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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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03章 気まぐれな依頼-1


【ティスト視点】

早々に食事を済ませて迎えた、約束の正午。
セレノアに連れられるままに城の外へ出ると、既にレオンたちが待っていた。
「よく来てくれたね」
サリとレイナを従えて優雅に笑うレオンには、敵意の欠片も見受けられない。
だが、もし本当に何もするつもりがないならば、城の中を選んだはずだ。
ここに呼び出されたということは、やはり、覚悟していたとおりの展開らしいな。
「で、何をするつもりだ?」
「………」
アイシスと共に、ダガーへ手をかけて問う。
これだけの実力者を相手に囲まれては、勝ち目などないに等しい。
だが、おとなしく死んでやるつもりもない。
目的を勝利ではなく逃走に変えれば、可能性は十分に残されているはずだ。
「そう慌てないでくれ。後、数十秒で到着する」
そういって、腕をあげたレオンが彼方を指差す。
「到着? …?!」
指し示した方角には、見上げるほどの大きな砂嵐。
あれを待っていた? いや、違うな。
「これ…足音?」
「らしいな」
俺とほぼ同時に気づいたのか、アイシスが小さくつぶやく。
あの竜巻と一緒に近づいてい来る、地響きのような音。
どうやら、あれは自然に起きたわけじゃなく、誰かが蹴散らして出来たわけか。
どこの誰だか知らないが、とんでもない脚力だな。
「!」
砂の中から黒い影が飛び出し、天高く舞い上がる。
轟音と共に俺たちの眼前へ着地すると、反動で周囲の砂塵が巻き上げられた。
「チッ」
アイシスの隣で手のひらをかざし、風の魔法で砂を払う。
確保した視界の中では、見覚えのない少年が、俺たちへと向かって疾駆していた。
あの竜巻の主は、奴らしいな。
何が目的か分からないが、友好的だとは思えないな。
アイシスの前に出るべきか一瞬だけ迷い、結局、その場でダガーを抜く。
あれだけ成長したのに、いつまでもアイシスを対等に扱わないのは、かわいそうだ。
「………」
俺という盾など必要ない、庇われるだけの自分ではない。
ダガーを抜き、水を練り始めたアイシスの横顔が、そう告げていた。
「来るぞ」
「はい」
最低限の意志疎通を済ませ、眼前の敵に意識を集中する。
「水よ」
アイシスの水の魔法が、相手を包囲するように半円を描く。
幅も高さも大したことはないが、強度だけは、なかなかのものだ。
奴の行く手を遮って、突進の速度を殺すつもりだろうな。
避けるなら、上か…それとも横か。
それを見てから、より遠い方へと避ければいい。
「!?」
突き出された腕に振り払われ、水が粉々に弾ける。
飛沫へと変えられた水の魔法は、盛大に辺りへと飛び散った。
わずかに鈍った速度が、数歩で元へ戻る。
あの威力を、完全に無視してくれるか。
「くっ…」
アイシスが横へと飛び退いても、進路は変わらない。
「狙いは俺…か」
なら、好都合だ。
「風よ」
刹那で引き出せる力を風の魔法にして、奴の前に展開する。
振り上げられた拳が風の盾に突き立てられ、剣戟にも似た高音が耳を刺す。
一枚では、まるで足りないな。
力負けを肌で感じて、破られる前に次の行動を始める。
「なら、こうだ」
魔法の維持を左手に任せて、右手に新たな魔法を収束。
破られる数瞬前に、間隔を狭めた壁を幾重にも連ねる。
「おぉぉぉっ!!!」
少年の雄叫びが上がると、俺に掛かる負荷が一気に増す。
こちらの防御には一向にかまわず、右の拳をぐいぐいと前に押し込んできた。
「くっ…」
歯を食いしばり、魔法の発動に全力を注ぐ。
決して退かず、避けも受け流しもない。
真っ向から、捻じ伏せる。
「はぁぁぁっ!!」
「おぉぉぉっ!!!」
互いに声を張り上げ、力を振り絞る。
数秒間の押し合いの末、甲高い音と共に力が拮抗した。
俺の顔面に迫っていた拳は、吐息が掛かりそうなほどの距離。
手を開けば、指先が前髪まで届いていただろう。
まさに、かろうじて…だな。
「………」
「………」
拳を押し止めて歪む大気の先、刺すような眼光を正面から睨み返す。
その眼光は、どこかで見たような気がする。


アイシスの隣に飛び退いてから、魔法で作った風の壁を消し去る。
絡みつくような視線が、俺の後を追いかけてきた。
「へへっ」
アイシスと一緒にダガーをかまえると、その笑みがさらに深くなる。
表情の意味を問うまでもない。
今までにも、この手の戦闘が楽しくてたまらないという好戦的な笑顔は、飽きるほどに見てきた。
「………」
殺気に気後れしないように、油断なく相手を観察する。
こうして止まったところを見てみると、かなり小柄だな。
身長だけなら、セレノアやアイシスといい勝負。
筋肉は十分についているが、それにしたって、各所にまだ幼さが残っている。
それであの破壊力というのは、末恐ろしいが…な。
「こいつは、おもしれえ」
身体を震わせて、奴が全身についた水をふるい落とす。
四つ脚ではなく、ちゃんと二足で立って歩いているが、中身は、獣と変わらないな。
全てを本能に委ねて生きているのが、その立ち居振る舞いからにじみ出ている。
「まさか、俺の一撃が完璧に止められちまうとはな」
「たいした速度だが、不意打ちにしてはお粗末だったからな。
 煙幕に紛れても馬鹿正直に直進するだけじゃ、そうそう当たってくれないだろう」
「へへっ。だったら試してみようぜ。次は当ててやるからさっ!!」
膝を折って足を縮ませてから、反動で一気に飛び込んでくる。
「チッ」
ダガーを握る手に力を込め…。
「この無作法者め」
俺の元へ到達する前に、急接近したレオンの拳が、後頭部を直撃する。
抗うこともできず、奴は無様に地面へと叩き落された。
あの速さの突進を、横合いから正確に潰す…か、恐ろしいものだな。
「いってえー」
「まずは、遅れてきたことへの謝罪が先だろう?」
「いいじゃねえかよ。ちょっとぐらい多目に見ろよ」
「まったく…」
珍しく不機嫌そうにつぶやくと、レオンが腕を払う。
立ち込めていた砂が消え去るのにあわせて、距離を取る。
今度は、さっきのようにこちらへと視線を向けてこなかった。
にしても、あのレオン・グレイスを相手に、ずいぶんと親しげに話すな。
傍から見ていると、旧知の仲らしいが…。
「誰なんだ?」
「見れば分かるでしょう? ただの馬鹿よ」
それ以上の返事を避けるように、セレノアが、俺からも視線をそらす。
どうやら、あんまり仲は良くない相手らしいな。
「朝に来いと伝えて、この時間か。時間を守れと言っておいたはずだが?」
「いいだろうがよ、来たんだから」
レオンの説教に耳を貸さず、殺気が一段と高まっていく。
一瞬でも隙があれば、即座に飛び込んできそうだ。
「これで、待ち人が来たわけか?」
「ああ、待たせてすまなかったね」
「さあ、続きをやろうぜ?」
詫びるレオンを無視して、拳を俺に突きつけてくる。
問いかける割には、俺の返事など気にせずに始めそうな勢いだ。
「待てと言っているだろう?」
「なんでだよ? こいつが戦場の最前点なんだろ?」
思わぬ呼名が飛び出して、ぎょっとしてしまう。
俺のその名前は、魔族の中でも有名なのか。
「それでも、待て。物には順序があると前にも教えただろう?」
「忘れたね」
怒気を孕んだレオンの声を平然と受け流し、俺を睨みつける。
その目には、戦いを前にした狂喜が宿っていた。
「俺の自己紹介は、いらないらしいが…名前ぐらい名乗ってくれないか?」
「ジャネス・ブラスタだ」
面倒くさそうに告げられた名前に、背筋が凍る。
「それって…」
表情を強張らせたアイシスが、うかがうように俺を見る。
ブラスタは、国の…そして王族の名前。
それを冠しているのなら、答えは一つしかない。
「ガイの息子…か?」
「そういうことだ」
尊大にうなずき、ジャネスが腕を組んで見せる。
「なるほどな」
「言われてみれば、たしかに似てるところもありますね」
鍛え抜かれた強靭な肉体からは、抑えきれないほどの力を感じる。
小柄な体躯に、これほどの威圧感が込められるなら、十分だろう。
だが、あの重厚な威圧感を出すには、年期が足りないな。
「さあて、これで手順は踏んだんだよな?」
「まあ、な」
「じゃあ、行こうかっ!!」
さっきと同じように砂煙を引き連れて飛び込んでくるが、今度は、レオンも止めようとしない。
とっさに横へと飛びのくと、それが分かっていたように距離をつめてきた。
「まだ、話はあるんだがな」
「うらぁぁあっ!!」
俺のぼやきには聞く耳を持たず、代わりに拳が返される。
どうあっても、戦いたくてしょうがないみたいだ。
避ける方向を調整して、視界にレオンが収まるように回り込む。
あごに手を当てて、すっかり物見の姿勢だ。
周りの取り巻きたちも、和やかに笑って俺を見ている。
「これが、俺にやらせたかったことか?」
「そうだ、楽しんでくれたまえ」
「チッ」
「へへっ、そういうことだっ!!」
こんな嬉しそうな顔をしている奴に、止まるように説得しても無駄だろうな。
仕方ない、レオンの思うように踊ってやるか。
「お兄ちゃんっ!」
「大丈夫だ。俺一人でいい」
臨戦態勢のアイシスを左手で制し、周囲に向けていた注意をジャネスだけに集中させる。
セレノアより年下に見えるが、たいしたものだ。
ここまで作り込まれた肉体は、なかなか拝めないな。
問題は、あれだけの力をどうやって封殺するか…だな。
「どうしたっ!? 攻めてこいよっ!!!」
繰り出される拳を回避して、距離を取る。
俺の動きなど気にした風でもなく、また同じように近づいてきた。
まるで、防御を考えていないな。
直線的な動きと渾身の大振り、当然ながら無駄は多い。
だが、速い。
「チィッ」
昨日の髪解き組み手の要領で、適度な距離を維持する。
そんな俺を食い殺そうという勢いで、ただひたすら真っ直ぐに突進を繰り返す。
猪突猛進もいいところだ。
「ッ!!」
肩へと蹴りをあて、その反動で間合いを保つ。
太もも、わき腹、防御がおろそかなところを見つけては、様々な角度で蹴りこむ。
「へへっ、効かねえよ」
どんな攻撃を当てようと、ひるむことなく、己の拳を突き出してくる。
全ての攻撃が、相打ち覚悟。
結果として、相手のほうが先に倒れればいいという考えだろう。
捨て身でもない限り、普通なら絶対に選ばない戦法だ。
そんな無茶を可能にしているのは、鍛え抜かれた身体だからこそ身に付いた、驚異的な打たれ強さだ。
必要最低限の防御しかしない姿なんて、本当にそっくりだ。
「本当に、親子…だな」
ガイとの戦いの最中には、そこまで分析する余裕がなかった。
「………」
攻撃を避け続け、じっくりと観察する。
あれだけの能力があるなら、もっと効率のいい立ち回りは、いくらでもある。
それでも、ただ馬鹿正直に全力攻撃を繰り返す。
それが、ブラスタの流儀か。
大振りで繰り出される拳には、主の全てが込められている。
手の内が分かっていても、あの突進を止めるのは、一苦労だな。
正面からぶつかれば、文字通り、骨が折れそうだ。
「さて…」
この程度の攻撃では、どんなに蓄積させようと倒せないだろう。
様子見は、終わりだ。


「ッ!!」
余裕を持って回避し、無防備に突き出された腕へ、ダガーの切っ先を滑らせる。
「っ!?」
皮膚で押し止められ、刃が奥まで通らない。
ったく、馬鹿げてるな、なんて硬さだ。
「そんな腑抜けた攻撃で、俺が切れるかよっ!」
「チッ」
悠々と打たれた反撃が俺の左腕をかすめ、そこから血が滴り落ちる。
傷は浅い…が、何度も受けられるような威力じゃないな。
にしても、筋肉でダガーを受け止めるとはな。
打たれ強さは、もう一級品か。
「いつまで遊んでるのよ? 退屈で死にそうだわ。
 それとも、その程度で全力なわけ? だったら、アタシが代わってあげるから、退きなさい」
「その気遣いだけ、ありがたくもらっておくよ」
辛辣な言葉で浴びせられたセレノアからの激励に、余裕を持って軽口で返す。
考えてみれば、これも御前試合だったな。
いつまでも、無様な真似を見せるわけにはいかない。
「さて、続きといこうか?」
「いいねえ。俺が見たかったのは、その顔だっ!!」
予想通りの突進にあわせて、こちらも前へと踏み出す。
互いに奪い合うように詰められた距離は、さっきまでの数倍の早さで消えた。
「はぁっ!!」
今度はしっかりと体重を載せて、一撃に力を込める。
切っ先が肌を切り裂き、刻まれた傷から血が滲み出る。
「らぁっ!!」
鮮血を撒き散らしながら、かまわずに拳を繰り出す。
その動きは、わずかも鈍っていない。
奴の頭の中には、明日どころか、この戦いの後すら存在していないだろう。
退くことを知らず、守ることを忘れ、ひたすらに前へと突き進む。
俺には、決して真似できない戦闘方法だ。
「おらあああぁっ!!」
何をしても、奴は、戦意喪失なんてことにはならないだろう。
だったら…。
「倒れるまで付き合ってやる」
「おもしれえ」
犬歯をむき出しにして、豪快に笑う。
「ッ!!」
足を止めずに刃を閃かせ、次々に斬撃を叩き込む。
さっきまでのような防御を重視した足運びとは、まるで違う。
ただ、一刀に十分な体重を乗せるための、攻撃的な踏み込み。
「へへっ」
薄笑いを浮かべ、ジャネスも俺にあわせて拳を振るう。
刃と拳が交差する度に、体温が上がっていく。
戦いでしか得られない熱が、全身を包みこんでいった。



「はぁ…っぅ…はぁっ…」
「くっ…はぁっ…はぁ…」
互いに呼吸が乱れ、それを相手よりも早く整えることに全力を注ぐ。
まったく、なんて奴だ。
全身の至る所から血を吹き出し、それでも、顔色一つ変えやしない。
痛みも疲れも、全部忘れてるだろうな。
やはり、決め手がいる。
あいつの動きを止められるだけの、深手を負わせられるような一撃が必要だ。
「試してみるか」
レジ師匠から教わった、一撃を極限まで高める技法。
間合いが極端に狭いため、使える場面は限られるが、その威力は絶大だ。
真正面からの突進を迎撃するなら、打ってつけだろう。
呼吸を制御し、普段よりも深く、長い物へと意識して切り替える。
弓を引き絞るように、己の力を一点へと収束させていく。
「へへっ、すげえ力だな。面白えっ!!」
「うおぉぉぉおぉおおおぉぉっ!」
極限まで高めた集中力が、時間の流れを引き延ばしたように錯覚させる。
迫り来る奴の姿を目で、咆哮と足音を耳で、しっかりと捕らえる。
残りの距離からタイミングを予測し、呼吸を合わせていく。
「ッ!!」
「ッ!!」
振りかぶる瞬間は、鏡に映したように同時。
砕けてもかまわないくらいの覚悟で、歯を食いしばった。
姿勢が崩れるのも厭わずに、一刀に全ての力を乗せる。
俺の剣速が、奴の拳速を陵駕した。
「くっ!!」
肩口を狙って振り下ろしたダガーが、軌道を変えた奴の腕に阻まれる。
手のひらに伝わってくる、たしかな手応え。
肉を裂き、骨に届くのを感じながら、頭に描いたとおりの太刀筋でダガーを振り抜いた。
「くっ…うっ…」
手のひらで傷口を押さえて、出血を止めようとしているジャネスが、膝をつく。
今までの疲労が、まとめて押し寄せてきたみたいだな。
「終わりだな」
ダガーを一振りして血を払い、鞘へと収める。
座ることさえままならず、地面へと倒れこんだジャネスからは、さっきまでの覇気が消えていた。
「くっそ…なんなんだ、今のは。気づいたら、身体が勝手に動いてやがった」
大の字に倒れて悔しげにうめくジャネスの横に、レオンが歩み寄る。
出血の酷い腕を取ると、傷口を布できつく縛り上げた。
「まったく、本能に助けられたな。もし、あのまま相打ち狙いで行けば、命はなかっただろう」
「俺が、防御させられた…ってわけか」
「そういうことだ」
力任せに何重にも布で抑える、強引な止血。
なんとも魔族らしい応急処置だな。
「治療をするなら、部屋に入れたほうがいいんじゃないか?」
傷口へ砂が入り込めば、それだけ治りが遅くなる。
あれだけ深い傷だったら、もう少し気を使ってやるべきだ。
「なに、そこまでする必要はないさ。迎えも来ていることだしね」
言葉の意味が分からず、レオンの視線を追う。
風で舞い上げられた砂が視界を潰す、その向こうに…。
「…ッ!?」
まるで岩のように、ガイ・ブラスタがたたずんでいた。
まさか、これだけ近づかれて気づかなかったなんて…。
「チィッ」
舌打ちとともにダガーに手をかけ、精一杯に距離を取る。
「お兄ちゃんっ!!」
わずか数秒で、ダガーを引き抜いたアイシスが俺の隣に滑り込んだ。
本当に、どんなときでも臨機応変に動けるようになったな。
「………」
油断なく構えたアイシスが、水の魔法を練り上げる。
しかし、二対一であろうと、状況は絶望的だ。
万全の状態ならまだしも、連戦で、どうにかなるような相手じゃない。
「やめておけ」
左手を前につきだして、臨戦態勢の俺たちを制する。
戦うつもりはない…ってことか?
注意深く見つめる俺とアイシスを無視して、ジャネスの元へ歩く。
そして、処置を終えて立ち上がるレオンの横に並んで、足を止めた。
「どうだったね? 我が子の成長ぶりは?」
「善戦しようが、負けは負けだ」
辛辣な言葉とともに、ガイが背を曲げてジャネスを覗きこむ。
「親父」
「満足したか?」
「…負けたのに、するわけねえだろ」
「だったら、強くなるんだな」
そう言い切ると、話は終わりとばかりに、身動きが取れなくなったジャネスを肩へ担ぐ。
あれが、ガイ・ブラスタの父親としての顔なのかもしれないな。
「これで、文句はないだろう?」
「ふん。後は任せる」
「ああ」
それだけ言葉を交わして、ガイが歩き出す。
数歩だけ進んだところで足が止まり、こちらを振り返った。
「ティスト・レイア」
「アイシス・リンダント」
それぞれにしっかりと目を合わせて、低い声で名前を呼ばれる。
攻撃ではない思わぬ不意打ちに、何を返せばいいのか分からない。
「いい戦いだった」
今の戦いへの賞賛かと思ったところで、自分の勘違いに気がつく。
それならば、アイシスの名前は呼ばれないはずだ。
奴がそう評したのは、前回の、あの命を賭けた戦いのことだろう。
捨て台詞のようにそれだけ言い置くと、奴が歩みを再開する。
「すごい回復力」
アイシスがぽつりと漏らした言葉を確かめるために、その背中をじっと見つめる。
遠ざかる後姿には、怪我をしたときにできる独特の違和感が、まるで見られない。
筋肉で盛り上がった背中には、見る者を圧倒するだけの迫力があった。
治癒の魔法も無しに、この期間であの傷を克服したのか。
だとしたら、恐るべき回復力だな。
砂にまぎれて見えなくなるまで、黙ってその背中を見送っていた。
+注意+
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