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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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06章 気まぐれな旅路-1

【ティスト視点】

地平線に落ちていく太陽が、緑の絨毯を赤く照らしつける。
風が吹き抜けるたびに、草原が大きく波を打つ。
普段は、どんなに目を凝らしても見えない風が、可視化されていた。
そんな、俺たちにとってはありふれた風景を、レオンもセレノアも、ずっと黙って見つめていた。
いつもなら肌寒いはずの風も、火照った身体には、ただひたすらに心地よい。
「楽しいか?」
「つまらなくは、ないわね」
遠回しな返事をしながらも、セレノアは、視線を外さない。
どうやら、よっぽどこの景色が気に入ったらしいな。
「やはり、劣悪な環境であることを思い知らされるな。
 周囲に草が生えているだけで、こうも過ごしやすいなんて…ね」
レオンの言うとおり、魔族と人間の領地で比べると、体感温度がまるで違うな。
それに、多くの人間が踏み固めた道の方が、荒地よりも遥かに歩きやすく、体力の消耗も少ない。
「しかし、本当に街道を使ってもいいのか?」
「ええ、事前に確認して、今回の件に関わった全員が了承済みよ。
 何もしていないように見えるかもしれないけれど、ロアイスも、あれで監視の目は、いくつもあるのよ。
 安全のために国が用意しているのはもちろん、民間でも色んな理由で、さまざまな人が目を光らせているわ。
 街道以外から不用意に近づけば、たちまち大騒ぎになるわよ」
「そういうものか」
平和な国とはいえ、警備に抜かりは無い…か。
ユイたちカルナス一家、それに、リースやライナス、師匠たちの顔を思い浮かべて、穏やかな気分になる。
そこに住んでいる人間たちの安全が保証されているなら、それは、とてもいいことだ。
「差し支えなければ、ロアイスに到着してからの予定を聞かせてもらえないかな?」
「これは、失礼致しました。到着後の予定ですが…」
「ちょっと待ってください」
レオンに向けたファーナの説明を、真剣なアイシスの声が遮る。
全員が、少し離れた場所にいたアイシスを振り返った。
「どうした?」
「あれを…」
アイシスが、指し示す街道の先には、こちらへ揺れ動く人影が見える。
どうやら、こっちへ向かって歩いてきているらしいな。
「ふぅん、五人ね」
「…そうみたいですね」
この距離だと、かろうじて人数が把握できるぐらいで、人相や風体までは分からない。
もうすぐ日も暮れるというのに、まったく、ご苦労なことだ。
なるべく人目につきたくなかったが、下手に避けようとすれば、余計に怪しまれるだろう。
「申し訳ありませんが、話の続きは、後ほどにお願いいたします」
「ああ、かまわない」
わずかにでも、他人に聞かれる可能性があるならば、口を開かない…か。
その徹底した警戒は、俺も見習いたいところだな。
「では、休憩を終わらせて、先を急ぎましょうか」
「このまま、すれ違うのか?」
「もちろんよ。いつもどおりにしていて」
まったく、大した肝の太さだな。
まるで迷うことなく、平然と言ってのけるその姿は、尊敬に値する。
「やれやれ、しかたないか」
ため息をついて、覚悟を決める。
まあ、人通りのある街道で、誰とも遭遇しないなんて、都合が良すぎるしな。
「何かあったら、逃げるぞ」
幸いなことに、みんな、足は速いからな。
俺がファーナを抱き変えたとしても、並大抵の敵なら振り切れるだろう。
「? 何から逃げるの?」
「あの連中からだ」
「なんで? まさか、アタシたちより強いわけ?」
心底不思議そうに聞いてくるセレノアに、返す言葉が見つからない。
たしかに、勝敗だけを考えるなら、負ける要素が無い相手から逃げるなんて、理解できないだろうな。
「どうであろうと、君が指揮を執れば、私たちはそれに従おう。遠慮なく、命令してくれ」
「私は、元よりお兄ちゃんの決めたように動きますから」
「ああ、頼む」
「気を配ってくれるのはいいけれど、あまり思い込まないようにね。
 この段階で、前を歩いてくる人間を敵だと判断するなんて、早計もいいところよ」
たしかに、今までに街道を使っていて、揉め事に巻き込まれたことなんて、ほとんどない。
ファーナの言うとおり、セレノアたちと一緒だからって、過敏になりすぎてるのかもしれないな。
「まあ、何もなければいいんだが…な」
当たってほしくない予感ほど、当たるものだ。




丸々と太った男が五人、それぞれに荷物を背負って、額から滝のように汗を流している。
どうやら、商人たちのようだな。
武装も貧相なものだし、あの贅肉だらけの身体じゃ、戦闘でも満足に動けないだろう。
やれやれ、どうやら一安心だな。
互いに通れるように、左端へと寄る。
こちらの動きを見て取って、相手方も右へと寄った。
礼儀として会釈をし、真っ直ぐに正面を見る。
どうやら、無事にすれ違えそうだ。
「もし、そこを行く方々」
「…何か?」
焦りや驚きを押し殺して、なるべく平然と問い返す。
まさか、声をかけてくるとは思わなかった。
「ここでお会いしたのも、何かの縁です。よろしければ、何か買っていきませんかな?」
できるだけ関わりたくないのに、まったく、余計な提案をしてくれるな。
「せっかくですが…」
「じゃあ、商品を見せてもらえるかしら?」
「!?」
俺が断りの台詞を言う前に、セレノアが優雅に答えてくれる
「………」
一瞬だけレオンの目が釣りあがったが、何かを言う前に、ため息をついた。
「はいはい、喜んで」
満面の笑みでうなずき、その場に荷物を降ろして、皮袋の紐を緩める。
こうなったら、口を挟んだほうが面倒になるな。
まあ、少し見るぐらいなら、構わないか。
「これなんて、いかがでしょう?」
中から女受けしそうな小物入れの箱を取り出すと、こちらに向けてから、そのふたを開いた。
「ふぅん」
「わぁ…」
セレノアとアイシスが、それぞれに興味深い反応を示す。
細かく仕切られた中には、磨き上げられた石たちが、色彩豊かに輝いていた。
どうやら、加工して装飾品なんかにつける直前の原石らしいな。
ロウなら一目で良し悪しを見極めるだろうが、残念ながら、そんな真贋を見分ける目は備わってない。
まあ、相手を見る限り、本物を期待するのは難しそうだ。
「どうだい? お嬢ちゃんたち、買って行かないかい? なんと、寿命が延びる御守りだ。
 これさえ持ってれば、幸せになれること間違いなし、幸運まで呼び寄せるぜっ!」
周りにいる男たちが、気風のいい声で、漠然として曖昧なご利益を列挙する。
うさんくさいこと、この上ない。
「………」
男たちの動きに目をやりながら、周囲の気配を探る。
取り囲まれたりすれば、逃げるにも一苦労だからな。
セレノアたちのいる前で、手間取るような真似はしたくない。
「………」
レオンも商品には目もくれずに、俺と同じように辺りを索敵しているようだ。
アイシスとセレノアも、穏やかな表情の下ではきちんと臨戦態勢を維持している。
戦闘の苦手なファーナも、間合いに入らないためにか、十分な距離を取っていた。
誰もが、自分のやるべきことを心得ているな。
「もし、欲しい物があったら、言ってくれ」
財布と相談することになるが、きっと、買えない額じゃないだろう。
むしろ、大金を要求されるなら、そのほうが断る理由が出来て好都合だ。
「………」
真剣な顔で覗き込んでいたセレノアが、ゆっくりと首を横に振る。
「イマイチね、いらないわ」
「私も、いいです」
そう言い捨てると、二人は奴らからさっさと離れた。
「そっちのお嬢様は、どうだい?」
「またの機会に」
「そうかい、そりゃあ残念だ」
ファーナの素っ気ない返事にもめげずに男は笑って、広げた荷物を手早く片付ける。
「では、よい旅路を」
その一言と人当たりの良い笑みを残して、足早に離れていった。


来たときと比べてかなり速いのは、使った時間を駆け足で取り戻すつもり…だったらいいんだがな。
商売人にしては、口が下手だし、熱意もなかった。
そもそも、客の要望を聞かないで商品を見せ、それが気に入らなかったら終わりなんて、物を売るにしてはお粗末だ。
どうも、不審な点が多すぎて、嫌な予感がする。
「お兄ちゃん。今の人たちって…」
そこで、アイシスが言葉を区切る。
言っていいのかどうか迷っているのが、よく分かる。
「アイシスは、どう思った?」
「とっても嫌な感じがしました。クリアデルで悪だくみをしている人たちと同じ顔でした」
「よく気づいたな。俺も同じ意見だ」
本当に、いい目をしているな。
誰よりも早く、漠然とでも危険を感じ取っている。
「どうやら、あなたの直感が正しかったみたいね。さっきは、余計なことを言ってごめんなさい」
ファーナまでもが同意見だと、ほぼ間違いないな。
やれやれ、面倒なことになった。
「どういうこと?」
一人、話についていけないと言う顔で、セレノアが首を傾げる。
戦闘の洞察力はたいしたものだが、こういう日常のやりとりは、やはり馴染みがないみたいだな。
「たぶん、ここから進むと襲われる。余計なお世話かもしれないが、警戒しておいてくれ」
「襲われるって、誰に? さっきの連中?」
「もしかしたら、俺たちの思い過ごしかもしれないから、断言はできないが…。
 おそらくは、さっきの連中の仲間に…だろうな」
「? 話が読めないわね? じゃあ、さっきの連中も何かをしていたの?」
「言ってみれば、奴らが獲物を決めるわけさ。
 御守を買えば見逃し、買わないなら盗賊に襲わせる。
 それを数回繰り返すと、立派な御利益が出来上がるという手口だ」
石に神秘の力を宿すのは、並大抵のことじゃない。
だが、誰かが効力を演じてしまえば、それは、本当に魔力を秘めた石となる。
「野盗が二手に分かれたり、時には、商人と傭兵で組んだ自作自演まであるらしいですから。
 今のも、似たようなものでしょう」
街道だから目撃者も少ないし、誰かに助けを求めることもできない。
力ないものから無理矢理に奪い取る、あくどい手法だ。
何度も繰り返すために殺さないことのほうが多いらしいが、到底、救いとは呼べやしない。
「ふぅん、うまい方法を考えるわね」
「そもそもが、襲って勝てることが、大前提なんだけどな」
まさか、有色の魔族を相手にしようとしてるなんて、夢にも思わないだろう。
この外見を見て、下手をしたら騎士団以上のハズレだと分かれなんて、無理がある。
「来ましたね」
アイシスの一言に、手をかざして地平線の先へと視線を投げる。
長大な抜き身の剣を手に持っている、五人の男たち。
屈強と呼ぶには、身長に頼りすぎている気がするが、さっきの商人たちよりは戦闘向きだ。
「さすがは、戦場の最前点ね。退屈しなくていいわ」
「…俺のせいだっていいたいのか?」
「違うの?」
「俺を殺しても連中は楽しくないだろうし、金を持ってるようにも見えないだろ。お目当ては…」
「おそらく、私でしょうね」
わずかな動揺もみせずに、冷静な声で事実を告げる。
こちらに気取らせないようにしていたつもりだろうが、奴らの視線は、一番ファーナに集まっていたはずだ。
「使者として正装してきたのが、こんなところで裏目に出たわね」
奴らから見た俺たちは、貴族の箱入り娘と付き人、そして、その護衛…ってところだろうな。
取り囲めば力押しで倒せるだろうし、人数が十分に用意できるなら、隙をついて人質を取るのもありだ。
誘拐という手口なら所持金以上にも引き出せるし、連中からすれば、最高の獲物だろう。
「お二人には、不快な想いをさせてしまい、申し訳ありません」
「べつに、謝ってもらうほどのことじゃないわ」
「不測の事態というのは、よくあることだ」
この程度のことじゃ、レオンもセレノアも動揺の欠片さえ無い…むしろ、楽しんでいる節さえある。
さすがに、荒事には慣れているらしいな。
「さ、それじゃあ、行きましょうか」
連中が来るのを待とうと思っていた矢先、セレノアが奴らを出迎えるように、先頭を切って歩き出す。
特に何をいうこともなく、レオンもその後ろに並んだ。
「待ってなどいられない…か」
まったく、セレノアらしいな。
しかたなしに、早足でセレノアの隣に並ぶ。
「楽しそうだな」
「どの程度の力で盗賊なんてやってるのか、興味があるわ。グレイスだと、こういう命知らずが出て来ないのよ」
「だろうな」
もし、いたとしても、誰が好き好んで、魔族の王族なんていう相手と戦おうとするものか。
こいつらだって、分かってたら即座に逃げ出すだろうに。
まあ、罠にかかったと思って、存分に後悔してもらおうか。
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