まさかのFX高部との遭遇に、波乱の予感のパーティー会場……
第119話 専務
専務―――そう言って、その場に割って入ってきたスーツ姿の男。
その勢いに、舞は思わず一歩後ろへと下がった。
「福岡部長」
スーツの男に対して高部が呼びかける。
「ああ、高部くん」
福岡は高部に気づいて一瞥をくれた。
「どうしたんすか、部長。何か急な用でも」
高部はドブネズミを部長の視界から追いやろうとして、その腕を押しやった。
ドブネズミは押された方向によろめいて、舞の肩に接触した。
ドブネズミは「じゃあ」と言って高部に向かって会釈を送ると、舞と連れ立ってその場を離れようとした。
「いちいちうぜえんだよ、このキモヲタが」
高部は声をひそめてそう毒づくと、威嚇するようにドブネズミをにらみつけた。
知り合いぶってなれなれしくしてんぢゃねーよ、このドブが……
高部はそう引導をわたすと、改めて部長に向き直った。
「あ、専務!」
部長の手が高部を通り越してネズミ色のスーツへと伸びた。
その剣幕におどろき、高部は部長の手の先を目で追った。
「ご無沙汰しております、鈴木専務」
その言葉に、ドブネズミ―――鈴木―――が振り向いた。
「いえ、こちらこそ、福岡部長。すみません、お目障りなようでしたから、挨拶はまた後ほどと思って」
「は? 目障り!?」
鈴木の言葉におどろき、福岡は自身の部下を振り返った。
「高部、おまえ、鈴木専務に何を申し上げたんだ!? おい、高部!」
「え……何って……こいつ、こぎたない格好で勝手にこんなとこに入り込んでるから、注意を」
「馬鹿野郎!」
叱責の声が頭ごなしに浴びせかけられた。
「こちらは、おまえが担当しているネットの楽曲配信ページの発注元で専務をされている鈴木さんだ。ったく、何を言ってるんだ、おまえは!」
「え、じゃあ、ベイベックスの」
高部は呆然の体で部長の顔を見つめた。
「俺じゃない! あやまるなら専務にあやまらんか!」
福岡は高部の腕を叩いた。
「申し訳ありません、鈴木専務。この男ときたら、ったく、誰を見て仕事をしているんだか……失礼の段、お詫び申し上げます」
言葉を失って立ち尽くす部下に代わって、福岡が頭を下げた。額の汗をハンカチで拭いながら。
「別にかまいませんよ、福岡部長。私は肩書きで仕事をしているわけではありませんから」
そう言って鈴木は微笑した。
だが、高部と視線を合わせることはなかった。
「それに専務といったって、何をしているわけでもありませんから。たまたま創業の時からこの会社にいるというだけで……今でも楽器を弾いてるほうが気楽で楽しいんです。それに新人を発掘してみたり……会社の経営なんて私には向いていないんでしょうね」
「いえ、そのようなことは」
福岡はポケットにハンカチを収めながら続けた。
「専務が手がけた浜迫あゆみや倖田ミクの活躍あってこそのベイベックスですから……それに今度の藤沢愛子の遺作コンペ、わが社も久しぶりに大きな仕事を請負わせていただいて―――」
会話を聞きながら、舞は魂を抜かれたように立ち尽くしていた。
ネズミ色を着た、まだ年若い青年がベイベックスの専務?
それに愛子のプロジェクトを企画したのも―――
舞にはまだ信じられなかった。
第119話 終
えっと、作中の鈴木専務は小室哲哉の借金を返してあげた「あの人」とは無関係ですので、くれぐれも誤解なさらないように……
小室全盛期に急成長した頃、あのレコード会社で社長さんをしていた人が私の高校の先輩なのね。
ついでに今のライブドアホールディングスの社長さんも先輩なのね。
小室さんとホリエモンさんが意外と仲良しだったことを考えると、ちょっと複雑……
ドブネズミさんはベイベックスの専務だった――まさかの新事実に舞は……
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