自分自身の本当の姿を受けいれたあや。ヌードの自画像に挑戦?
第61話 初めての感覚
「―――先生」
涙をぬぐい、気持ちを落ち着かせたあやは、女医に向かって言った。
「私……やってみてもいいかな? 本当の自画像」
女医はあやの問いかけに応えて振り向いた。
「……どうかな?」
真剣なあやの視線―――不安と憂いを孕んだ、その眼差し。
「そう……無理しなくてもいいのよ、速水さん」
女医はあやの顔を見つめた。
「そうじゃないの」
あやの顔が紅潮する。
「向き合ってみたいの、本当の自分に」
「そう」
女医はおだやかに微笑んだ。
「それなら、やってみるといいわ」
「ハイ」
あやははにかむような笑顔とともに頷いた。
その顔に輝きが舞い戻る。
「先生」
あやは再び安芸子に向かって告げた。
「ありがと」
目を細め、照れ笑いを浮かべてみせるあや。
「がんばりなさい」
女医はいつくしむような視線を向けてあやに応えた。
「私は今から免疫の研究室に行ってくるから、その間、この部屋はあなたの自由に使っていいわ」
女医はそういい残して部屋を後にした。
自分のことをこうだと決めつけてはいけない。裸の心で見てみなさい……
そうつけ加えて。
「―――ふうっ」
あやは一つ大きく息を吐き出すと、鏡の前に立って自身の全身を映し出した。
ヌードの自画像……か。
あやは思う。
美術部でヌードのクロッキーを描かせてもらえないかと思って来たつもりだったけれど、まさか自分のヌードを描くことになるなんて……ね。
あやは薄手のカーディガンを脱ぎながら、横目で自身の肌の色を見つめた。
(だけど、なんだろう、この感覚? 自分の裸なんて見慣れているはずなのに……)
部屋の隅々にまで目を凝らす。
柱、書棚、机、窓ガラス―――
自分だけじゃない。この部屋にあるもの全部、いま初めて目にするような感覚……
窓の外の光景が瞳に飛び込んでくる。
美しい八ヶ岳の山並み、裾野に広がる木々の緑、湖面をわたる光と風のきらめき……
気がつかなかった。
ここって、こんなにきれいだったんだ―――
まるで風が心に透き通るようだった。
涼しげな白樺の木立ちが、その風にそよぐようにして揺れていた。
なんかいいな、いまの感じ……
あやはうなじをかきあげて瞳を閉じた。
ドキッ―――胸が大きく鳴った。
ゆっくりと瞼を開け、身を寄せるようにして窓辺に手を添える。
そこから身を離すと、あやは着ていたものを一枚ずつ床に脱ぎ捨てた。
キャミソール、ブラジャー、ショーツ……
その衣擦れの音―――めざめてゆく新たな感覚。
第61話 終
次回、麻生先輩のヌード撮影の続きからになります。秦の破廉恥な演出とは!?
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