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まじかるタイム
作:八神



第35話:お泊まりGW(その3)


「優ちゃんが買い物行っても良いってさ♪」

「はい?今何と…?」

現在朝食を取り終わって寛ぎ中。優と琴は昨日のリベンジと言う事で隣りでチェスに勤しんでいる。優は相変わらずとてつもない強さだが…。それは昨日嫌というほど身に染みたし、今驚く所はそこではない。先程の澄の耳を疑う発言についてだ

「別に買い物くらいで一々文句言わないわよ。私を何だと思ってるの…?」

優は呆れた様に言った。優の前でルークがクイーンを取り、琴が恨めしそうに優を見た。どうやら完璧に優のペースらしい。まぁこれもさっきから何度目かの挑戦だし、優は琴のパターンを読んでいるのだろう

「何で私の行動が読めるのよ…」

「さぁね♪はいこれでチェックメイト!」

バタンとチェス盤に倒れ込む琴を見て優は満足そうに頷いた。どうやら満足のいく一戦だったらしい。なんとも鮮やかな勝利だ

「私は今日ちょっとやる事があるからついていけないし…。なのにダメなんて言えないしね」

「なるほど…」

なんだかいつもと違うな。いつもなら許さんの一言でバッサリ切るのに、辰とならともかく…

「別にいつもと違わないわよ。ただ一日お世話になったし、澄が行きたいなら一日くらい見逃すわよ」

「また心を読みやがったな…?」

優が一日という所を強調して言った発言に翔がうんざりしながら答えた。まぁいやいや了承と言う事なのだろう

「澄、翔がおいたしたら取り敢えず魔法で御仕置しといてね?躾はいつもやるから意味があるのよ」

「了解♪」

「…俺は犬か?」

真顔で言う優に笑顔で返す澄を見て、翔は溜息混じりにそう言った。翔は澄が段々優の様になっていく事に若干不安を覚えた

「それじゃあ私は着替えて来るから、翔君は駅前で待っててね♪」

「澄…分かってるわね…待ち合わせは基本だものね♪」

翔は何の基本なのかは分からなかったが取り敢えず了承した。優も二人で買い物に行く時は何故か待ち合わせをしたがるのできっと何かあるのだろうと言う解釈なのだが、澄も翔の返事に満足した様で自分の部屋の方へと消えて行った

「さて…それじゃあ俺も…」

「翔…」

翔が駅に行こうと腰を上げると優が引き止めて来た。翔は何かあるのかと足を止める

「どうした?何かあるのか?」

「…別に?ただ、澄とあんまりベタベタしたら…殺すわよ…?」

翔は言葉を区切ってから発せられた殺意がこもりまくった殺害予告に絶句し、例の如く固まった。釘を刺すのはいつもの事だが、今日のには一段と殺意がこもっている。そして殺すと言う言葉も翔には冗談には聞こえないので普通に怖い。

「ワ、ワカリマシタ。シツレイシマス」

翔は片言で喋りながらも、何故こんなに制限されなければならないのかを考えた。もちろん答えなどは出るはずもないのだが…。そして、翔は廊下に出るまで優の殺意のこもった視線を浴び続けたのだった

「はぁ…、本当に翔も乙女心が分からないんだから…」

「優ちゃん…翔ちゃんを苛めすぎちゃダメだよ?私が弄る前に力尽きちゃうもん♪」

優が嘆息し、再戦の為にチェス盤の上をリセットさせて行くと、琴もそれを手伝いつつ微笑して言った。翔がいたら顔を顔面神経痛さながらに引きつらせただろうが、今翔は出て行ったばかりだ

「別に苛めてるわけじゃないわ…。だって、私…」

優は口ごもり、また溜息をついた。琴はそれを聞いて続きに興味を惹かれたが、優がチェスの駒を完全に整えるとそちらに興味が行ってしまった

「お姉ちゃん、優ちゃん、留守任せたよ♪」

「ええ、気をつけて行って来なさい♪」

澄がドアを少し開いて顔を覗かせ二人の様子を確認すると、琴が笑いながら澄を見送った

「さて、始めましょうか♪……優ちゃん、どうかしたの?」

「…え?いや、なんでもないよ♪」

優はそう言って笑い、自分のクイーンをチェス盤から外した。琴は優の行動を首を傾げながら見ていた

「…将棋じゃないんだから…。クイーン無いと相当辛いよ?」

「うーん、ちょっとしたゲームをしようかなってね♪」

優は手に持ったクイーンを弄びながら言った。琴の方は訝しげに優を見る。いくら強いからと言ってクイーンを抜いて戦うのは辛いだろう

「ゲームかぁ…どんなの?」

「簡単よ?負けた方は勝った方の質問に一つだけ答える、それだけ。確かに私もクイーン無しは痛いけど、私が聞きたい事はそれだけの価値があるからね…。ダメかしら?」

琴はうーんと唸って考えた。ゲーム自体は別に良い。ただ、優の聞きたい事とは何か。自分の知っている事で優がどうしても知りたい事なんて思い付かない。あるとしても初めて翔が泊まりに来た時の事くらいだ

「別に、そんな事しなくても教えてあげるよ?翔ちゃんの事でしょ?」

「ダメ。…多分、普通には教えてくれないから…。だから、勝負しようって言ってるの」

優の眼は本気だ。つまりは琴が聞いたら教えてくれなくなる様な事だから、先にゲームをして縛りを掛けようと言うのだ。琴はそこまでして聞きたい事が何かに興味が出てきた。それに、自分が勝ってその聞きたい事が何かを問えばそれは無償で分かる。どっちにしろ知る事が出来るならやるべきだ。琴はそう判断した。

「分かった、やるわ♪その代わりクイーン無しでも遠慮しないから覚悟してね?」

「私も本気で行くわ…それじゃあ行くわよ?」

こうして、翔や澄の知らない所で優と琴の対決が始まった。






「翔君お待たせ♪待ったかな?私準備長いから…」

「いーや?大丈夫だぞ。慣れてるし、そんなに待ってない」

翔はそう言って笑った。事実それほど待っていない。準備の時間も計算に入れてゆっくり来たからだ。しかし澄は何が気に入らないのか少し睨み付けて来た

「そんなに睨まなくても分かってるよ。服だろ?似合ってるよ、澄は何を来ても似合うけどな」

「ふふふ、ありがと♪翔君にそう言われるのが一番嬉しいな♪」

翔が褒めると、澄は笑いながらそう言った。澄が着ているのはこの前翔が澄にプレゼントした白いワンピース。翔はそんな澄を見て一瞬違和感の様な物を感じたが直ぐにその違和感はなくなっていた。

「さ、デパート行きましょ♪翔君に似合う服をコーディネートしてあげる♪」

澄は翔の腕を取って嬉しそうに歩き出す。
翔は周りからの視線が気になって恥ずかしくなったが、思えばもっと恥ずかしい事を普通にしてるなぁと思い直しそれを受け入れた。折角優が許可を出すなどと言う珍妙な事が起きたのだ。たまには良いだろう。しかし、本当に用事とはなんだろう。そんなに大事な用事なのだろうか。翔は優に何かあったのかと不安になった。あれでも大事な親友だし、心配になって当たり前だ。

「…翔君?どうしたの?」

「…いや、なんでもないよ。折角澄がコーディネートしてくれるんだ。頼むぜ?」

翔がそう言うと澄はクスッっと笑って頷いた。別に優なら大丈夫だろう。変に不安がって澄を不安にさせたら意味がない。今は澄と一緒に楽しむ事が先決だ

「期待しててね?私これでもお姉ちゃんの洋服見繕ったりしてるんだから♪」

澄はそう言うと翔の腕を更に引き寄せて自分の腕に絡める。翔はそんな澄に笑みを返した






「こっち…。いや、こっちも良いかな?うーん…」

「またこのパターンか…」

澄は色々な服を手に取り翔に当てては戻し、当てては戻しを繰り返していて、周りが服だらけになっている。他人からみればとても異様だ。

「うーん、これだ!ってのがないのよねぇ…」

澄がそう言って尚も服を比べる。翔としては呆れるしかない。只でさえ澄は人目を引くのにこれでは…。確実に先程に勝る羞恥だ。先程は嫉妬や羨望の視線だったが、今は奇異の視線だから当たり前だろう。

「おい、澄。もう適当で良いぞ?そんなに悩まないでも…」

「ダメだよ!!どうせ翔君の服って殆ど優ちゃんが選んでるんでしょ…?私だって優ちゃんより翔君に似合う服選べるもん!!」

澄の発言に翔は苦笑を漏らした。そう言ってくれるのは嬉しいが、何か主旨が変わってる気がする。確かに翔の服は優が買った物が殆どだが、優は昔から翔の服を選んでいたし、翔の好みもかなり知り尽くしている。優が翔に合う物を見繕う事が出来るのは最早当たり前の様な物だ

「むむむ…でも…あんまり似合ってモテてもなぁ…」

「こら、似合う服を選ぶんじゃなかったのか?」
「うーん…あ、これ何かどうかな?やっぱり翔君には落ち着いた感じの服が似合うしね♪」

澄が翔にあてがっているのは黒く、白い模様が入った物だった。確かに翔にはあっているデザインだった

「うん、良いんじゃないか?俺も黒は好きだしな。それに決めるか」

翔も賛成した。澄のコーディネートは良いと思うし、こう言うのは女性の方が見る目があるだろうから最初から反論する気など皆無だったのだが

「よし決定♪…さて、次は下ねぇ…これに合うのは…」

「ま、まだ選ぶのか!?」

澄が当然とばかりに先程の服に合う物を探し出す。翔はそれを見て女の買い物はやっぱり長い物なんだなぁ…と思った。もう洋服を選び出してからかなり経つのに、澄の様子を見る限り買い物にはまだまだ時間が掛かりそうだった






「確かにそうよ…優ちゃんの言う通り…」

「………」

あの後接戦が繰り広げられたが、結局優が勝利した。接戦だった筈なのだが、琴は対戦中全く勝てる気がしなかった。優にはそれだけ鬼気迫る物があったのだ

「でも優ちゃん…なんでそんな事…第一なんで知ってるの?私誰にも言ってないのにおかしいわよ…。それに、知っても優ちゃんには何の得にもならない筈なのに…」

「私は勝ちました…。それに答える事は出来ません…」

琴は今理解した。この勝負には知りたい事を聞き出した後に追求を逃れる為にも必要だったのだ。それでも琴は知りたかった。優が知っていた理由を、何故その確認を取ろうとしたのか、その訳を。そして、優が何故そんな追い詰められた様な瞳をするのかと

「優ちゃん…貴方…なんの為にそんなに必至になっているの?」

「……約束…して下さい…してくれれば、それに答えます」

優の声に琴が反応する。優の眼はチェスの時からずっと真剣なまなざしを琴に送っている。これは優にとって大事な事なのだと琴には容易く分かった

「何を約束すれば良いの?」

「私がこの質問をした事を誰にも言わない事、その事を翔に言わない事。それだけです」

琴は別にこの事を誰に言うつもりもないし、優もそれを分かっていると思うのだが、それでも優は言った

「ごめんなさい、琴先輩。これは約束してもらわないと困ります、でないと…」

「でないと、何…?」

優は琴から聞かれて一拍も置かずに言った

「私は貴方を…殺します…!」

「…っ……!」

優の視線から本気だとわかった。さらに優からは明らかに殺気と分かる物が出ていて、それは翔を睨み付けていた時とは比べ物にならない程の物だった

「分かった約束するわ…」

「ありがとうございます、琴先輩♪」

琴がそう言うと優は先程の雰囲気を全く感じさせない明るい口調で笑いながら礼を言った。それを見て琴はホッと胸を撫で下ろした。先程の張り詰めた空気が弛緩する

「さて、用事も済んだし帰りましょうかね♪」

「優ちゃん、私の質問に答えてくれてないわよ?」

琴が溜息混じりにそう言った

「あはは…見逃してくれないんだ…?」

琴がそういうと優はバツが悪そうに苦笑した。琴としては逃すわけには行かない。優にも約束を守ってもらわなくてはいけない

「私が必至になってるのは…翔の為。そして多分、ううん、やっぱり女である私の為…。そろそろ戻ります…やっぱり私は酷い女だから…。やっぱり私は諦めるなんて無理な、勝手な女だから」

「優ちゃん…?」

「あ!翔が帰って来たらあんまり長居させないで下さいね?もう一日泊まるなんて事になったら許さないので♪」

そう言って優は微笑むと身を翻し部屋から出て行った。あまりに優雅なその動作に琴は一瞬見入ってしまったが、直ぐに我に返ると嘆息した。優が出て行った後に琴は一人部屋に残され、キングが囲まれている盤上を見る。

「あ…」

よく見てみるとまだ完全には終わっていない。まぁ、少し足掻いた所で戦局が覆る事はないのだが…。優にチェックメイトと言われてしまって完全に終わったと思ってしまった

「優ちゃんも必至だったわけね…。あーあ…一度で良いから勝ちたいなぁ…。よし!負けっ放しは性に合わないし、特訓だ!!」

そう言うと琴はチェスの本を探しに部屋を出た。疲れ切った翔と、その翔の腕をとった澄が帰って来たのはそれより2時間程後の事だった












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