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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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08章 気まぐれな会談-1

【セレノア視点】

ファーナに先導される形で、その後ろを皆でついて歩く。
ロアイスの街並みの活気にも驚かされたけれど、城も見事なものね。
あちこちに見られる華美な装飾を見るたびに、魔族との差を見せ付けられているような気分になる。
魔族の城が劣っているとは思わないけれど、人間の城にも違った良さや風情がある。
にしても、本当に…豊かな国ね。
庭を抜けてすぐの場所に、四人が立って待っていた。
どうやら、あれがお出迎えらしいわね。
ファーナが相手に一礼して、横へと避ける。
それにうなずいて返すと、前にいた二人が近づいてきた。
「初めまして、ライナス・ランドバルドと申します。
 遠慮はるばる、ようこそ、おいでくださいました」
「リース・ランドバルドと申します。魔族の方々を、心より歓迎いたします」
二人の名前には、聞き覚えがあった。
あれが、ロアイスの王子と王女か。
「こちらこそ、よろしくお願い申し上げる」
父上の斜め後ろに立って、同じように頭を下げる。
その間も、視線は二人から外さない。
「ふぅん」
兄のほうは、それなりに戦えるようね。
腰から提げた馬鹿みたいな大きさの剣も、飾りじゃないみたい。
それに比べて、妹のほうは緊張しているみたいだけれど、あまりに無防備だ。
戦闘を学んだのは、基礎の基礎だけみたいね。
実戦の経験なんて、まるでないのが、よく分かる。
平和に暮らしてきた証なんでしょうけど、この程度じゃ数秒もあれば…。
「…!」
二人の後ろに控えていた老人たちが、一歩だけ前に出る。
くだらない思考は、それだけで吹き飛ばされた。
肌を刺し、怖気を走らせるほどの威圧感に、頭の中が真っ白になる。
とてもじゃないけど、老体とは思えない。
笑ってしまいたくなるくらいに、とんでもない強さだ。
「久しいですね。その節は、お世話になりました」
「改めて、礼を言わせてくれ。ありがとう」
謝辞を述べて、順に頭を下げる。
そんな儀礼の最中であっても、二人には一部の隙もない。
アタシが攻撃をしかけても…いや、どんな事が起きても、この二人なら冷静に対処するだろう。
この圧倒的な力、忘れられるわけがない。
ティストの家で見たときには、他人へと向けられたものだったけれど…。
こうして自分に向けられてみると、雑魚が逃げ出したくなる気持ちも、分からないでもないわね。
「私たちの世話をしてくれている、レジとクレアです」
「今日の会議にも、同席させていただきます」
そうだったわね。
魔族と違って、人間には、要人を守るための護衛がいるんだったっけ。
だから、上に立つにも関わらず、本人の戦闘力は、重要視されていない。
まったく、不思議な文化だ。
「師匠、お久しぶりです」
「ようやく、全快したようですね」
「息災なようで、なによりだ」
挨拶を交わすティストの顔は、なぜだか、いつもより幼く見えた。
師匠…ね。
つまり、あれがティストの源流になったわけか。
あの二人に鍛え上げられたなら、ティストがあれほどの使い手になるのも、納得できるわね。
「では、こちらへ」
靴を脱がないのが不思議なほどに綺麗な廊下を、案内されるままに奥へと進む。
不謹慎かもしれないけれど、これから始まることを思うと、楽しみでしかたない。
これだけのメンツが集まったのだから、退屈だけは、させてくれないだろう。



部屋に入ると、縦に長いテーブルが置いてある。
普段使いとは思えないほどの大きさで、部屋を占有している。
どうやら、今回のために、わざわざ用意したらしいわね。
「二人は、こちらへ」
いつもと違う畏まった口調で、ティストが一番端にある椅子を二つ引いてくれる。
ふぅん、こういう待遇は、悪くないわね。
一番奥にある、こちらと対面に二席に王子と王女が、その横にティストの師匠たちが座る。
典型的な、要人とその護衛の配置だ。
ティストがアタシの横に座り、その隣にファーナが腰掛ける。
謁見の折には、王族と敵を出来る限り離して、その間に護衛を並べる…ね。
上座や下座は無視してるみたいだけれど、この席順に関しても、色んな思惑があってのことみたいね。
最後に部屋に入ってきたアイシスとユイは、なぜか椅子には近づかずに、部屋の隅へと向かう。
角を背にすると、全員の姿を見るように、背筋を伸ばして立っていた。
「? 空いてる席って、アイシスとユイの席じゃないの?」
父上とレジ・セイルスの間には、二つ空席がある。
あの二人が座らないなら、人数が合わない。
「いや、まだ他に二人来るんだ」
アタシの質問に答えたティストの声は、掠れているのか、少し聞き取り辛い。
心なしか、表情も暗いように見えた。
「…ふぅん」
この場にいない時点で、アタシと初対面なのは、まず、間違いない。
にしても、王族があの配置にいるなら、それよりも格下のはずだ。
決定権を持つ者がいれば、それで十分なはずなのに、まだ話し合いに誰かが必要なんて、理解できないわね。
「で、二人…って、誰なの?」
いつまで待っても、説明してくれないティストに、重ねて聞く。
珍しいわね、さっきの言葉だけじゃアタシが欲しい情報は伝わらないって、分かるはずなのに…。
「そこには、ロアイスの騎士団長と、ロアイス一の大貴族だ」
騎士団っていうのは、聞いたことがある。
人間たちの間では、国を守るための兵力を、そう呼んでいるっていう話だ。
だけど、もう一つの言葉は、耳慣れない。
「だいきぞく…って?」
「貴族の中でも、最も権力を持つもの…ってことだな」
ああ、そういえば、人間は生まれたときに階級が決まるんだっけ。
しかも、それは親から引き継ぐものだから、よっぽどの失態をしない限り、失われることはないはず。
つまり、このロアイスで、かなり運よく生まれてきた男…ってわけだ。
「二人の名前は…」
ティストの声を阻むように、ノックの音が割り込んでくる。
ドアのほうへと視線を向けると、ティストも説明を止めて口を閉ざした。
「失礼する」
神経質そうな声で断りを入れ、男たちが部屋に入ってきた。
「ふぅん」
説明されなくても、どっちがどうなのか、一目瞭然だ。
先頭を切って堂々と歩いてくる、根性の悪そうな老人が、その大貴族様のようね。
ただ立っているだけなのに、ふんぞり返っているかのような、偉そうな雰囲気がある。
それに、あの身のこなしは、戦いが出来るものの動きじゃない。
「………」
で、その後ろに付き随っている目つきの悪い男が、ロアイスの騎士団長…か。
抜き身の刃のように剣呑な目で、あからさまに、アタシと父上を睨みつけている。
互いに間合いの中にいるというのに、まるで敵意を隠そうともしていない。
今にも腰に携えた二本の剣を抜き放ちそうなほどの、濃密な殺気をほとばしらせていた。
「ふぅん、目つきの割りに、殺意はたいしたことないのね」
「………」
反論が来ないかわりに、視線がアタシに固定される。
実際に手をあわせていないし、戦ったところを見たわけでもないから、絶対ではないけれど…。
それでも、その振る舞いや風格から見て、父上やティストよりは、一段劣るという印象だ。
「ん、んん」
わざとらしく咳払いをして、ティストが横目でアタシを見てくる。
なによ…別に、ホントのことを言っただけじゃない。
「分かったわよ、おとなしくしてればいいんでしょ?」
唇をほとんど動かさず、ティストにしか聞こえないように了解を返す。
ったく、ケンカを売ってきたのは、アタシじゃないのに…。
ま、でも、あんなのにムキになるのも、たしかに大人気ないわね。
「お待たせしたようで、申し訳ない。イスクと申します」
空席の前に立ち、儀礼的にこちらへと一礼してから、貴族が席に着く。
「ヴォルグ・ステインです」
それを見届けてから、騎士団長も同じように短く名乗って、椅子へと座った。
どっちも、いけ好かないわね。
とてもじゃないけど、仲良くなんてなれそうにない。
それを顔に出さぬように、自分の表情を笑顔で留めた。
愛想笑いなんて気の利いたものじゃないけど、これで、あっちも文句は言えないはずだ。
「さて、これで全員が揃ったわけだな。だったら、さっさと始めてくれ」
「……ッ」
ティストが告げた台詞がそんなに気に入らないのか、貴族が物凄い形相で、睨みつけている。
固く閉ざしたその口元は、絶対に口を開けるまいと、きつく引き結んでいるように見える。
「………」
騎士団長の方も、貴族と同じく、目に全ての力を集めるようにして、歯を噛み締めていた。
なんだ、さっきよりも、よっぽど闘気があるじゃない。
「………」
その二つの視線を受け止めて、ティストが、かすかに笑う。
何? 今の二人の反応が予定通りなの?
ってことは…もしかして、アタシたちから、注意をそらしたってこと?
「では、始めましょうか」
何事も無かったように真面目な顔で王子が切り出し、全員の視線を集める。
まるで、ティストと連携をとったみたい…ね。
「お話いただいた件ですが…まず、初めに、こちらの意向をお伝えしたいと思います」
誰もが静まり返って、言葉の続きを待つ。
この一言で、ほとんど全てが決まる。
ここで協力の意志がないとなれば、どれだけ説得しようとも、難しいだろう。
「ロアイスは、グレイスに対して、出来る限りの援助をしていきたいと考えております」
「ですが…」
ライナス王子からの言葉の意味を受けて考える間を与えぬように、しわがれた声が水を差す。
なるほど、まだ主張は終わってない…ってわけね。
「乗り越えなければならない問題は、あまりにも多い。
 その辺りは、私から、説明させていただきましょう」
イスクという大貴族が、わざわざ立ち上がって話を始める。
これが普通なのか、それとも、主導権を握るためなのか。
どっちにしても、まずは、聞かせてもらおうじゃないの。




聞けば聞くほどに、心の中に不愉快が募っていく。
相手に内心を気取られぬように表情を維持するだけでも、かなりの忍耐だ。
「先ほど申し上げた種族不可侵をもし解決できたとしても、道と呼べぬ悪路では、輸送がままならない」
嫌みったらしい声で、長ったらしい言い訳が、ひたすら続く。
最初に王子が都合のいいことを言っておいて、結局は、こういう話なわけか。
「そして、割ける人員にも限りがあるし、魔族との間で揉め事が起きたときには、その解決も公平に行わなければならない」
だったら、最初からはっきりと無理だって断ればいいじゃない。
思わせぶりな書簡で呼び出して、こんな戯れ言を聞かされるなんて、まったくふざけている。
反論を頭の中で組み上げ、奴の言葉が途切れるのを、今か今かと待ち続ける。
どうせ無理なら、言いたいことぐらいは、言わせてもらう。
「以上のことから、残念ながら、実現するのは、非常に困難と言えます」
言葉を切って、ようやく奴が着席する。
やっと、終わったのね。
だったら…。
「お待ちください」
アタシが口を開くのを邪魔するように、声が割って入る。
ったく、なによもう。
見れば、いつになく真剣な顔で、ティストが立ち上がっていた。
戦場で闘争に明け暮れているときに幾度か見せた、精悍な顔つき。
こうしてみると、やっぱり普段とは別人にしか見えない。
「ライナス王子、リース王女、私が発言することをお許し願えますか?」
「許す」
「………」
王子が声で、王女がうなずいて、それぞれに許可を出す。
「ありがとうございます」
礼を述べてから、ティストは、その声量をさらに上げた。
「今の御意見を拝聴した上で、私から提案が御座います」
慇懃無礼というのが似合う、馬鹿丁寧な口調のせいで、ものすごい違和感がある。
まったく似合わないわね、まるで、別人じゃない。
「私に魔族への食糧の輸送を、任じて頂けませんか?」
「…!」
思わず声を出してしまいそうになったのを、かろうじて飲み込む。
聞いた誰もが、驚きを顔に浮かべて、息を飲んでいた。
「…な、貴様は、自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
「はい。大任であることは、重々承知しております。
 その上で、ロアイス、グレイスの友好と共生のために、ぜひとも尽力させていただきたいのです」
瞳に迷いがなく、声に淀みがない。
一瞬たりとも揺るがないその態度は、どんな威圧であろうと、覆せそうにないように見えた。
「前大戦、ならびに、先のガイ・ブラスタとの戦いで、私は、魔族の領地に訪れました。
 なので、他の者より土地勘があります」
さすがに、ちょっと前まで来てたとは、言えないみたいね。
まあ、あれはグレイスが勝手に招待しただけで、本来は認められてるものじゃないわけだし。
「そして、輸送に最も必要な体力も、人並み以上であると自負しております。
 わざわざ、他の労働力を工面する必要もありません。
 どんな悪路であろうと、踏破してご覧に入れましょう」
そんなの、当たり前だ。
あのガイ・ブラスタとさえ渡り合い、ジャネス・ブラスタをも圧倒したんだ。
そんな途方も無い力を使って、出来ないことを探すほうが難しい。
それに、ティストは、たった一人で荷車を引いて、それができることをすでに証明してみせた。
さっきまで、あれだけ不可能だといわれていたことが、ティストの言葉だけで、具体性を帯びていく。
「私は、彼の意見に賛成ですわ。今の提案が実現すれば、両国にとって、素晴らしいことだと思います」
「そうですね。ティストならば大丈夫でしょう」
「私も、同意見です」
いち早くティストの提案に答えた王女に、追従するように周囲がうなずく。
なるほどね、あの辺りは、ティストの味方なわけだ。
「しかし、人間一人が運べるものになど、限度がある。
 それとも、魔族に渡すのは、その程度の量でかまわないというのかね?」
「領地へと運び込めば、後は魔族に御助力頂けばいい。
 レオン様とセレノア様ならば、容易く手配してくださるでしょう」
「もちろんだ、任せていただこう」
「ええ。こちらも、出来る限りのことはさせていただきますわ」
父上と共に、ティストの言葉にあわせる。
まったく、演技とはいえ、あのティストに、様よばわりされるなんて…ね。
「しかし、揉め事が起きた場合には、どうするつもりだね? 貴様が責を負うと言うのか?」
「愚問ですね。そんな揉め事なんて、絶対に起こさせません」
しっかりと大貴族の目を睨みつけて、アタシは思うままに答える。
もし、恩人に牙を剥く痴れ者がいたら、アタシは、そいつを許さない。
誰であろうと、絶対に。
「この世に絶対という事象は、存在しない。年若い貴女には分からないかもしれないが…。
 どんなに万全を尽くしたとしても、起きてしまうことはあるものなのだよ」
ったく、どういえば、この馬鹿にも理解できるのだろう?
そもそも、ティストに歯向かって勝てる者なんて、そうはいない。
その力は、同じ人間のほうが知っているはずなのに…。
「ならば、その折には、魔族の法に基づき、己が力を持って、どちらが正しいかを決めるまで」
真摯的な言葉遣いの中にも、獰猛どうもうさを感じさせるティストの声を聞き、全身に心地よい鳥肌が立つ。
いいわね。
これ以上ない、名案だ。
魔族にとって、これほど相応しい解決方法もないだろう。
「魔族が相手なら、それで納得してもらえるでしょう?」
「ええ、何かあったときには、当事者同士で決着をつけますわ」
だから手伝う気もない部外者は黙っていろ…そういう意味を込めて、語調を強める。
さすがに、こちらの言いたいことが分かったのか、苦い顔をしてから息をついた。
「では、方向性が決まったところで、もう少し細かいことを詰めていきましょう」
ライナス王子の促しを元に、双方が意見を出し合い、折り合うべき場所を見つけていく。
それを繰り返して、話し合いは、ゆっくりと、それでも円滑に進んでいった。
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