第159話 初ブログ
夜、あやはリビングでキーボードを叩いていた。
千佳は酒をかっくらって、しどけない姿でベッドの上に転がっていた。
千佳が起き出してこないことを確認し、寝室のドアを閉める。
肉感的な千佳の肢体にいくぶんウンザリとしたものを感じた。
少しダイエットでもしたほうがいいんじゃないの―――はちきれんばかりの肉厚のカラダを一瞥しながら、心の中で悪態をつく。
もともと小太りだったという千佳。
気をつけないと以前の体型に逆戻りしてしまうのではないか……
まあ、別に他人事、どうでもいいようなものだけど。
パソコンの前で写真を広げる。
どれも、自分自身で撮ったセルフポートレート。
自画ヌードのために撮った全裸写真。
千佳とは違う。
カラダの線も崩れていないし、肌もみずみずしい。
だが、そこには生々しい生活の痕跡が映し出されていた。
日常そのものが切り取られていた。
上手く撮れているかどうかを確認する素のままの自分の表情。
カメラを押さえようとして写りこんだ腕の影。
画布には描かれなかった秘部まで……
すべてがありのままに。
いろいろ考えた結果、ブログに動画を載せることに決めた。
作品作りについて映像を交えて説明する―――そんな感じ。
記事のタイトルは「自画ヌード」にしてみた。
部屋においてある一枚の自画ヌードをテーマに、どうやってこの作品を書いたかを、あや自身が動画内で解説する。
「えぇー、絵を描くためにセルフポートレートを何枚も撮りまして」
そんな語りとともに、アルバムからヌード写真を何枚か抜き取り、胸の前で二枚ほど掲げてみせる。
カメラ越しに映されたそれは、全体の輪郭しか見えない曖昧な映像ではあったけれど、「もっと動画upしてくださぁーい」「ハッキリ見える画像、キボンヌ」といった類のコメントが多数つけられていた。
非難めいたコメントは一つもなかった。
「奥澤記念ビエンナーレの受賞作、素敵でした」
「これからもお仕事がんばってください」
といった、真摯なコメントもいくつか……
コメントに返事を書かなくては―――そう思った。
不可能な数字ではなかった。
せいぜい十五件かそこら―――有名芸能人のそれとはわけが違う。
いろいろわかったふうなことが書かれてはいても、しょせんはエロ目的の男たちの集まり―――それはわかっていた。
だが、今の自分を支えているのは、そういった男たちの声―――そう思える。
嫌な気はしなかった。
どんな形であれ、再び脚光を浴びることができるなら……
付けっ放しのテレビから聞こえる華麗なピアノの調べ。
ベイチャンネルだった。
藤沢愛子の“遺作”を巡る大がかりなコンペティション。
一般応募者のデモテープ審査の結果発表―――そんなナレーションが聞き取れた。
どうせ、始めから結果はわかりきっている。
勝つのは芹沢広務―――まちがいなく。
実力からいっても、番組の流れからいっても。
お兄ちゃんを見てきた私にはわかる。
本当に力のあるピアニストがどういうものか……
ふと、何ヶ月ぶりかにユウの顔が瞼に浮かんだ。
しかし、それは、幾重にも重なる思考の襞に巻き込まれ、やがて跡形もなく消えた。
そう、泡沫のように、はかなく……
第159話 終
男相手の微エロブログ。ささやかな手応えを感じる、あや。
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