勇気のある善良な子がかつてこの土地には住んでいた、そしてその子は、汚れた魚を食べた自分の親の為に、薬を貰ってこようと、雨が降る中を一人で走っていった。たった一人でとても心細かっただろうに、その子を私は助けてあげた、でも両親は死んでしまった、それでもあの子は、一人で一生懸命、まじめに生きていこうとしていた、でも人々は、そんな子供まで殺してしまった。あのような悲しい事は、二度と繰り返してはならない。」
風はとてもつよく吹いていました。
太陽が昇り始め、フクロウたちにも、地平線のきらきらとした輝きが見えてきました。
ワイズはもっと大きな声で語りました。
「だから私は、この土地を離れて、あの北の大きな森、私達のふるさとの森にたどり着くと、私と同じフクロウ達に教えたのだ、同じフクロウ同士の苦しみを、お互いに解決する事、フクロウは、全てのフクロウが分け隔てなく、フクロウ全ての苦しみを解決する事を、目標とすること、それこそが、永遠の平和と安定を築く方法なのだ、と、皆に伝えた」
青空に太陽が輝き始め、かつて毒に汚された大地に、大きな緑あふれる草花や木々たちが輝き始めました。フクロウたちの目には、大きな希望が宿っていました。
「そして今、我ら北の森のフクロウ達は、大いに栄え、永遠の平和と安定を手に入れた、そして我らは、かつてタタカエ国だったこの土地で、フクロウの永遠に栄える場所とするために、やってきたのだ。」
ワイズは羽を大きく広げて、フクロウの大群に向けて、合図を出しました。
大きな数多くのフクロウたちが、一斉に飛び上がり、大空に舞い始めました。
皆が新しい森で生きていこうと希望に包まれていました。
ワイズの孫達が羽ばたきながら言いました。
「皆で一緒に飛び立ちましょう!」
ワイズの妻や子や孫達も、一斉に飛び上がりました。
太陽に照らし出された大空をの中を、フクロウの大群たちが仲良く舞っていました。
ワイズも、空に向かって飛び立ちました。
「我らフクロウは、永遠の平和を築き永遠の繁栄を生み出そう。」
空に太陽が大きく上り、やさしい風が緑の木々や草花を揺らしていました。
フクロウ達は、フクロウ同士で見つめあうと、嬉しそうに微笑みました。
新しい日々が始まりました。
もう二度と、殺しあう事もない、助け合いの日々が始まったのです。
太陽はきっと、フクロウたちの未来を、明るく照らし出し続ける事でしょう。
解説11
上記文は、「全ての人が全ての人の苦しみを解決する事を目標とすることが全世界の永遠平和を保障する人格として自己を世界に位置づける事になる」世界平和論理の根幹構造の解説です。これを自立制御、自己完結型の論理と言います。
終
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