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真・恋姫†無双 ~天命之外史~  作者: 夢月葵
第四部・徐州牧・劉玄徳編
17/30

第十二章 三顧の礼

人材を得る為に、州牧自ら赴く。


普通なら有り得ないだろう。事実、呆れかえる人も居た。


だが、その評価が正しいかは誰も知らない。


もっとも、他人の評価を気にしないのが桃香の良い所でもあるのだが。




2010年12月6日更新開始。

2011年2月10日最終更新。

「良い天気だねー。」

「本当ですね……雲一つ有りません。」

「とっても晴れ晴れで愉快なのだっ。」


 三人の少女が、それぞれの馬に乗って進んでいる。

 空を見上げながら、最初に言葉を発した長い桃色の髪の少女の名は劉備(りゅうび)真名(まな)桃香(とうか)

 徐州(じょしゅう)州牧(しゅうぼく)という立場に居るのだが、そうは見えない。誰に対してもフレンドリー過ぎるからだろうか。

 その桃香の声に応えた黒髪サイドテールの少女の名は関羽(かんう)、真名は愛紗(あいしゃ)

 徐州軍筆頭を務める程の実力の持ち主であるクールな彼女は、桃香の義妹(いもうと)でもある。

 最後に明るく応えた赤い髪の少女の名は張飛(ちょうひ)、真名は鈴々(りんりん)

 徐州軍では愛紗に次ぐ立場である彼女も桃香の義妹であり、愛紗の義妹でもある。パッと見は元気一杯な小さい女の子だが、その実力は愛紗に勝るとも劣らないらしい。

 彼女達が居るのは隆中(りゅうちゅう)という小さな村。未だ陽は高く、周りに目をやれば畑仕事に精を出す人々の姿が見てとれる。


「……と、現実逃避してみたけど、これからどうしよっか?」


 何故か急にテンションが下がった桃香が愛紗に訊ねる。


「私に聞かれても困ります。……それに、どうするも何も、既にお決めになられているのではありませんか?」

「まあ、そうなんだけどねー。」


 桃香はそう言うと再び空を見上げ、溜息を一つ吐いた。


「まさか、留守だとは思わなかったからなあ〜。」

「仕方ありませんよ。先方には、私達が訪ねる事を知らせていないのですから。」


 愛紗がそう応えると、鈴々も言葉を繋ぐ。


「それに、あの女の子は結構おっかなかったのだ。」

「そうだったね〜。最初は笑顔だったのに、私達が徐州から訪ねてきたって知ると、凄い剣幕で怒ったし……。あの子、何て名前だったっけ?」

「確か、“黄月英(こう・げつえい)”と名乗ってましたね。あの様子だと、どうやら諸葛亮(しょかつ・りょう)殿の親友の様です。」


 つい先程の出来事を思い出しながら、三人は馬の歩を進める。

 諸葛亮の家に着いて門から声をかけると、玄関から鈴々と余り背丈の変わらない一人の少女が現れた。

 紅く長い髪に健康的に焼けた肌、大きな碧眼に活発そうな雰囲気の少女は、突然の来訪者を最初は訝しがりながらも、やがてきちんと笑顔で応対していた。

 勿論愛想笑いだろうが、その時に見えた八重歯が可愛いなと、桃香は思っていた。

 だが、その笑顔は怒りの表情へと豹変する。


『また徐州からなの!? 朱里(しゅり)ちゃんは居ないから帰って!!』


 桃香が『私は漢の別部司馬(べつぶ・しば)宜城亭侯(ぎじょう・ていこう)、領は徐州の牧、下丕(かひ)劉備玄徳(りゅうび・げんとく)です。』と自己紹介をした途端に、少女の顔から笑みが消え、烈火の如く怒りだしたのである。

 突然の事に驚き戸惑いながらも、桃香達は何とか話をしようとした。

 だが、少女はそんな桃香達の言葉には耳を貸さず、


『この黄月英が居る限り、朱里ちゃんには指一本触れさせないんだからっ‼』


と叫びながら、何処からか取り出した短剣を振り上げた。

 これには桃香は勿論、愛紗達も驚き、慌てて馬に乗ってその場から離れた。

 そして今に至る。


「あんな恐い女の子が居るなんて、雪里(しぇり)ちゃんは言わなかったのになあ。」

「雪里の性格なら、知っていれば教えたでしょう。……命に関わりますし。」

「本当に危なかったのだー。」


 そう言いながら桃香は勿論、愛紗と鈴々も冷や汗を浮かべていた。


「けど……折角ここ迄来たのに、諦める訳にはいかないよね。」

「何せ、義兄上(あにうえ)達には内緒で出て来ましたからね。」


 桃香の言葉に愛紗が応える。その口調は、元来真面目な愛紗らしくない、少し意地悪な感じだった。


「うぅ……このままじゃ(りょう)義兄(にい)さん達にすっごく怒られちゃうだけだよー。」

「だったら、何回も訪ねて行ったら良いのだっ。そうすれば、その内に孔明(こうめい)とも会えるかも知れないのだっ。」


 鈴々がそう言うと、落ち込んでいた桃香の表情が一気に明るくなっていった。


「そ、そうだよねっ。元々そのつもりだったし……よーし、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、諸葛亮さんと会う迄頑張ろうねっ。」

「はい、頑張りましょう。」

「頑張ろー、なのだっ!」


 元気になった桃香が右手を高々と突き上げながらそう言うと、愛紗と鈴々もそれぞれ手を上げて応えた。

 そうして先程迄の暗い雰囲気から完全に脱却した桃香達は、そのまま宿へと馬を走らせる。

 そんな中、愛紗は笑顔の桃香と鈴々を見ながら一人思案に耽っていた。


(しかし……先程の少女が言った様に、諸葛亮殿は本当に留守だったのだろうか?)


 今来た道を振り返りながら、愛紗は考えを続ける。


(もし、本当に留守だったのだとしたら、家人が居ない家に何故あの少女が居たのだ? 留守番を頼まれた、という事も考えられるが、普通に考えれば居留守を使った、と考えるべきであろうな。)


 そこ迄考えて、引き返すべきか迷ったが、今戻っても同じ事の繰り返しだろうと判断する。

 どうやら、またあの少女に襲われるのは嫌な様だ。


「愛紗ちゃーんっ、何してるのー?」

「あ、はい、今行きますっ。」


 いつの間にか遥か前方に居る桃香が、馬を止めて愛紗に向かって手を振っている。

 愛紗は馬を走らせ、距離を詰める。

 愛紗が隣に来るのを確認すると、桃香と鈴々は再び馬を進めた。

 一先ず今日は帰ろう、と改めて桃香が言うと三人は頷き、その場から離れていった。

 翌日、愛紗は一人で襄陽(じょうよう)の街を歩いていた。

 かと言って、只ふらついている訳ではなく、きちんとした目的を持って歩いている。


「確かこの辺りだと聞いたのだが……。」


 宿の主人から聞いた目的地に向かいながら、呟く愛紗。

 道行く人々をそれとなく見ると、どの人も楽しそうに微笑みながら歩いている。それにつられて愛紗も微笑んだ。

 襄陽の街は荊州(けいしゅう)の治所に定められている事もあって人通りも多く、活気に満ち溢れている。

 元々、襄陽は漢水(かんすい)の中流域に当たり南岸にあっては樊城(はんじょう)と対峙していたり、古来より関中(かんちゅう)中原(ちゅうげん)長江(ちょうこう)中流域といった地域を結ぶ要の地であった。

 そうした事情もあり、漢水沿岸では最大の都市であるこの地は、交通の要衝として栄えているのである。

 また、栄えているという事は人が多いだけでなく物も多いという事であり、愛紗の目的にとっても丁度良かった。


「ああ、在った在った。」


 その目的地を見つけると、愛紗は心做しかホッとしていた。

 だが愛紗はその事に気付かぬまま、そこに在る建物に入ろうとした。


「……げっ。」


 が、その建物から出て来た人物が愛紗を見た途端にそんな声を出すと、愛紗は思わず足を止めた。

 目の前に居るその人物は、よく知ると迄はいかないが忘れられない人物だった。


「黄月英殿? こんな所で会うとは奇遇ですね。」

「……そうね。」


 比較的冷静に振る舞う愛紗と違い、黄月英は明らかに愛紗を敵視して睨みつけている。


 昨日の様に怒らないのは、ここが沢山の人が通る天下の往来だからだろうか。もしここが昨日と同じ場所なら、また短剣を振り上げていたかも知れない。


「……? 蒼詩(そうし)ちゃん、どうしたの?」


 と、そこに、黄月英が出て来た建物から、彼女と似た背丈の少女が現れた。

 手には紙袋を抱えており、買い物を済ましたのだろうと推測出来る。


「しゅ、朱里っ!? な、何でも無いから別に気にしなくて良いわよっ。」


 黄月英は慌てながらその少女を「朱里」と呼んだ。

 愛紗はその少女――朱里を見ながら、以前雪里から聞いた事を思い出す。

 それによると、雪里の親友である二人の少女、諸葛亮と鳳統(ほうとう)の真名はそれぞれ「朱里」と「雛里(ひなり)」といった。


(……つまり、この少女が諸葛亮殿か。)


 愛紗は目の前に居る少女をジッと見ながら、思案に耽る。

 雪里より背が小さく、顔は幼さを残している。パッと見は鈴々と変わらない程幼いこの少女が、雪里が太鼓判を押す程優れているとは思えなかった。

 勿論、人は見かけによらないという事は鈴々の義姉(あね)である愛紗がよく知っている。それでもそう疑問に思ってしまう程、少女は幼く見えたのだった。


「……貴女は?」


 その少女が愛紗に訊ねる。

 それに気付いた瞬間、愛紗は反射的に身構えようとした。

 先程迄少女から感じていた穏やかさは最早無く、感じるのは全てを見通そうかという視線と威圧感。

 雪里の話から察するに、恐らく武の心得は無い筈のその少女は、今確かに愛紗を、関雲長(かん・うんちょう)を圧倒していた。


(これは……っ! ……フッ、どうやら私はまだまだ修行が足らんという事か。)


 愛紗は少女の威圧を受け止めながらそう自嘲する。

 そうして愛紗が少女の威圧に耐えると、何事も無かったかの様な表情で答えた。


「私の名は関雲長。我が義姉劉玄徳と、義妹である張翼徳(ちょう・よくとく)と共に、とある人物を訪ねる為、遙々徐州からやってきた次第です。」

「徐州からとある人物に……ですか。宜しければ、その人の名前を教えていただけませんか?」

「“臥龍(がりゅう)”こと諸葛孔明(しょかつ・こうめい)殿と、“鳳雛(ほうすう)”こと鳳士元(ほう・しげん)殿です。」


 少女の問いに迷う事無く愛紗が答えると、少女の表情が一瞬だけ、ほんの僅かだけ変わった。

 その一秒も無い変化を愛紗は見逃さない。既に雪里や黄月英の言葉から、この少女が諸葛亮だと確信していた。

 そしてそれは、他ならぬ少女自身によってより強固なものへと変わったのだった。

 少女も自分の失態に気付いたのか、その口元が小さく歪む。今度は隠そうとはしなかった様だ。


「……会えると良いですね。」

「ええ。」


 互いに目線を離さぬまま、言葉を交わす二人。

 武と文。対極たる二つの分野をそれぞれ極めつつある二人は静かに、だが熱く視線を交えていた。


「……で、そのアンタが何でここに居るのよ?」


 そんな空気を嫌ったのか、黄月英は少女を庇う様に前に出ながら、愛紗に訊ねる。

 その問いに、愛紗は若干表情を暗くして答えた。


「実は桃香様……劉玄徳様が昨夜熱を出されてな。宿に有った薬は余り効かなかったので、薬を買いに来たのだ。」

「熱冷ましの薬、ですか……。」


 愛紗の話を聞いた少女と黄月英は、何故か互いに顔を見合わせ、やがてしかめた。

 そんな二人の行動に、愛紗は怪訝な表情を浮かべる。


「……どうした?」

「……実は、この店にはもう熱冷ましの薬は無いんです。」

「なっ!?」


 少女の言葉に驚いた愛紗は、思わず少女の両肩を掴む。


「ど、どういう事だっ!?」

「はっ、はわわっ!?」


 愛紗は少女の肩を揺さぶりながら訊ねる。

 その表情はそれ迄の柔らかさを残した表情とは違い、武人・関雲長の形相になっていた。

 そんな愛紗に揺さぶられ続ける少女は、目を回しながら可愛らしい声を上げている。


「ちょっと! そんなに動かしたら朱里が倒れちゃうじゃない‼」


 黄月英が怒りながら少女と愛紗の間に割って入り、少女の身を愛紗から離した。


「あっ……す、済まない。」

「はわわ〜……。」


 すっかり目を回した少女は、相変わらず可愛らしい声を出しながら目を回し続けている。

 そうして少女の目が回り続けている間、愛紗は黄月英に怒られ続けた。

 その黄月英も、正気を取り戻した少女から注意を受けていた。


「……つまり、貴殿の妹君と黄月英殿のお父上が発熱したので、熱冷ましの薬を買ったという訳か?」

「はい。その……済みません……。」


 それから、少女達から説明を受けた愛紗が状況を把握し、少女は申し訳なさそうに俯いた。


「謝る必要は無い。私が桃香様を大切に想っている様に、貴殿等も家族を大切に想っているのだろうからな。」

「はい。」


 少女の二度目の「はい」はハッキリと、力強く口にした。家族を想う気持ちはちゃんと表明しないといけないと思ったのだろう。


「……さて、ならば私は他の薬屋を探すとするか。」


 愛紗はそう言って二人に背を向ける。瞬間、その二人が同時に「あっ」と声を出した。


(この街に薬屋は他にも在る……。けど、そのどこにも熱冷ましの薬は、無い……。)


 少女は自分が知る事実を胸中で呟く。


(知らせないとこの方が徒労に終わるけど、知らせたらきっと悲しむ……なら……。)


 少女は暫く考えていたが、やがて意を決すると、愛紗に向き直って言葉を紡いだ。

 待って下さい、という少女の声に気付いた愛紗が足を止めて振り向くと、少女は手元の紙袋から小さな袋を取り出して言った。


「あの……全部は渡せませんが、少しなら……。」

「だが、それでは……。」

「元々、予備を含めて多めに買っていたのでこれ一つ無くても構わないんです。それより、今は早く薬が必要なんですよね?」


 少女はそう言いながら、小さな袋を愛紗の目の前に差し出す。

 愛紗はその小さな袋を暫くの間見つめたままだったが、やがて小さく息を吐くとゆっくりとそれを手に取った。


「感謝する。」

「どう致しまして。」


 愛紗は一礼して感謝を述べ、代金を渡して小さな袋を仕舞うと再び感謝の意を示してから宿へと戻っていった。

 その後ろ姿を見送った後、黄月英がポツリと呟く。


「……予備なんか買ってないくせに。」

「あはは……。」


 少女は苦笑いするしかなかった。

 実は、少女は熱冷ましの薬を買ってはいたが、予備は買っていなかった。


「あんな奴ほっとけば良いのに……薬足りるの?」

「ちゃんと足りるから大丈夫だよ。……それと蒼詩ちゃん、いくら私を連れて行きたい人の仲間でも、困っていたら助けないとダメだよ。」

「それは解るけど……朱里はお人好しだと思うわ。」


 そう言った後、続けて、だから私がシッカリしないと、と小さく呟いたのを少女は聞き逃さなかった。

 その後、二人は薬を持ってそれぞれの家へと帰って行った。

 それから三日後。


「桃香様、本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫大丈夫♪ もう熱は下がってるし、そんなにノンビリしてられないしね。」


 隆中への道を桃香、愛紗、鈴々の三人が馬に乗って進んでいる。

 桃香を真ん中にして、その両隣を愛紗と鈴々が守る様に馬を寄せていた。


「けど、無理して倒れたら大変なのだ。孔明の家に行くのは鈴々達に任せて、桃香お姉ちゃんは宿で休んでいたら良いと思うのだ。」

「有難う鈴々ちゃん。でも、それはダメだよ。諸葛亮さんを説得する為に来たのに、私が出向かなかったら意味が無いもの。」

「かといって、訪問先で倒れたりしたら先方に迷惑をかけてしまいますよ。」

「うぅ……それを言われると困っちゃうよぅ。」


 気遣う鈴々に対しては確固とした意志を持って話していた桃香だったが、その意志は愛紗に対しては弱かったらしい。

 うなだれる桃香に苦笑しながら、愛紗はフォローをいれた。


「まあ、その誠実さと行動力は桃香様の美点ですから、そんなに落ち込む事は無いかと思います。」

「愛紗ちゃん……っ。」


 途端に笑顔になって愛紗を見つめる桃香。心做しか、瞳がいつもよりキラキラしている。

 何ともテンションの差が激しいものだ。


「ええーっ! 諸葛亮さん、また留守なんですか!?」


 三人のやり取りの後、隆中の諸葛亮宅に着いた桃香達に待っていたのは、またしてもそんな事実だった。

 今回桃香達の応対をしたのは黄月英ではなく、諸葛均(しょかつ・きん)と名乗る小さな少女だった。どうやら諸葛亮の妹らしい。


「済みません。姉は今朝、蒼詩さんと紺杜(こんと)さん……黄月英さんと崔州平(さい・しゅうへい)さんといった友人達と出掛けたんです。」

「どこに行ったか解りますか?」

「いえ……。姉は好奇心が旺盛で、湖に船を浮かべる事もあれば山寺に登る事もあります。ですから、妹である私も行く先迄は解らないんです。」

「そうですか……。」


 諸葛均の説明を聞いた桃香は、誰が見ても解るくらいに落ち込んだ。

 説得したい相手が不在というのだから当たり前だが、実はそれだけでは無かった。

 彼女は、自分の為に薬を分け与えてくれた事に対して、お礼が言いたかったのだ。

 しかも、愛紗の推測によれば予備の分を買っていると嘘をついて迄、その薬を分けてくれたらしい。

 推測なので実際はどうか判らないが、もし本当にそうならちょっと悪い事をした気になる。


「じゃあ、また明日来ます。」

「いえ、姉は今回の様に友人と外出すると中々帰らない事もありますから、明日居るとは限りませんよ。」

「うーん……じゃあ、諸葛亮さんに手紙を残したいので紙と筆を貸してくれますか?」

「構いませんよ。では、こちらへどうぞ。」


 諸葛均は桃香の頼みを聞き入れ、三人を応接室へと招き入れた。

 暫くして紙と筆が用意されると、桃香は諸葛均に一礼してから椅子に座り、机に向かって筆を手に取った。


(只の手紙じゃ、きっと諸葛亮さんには伝わらない……だから、この手紙は誠心誠意を込めて書かないと。)


 桃香はそう思いながら筆を進める。

 一字一字に想いを込め、言葉を選び、相手に自分の気持ちが伝わる様に願いながら書いていく。

 だからだろうか、同室で待つ鈴々は待ちくたびれたらしい。


「桃香お姉ちゃん、詩でも書いてるのー? 早くしてなのだ〜。」


 近くの長椅子に座っている鈴々は、足をバタバタさせながらそう言った。


「こら鈴々、桃香様の邪魔をするでない。」

「えー、だって退屈なんだもーん。」

「アハハ……鈴々ちゃん、もう少しだけ待っててね。」


 共に長椅子に座っている愛紗に窘められるも、鈴々は不満を露わにし続ける。

 そんな二人に苦笑しつつ、桃香は尚も筆を進めた。


「……これでよし、と。」


 暫くして手紙を書き終えた桃香は、大きく伸びをしてから手紙を纏め、ゆっくりと立ち上がると諸葛均の(もと)へと向かう。

 因みに諸葛均は、同室に在るもう一つの長椅子に座り、愛紗達と対面していた。


「それじゃあ諸葛均さん、この手紙を諸葛亮さんに渡して下さい。」

「解りました。」


 諸葛均は桃香から手紙を受け取ると、大事そうに懐に仕舞った。未だ幼いのに、しっかりしている様だ。

 その諸葛均は、桃香達にお茶や甘味を振る舞ったり、愛紗に訊かれた際に「孫子(そんし)」の書き出し文から数ページ分を暗唱したりと、流石は噂の諸葛亮の妹という人物だった。

 桃香はそんな諸葛均も連れて行きたくなったが、諸葛亮すら連れて行けるか解らないのに欲を出しては駄目だと自制し、口には出さなかった。

 そうして暫くの間話をしてから、桃香達は宿へと帰っていった。

 その夜、諸葛亮こと朱里は、黄月英こと蒼詩と共に帰ってきた。

 その為、劉備達にああ言っていた諸葛均こと緋里は、彼女達に悪かったかなと思った。

 因みに、崔州平こと紺杜は疲れたらしく、ここには寄らずに自宅に帰っていた。


「お姉ちゃん、これ。」

「……手紙?」


 食事を終えた朱里が一息ついていると、緋里は懐から手紙を取り出し、朱里に手渡した。


「劉玄徳さんから、お姉ちゃんへの手紙だよ。」


 緋里がそう言うと、お茶を飲もうとした蒼詩の手が止まる。


「あいつ等、またやってきたの!?」

「うん。お姉ちゃんが不在だと伝えると物凄く落ち込んでたよ。」

「そりゃ、あいつ等の目的は朱里を連れ去る事だもん。居なかったらガッカリするわよ。」

「連れ去るって……アハハ……。」


 蒼詩の言葉に苦笑する緋里。勿論、劉備達が朱里を無理矢理連れて行くつもりが無いのを緋里や朱里は知っていたし、恐らく蒼詩も解ってはいるのだろう。

 だが、朱里を大切に想っている蒼詩にとっては、朱里が連れて行かれる事自体が許されない事なのだ。

 しかも、それによって戦に巻き込まれるのなら尚更だ。


「……けど、手紙を読まないのは失礼だよね。」


 朱里が呟く様に言うと、蒼詩は何か言いたそうな表情になったが、それから暫くの間煩悶すると溜息を一つ吐いてお茶に手を伸ばした。

 そんな蒼詩を穏やかな表情で見つめてから、朱里は手紙に向き直り封を解いた。


『私、劉玄徳は筆頭軍師、徐元直(じょ・げんちょく)の推薦もあり、徐州牧の任を一時的とは言え義兄(あに)に委ね、この隆中迄参上仕りました。』


 手紙はその様な書き出しで始まっていた。


『ですが、残念ながら御不在の様で、私は虚しさを抱えたまま、一旦宿のある襄陽に帰ります。』


 続いて、自身の心情と居場所を告げる。


『先年に起こった黄巾党(こうきんとう)の乱、そして十常侍(じゅうじょうじ)誅殺(ちゅうさつ)と、国は乱れました。それは朝廷の権威が無くなり、綱紀が乱れ、逆賊が君を侮る有様だからです。私はそれを見ると心が張り裂けるかの様な思いになるのです。』


 そして、この国の現状とそれに対する自身の思いを手紙越しに述べていた。

 思ったより達筆なその文章は、その一文字一文字から切実さを直に訴えてくる様だった。


『私はこの国を救おうと思いながら、その策を知らず、今先生におすがりする次第です。』


 自分の事を「先生」と呼ばれた朱里は、顔を真っ赤にしながらも手紙を読み続けた。


『願わくば、先生の優れた才能を天下国家の為に使って戴ければ、これ以上の幸せは有りません。後日、私の気持ちを述べに参りたいと思っていますが、取り敢えず今のこの気持ちをお手紙にしたためておきます。 劉玄徳』


 朱里は手紙を読み終えると、暫くの間手紙に目を落としたまま何かを考えていた。

 蒼詩と緋里はそんな朱里を見詰めながら、彼女の次なる行動、言動を待つ。


「……劉玄徳さんと会ってみるね。」


 暫くして朱里が発した言葉は、二人にとって予想通りの言葉であり、蒼詩にとっては聞きたくない言葉だった。


「……理由は? まさか、徐州に行きたくなったとか言わないわよね?」

「それは判らないよ、蒼詩ちゃん。」

「朱里っ!」


 朱里の答えを聞いた蒼詩は思わず立ち上がった。慌てて緋里が宥めるが、それでも蒼詩は着席しようとはしない。

 そんな蒼詩を見詰めながら、朱里はゆっくりと言葉を紡ぎ出した。


「勘違いしないで、蒼詩ちゃん。雪里ちゃんに対する答えと、先日の劉玄徳さん達の訪問に対して居留守を使った事。そうした言動と行動の根底である“戦いへの拒絶”は、今でも私の中に確かに有るよ。」

「それなら、どうして……?」


 戸惑い気味に訊ねる蒼詩に、朱里は答えとなる言葉を発した。


「一つは、州牧という立場でありながら、遠く徐州からこの隆中迄、私を訪ねてくれた事に対する礼かな。」

「……他には?」

「純粋に、劉玄徳という人と会って話がしたいから。この手紙を書いた人と話す事で、私は何を為すのが正しいか知る事が出来る。そんな気がしてきたの。」


 勿論、だからといって徐州に行くとは限らないけどね、と付け加える。

 だが、そう言った朱里の表情は雪里の要請を断った時とも、劉玄徳の訪問時に居留守を使った時とも、薬を買いに行って関雲長と会ってしまった時とも違う、比較的穏やかな表情だった。

 それに気付いた蒼詩は半ば諦めの表情を浮かべる。

 確かに、朱里は徐州に行くと言っていない。だが、あれ程忌避していた州牧との面会を望む様になっただけで、朱里の心境が大きく変化したのは誰の目にも明らかだった。

 そして、そんな朱里を何とか引き留めたいと思っていても、今の朱里の心を変えるのが困難だという事も知っている。

 朱里は柔軟な思考の持ち主ではあるが、一度決意した事はそう簡単に曲げない性格の持ち主でもあった。

 その為、蒼詩は何も言えなかった。

 その日はそのままお開きとなり、朱里達はそれぞれ床に就いた。

 因みに、蒼詩はいつもの様に泊まっていった。

 それから三日後、桃香達は諸葛亮の屋敷を三度(みたび)訪れていた。


「……やはり、貴女が諸葛亮殿でしたか。」

「はい。その……先日は失礼しました。」


 応対した諸葛均によって連れられた部屋に居た諸葛亮と対面した愛紗は、柔らかい笑みを浮かべながらそう言い、一方の諸葛亮は名乗らなかった非礼を詫びた。


「お気になさらずに。貴女のお陰で義姉上の熱は下がったのです。礼こそすれ、非難する事は有りません。それに……。」

「それに?」

「私達は雪里から貴女の名前や特徴等を聞いていました。勿論、貴女の真名も。」

「つまり、蒼詩ちゃん……黄月英が私の真名を呼んだ時に、私の正体に気付いていたという事ですか。」

「ええ。」


 愛紗の説明を受けた諸葛亮は、困った様にふうと息を吐いたが、一転して笑みを浮かべ、愛紗や鈴々、そして桃香を見て呟いた。


「……“大夢、誰か先ず覚む。平生、我自ら知る。草堂に春睡足りて、窓外に日は遅々たり。”……ですか。」

「えっ?」


 諸葛亮の呟きが聞き取れなかった桃香は、思わず聞き返した。


「ああ、お気になさらずに。今のは、今朝方目覚めた時にふと思い付いた詩ですから。」

「詩、ですか。」


 諸葛亮がそう言うと、桃香はキョトンとしたまま呟き返した。

 諸葛亮と違って桃香は余り詩を嗜む事が無い為、興味が無いのかも知れない。

 だから、その詩がこの時の諸葛亮の新たな気持ちを表していたとか、色々な意味が含まれていたとかには気付かなかった。


「桃香様、世間話も宜しいのですが……。」

「あ、うん、そうだね。……諸葛亮さん、私の話を聞いて頂けますか?」

「はい、もとよりそのつもりでしたから。……ですが、一つ条件が有ります。」

「何ですか?」


 居住まいを正しながら諸葛亮がそう言ったので、桃香達も同じ様に居住まいを正しながら聞く体勢になった。

 それを見てから諸葛亮は口を開く。


「話は私と劉玄徳さんの二人だけで。つまり、他の方には御退室をお願いします。」


 諸葛亮の言葉を聞いた愛紗と鈴々は少なからず驚いた。もっとも、鈴々は余り話し合いに興味が無いのか、直ぐに笑顔になっていた。

 また、桃香はそれを望んでいたのか、余り表情を変えていない。

 そして数分後、部屋には諸葛亮と桃香だけが残っていた。


「……一対一で話したい等と我が儘を言ってしまい、申し訳ありません。」

「いえ、元々私達が押し掛けて来ているんですから、気にしないで下さい。」


 二人きりとなった諸葛亮の部屋で最初に交わされた会話は、そんな謝罪の言葉だった。


「この間残していかれたお手紙、拝見しました。」

「有難うございます。」

「貴女が民を想い、国を思う気持ちがひしひしと伝わり、同時に感服しました。ですが……。」


 そこ迄言うと諸葛亮は一旦言葉を切り、数秒間瞑目してから再び言葉を紡いだ。


「ですが私は御覧の通りの若輩者の上、浅学です。恐らく貴女の御期待には応えられません。」

「いえ、それは御謙遜です。貴女をよく知る雪里ちゃんの言葉に誤りは無い筈です。」

「雪里ちゃんは黄巾党の乱が起きて以来、劉備・清宮軍の軍師として活躍してきたと聞いています。ですが、私は勉学に励むしか能の無い、只の少女でしかありません。そんな私が何故、州牧である貴女と天下の(まつりごと)を談じる事が出来るでしょうか。」


 諸葛亮は桃香が言葉を紡ぐと直ぐ様反論した。

 その弁舌はまさに立て板に水。盧植(ろしょく)門下生で優等生だった桃香でさえ、その滑らかさに目を見張っていた。

 だが、それでも桃香は盧植門下生の意地でも有るのか必死に食らいついていった。


「貴女の行動は、玉を捨てて石を拾う様なものです。」

「い、石を玉と見せようとしてもダメな様に、玉を石と言われても誰もそうは思いません。」


 桃香は多少どもりながらも、最後は強い口調で言い切った。


「先生は十年に一人……いえ、百年に一人出るかどうかという程の天才。それなのに世の為に動かずに山村に身を潜めていては、忠孝の道に背くのではないでしょうか?」

「忠孝の道に背く……。」

「今は国乱れ民安からぬ日。あの孔子(こうし)でさえ民衆の中に立ち、諸国に教えを広めました。今はその時代よりも国が乱れようとしています。それなのに一人山に籠もって一身の安泰を図って良いものでしょうか。」


 話していく内に、段々と桃香の口調も滑らかになっていく。

 一方の諸葛亮は、そんな桃香の言葉を静かに聞いていた。


「今こそ、先生の様な優れた人が必要とされているんです。民衆はそれを待ち望んでいます。」


 そう言うと、桃香はゆっくりと立ち上がり、しっかりと諸葛亮の顔を見ながら言葉を紡いだ。


「先生、どうか私達と共に立ち上がって下さい。」


 そう言った桃香を、諸葛亮はジッと見据える。

 そうして暫く見つめ合ったまま時が流れたが、やがて諸葛亮が口を開いた。


「……劉玄徳様、貴女のお力でも国を救う事は出来ます。」

「私の力で……? 確かに、国を思い民を想う気持ちは誰にも負けないつもりです。けど力では、袁紹(えんしょう)さんや袁術(えんじゅつ)ちゃん達に遠く及びません。」

「では、その解決方法をお教えします。」

「えっ?」

「私の様な少女に三顧(さんこ)の礼を尽くして下さったお礼です。」


 諸葛亮はそう言うと、優しげな笑みを桃香に向けた。

 桃香は何か言いたくなったが、結局言葉が出ずにゆっくりと座るしか出来なかった。

 それを見てから諸葛亮は言葉を紡ぎ出した。


「確かに、今の袁紹、袁術が相手では勝つのは難しいでしょう。また、孫堅(そんけん)曹操(そうそう)といった勢力も着々と力をつけていると聞きます。漢王朝の力が衰えた今、彼等が覇権を穫る為に争うのは誰の目にも明らかです。」

「はい……。」

「ならば天下は名門と呼ばれ、大きな戦力を持つ袁家によって二分され、孫堅や曹操達は彼等に組みするしかないのか。それとも四つ巴や五つ巴となるのか。何れにせよ、平和な時代が来るのは未だ先でしょう。」


 諸葛亮の言葉を、桃香はジッと聞き続ける。


「では、乱世を少しでも早く治める方法とは何か。単純な事です、他者より早く勢力を伸ばせば良いだけですから。」

「それはそうですけど、具体的にどうすれば……。」

「人材を集め、民心を掴み、領土を拡大する事。高祖(こうそ)劉邦(りゅうほう)は勿論、春秋戦国しゅんじゅう・せんごく時代や殷周(いん・しゅう)時代の頃から使われてきた、戦の基本を行えば可能です。」

「ですが、先程仰られた様に袁紹さん達は強いんですよ。そんな中で、どうやって領土を拡大すれば良いんですか?」


 桃香の質問は(もっと)もである。

 桃香達が居る徐州は大陸の東端に在り、北には青州(せいしゅう)、西には兌州(えんしゅう)豫州(よしゅう)、南には揚州(ようしゅう)、東には東海(とうかい)と四方を囲まれており、それ等を治める者の中には先程名前が上がった曹操や孫堅といった面々が居るのだ。


「……徐州に居るままでは難しいかも知れませんね。ここは思い切って、別の場所から始めるのも手かと思います。」

「えっ!?」


 思わぬ発言に驚く桃香。

 だが、そんな桃香には構わず諸葛亮は話を続けた。


「徐州の北に在る青州は、黄巾党が特に暴れまわった地域であり、黄巾党が滅んだ現在も依然として治安が良くないと聞いています。」

「はい……青州と接している臨句(りんく)東莞郡(とうかん・ぐん)等でも、度々黄巾党の残党による被害が報告されています。」


 桃香は悲痛な面持ちになって、以前受けた報告を述べる。


「やはり……。ですから、仮に劉玄徳様が北伐を行って青州を得たとしても、治安や経済を回復させるには時間が掛かるでしょう。ひょっとしたら、黄巾党の残党によって青州は今以上に疲弊するかも知れません。」

「そして私達も今より弱体化する危険性が……。」

「はい。それに青州を得た場合、冀州(きしゅう)と隣接します。そうなると、袁紹とも対立する危険性が出てきます。失礼ながら、今の徐州に袁紹、曹操、孫堅と戦って勝てる程の戦力が有りますか?」

「それは……。」


 無い、としか言えないだろう。

 どこか一勢力だけなら勝てる可能性は未だ有る。だが、一対二や一対三となってしまうと、総兵力が十万に満たない徐州軍では太刀打ち出来ないだろう。

 何せその相手は、陳留(ちんりゅう)を中心とした袞州を治める曹操。

 豫州と建業(けんぎょう)を中心とした揚州北部を治める孫堅。

 そして南皮(なんぴ)を中心とした冀州を治める袁紹といった面々なのだから。

 もし、現有戦力でこれ等の勢力に勝てたら、それは奇跡としか言えないだろう。


「劉玄徳様がこの国の明日を望んでいるのであれば、一日でも早く体制を整え、不足の事態に備えるべきです。」

「……その為なら、徐州を捨てる事も必要だと言うんですか?」

「はい。」


 桃香が確認する様に訊くと、諸葛亮は即座に答えを返した。

 すると桃香は暫くの間諸葛亮を見つめ、やがてゆっくりと立ち上がった。


「諸葛亮さん、今日は有難うございました。」

「おや、もう宜しいのですか?」


 桃香の突然の行動にも、諸葛亮は平然としたまま対応する。


「はい。」

「そうですか。……では、返事をするとしましょうか。」

「いえ、その必要は有りません。」

「……と言うと?」


 諸葛亮は眼を細めながら桃香を見た。

 そこには、怒りを押し殺しながらも隠しきれていない桃香の表情があった。


「……私は、雪里ちゃんや義兄から諸葛亮さんの話を聞いて、貴女が志操の高い人だと思ってました。けど貴女は、民を捨てるという人の信頼を裏切る事を平然と言いました。……私は、そういった人は好きになれません。」


 桃香はそう言うと諸葛亮に背を向けた。

 徳と義を重んじる桃香にとって、徐州を捨てる=民を捨てるという考えは端から無い。

 そんな桃香に民を捨てろと言うのは、彼女の生き方を否定するのと同じである。

 だから桃香はそう言った諸葛亮から離れ、この部屋から出る為に出入口へと向かっていった。


「ふふふ……。」


 そして出入口の戸に手をかけようとした時、小さく笑う諸葛亮の声が聞こえてきた。


「ふふ……あははっ。」

「……何がそんなに可笑しいんですか?」


 尚も笑い続ける諸葛亮に向き直り、桃香は怒りを含んだ質問をする。

 諸葛亮は、そんな桃香を見ながら尚も笑い続けていたが、やがて笑みを含んだ真面目な表情になって言葉を紡いだ。


「どうやら劉玄徳様は、噂通りの仁君の様ですね。」

「えっ?」

「お怒りになるのはごもっとも。ですが今のは私の本心ではありません。失礼ながら、貴女の心を試させて貰いました。」

「試す……?」


 諸葛亮の思わぬ言葉に、桃香は今迄の怒りを忘れたのかキョトンとした表情になっていた。

 そんな桃香を見詰めながら、諸葛亮は言葉を紡ぎ続ける。


「はい。実は雪里ちゃんが誘いに来たあの日から、少しではありますが貴女や徐州、そして、“天の御遣い”と呼ばれている清宮涼様の事を調べさせてもらいました。」

「私達の事を?」


 桃香は少なからず驚いた。

 何故なら、雪里が諸葛亮の屋敷を訪れたのは約一ヶ月前の事。それからの僅かな期間で情報を集めたというのだから。

 涼が居た現代と違い、この世界は交通の便が余り良くない。

 また、本が手に入る機会も多くない、インターネットも無いというこの世界では、同じ州は勿論、遠くの州の事を個人で知るのは難しいのだ。


「はい。そして手に入れた情報は、そのどれもが貴女や天の御遣いを誉め讃えるものでした。ですから、その情報が正しいかを確かめる為に、貴女が怒る様な事をわざと言ってみたんです。」

「そ、そうだったんですか……。」


 そう説明すると、諸葛亮は桃香を見詰めながらニコリと微笑んだ。

 最早すっかり毒気を抜かれた様に呆けている桃香は、そう返しながら再び席に着くしか出来なかった。


「お気を悪くなされたでしょうが、どうかお許し下さい。」

「あ、いえっ、こちらこそ失礼な事を言ってしまって……。」


 二人は互いに頭を下げながら謝り、苦笑した。


「……ですが、貴女がこの国の為に動いていく内に、先程の様な決断をしなければならなくなるかも知れません。それは覚えていて下さい。」

「は、はい。」


 再び真面目な表情になった諸葛亮に、桃香は戸惑いながら頷き、暫くの間考えてから言葉を紡いだ。


「あの、先生。」

「ふふ、先生なんてよして下さいよ。私は見ての通りの若輩者ですし。」

「なら、諸葛亮さん……いえ、孔明さん。今の私達に出来る事は無いのでしょうか?」

「そんな事はありません。今の劉玄徳様……いえ、玄徳(げんとく)様にも出来る事は充分にあります。」

「本当ですか!? なら、それは一体何なんですか?」


 互いに(あざな)で呼ぶ様になった二人は、それぞれの瞳をジッと見詰めながら言葉を交わしていく。

 そして、桃香の問いに諸葛亮――孔明はさほど時を置かずに答えた。


「簡単な事です。青州を穫れば良いんですよ。」

「えっ? でもさっき、青州を穫っても余り意味が無いって……。」

「只穫るだけでしたら、ね。」


 驚き戸惑う桃香に対して、孔明は微笑みながら一言付け加えて立ち上がると、近くの本棚から一つの巻物を取り出して戻ってきた。

 その巻物を台の上に広げると、それには桃香もよく知る図が描かれていた。


「これって、この国の地図……。」

「はい。司州(ししゅう)を始めとする漢国十四州に、五胡(ごこ)南蛮(なんばん)を加えた地図です。」


 桃香はその地図を見て思わず息を飲んだ。徐州の城に有る地図と、精度が余り変わらないからだ。

 桃香が何故そんなに驚いたかと言うと、勿論それにはちゃんとした理由がある。

 地図は単なる図ではなく、その国や地域に在る街の位置や地形が描かれている物である。

 それはつまり、重要な情報が書かれているのと同じであり、軍事衛星による偵察等が出来ないこの世界に於いては、精度が高い地図は軍事機密として扱われていてもおかしくないのである。


「この地図は、私の師である司馬徽(しば・き)先生……一般的には“水鏡(すいきょう)先生”の呼び名で知られている方なんですが、その方が開かれている“水鏡女学院”という私塾を卒業した際に貰った物なんです。」


 まるで桃香の心を読んだかの様に説明する孔明に驚く桃香。

 そんな桃香にやはり微笑みながら、孔明は言葉を紡ぐ。


「顔に出てましたよ、何でこんなに精度が高い地図が有るんだろう? って。」

「あう……。」


 悪戯を見つかった子供の様に、バツが悪い表情になる桃香だった。


「そ、それで、青州を穫ると良い理由は何なんですか?」

「はい。この地図を見るとよく解りますが、徐州は四方を囲まれていますよね。」


 誤魔化す様に話を進める桃香に、孔明は一度微笑んでから地図上の徐州とその周辺を指差した。


「徐州は東に東海、南に揚州、西に豫州と兌州、そして北に青州と、海と陸によって囲まれています。」

「はい。」

「注目すべきは東に在る東海です。これにより東から襲われる危険性は先ずありませんが、それは同時に、東への退路が無いのと同じです。」


 孔明は地図上の徐州の東に広がる海の部分を指差しながら、説明を続ける。

 孔明は海から襲われる危険性は余り無いと言ったが、勿論この世界にも船は有る。

 だが、この世界の船は基本的には河を進む為の物であり、海を進む為の大型船は余り無い。

 必然的に、大軍を擁せる軍船を保持している諸侯は皆無と言える。

 そうした事を踏まえると、孔明の説明に間違いは無いのである。


「そうなると、少なくとも南北や西の何処かに退避出来る場所を得ておく必要があります。」

「あの……始めから負けるのを前提で考えないといけないんですか?」

「当然です。勝つ事しか想定していなければ、負けた時の被害は甚大なものになります。ですが、負けた場合を想定していれば、その被害を最小限に抑える事が可能になるのです。」


 孔明はそう言うと再び地図に目をやり、説明を続ける。

 桃香は、先程孔明が言った東海の事で頭が一杯になりそうだったが、何とか孔明の説明に集中する事が出来た。

 因みに、何故そうなりそうだったかと言えば、東海について或る人物が興味深い事を言っていたからだが、桃香がそれを今の孔明に話す事は出来なかった。


「……そして、青州はその退避場所に適任なのです。」

「青州は実質的に空白地帯だし、他の州には強そうな人が居るからですか?」

「はい。袁紹は勿論、曹操や孫堅と事を構える必要はありませんし。」

「けど、さっきの話じゃ青州を穫ったら袁紹さんと対立するんじゃ……。」

「恐らくは。なので、その為に此処に手伝って貰うのです。」


 そう言うと、孔明はその小さな指を地図の上部分、つまり大陸北部が描かれている場所へと滑らせる。


「……幽州(ゆうしゅう)?」


 桃香はそれを見て疑問符が付いた呟きを漏らす。


「はい。現在幽州を治めているのは鮮卑(せんぴ)烏桓(うがん)の侵攻を防ぎ、自身の愛馬と同じ白馬ばかりで構成された騎兵部隊“白馬義従”を率い、“白馬長史”と讃えられている公孫賛(こうそん・さん)。また、東海恭王(とうかいきょうおう)劉彊(りゅうしょう)の子孫である劉虞(りゅうぐ)がその補佐をしています。」

「あれ? 劉虞さんって確か、白蓮(ぱいれん)ちゃん……公孫賛と仲が悪いって聞いてたけど……。」

「確かにそうですね。ですが、つい最近話し合った結果二人は和解し、それ以来二人で協力して幽州を治めている様です。」


 孔明の説明を聞いた桃香は少なからず驚いた。

 以前白蓮から聞いた話だと、異民族への対応が正反対だとかなんとか色々あって折り合いがつかず、これからどうすれば良いか解らずに頭を痛めているという事だったからだ。


「その劉虞さんは東海恭王・劉彊の子孫ですから、中山靖王(ちゅうざんせいおう)劉勝(りゅうしょう)の子孫である玄徳様とは同族になりますね。」


 劉彊は後漢王朝の初代皇帝である光武帝(こうぶてい)(劉秀(りゅうしゅう))の長子であり、当初は皇太子とされた人物だ。

 その光武帝は高祖劉邦の子孫にあたり、やはり劉邦の子孫である劉勝と劉彊は同族になるのである。


「そうなりますね。なら、私も劉虞さんと仲良くなれるかなあ。」

「その可能性は有りますね。人間は、少なからず同族意識を持っていますから。それに……。」

「それに?」

「玄徳様が劉虞さんと仲良くなれば、幽州との協力体制を築き易くなります。」


 孔明は微笑みながらそう言うと、地図と桃香を交互に見ながら話を続けた。


「玄徳様と公孫賛は、盧植さんの許で共に勉学に励んだ仲だと聞いています。」

「はい、それ以来白蓮ちゃんとは親しくさせてもらってます。」

「それはとても良い事ですね。……そして、その人脈が幽州との“同盟”を結ぶ為に有効になります。」

「同盟……もしかして、白蓮ちゃんを使って袁紹さんを牽制するんですか?」

「はい。」


 桃香の問いにそう答えた孔明は一旦庭に出て石を持って来ると、それ等を地図の上に置きながら説明していく。


「青州を得た場合、隣接する冀州を治める袁紹から攻められる危険性が出てきます。ですが、もし私達が公孫賛達と同盟を組んでいれば、袁紹は北への防備を考えなければならなくなり、迂闊に動く事は出来ません。」


 孔明は説明しながら地図上の冀州に置いていた大きな石を徐州に向けて少し動かし、同時に幽州に置いていた楕円形の石を冀州に向けて動かす。


「もし、袁紹がそのまま軍を動かした場合、公孫賛に范陽(はんよう)易京(えききょう)から(とう)廬奴(ろど)を目指して貰います。一方の徐州は、楽安郡(らくあん・ぐん)済南国(せいなん・こく)といった冀州との隣接地点で防戦し、袁紹が撤退するのを待つのです。」

「けど、袁紹さんが他州に援軍を要請したらどうするんですか?」


 桃香の疑問は尤もだ。自分達が同盟を結ぶ以上、相手も誰かと同盟を結んだり援軍を要請する可能性は充分にある。

 だが、孔明はそんな桃香に微笑むと、地図上の四角い石を置いている場所と三角の石を置いている場所をそれぞれ指差した。


「そこで、この方達とも同盟、若しくは“不可侵条約”を結んでおくのです。」

「成程、華琳(かりん)さんと雪蓮(しぇれん)さんですか……。」


 桃香は孔明が指差す地図上の「兌州」と「豫州」を見ながら呟いた。

 兌州は冀州の南に在り、徐州の西に在る。

 豫州はその兌州の南に在り、やはり徐州の西に在る。

 それぞれ曹操と孫堅が治めており、軍事力は勿論ながら、その統治も評価が高い。

 もし、袁紹を倒す事に正当な大義名分が有れば、彼女達から助力を得られるのは勿論だが、それはつまり他州の民からの支持を得られる事でもある。

 孔明はそこ迄考えてからこう告げた。


「玄徳様の義兄であり、徐州の州牧補佐をしている“天の御遣い”こと清宮涼様。その方は曹操及び孫堅、そしてその娘である孫策にも一目置かれていると聞きます。ですから、清宮様御自ら彼女達にこの話を持って行けば、まず間違い無く成功するでしょう。」

「えっ!? 涼義兄さんを同盟の使者に、ですか?」

「はい。この場合、徐州は兌州や豫州の助力を得たいと思ってますが、彼女達もまた、“天の御遣い”の名声を得たいのです。ですから、清宮様自らが使者に赴く事で両者と手を結ぶ可能性を高められるのです。」


 そう言って、孔明は地図上の冀州に向けて四角い石と三角の石を動かした。

 いつの間にか、冀州は四つの石に囲まれている。

 北は幽州の楕円形の石。

 南には兌州の四角い石と豫州の三角の石。

 そして東には青州と徐州の丸い石が在る。

 西の并州(へいしゅう)や南西の司州には石が置かれてないが、司州には首都・洛陽(らくよう)が在り、首都を混乱させる訳にはいかないので逃げられず、必然的に并州しか逃げ道は無い。

 幾ら袁紹が大軍を擁していようとも、逃げ道も補給路も無ければまともに戦えない。

 北の鮮卑や烏桓を頼る可能性は有るが、そうなれば袁紹は完全に漢王朝の臣では無くなる。帝自ら袁紹征伐の勅命(ちょくめい)を下すかも知れない。

 そうして作られた反袁紹連合は更に大軍となり、袁紹は滅びるだろう。

 その後は冀州を得るだけだが、連合を組んでいた以上分割される可能性が高い。

 勿論、冀州を丸々得る策も孔明は考えているのだが。


「ですが、この同盟はあくまで徐州軍が袁紹軍とほぼ互角に戦えないと意味がありません。同盟や不可侵条約は、状況によっては何の意味も無くなってしまうものですから。」

「そう……ですね。」


 孔明はそう言って桃香を見据え、桃香もまた同じ様に孔明を見据えた。

 孔明が言う様に、同盟や不可侵条約は互いの利が一致して、初めて成立するものである。

 それは、涼の世界の歴史を見ればよく解る。

 例えば明治時代の日本は、清や朝鮮半島の利権を巡ってロシアと対立。

 対抗手段として、ロシアの南下を阻止したいという思惑があったイギリスと日英同盟を結び、日露戦争に踏み切って勝利した。

 また、第二次世界大戦ではヨーロッパ戦線を戦うドイツ、イタリアと日独伊三国同盟を結び、ソビエトとは日ソ不可侵条約を結んだ。これにより日本は中国戦線と太平洋戦線に集中する事が出来たのである。

 だが、敗戦濃厚となった終戦間際、ソビエトは不可侵条約を一方的に破棄し、日本に侵攻している。

 三国志の世界に合わせるなら、曹操軍の南下を阻止したい劉備と孫権が手を組んでいるし、高祖劉邦の時代には秦打倒を目的とした反秦連合や、楚漢戦争(そかん・せんそう)に於ける漢連合の例も有る。

 どれも互いに利が有る内は上手くいっていたが、その利が無くなればそうはいかなかった。

 同盟や不可侵条約は外交に於いて重要なものだが、使い所を間違えると痛い目に遭う危険性を伴うのである。

 つまり、今回の話の様に桃香達徐州軍が袁紹軍と戦う為に公孫賛、曹操、孫堅と同盟や不可侵条約を結んだとしても、戦況が悪化すればそうした盟約も破棄される恐れが出てくる。

 最悪の場合、彼女達全員が敵に回るかも知れない。

 だからこそ孔明は、徐州軍の力を今以上に強化するべきだと、暗に言っているのだ。

 弱いままで同盟を結んでも、後には手痛い「ツケ」が残るものなのだから。


「先ずはそうして領土を拡大し、勢力を伸ばすのが肝要かと思います。」

「……はい。」


 孔明の話を聞き終えた桃香は、彼女に対して心の底から感服していた。

 雪里達から話を聞いていたとは言え、実際に会って話をしてみれば噂以上の人物だと感じたのだから、それは当然だろう。

 だからこそ、桃香はそのままではいられなかった。


「えっ……!? げ、玄徳様、一体何をっ!?」


 桃香が突然とったその行動に孔明は驚き、思わず立ち上がって桃香を見下ろしながら慌てふためいた。


 桃香は体を折り曲げて額を床に擦り付け、両手を頭の両端近くに置いている。

 それは所謂「土下座」の姿勢になっていた。


「……私は、孔明さんに謝らなければなりません。ですから、こうして床に膝を着け、頭を下げているのです。」

「私に……謝る?」


 孔明は桃香が何を言っているのか理解出来ないでいた。

 先程迄、あれだけ知略や弁舌を披露していた孔明が、目の前に居るたった一人の少女の思考を読む事が出来ないのである。

 孔明は、桃香が自分に対して何を謝ろうとしているのか考えた。そんな孔明の頭の中に真っ先に浮かんだのは、桃香達が自分を徐州に連れて行こうとしている事だった。

 だが、それは桃香達の旅の目的であり、今こうして話しているのもその為である。

 それなのに謝るというのは不自然だ。謝るくらいなら初めから話し合いをする必要は無いのだから。

 それからも孔明は幾つか心当たりを思い浮かべたが、どれも謝るという程のものではない。

 結局、理由が思い付かなかった孔明は桃香に訊ねた。

 桃香は顔を伏せたまま答える。


「……実は、私が孔明さんと話した内容の大半は、私自身の言葉では無いんです。」

「……どういう事ですか?」


 孔明は戸惑いながら桃香の独白を聞く事にした。


「私は、私の義兄……清宮涼からの助言をそのまま口にしたに過ぎないんです。」

「そのまま……?」

「はい。例えば、孔明さんが“玉を捨てて石を拾う様なもの”と言ってきたら、“石を玉と見せようとしてもダメな様に、玉を石と言われても誰もそうは思いません”と答えると良い、と言われたので、私はその通りに喋っただけんです。」

「……つまり、清宮涼さん、いえ、“天の御遣い”は私がどう考え、どう話すか(あらかじ)め読んでいたという事ですか?」

「そうかも知れません。私も、今日孔明さんと話す迄は半信半疑でしたけど、孔明さんの言葉の中に幾つも“聞いていた言葉”が出て来た時は、やっぱり義兄さんは天の御遣いなんだなあと再認識しました。」


 依然として顔を伏せたままだが、その声からは誇らしげに微笑んでいる表情が容易に思い浮かぶ。

 そんな桃香を見下ろしながら、孔明は思案に耽っていた。


(どういう事……? 確かに、相手の行動を読むのは兵法にも有る。だけど、見ず知らずの人間の言葉を予測するなんて事、普通は出来る筈が無い……。噂通り、天から来た人物だから出来たという事なの?)


 孔明の疑問は尤もだ。幾ら雪里から話を聞いているとしても、一度も会った事が無い人物の思考だけでなく発言迄予測する事等、不可能と言って良い。

 これが、相手を少しでも知っているのならば未だ理解出来る。

 例えば、兵法書で有名な孫子(孫武(そんぶ)、及び孫臏(そんぴん))の言葉に、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。」とある。この言葉は「敵の情報だけでなく、味方の情報も知っていれば、何回戦っても負けはしない。」という意味だ。

 その言葉通り、(せい)の軍師となった孫臏は()の大将軍で同門の鳳絹(ほうけん)と対立した際、鳳絹や魏の兵士達の性格や気性を把握した上で策を練り、見事討ち取っている。

 だが、清宮涼は孔明と会った事も話した事も無く、雪里の話だけで孔明の行動や言動を予測している。

 「孫子」「呉子(ごし)」「六韜(りくとう)」「三略(さんりゃく)」「山海経(せんかいきょう)」「呂氏春秋(りょし・しゅんじゅう)」「九章算術きゅうしょう・さんじゅつ」「司馬法(しば・ほう)」「尉繚子(うつりょう・し)」といった兵法書や地理書、農学書や数学書を沢山読み覚えてきた孔明でも、そんな事は出来ないというのに。

 いや、恐らくこの国に居る誰であろうとこんな事は無理だろう。

 尤も、天の御遣いこと清宮涼がこんな予測を立てられるのは、「三国志」に関する様々な書物から得た知識が有るからなのだが。

 勿論、そんな事を孔明は知らないし、桃香も知らないのだが。

 だが、そうした事実は孔明の知的好奇心を揺さぶるのに充分だった。


(……この国の様々な書物を読んで、知識を頭の隅々迄記憶する様に勉強してきたつもりですが……世の中には、まだまだ私の知らない事が沢山有るのですね。)


 先程迄戸惑っていた孔明の口許が、いつの間にか綻んでいる。

 解らない事に対する恐怖心は残っているが、それ以上に、知らない事を知りたいという探究心が彼女の心を突き動かしている様だ。


(それに……。)


 孔明は未だに顔を伏せたままの桃香に目をやる。


(私を連れて行きたいのに、わざわざ言わなくても良い事を正直に話してくれた玄徳様。私は、玄徳様のその素直で正直な性格にも惹かれ始めている……。)


 孔明はしゃがみ込んで桃香の手をとる。


「玄徳様、どうかお顔をお上げ下さい。そうしてもらわなければ、私はどうして良いのか解らなくなります。」

「ですが……。」

「玄徳様、先程の会話の中に玄徳様御自身による言葉は有りましたか?」

「はい、勿論有りました。流石に、涼義兄さんも会話の全てを予測する事は出来ない様でしたから。」


 そう言いながら桃香は僅かに頭を上げる。


「でしたら、玄徳様は御自身の言葉で私を説得しています。なので、頭を下げる必要はないのです。」

「孔明さん……。」


 そこで漸く、桃香は頭を上げた。

 それと殆ど同時に孔明は桃香の手を両手で握り直し、その瞳を見詰め続け言葉を紡ぐ。


「玄徳様の人を想うその気持ちに、私は心をうたれました。そして、そんな玄徳様の義兄であり“天の御遣い”である清宮様にも、興味が出ています。」

「え……それじゃ……?」


 孔明の言葉を聞いた桃香の表情が、まるで花が咲いた様にパッと明るくなった。

 そんな桃香を見詰めながら孔明は頷き、言葉を続ける。


「はい。大した力も無い私ですが、共に国事に尽くしましょう。」

「あ……有難うございます、孔明さんっ!」

「“朱里”、です。」

「えっ?」

「私の真名です。これからお仕えする方に真名を預けるのは当然ですから。」

「なら、私の事も真名の桃香と呼んで下さい、朱里さん。」

「はい、桃香様。」


 桃香はそう言うと孔明――朱里の手を握り返してニッコリと微笑み、朱里も同じ様に微笑んだ。

 これが、後に名軍師と謳われる諸葛孔明が世に出た瞬間だった。

 桃香と朱里の二人が部屋に残って約四半刻の時間が流れた。

 その間、桃香のお供である愛紗と鈴々、朱里の妹である諸葛均、そして先程来たばかりの朱里の友達の黄月英と鳳統は、大広間で二人を待っていた。

 その中の一人、黄月英は愛紗と鈴々を睨み付けながら、心の中では深々と溜息を吐いていた。


(出遅れたわね……まあ、最初から居ても多分、朱里の気持ちを変える事は出来なかっただろうけど……。)


 黄月英はそう思いながら、今度は本当に溜息を吐く。

 朱里が桃香の手紙を読んだあの日から、黄月英は毎日この屋敷に来ている。

 それは大切な友達と会う為であり、守る為だった。

 自分が傍に居れば、朱里は徐州に連れて行かれない、と、半ば本気で思っていた。いや、思いたかった。

 幾ら大切な友達を守る為とは言え、本人の意思を無視して迄引き留める事は出来ない事くらい、彼女だって解っている。

 只、解っている事と納得する事は似ている様で違う。

 彼女は、黄月英は諦めたくなかったのだ。

 大切な友達が、遠くに行ってしまわない様に願っていた。

 だが、朱里が桃香と並んで部屋に入って来た瞬間に、その願いが叶わなかった事を、黄月英は悟ったのだった。

 二人はまるで長年の親友かの様に笑いあいながら、大広間へと入ってきたのだ。

 その様子に、黄月英だけでなく愛紗達も驚いている。

 愛紗達からすれば難航すると思われていた交渉相手が仲良く義姉と一緒に入ってきた事に、諸葛均達からすれば初めはあんなに拒否していた相手と談笑している事に。

 この僅かな時間で、一体何があったのか。当事者である桃香と朱里以外の全員がそう思っていた。


「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、お待たせー♪」

「あっ、蒼詩ちゃん達も来ていたんだね。」


 共に明るい口調で言ったそれが、大広間に入ってきた二人の第一声だった。

 それから二人はそれぞれの大切な人達、義妹だったり実妹だったり、親友だったりと話していく。

 その中で、朱里が桃香の求めに応じた事が告げられた。


「お姉ちゃん、世の中の為に動く決心がついたんだね。」

「うん。桃香様は大した才能も無いこの身に対して三顧の礼を尽くし、私を招いてくれた。私はそんな桃香様を支えたい。何れ、功なり名を遂げたら緋里(ひり)ちゃんを呼べると思う。だからそれ迄、この家を守っていて。」

「解ったよ、お姉ちゃん。徐州でも頑張ってきてねっ。」


 諸葛均は笑顔でそう言うと、目の前に居る姉に抱きついた。

 朱里は妹が自分の胸に顔を埋め、鼻を啜っているのに気付くと、優しくそっと抱き締める。

 利発な子ではあるが、未だ幼いのも事実。本当なら一緒に連れて行きたいのだが、これから仕える相手にそんな我が儘は言えなかった。


「……蒼詩ちゃん、私が居ない間、緋里の事お願い。それと……ゴメンね。」


 諸葛均を抱き締めたまま、朱里は蒼詩にそう言った。


「……謝るくらいなら行かないでよ。……まあ、緋里の事は心配しなくて良いわ。毎日遊びに来てあげるから。」

「有難う、蒼詩ちゃん……。」


 涙を瞳に溜めながら言った蒼詩に、朱里もまた同じ様に涙を溜めた笑みを返す。

 乱世の兆しを見せるこの時代では、下手をすれば二度と会えなくなるかも知れない。

 特に朱里は、これから軍に属する事になる。ひょっとしたら戦死するかも知れないし、仕事の量が多過ぎて体を壊し、そのまま亡くなってしまうかも知れない。

 朱里は勿論、黄月英もそれを承知の上で言葉を交わしていく。

 やがて、黄月英も静かに朱里に抱きつき、諸葛均と同じ様に鼻を啜った。

 朱里はそんな大切な友達を感謝しながら抱き締める。

 暫くして二人は朱里から離れ、涙を拭くと再び笑顔を作った。

 姉の、友達の門出をこれ以上湿っぽくしたくないという二人の気持ちに、朱里は感動しながらも笑顔を絶やさなかった。

 そうして二人と話した後、朱里はもう一人の友達に向き直る。


「……雛里ちゃん。」

「……朱里ちゃん。」


 互いに友達の名前を口にしながら、見つめ合う二人。

 殆ど同じ背丈と体型、ほぼ同じデザインで色違いの服装。知らない人に「この二人は姉妹です。」と言ったら、かなりの確率で真に受けられそうな程、二人は仲が良く、知り合って以来ずっと傍に居た。

 そんな二人が、今別れの挨拶を交わそうとしている。

 先程、諸葛均や黄月英と言葉を交わした時に思った様に、これが最後の会話になるかも知れない。

 そう思いながら、朱里は口を開く。


「私、行ってくるね。」

「うん……。」


 紡いだ言葉は短く簡潔。言い訳めいた事も何も無い、それは言わば決意表明。

 そんな言葉に、鳳統もまた頷きながら短く応える。

 朱里は、頷いたままの友達を見て、やはり謝るべきかと迷い始めた。


「……でもね、朱里ちゃん。」


 そんな朱里をチラリと見ていた鳳統が、静かに言葉を紡ぐ。

 鳳統の言葉に気付いた朱里が彼女に目を向け直すと、目の前に居る少女はニッコリと微笑んでいた。


「私にも、生き方を選ぶ権利は有るよね?」

「えっ?」


 鳳統が言った言葉に朱里はキョトンとするが、鳳統はそんな朱里の横を通り過ぎると、自分達とは反対側に居る一団の前で足を止める。


「貴女は……ひょっとして鳳統さん?」

「はい。お初にお目にかかります、劉備様。私の名前は鳳統、字は士元と申します。」

「あっ、御丁寧にどうも。私の名前は劉備、字は玄徳です。」


 丁寧に御辞儀をしながら自己紹介をする鳳統に、桃香もまた丁寧に御辞儀を返す。

 因みに室内だからか、普段は帽子を被っている鳳統や朱里は今、帽子を被っていない。

 まあ、帽子は本来日差しから頭を守る為の道具であり、屋内で被る物では無いのだからそれが当たり前なのだが。


「朱里ちゃんの事、任せて大丈夫ですよね?」

「あ、はい、安心して下さい。」

「そうですか……なら。」


 桃香の答えを聞いた鳳統は一度眼を瞑ってから何かを考え、それから目を開くと意を決したかの様に桃香を見つめた。


「……劉備様、私も朱里ちゃんと同じ様に、貴女の麾下(きか)に加えて下さいっ。」

「「…………ええっ!?」」


 桃香と朱里は、図らずも同時に声をあげた。

 突然の事に桃香は慌てふためきながらも愛紗達と相談し始め、朱里もまた慌てながら鳳統に駆け寄っていく。


「ひ、雛里ちゃんっ、一体どうしてっ!?」

「そんなの決まってるよ、朱里ちゃん。私も世の中を良くしたいと思ったからだよ。」


 朱里の疑問に鳳統は微笑みながら答える。


「で、でもっ、雪里ちゃんが誘った時は断ったじゃない。」

「あの時は朱里ちゃんが断っていたからだよ。……もし、あの時朱里ちゃんが雪里ちゃんの誘いを受けていたら、多分私もそうしてたよ。」

「っ! ……それって……。」


 鳳統の言葉にピンときた朱里はジッと鳳統の眼を見ながら、彼女の次の言葉を待つ。


「うん。私は朱里ちゃんと一緒に、この世の中を変えていきたい。朱里ちゃんは私にとって大切なお友達だもの。協力したいって思うのは、当然でしょ?」

「雛里ちゃん……っ。」


 朱里は感極まって鳳統の右手を両手で握り、鳳統もまた空いている左手を朱里の両手に重ねた。

 同じ私塾に通っていた親友は、互いを想い、切磋琢磨しここ迄きた。

 きっとそれは、これからも変わらないのだろう。

 二人はそう確信しながら見つめ合い、やがて微笑みながらゆっくりと離れた。

 鳳統は改めて桃香に向き直る。その瞳は真っ直ぐに桃香を捉えており、それに気付いた桃香は表情を引き締めて鳳統に向き直り、厳かに訊ねた。


「鳳統さん、先程の言葉は貴女の本心ですか?」

「勿論です。あの……私が徐州軍に入るのは駄目ですか?」

「そんな事ありませんっ。元々、朱里ちゃんの説得が終わったら結果がどうあれ、鳳統さんにも会うつもりでしたし。」

「なら、問題ありませんね。朱里ちゃん共々、これから宜しくお願いします。」

「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします。」


 再び御辞儀をする鳳統につられて御辞儀をする桃香。

 こうして、桃香は呆気ない程簡単に鳳統を得た。

 朱里を得る為に必死になって説得した桃香は、鳳統も同じ様にしないと難しいだろうと覚悟していた。

 それが、論戦どころか自己紹介と少しのお喋りだけで麾下に入りたいと言ってきた。

 ハッキリ言って拍子抜けだが、あの緊張感はそう何度も味わいたくないとも思っていたので、ホッとしているのもまた事実だった。

 何はともあれ、「臥龍」と「鳳雛」はこうして徐州軍の一員となったのである。

 その日はその後、皆で歓談をしてから解散となり、夜には朱里と鳳統の送別会が開かれた。

 実は二人共既に旅支度を済ませており、直ぐにでも徐州へ向かうつもりだったのだが、桃香は流石に気が引けたらしく、出発は明日にという事になった。

 今は食事を終え、朱里、鳳統――雛里、諸葛均――緋里、そして黄月英――蒼詩の四人は二つの長椅子に二人ずつ座って対面しながら話をしている。

 話の内容はたわいない世間話に昔話と、いつもと同じ談笑。

 だが、今夜ばかりはそればかりでいられない事を、この場に居る四人は気付いている。

 そして、話の雰囲気を変えたのは、この屋敷の家主である朱里だった。


「……緋里、蒼詩ちゃん。我が儘言ってゴメンね。」

「お姉ちゃん、それはもう良いよ。それより、劉備様や御遣い様の許で頑張ってきてね。」

「うん、お姉ちゃん頑張るからね。」

「……まあ、朱里が徐州に行くのは何となく予想していたから良いわよ。……けど、まさか雛里迄とはねー。」

「あ、あわわっ。」


 蒼詩にジト目を向けられた雛里が、慌てながら目を伏せる。

 そんな雛里を隣に座っている朱里が落ち着かせ、蒼詩にはやはり隣に座っている緋里が宥めていった。


「蒼詩お姉ちゃんはお姉ちゃんの事になると、周りが見えなくなるからねー。雛里お姉ちゃんがどうしたいか気付かなかったのは無理無いよ。」

「えっ? て事は緋里は気付いていたの?」

「うん。雛里お姉ちゃんはいつもお姉ちゃんと一緒だから、お姉ちゃんが徐州に行く事になったら絶対に一緒に行くんだろうなと思っていたよ。」


 緋里は笑顔でそう言いながら、朱里と雛里、そして蒼詩を見ていく。

 蒼詩はそんな緋里を見ながら、やっぱり朱里の妹だなと感心していた。


(……ううん、私が凡人なだけ。朱里も雛里も、そして緋里も才能があるし。…………なんだ、そうだったのか。)


 その最中、蒼詩は朱里達を見ながら気付いた。


(我が儘を言っているのは、朱里でも雛里でも、勿論緋里でもない。私だったんだ……。)


 愕然としながらも、蒼詩はその表情を平静に保っている。

 折角の門出なのに雰囲気を暗くする訳にはいかない。なにより、その事実に負けたくなかった。


(……そうよ。今は朱里達の傍に居るのが相応しくなくても、いつかきっと相応しい人間になってみせるわっ!)


 蒼詩は心の中でそう固く決意し、親友との暫しの別れを受け入れたのだった。

 翌日、朱里と鳳統の旅立ちの見送りには諸葛均や黄月英だけでなく、崔州平を始めとした水鏡女学院の同窓生達も来ていた。

 朱里と鳳統はその彼女達と話しており、少し離れた所で桃香達がその様子を微笑ましく、そして少し申し訳無さそうに見守っている。

 そんな中、鳳統は朱里が手にしている物に気付いた。


「朱里ちゃん、それって……。」

「うん、卒業の時に水鏡先生から戴いた“羽毛扇(うもうせん)”だよ。」


 朱里の手に有るのは、白い羽で作られている扇。

 涼が居た世界の諸葛孔明のトレードマークでもあるその「羽毛扇」は、こちらの世界の諸葛孔明である朱里も持っていた様だ。


「いつか、こうして世に出る時に持って行こうと思っていたの。……大分遅れたけど、漸く、その時が来たよ。」


 そう言った朱里の表情は、嬉しさと申し訳無さが同居していた。

 恐らく、恩師の教えを生かそうとせずにこの隆中で晴耕雨読の生活しかしなかった事を悔いているのだろう。

 叔父夫婦への恩返しや、その叔父夫婦を亡くした事による悲しみの所為とは言え、自身が学び得た事を世の為に役立てなかった事もまた事実。

 だからこそ、旅立てる今日という日をとても嬉しく感じているのだ。


「うん、やっぱり朱里ちゃんは世に出ていくのが一番だよ。なんたって、水鏡女学院始まって以来の秀才なんだし。」

「雛里ちゃんだって、水鏡先生に認められていたじゃない。」


 あはは、と、二人を中心とした一団の明るい声が響いた。

 だが、そんな一時にも終わりはやって来る。

 朱里と鳳統は、同窓生達に一礼すると、桃香達の許に向かった。


「お待たせしました、桃香様。では、参りましょうか。」

「もう良いの?」

「はい、余り長く話していても別れが辛くなるだけですから。」

「……そっか。」


 朱里と鳳統の表情から彼女達の心境を察した桃香は、諸葛均達に一礼し、愛紗達と共に木々に繋いでいる馬達の許に向かう。

 そんな桃香達に向かって、「宜しくお願いします」や「頑張れーっ」といった声が掛けられる。

 よく見れば、あんなに徐州行きを反対していた黄月英でさえ、笑顔で手を振っている。

 そこに嘘や我慢が無く、心からの行動なのは表情や声から解った。

 だから、二人はそんな家族や友達に向かって手を振りながら、笑顔でこう応えるだけで良かった。


「「みんな……行ってきますっ。」」


 こうして、臥龍鳳雛は歴史の表舞台に出たのだった。

第十二章「三顧の礼」をお読みいただき、有難うございます。


今回は、タイトル通り三顧の礼についてのお話でした。

繰り返しになりますが、自分は「横山光輝三国志」くらいしか三国志に関する本は持っておらず、書き始めてから幾つかの本は買いましたが、物語として書かれている本は未だありません。

その為、今回でいえば桃香と朱里の話し合いは殆どそのまま引用するしかありませんでした。単なるコピペと指摘されたら、言い返せませんね。

勿論、実際の隆中対とは違う書き方をしなければいけませんから(現時点では曹操による巨大勢力はありませんからね)、色々整合性をとれる様頑張りましたよ。

そうそう、序盤の桃香の自己紹介の矛盾についてはスルーして下さい(笑)

なんにせよ、何とか三顧の礼を書いて臥竜と更には鳳雛をゲットした桃香達。毎回思いますが、こんなに早く諸葛亮や鳳統が仲間になる蜀はチートだよね。


次からは新章に移ります。

この新章がこんなに長くなるとは思わなかった←

良かったらこれからもお読みくださいね。



2012年11月30日更新。

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