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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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03章 気まぐれな依頼-2


【ティスト視点】

「傷を見せてください」
部屋まで戻ったところで、アイシスが真剣な顔でそう告げてきた。
指示されたとおりに、上着を脱いで腕を差し出す。
アイシスが、見覚えのある袋から、真っ白な布と包帯を取り出した。
「それ、ユイの道具か?」
「はい。お兄ちゃんは、怪我しやすいからって、お姉ちゃんが持たせてくれました」
俺の行動など、ユイは、全てお見通しか。
まったく、かなわないな。
「痛くないですか?」
「ああ」
小さな布で傷口を優しく血を拭ってから、新しい布を押し当てて包帯で固定する。
ユイの直伝か、本当にアイシスも上手くなったな。
腕へと走り抜ける痛みを、歯を揃えて噛み潰す。
そんな一番見られたくない表情をまじまじと見ていたセレノアが、盛大にため息をついた。
「ったく、初めから全力出してれば、ほとんど無傷で終われたのに。
 最初に手を抜く癖、さっさと直しなさいよ」
「…そうだな」
相手を見ることで無駄な力の消費を抑えて、必要なときのために力を温存する。
そして、戦うにしても逃げるにしても、使いどころを見極めて解放…というのが、俺の理想なんだが…。
こうも毎回怪我をしていると、セレノアの言うとおり、少し戦い方を見直すべきかもしれないな。
「ま、でも、ティストの場合、それ以上に問題な場所があるわね」
思わせぶりな口調で言葉を区切り、セレノアが笑う。
どうやら、俺とジャネスの戦いを見て、何かを見抜いたらしいな。
俺とアイシスの問いかけの視線を受けて、満足そうに微笑んだ。
「聞きたい? ティストの欠点」
「ああ。後学のために、ぜひとも教えてもらいたいものだな」
完璧などと自惚れるつもりはないが、戦闘に関しては、なるべくかたよりを減らしたつもりだ。
こうもはっきり欠点と言われるものがあるなら、ぜひ聞いておきたい。
「ティストに足りないもの。それは…」
俺を射抜くように、セレノアの人差し指が突きつけられる。
眼前に迫ったその細い指先に、淡い桃炎が灯った。
「魔法よ」
そう告げて、小さな炎を吐息で吹き消す。
吹けば飛ぶような威力と揶揄されている気がするのは、考えすぎか?
「有色の魔法に比べれば見劣りするかもしれないが、苦手というわけでもないんだがな」
「技は、そう悪くないわよ。
 重ねがけして足りない威力を補うなんて、理屈で分かっいてもそう簡単に出来るものじゃないわ。
 問題は、威力よ」
見本を見せるように、セレノアの手のひらへ収束されていく、強大な力。
真っ向から対峙することはできなくても、軽減や回避なら、不可能じゃないはずだ。
「俺の魔法じゃ、足りないか?」
「ジャネスの拳なら、止められたわね。でも、ガイ・ブラスタの拳で、同じことができる?」
「そういわれると、返す言葉がないな」
何重に張り巡らせたところで、俺の魔法では、あの巨拳を止められるとは思わない。
そう考えるなら、たしかに威力不足なのだろう。
「魔法…か」
見栄を守るためだけのくだらない口答えを止めて、真剣に考える。
体術と比べれば、時間をかけていなかったし、鍛えてみる価値はあるな。
今までは、あくまでも、刃を振るう自分の援護に使っていた。
それに、昔の俺には、ダガーで応戦しながら魔法を収束なんて器用な真似ができなかったからな。
今ならば、もう少し上手に立ち回れるはずだ。
「お邪魔していいかな?」
会話が一区切りするのを見計らったように、ふすまが横に開く。
お付きの二人を従えて、足音を立てずにレオンが中へと入ってきた。
「魔族の王からも、批評を聞かせてもらえるのか?」
「残念だが、私は、セレノアの用に甘くないよ。
 それに、自分で手間暇をかけて料理を作るよりも、出来上がった料理を楽しみたいのでね」
まだまだ、レオンを唸らせるには、足りないらしいな。
ガイといい、本当に、魔族の王たちは、化け物ぞろいだ。
「まあ、冗談はさておき、素晴らしい闘いだったよ。奴にも、いい経験になっただろう。
 ガイとの闘いを経て、一段と熟成されたようだね。戦闘の全てに、深みが増している。
 もう少し苦戦するかと思ったが、これほどまでに一方的とは…ね」
「評価してくれるのは嬉しいが、そこまでの余裕はなかったな」
負った怪我だけを見て評価できるほど、甘い戦いじゃなかった。
一つでも直撃していたら、骨が砕けていただろうし、そうなれば、勝てる保証などない。
「で、俺が勝ったことで、何があるんだ?
 単に力比べをさせてみたかったわけじゃないんだろう?」
「………」
俺の問いに、レオンが両手を地に着いて、頭を下げる。
突然のことに反応できずにいた各々の表情が、数秒を経て、ようやく驚きに染まった。
「ち、父上!? いったい、何を…」
「黙っていなさい」
鋭い声で叱責した後に、レオンがその顔を上げる。
そこには、いつもの笑顔がなかった。
後ろでレオンと同じように頭を下げているところを見るに、お付きの二人は、事前に知らされていたらしいな。
「貴殿に、頼みがある」
その真剣な声に答えるべく、居住まいを正す。
セレノアが教えてくれた、正座…だったかな? この席なら、これが一番相応しいだろう。
俺に合わせるように、アイシスとセレノアも姿勢を正した。
「続きを、聞かせてもらえるか?」
「我が種族の食糧は残りわずか、すでに死の淵まで追いやられている。
 だから、ロアイスの庇護を我々に与えてもらえるように、申し入れたい。
 そのために必要であるならば…」
言葉を区切り、レオンが息を大きく吸い込む。
それに吸い寄せられるように、全ての意識がレオンの口元へと集中した。
「我々魔族は、ロアイスに服従を誓う」
ゆっくりと告げられた重々しい言葉に、衝撃が全身を駆け巡る。
服従? ロアイスに? 魔族が?
単語へと区切って意味を再確認し、事の重大さを実感する。
それは、前大戦の終結と共に、かろうじて保っていた各国の均衡が崩れるということだ。
「だから、どうか助けて欲しい」
もう一度、あのレオン・グレイスが地面に額がつくほどに、深々と頭を下げる。
どうやら、これが俺とアイシスを連れてきた、本当の理由らしいな。
「頼むから、顔をあげてくれ。そして、いくつか聞かせてほしい」
「ああ。答えられることならば、なんでも答えよう」
ようやく顔だけをあげると、まだ前傾の姿勢のままで、俺と視線を合わせてくれる。
その押し迫られるような感覚を無視して、さっきから疑問に思っていたことを口にした。
「どうして、こんな回りくどいことをしたんだ?
 最初から話してくれれば、別に協力を惜しむつもりはなかったのに」
「知らない者に助けてくれと言われても、本気になれないだろう?
 だから、魔族を知ってもらったのだ」
あえて、情報を何も与えなかったのは、こちらの先入観を無くすため…か。
たしかに、ここに来てすぐに話を聞くよりは、効果的だったと思うな。
たったの二日とはいえ、顔を合わせ、言葉を交わし、一つ屋根の下に泊まったんだ。
その関係は、親密というには足りないが、他人というほど希薄ではない。
「それと、もう一つ。なぜ、俺とジャネスが闘う必要があったんだ?」
いくら考えてみても、今の話とさっきの戦いが、どうしても話として繋がらない。
あれによって、何を得られたのか、何が変わったのか、それが知りたかった。
「実際に刃を交えた君なら説明するまでもないだろうが、ブラスタの名は、魔族にとっても畏敬の対象でね。
 ブラスタの一族に打ち勝ったとなれば、君を認めないものなどいない。
 ガイとのときには、いろいろと他の要因も重なったが、今回は、正真正銘の一対一だ。
 異論を差し挟む余地など、どこにもない」
「なるほどな」
つまり、レオンの後ろで控えているレイナとサリに、そして、同じ意見を持っている連中を納得させるためだったわけか。
魔族のために動くというのに、仲違いをしてしまっては、元も子もない。
「やれやれ、いいように踊らされたわけか」
イスク卿のときといい、俺は、どうも操られる側に回ることのほうが多いな。
降りかかる火の粉をどうにか払っているが、このままだと、キリがなさそうだ。
もう少し、大局を見る癖をつけたほうが良いのかもしれないな。
「黙っていたことは、すまないと思っている。しかし…」
「いいさ、別に大した怪我もなかったしな」
俺達を殺そうという悪意からではなく、国を思っての行動なのだから、責めたところで意味はない。
それに、この話は、ロアイスにとっても悪いことではないはずだ。
だったら、俺の機嫌だけで国と国の関係を壊してしまうのは、あまりにも馬鹿らしい。
「最後にもう一つ、これは、興味本位で聞かせてくれ。
 もし、俺が断ったとしたら、どうするつもりだ?」
ずるい聞き方かもしれないが、こうして聞いておけば、ロアイスが断ったときの動きも分かるはずだ。
それもあわせて知らせたほうが、お互いにとって効果的だろう。
「そのときは、ブラスタと手を取り、もう一度、立ち上がるだけだ。
 飢えて死ぬのは、本意ではないのでね」
予想していた答えなのに、レオンの口から聞くだけで、全身に震えが走る。
それは、あの忌まわしい前大戦を、もう一度引き起こすと言っているようなものだ。
「分かった、出来る限りのことはしよう」
「よろしく、お願い申し上げる」
「あまり、過度な期待は持たないでくれ」
さすがに、種族の命運を背負うような真似はできない。
俺にできることなんて、使い走りの伝令がいいところだ。
「まずは、ロアイスに戻って、連絡を取るところからだな」
ユイを経由して、ファーナに相談してみるか。
リースやライナスにも通じているだろうし、師匠たちの耳にも入るだろう。
後のことは、正直に言って俺では口を出せないし、判断を任せるしかない。
「だったら、明日の朝には発つかな」
こういうことは、どうせ待たされる時間が長いんだから、行動は早いほうがいい。
さっきの傷なら、歩くのに支障もないだろう。
「魔族の領地を抜けるまで、誰か一人ついてきてくれないか?」
いくらレオンが許しているとはいえ、魔族の領地を人間だけが歩いているのは、さすがに問題だろう。
下手に揉め事を起こさないためにも、国境近くまでは、誰かに送ってもらったほうがいい。
「しょうがないわね、アタシが行くわ。
 ティストは怪我してるし、二人だけじゃ、道に迷うかもしれないんだから。
 その点、アタシがいれば安心でしょ?」
「ならん」
セレノアの提案を、レオンが一言で切り捨てる。
「なぜですか?」
「どうせ、その後もふらふらと遊び歩くつもりだろう?
 お前のことだから、調子に乗って人間の領地に入るかもしれんしな」
「…そんなこと、ありません」
図星なのか、一瞬の間を空けてからセレノアが反論に出る。
だが、レオンは、取り合うつもりはないらしいな。
「お前の嘘ぐらい、私が見抜けんと思うか?」
「なぜ、嘘だと決め付けるのですか?」
交わすのが、言葉から殺気へと移り変わる。
本当に、何もかもが力ずくで決まるんだな。
レオンの心配する気持ちも分かるが、抑えつけられるセレノアも、さすがに可哀相だ。
こうまでされると、反発したくなる気持ちも分からなくはない。
レイナとサリが、静かに部屋の隅まで避難したところで、互いの殺気がより濃密に混ざり合う。
やれやれ、派手な親子喧嘩になりそうだな。
「あの…」
突然の声に、場の全員がアイシスを振り返る。
戸惑うような表情で周囲を見た後に、おずおずとアイシスが口を開いた。

「お兄ちゃんがロアイスへ行って帰ってくるまでの間、ここに残ってもいいですか?」

その一言で、部屋の中にあったすべての殺気が霧散する。
戦おうとしていたレオンやセレノアでさえ、驚きのあまりに拳を解いていた。
「お兄ちゃん、いいですか?」
「そうだな。向こうでやることも特にないしな」
残していくのに不安がないと言えば、嘘になる。
だが、十分に怪我の治っていない俺と行動を共にするよりは、いくらか安全かもしれない。
「レオンやセレノアが許してくれるなら、アイシスの好きにしてくれ」
アイシスの意図に沿うように、言葉の矛先を二人に向けてやる。
戦意の削がれた二人が視線を交わし、レオンが咳払いをしてから前へと出た。
「いや、しかし…いいのかね?」
「はい」
あいまいな問いに、アイシスがはっきりとうなずいて返す。
そして、セレノアのほうへ向きなおると、丁寧に頭を下げた。
「お兄ちゃんが戻ってくるまでの間に、セレノアさんに私のことを鍛えてほしいんです」
「アタシが!?」
「お願いできませんか?」
申し訳なさそうな顔で、アイシスが問いかける。
対して、セレノアは、何かを考えるように絶句していた。
「…はぁ」
やがて、大きくセレノアが息をつく。
降参と顔に書いてあるのが、はっきりと分かった。
「あーもー、しょうがないわね。アタシの奥義、全部教えてあげるから覚悟しなさいっ!」
「はいっ!」
これで、無事に全てが解決…か。
まったく、アイシスの機転には驚かされるな。
こんな方法でケンカの仲裁ができるなんて、考えてもみなかった。
「ふぅ…」
助かったと言わんばかりに、レオンが息をつく。
そうして、俺の目を見て、小さく頭を下げた。
礼は、アイシスに言ってほしいところだな。
「で、結局のところ、誰が来てくれるんだ?」
「サリが…」
「姉さんが…」
相手を推す声が重なり、続けようとしていた言葉を止めて、互いが睨みあう。
こうまで拒否反応を見せられると、いっそのこと清々しいな。
「俺は、誰が一緒でもかまわない。明日の朝までに決めておいてくれ」
それだけ言って、話が終わりだと示すように、立ち上がる。
これ以上、面倒な話に付き合いたくもない。
それに、口を挟めない言い争いなど、聞いたところで不愉快になるだけだ。
「………」
何の合図も送らなくても、俺に寄り添うように、アイシスも立ちあがってくれる。
ここまで周囲に目を配って、意志の疎通を図らなくても動けるのは、本当に助かるな。
「なに? どこかに行くの?」
好奇心に輝いたセレノアの両目が、しっかりと俺を捕らえている。
ここに残っても居心地が悪いだろうし、一緒に連れ出したほうがいいか。
「暇なら、セレノアも付き合ってくれ」
「暇って、あんたねえ…」
釣り上げた目を、ため息と供に降ろす。
どうも、適切な反論が見つからなかったみたいだな。
「ま、べつにいいけど、何するつもりなのよ?」
「弱点を指摘されて、捨て置けるほどの度胸は、ないんでね。もちろん、魔法の訓練だ」
危険要素は、出来る限り早急に潰すべきだ。
それに、今日の数時間程度の訓練が、成果に直結するとは思えない。
なら、せめて開始ぐらいは、早いほうがいいだろう。
「だったら、教えてくださいでしょ? まったく…」
そんな愚痴をこぼしながらも、セレノアが軽やかに立ち上がる。
まるで、逃げ出すタイミングを探していたような軽快さだ。
「これで、失礼する」
残された三人に頭を下げて、部屋を後にする。
ふすまを閉める前に、俺と目があったレオンが、盛大にため息をついた。
+注意+
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