急接近する兄妹……素直になったあやに、ユウは……?
第73話 世界を夢見た少年
「んじゃっ、また明日なー」
「おつかれさんっしたーっ」
「したーっ」
駅前にひびく別れの声。
「は、はは、それじゃ、どんもぉー」
ユウは背を丸めて右手を目線の高さに挙げた。
「寄り道しないで帰るだぞ、ユウ」
そういい残して家路につくバンダナ。
その後ろ姿を見送ると、先ほどまでの喧騒がウソのように、あたりはしんと静まり返った。
「……じゃっ、帰ろっか、お兄ちゃん」
あやは穏やかな目を向けてユウの顔を見た。
「ん……」
ユウは小さく微笑んだ。
誰もいない夜の駅前をあやと並んで歩きながら、ユウは訊いた。
「……あ、あや」
「んっ?」
あやは立ち止まってユウを振り返った。
「その……さ」
ユウは照れるように目を泳がせながら言った。
「なんか変わったね、あや。少し、その……大人になったというか」
「……ほんとに? ありがと」
あやはかわいらしく首をかしげてみせた。
「んっ……」
ユウは小さく頷いた。
その勢いのまま、ユウは思い切ってあやに切り出した。
「あ、あやさ。せっかくだから、来月十五日の諏訪湖の花火大会まで、こっちにいるっての……どう?」
「えっ、いーの、お兄ちゃん?」
あやはもう一度、ユウを振り返った。
「なんだぁね、せっかくね、こっち来てるんだから……うん」
ユウは何度も照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「ありがと、お兄ちゃん」
あやは淡く頬を紅潮させながら言った。
「あと、もう一つ、お願いあるんだ」
「え? なに、あや?」
「うん。実は上祭に出す絵、描きたいから、部屋を半分貸してほしいんだ」
「なあんだ、そんなことかあ」
ユウはホッとして「はは」と笑ってみせた。
「そんなのねえ、いいに決まってるでしょ、うん」
で、ユウの襤褸アパートにて―――
「んーしょ」
あやはドサッと人の背の高さまで漫画雑誌をつみあげた。
ぐるりとめぐらされた雑誌の壁……ほとんどバリア。
「あ、あやぁ」
ユウはわけがわからずにひきつった笑みを浮かべながら訊いた。
「そんなことして、一体、何の絵を描くのかなあー……なんつって」
「ヌードだよ、私の」
「えええーっっ」
妹の答えに、ユウは思わずとびあがった。
「よ、よく思い切ったね、あや……大丈夫?」
「大丈夫」
あやは雑誌の壁に新聞で作った暖簾をわたしながら答えた。
「あやのこと、そんなに心配、お兄ちゃん?」
「あや……」
ユウは妹の言葉に圧倒され、しばし言葉を失った。
「あやは大丈夫。それよりも、お兄ちゃんもさ……」
「え? ぼく?」
あやの真剣な眼差しに、ユウの心臓が鳴った。
「お兄ちゃん――」
あやは新聞の暖簾から顔を覗かせながら言った。
「真剣にピアノやってた、あの頃のお兄ちゃんが、あやは好きだった」
あや―――ユウは妹の顔を見つめた。
「ピアノ続けてれば、きっとお兄ちゃんは世界の頂点に立てた。なのに……」
その言葉に、ユウは思わず顔を伏せた。
たちこめる重い沈黙―――
第73話 終
なお、ピアノ少年がピアノをやらない代わりといってはなんですが、
私のピアノ曲の動画、ブログにもアップされましたので、お暇な方はどうぞ<(_ _)>
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ユウくんが世界の頂点に!? 少年の過去にいったい何が……?
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