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とある異星人の華麗なる地球乗っ取り大作戦

作者: 三木こう

「ねえ、お兄ちゃん。猫、飼ってもいい?」

 俺が夕食の準備をしていたところに、近所の友達たちと外に遊びに行っていた妹が帰ってきた。そして、現在小学五年生になる妹の綾香は帰ってくるなり、甘えた声で胡麻をすってくる。

「ねえ、いいでしょお兄ちゃん」

 目をうるうると潤ませて可愛いくてちっさい顔がまっすぐに俺の顔をのぞきこんできた。

 くっ……、我が妹よ。その『お・ね・が・い』光線は止めてくれ。思わず決意が揺らぐ。宝くじで一山当てて現在も家を空けてる、旅行大好きで風来坊気質な両親に変わって、俺がしっかりと綾香の面倒をみてやらないといけないのだ。

「ダメ! うちのマンションはペット禁止だって何回も言ってるだろ?」

「ふえ、お兄ちゃんのいじわるー!」 

 精神にクリティカルにダメージを与えてくれるな、綾香よ。また腕を上げたようだ……、しかも計算でやってるだろお前。お兄ちゃんはお前の将来が心配だよ。

「歩お兄ちゃんのバカ。へたれ。専業主夫。童顔。……短小」

 まあいい、まあ今の言葉の最初から四番目までは許そう。だが、五つ目でお前はなんと言った? 

「おい、綾香! どこでそんな言葉覚えてきた! その……た、短小だと! 今すぐ忘れろ! 即刻忘れろ! ……あと、お兄ちゃんのは短小などではないぞ」

「なに言ってるのお兄ちゃん? お兄ちゃんは童顔で身長は短くて小さいって意味だよ? 綾香お兄ちゃんの言ってる意味わかんなーい」

 なにがわかんなーいだ、こいつ。いっそ殴ったろか。などと、危険な考えが脳裏をよぎった。

 と、いかん、いかん。ここは落ち着かねば。

「そんなことより、お兄ちゃん猫、飼ってもいいでしょ? それにね、あの子は普通の猫とは違うんだよ」 

 兄いじめに満足したのか、綾香は再びお願いモード。

「ほら、玄関で待たしてるからついてきて!」

 さっきから、問題の『猫』の姿が見えないと思ったら玄関で待たしていたようだ。まあ、見るだけならな……と、いうわけで俺は早速玄関へと向かうことにした。

「へ、へーん。お兄ちゃんきっとびっくりするよ。ていうか下手したらこの猫、新種の超珍しいのかもしれないしね。さ、早く玄関開けてみて」

 ほー、新種の超珍しい猫か、それは中々に興味深い。

「ではさっそく」

 俺はゆっくりと玄関のドアを開け……。


「どうも、よろしくです」

 そして、しゃべった。

 猫がしゃべった……。


 しかし冷静になって考えてみると、猫が喋るはずもなく、目の前にいたのは女の子だった。

 栗色の綺麗なセミロングの髪の毛。白くてきめ細かい肌。桜色のふっくらとした唇。それに、その、中々に重量感のある胸の膨らみとか、どこからどう見ても女の子だった。しかも、めちゃ可愛い女の子だった。

「ほら、かわいい猫でしょ」

 との妹の言葉どおり、確かに存在する猫耳とシッポ。しかもなぜだかメイド服の彼女はどこからどうみても完璧なネコミミメイドさんだった。

「おい、どこからつれてきた? 駅前のメイド喫茶か?」

「どこからって、近所の公園で捨てられてたから拾ってきたんだよ」

 なに言ってんだバカ妹よ。さすがのお兄ちゃんもお前の頭の中身が心配になるぞ。

「いやー、すいませんね。このバカ妹の遊びにでも付き合わせちゃいましたかね。あとで俺からきつく言っときますんで許してやってくれませんか」

「いえ、別に……それに綾ちゃんの言ってることはほんとですよ? 私、猫ですし」

 ああそうですか。うちの妹の言ってることは真実だと。あなたはメイドで美少女なだけの『猫』だと。

 どうやら世間一般的な意思疎通は通用しない、『痛い』部類の相手のようだ。

「んじゃあ証拠見せて下さいよ。猫耳とシッポ以外に!」

「え、でもー。その恥ずかしいですよー」

 なぜだか焦りだす彼女は頬を赤らめ、挙動不審にわたわたとマンションの廊下をぐるぐる回り始めた。

「それじゃあ、恥ずかしいですけど、しかたありませんね」

 そう言うと自称猫の痛い少女はなぜだか自分のスカートに手をかけるとそろり、そろりと、上に挙げて……。

 って、え?

「あの、ちゃんと見えます?」

 と意味深なことをおっしゃる。

 たしかに見えてますよ。真っ白い純白の白が。

「なにやってるんすか?」

 もうパンツ見れてラッキーとか、柔らかそうだなーとか、そんなことは置いといて自然にそんな言葉がでていた。

「ほら、ついてないでしょ。その……オスについてるのが。私、三毛猫なんでメスなんです」

 ほぉー、三毛猫なんですか。たしかに三毛猫はオスは超ウルトラレアでほとんどがメスですけど。

 それでそれを証明したと……。

「てか、三毛とかそんなのどうでもいいねん!」

 と、思わず関西風ツッコミをいれてしまった。

「おい、綾香! この子がお前には猫に見えるか?」

「えー、だって耳と尻尾ついてるじゃん?」

「お前の判断基準はそんなとこなのかよ!」

「だって、この前見たビデオは女の子が猫耳と尻尾つけて猫やらされて、いろいろされてたよ? 男の人に……」

「おい、そのビデオどこにあった?」

「お兄ちゃんのベットの下。って……あー、大丈夫、大丈夫、私は基本的に男の子の複雑な事情はわかってるつもりだからね!」

 小学五年生の妹には絶対わかっていてほしくない事情だった。

「もういい、俺が真実を見極める! ちょっと失礼」

 妹に秘蔵ビデオを覗かれた事実を知って、もう俺に怖いものなど存在しない。

 こうなれば実力行使だと、目の前の猫耳に手を伸ばした。

 ムニュリ。

 そんな擬音が聞こえたような気がした。

「は、はにゃーん……ちょっと、耳は、耳は弱いんですよ」

 猫耳を触りつつ、垣間見えるのは頬を赤らめて、震えた艶かしい声を発する美少女の可愛らしい顔立ち。

 別にへんなことをしているわけではないのに、変な気持ちになっちゃいますよ。

「いや、ごめんな。もう少しの辛抱だ……」

 しかし、ここで止めるわけにもいかず、俺は観察を続けた。

 触った結果、猫耳はたしかに猫の耳であると判明。若干でかすぎるような気もするが、手触りは近所の三毛猫のそれであったし、彼女には人間の耳が存在しない。

 正真正銘彼女の頭についている猫耳は『耳』なのだ。

「たしかに本物だ。うし、次はシッポを……」

 さらなる対象に設定されたクネクネと動き回るシッポに手を伸ばし――掴んだ瞬間。

「はにゃーん! シッポは……ほんとだめなんです。力が抜けちゃって……」

 と言いながら彼女は腰を抜かし、座り込んでしまった。

「あの……起こしてくれませんか?」

 彼女は一生懸命起き上がろうと、散々あがいたあげく、どうやらほんとに力が抜けていたようで、俺に助けを求めてきた。

 俺の足元にあるのは、乱れた衣服(しかもメイド服)、赤く染まった頬、荒い息遣い。

 これははたから見ると、結構ヤバイのでは……。

 なんて、俺が思ったことを見透かしたように、綾香の瞳が怪しく光った。

 バタリ。

 可愛らしく尻餅をついて綾香は猫耳娘の隣に、腰掛けると、あろうことか、

「イヤー、止めてお兄ちゃん! 私達兄妹だよ! それに、お姉ちゃんにこんな格好させて、嫌がってるじゃん!」

 なんて叫びやがった。耳の奥が近々するような高い声。得意の「助けて、私はか弱い乙女なの……」モードに入りやがったな。お前はマンションの一角でなにを言ってんだ。

「ヒソヒソ……最近、高校生になって勉強が大変だからとかで……」

「ヒソヒソ……いくら両親がいないからって……」

「ヒソヒソ……まあ、あの年頃の男の子はねえ……」

 ちょっと近所の奥様方! 叫び声を聞きつけて、さっそく奥様会議を開くのは止めてください! てか誤解です!

 状況確認。

 目の前に横たわるは絶妙のこけ具合で俺を上目遣いで眺める綾香一名と、自称猫の猫耳メイドさん約一匹……。ともになぜだかおびえたようにビクビク。

「後退する、後退するぞ!」

 決して『逃げる』ではないのだ。

 俺はそう自分に言い聞かせると、二人を引っ張りあげて、自宅へと運び込んだ。 



  ◇



「それじゃあタマに決定ね!」

 迷い猫を家の上にあげ、綾香が元気に名前を発表。本来なら非常に微笑ましい光景のはずだが、現実はそうではない。

 家にあげてから、何故か律儀な家事の手伝いを初めて、中々に良い熱さのお茶を注ぎ、小皿の位置を聞きながら、戸棚の奥にしまった羊羹をカットして、お茶請けまで用意してくれた……猫。

 猫は猫だが、ネコミミつき、しかもメイド服は伊達ではないらしく、家事まで万能ときている。

「この子の名前は、タマにけってー!」

 そう言いながら綾香は猫耳娘にじゃれついている。いや、しかし、よくなついているものだ。お姉ちゃんができたって所だな。

 そんな光景を見ていると、俺までこんなありえないペットの侵入を許してしまいそうになった。いや、近所の皆さんへの噂情報流出という、綾香からの脅し、という意味ではもうすでに逃げられはしないわけだが。

「タマはねえだろ。某海鮮家族の白猫じゃあるまいし……」

 時代てきにも古いだろ、いまどきタマってさ。

「うーん、そうかなー? だって……かわいいからいいじゃん」

 タマって名前はかわいいのか? 最近の子供の感性は俺には理解できん。

 まあ、しかし、最終決定権は本人にあるわけで。

「タマでいいのか?」

 訊いてみた。

「はい、大変かわいい名前ですね! 気に入りました!」

 とのご返答。どうやら本人はまんざらでもないらしい。

「わーい! タマー! これからもよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 この瞬間。彼女の名前はタマになった。

 綾香に抱きつかれながらの満面の笑顔。それを見て、俺が少しドキリとしてしまったのはここだけの内緒だったりする……。



  ◇


 

「あの、結婚してください!」

 結果から言えば、なし崩し的に、同居生活は始まってしまった。かれこれ一ヶ月経っただろうか、スムーズすぎる生活が過ぎて行ってから……。家事要員が俺一人だったのも昔の話、今は万能メイドとして、得意料理肉じゃがで綺麗好きというタマが加入してから、我が家の生活は充実していた。

 そんなある日。いつも通りに夕食の準備を始めようとしていたさなか、突然、タマにそんなことを言われてしまった。

「あの……タマよ。話の内容が唐突すぎて理解に苦しむのだが」

「え、あの……その……、私は歩さんの子供がほしいんです!」

 なんか、目がマジだ。まさか女性にこんなことを言われるとは……。綾香は友達の家に遊びに行っている、休日の昼下がり、二人っきりのリビング。自然と胸が高鳴ってくる。

「マジ?」

「はい、本気です!」

 どうやら、本気と書いてマジらしい。

 タマは可愛いし、要領もよくて、やさしくて、メイドだし、ネコミミだし、っは! もしやこれって一種の完璧な女性なのでは?

 なんて、思ったりもするのだが、目の前の少女は今だ正体不明の未確認生物なわけで……それと結婚するとなると……なんか、いろいろたいへんそうだな。戸籍とか、社会性とか。

「それで、聞いてほしいんです。私の本当の正体を!」

 なるほど、本当の正体を――――って、それってすっごく重大告白じゃないか! やっぱり正体があったのか? 猫じゃなかったんだな?

 タマは、深く深呼吸をしたあとで、ものすごく真剣な顔で口をゆっくりと開いた。

「実は私……宇宙人なんです!」

 う、宇宙人? 宇宙人っていいますと、あのあれ?

「これが証拠です」

 そう言いながらタマが取り出したのは一本のビデオテープ。それを手際よくテレビにセットすると、さっそく映像が流れ始めた。

 そのブラウン管の中に写し出されたのは猫耳娘達だった。

 それはもうたくさんの、しかし、目の前のタマと違っているのは皆普通の服装をしているところだ。どうやらメイド服は民族衣装とかそういうノリではないらしい。

 それにしても、

「女の子ばっかりだな」

 さきほどから見えているのは女性ばかりだった。今まで男性が一人も映っていない。

「はい、それが問題なのです」

 そう言いながらタマはうすっぺらい小冊子を取り出した。

 えっと、なになに?

『猫耳メイドでオスをゲット大作戦!』

 との大きな見だし。

 え? なにこれ?

 その見だしが若干気になったものの、さきのページに進んでみることにした。すると出てきた内容はいたって真面目なものだった。

 我々猫星人はかつてない危機に瀕している。度重なる遺伝病の発生、一種族にのみ感染する凶悪なウィルス。それらが進むにつれて、種族数は年々減少していき、現在ではほぼ全員に三毛族の血が流れるようになっていた。

 しかし、それが問題であった。

 年々の遺伝連鎖の結果、オスの減少が急スピードで進み始めたのだ。現在の比率としては女性9.9に対して男性はわずか0.1である。しかも現在適齢期にあたる世代たちの相手となる、若い男性はほぼおらず、相手の選択などは出来ない状況となったのだ。

 それらの打開策として私達は異星人との交わりを選択した。その第一期として派遣されたのが猫耳メイド軍団である。

 みたいな内容だった。

 なんだか、すごいスケールだった。でもなんでメイド軍団?

「この地球では、恐竜人間だって実現した可能性があるそうですし、不思議というほどでもないですよね。そんなわけなんです。信じてくれとはいいません。けれど、私のあなたの子供がほしいという気持ちは本当なのです」

「なんで俺なんかを……」

「私達はとても直感が発達しています。なので、動物的感といいましょうか、つまりはその――人目惚れなのです。あなたの柔らかい猫毛。くりくりっとした猫目。可愛らしくて猫のような雰囲気。どうやらあなたが私にとって運命の男性だったようなのです。実を言えば、綾ちゃんに連れられ、歩さんと初めて出会った時はヤバかったです。……失礼ながら、発情期の到来を感じていたんですよ、実は」

 そういえば昔から「歩って猫っぽいよねー」なんて言われてたっけかな。それがまさかメス猫のハートを刺激することになるなんて……。

「えっと、それじゃあさっそくですが、その……教えてください」

「なにを?」

「え、その、あれです。あれ! 子供の作り方!」

「ふぇ……?」

 子供の作り方といいますと、アレがこうなってそうなってで……って、え?

「知らないの?」

「知りませんよ! 大人達は誰も教えてくれなくて……。現在ではオスとの子作りもほとんど行われていないもので……出生率の関係からもっぱら体外受精が主流でして……」

 まったく、大人ってやつは……そこ教えてくれてないと、大変困りますよ。

「では、お願いしますね! やさしく……教えてくださいね」

「ぐふぅ!」

 なんか、へんな個所に『入った』よ。精神にも急所って存在したんだね。

 なんて悟りを開きかけた。

 これは非常にまずい。

 20XX年。世界はこの、目の前の猫星人に乗っ取られるだろう。

 これほど、恐ろしくも嬉しい侵略方法があったとは……。

 かくして、異星人による侵攻が始まった、その第一の被害者……っていうか俺はこのマンションの一室で嬉しい叫び声をあげながら、地球の未来を憂いてみたり、するのだった。

昔書いた短編の蔵出し作品です。

空想科学祭参加作品。


昔の作風が垣間見えます、テンションが、テンションがなんか違うw

ラブコメは勢いも、重要だと思うので、若さ故の勢いに期待……ということで。


よろしければ、他参加作品もどうぞ

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[良い点] コレはヤバい。 猫好きな俺は一瞬で侵略されてしまうww [一言] スピーディーで読みやすかったです。
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