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麻生のヌード撮影と並行して、もう一つのヌード問題が浮上……それは?
第55話 女医の過去
「―――で、何の用かしら?」
 上諏訪(かみすわ)大学教員研究棟五階の一室で、医学部講師の古沢(ふるさわ)安芸子(あきこ)は一人の女子高生と向かい合っていた。
「どうしたの、用があって来たんじゃなかったのかしら、速水あやさん?」
「…………」
 あやは無言のまま安芸子の顔を見つめていた。
 額にうっすらと汗がにじむ―――
「そ、そのぉ……」
 心のブレーキがあやの言葉を引き戻す。
 美術部のクロッキー会に参加して、ヌードを描かせてほしい―――その一言がどうしても言えなくて。
「それはそうと、上祭(じょーさい)で発表する美術部企画展のテーマが決まったわ」
「え……テ、テーマ!?」
 あやはドキッとして目線をあげた。
「ええ」
 安芸子は頷いた。
「あなたにも出品してもらうから、そのつもりでね」
「え……テーマって一体なにを……」
 安芸子は書類の束をデスクの上に戻しながら答えた。
「テーマは『上大生の裸体表現』―――要はヌードね」
「…………!」
 あやは一瞬、身構えるようにして体をよじらせた。
 ヌード……
「奥澤記念ビエンナーレ大賞の実力、じっくりと楽しませてもらうわ」
 女医はまんじりともせずに言った。その射るような視線……
「そ、そのことなんだけど、実は私、その……」
 あやは目を泳がせながら言った。
「私、描いたことなんかないのよ、ヌードなんて」
 女医は何も答えようとはしなかった。
 黙ったまま目を閉じてあやの話を聞いていた。
「そ、それに私、知ってるんだから」
 あやは口元にかすかな笑みを浮かべ、上目遣いに女医の顔を見た。
「あなた、以前、小松崎記念国際トリエンナーレでグランプリとってるわよ……ね。古沢センセ?」
 安芸子は伏せていた目をあげた。
 あやは薄笑いを浮かべたまま、安芸子の表情を覗っていた。
 この取り澄ました女医の口から、どんな答えが返ってくるのか―――
 あやは固唾を呑んでそれを待った。
「……どーでもいいこと知ってるわね、あなた」
 安芸子は手にしたコーヒーカップをソーサーに戻した。
「あんな賞、私にとって大した意味はないわ」
 安芸子の口元がかすかにほころんだ。
「まあ、そんなことはあなたも早く忘れることね、速水さん」
「え……」
 ゾクッとするような女医の微笑……
 奥澤記念ビエンナーレ大賞作家の肩書きを嘲笑うかのようなそれ―――
「あなたはまだ自分の本当の姿を知らない」
 女医は挑発的な目を向けて言った。
「自分のことすら見えてない人の描くヌードなんて……ね」
「うっ……」
 あやの顔が苛立ちに歪んだ。
 この(ひと)、最初から私のことを…… 
 
 あやは強く奥歯を噛みしめた。
 
                                  第55話 終
女医の意外な経歴。果たしてあやは女医を納得させることのできるヌードを描けるのか……?
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