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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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02章 気まぐれな稽古-1

【ティスト視点】

自然とまぶたが開き、薄暗い部屋の中で意識が覚醒する。
視界の中には、いつもより、はるかに遠い天井があった。
「結局、何もなかったな」
野営のときと同じくらいに周囲へと意識を向けていたが、何も起きなかった。
いつでも動けるようにと警戒していたのに、無駄になったな。
まあ、寝込みを襲うなんて小細工も必要ないか。
今の俺たちを殺したいなら、レオン・グレイスが出てくるだけで事足りる。
「………」
隣で寝ているアイシスを起こさないように注意して、半身を起こす。
隙間から入りこんでくる風が冷たかったのか、アイシスは、俺のほうへと寄り添ってきた。
すぐそこにあるアイシスの柔らかな髪に手を伸ばし、優しく頭を撫でる。
穏やかな寝息を立てているアイシスは、されるがままになっていた。
「やっぱり、連れてくるべきじゃなかったかな」
気持ちよさそうな寝顔を見ていると、胸の奥から後悔が染み出してくる。
ここで何か起きたら、守りきれる自信はない。
「お兄ちゃんがなんて言っても、私は、これからも一緒についていきますよ」
突然の返事に驚いて、アイシスの顔を見る。
そこには、悪戯を成功させた楽しげな笑顔があった。
「おはようございます」
「なんだ、起きてたのか?」
「私だって、そこまで鈍くありません」
「そうだな」
俺が頭に触れても分からないようじゃ、いくらなんでも困る。
「よく眠れたか?」
「はい。暖かくて、柔らかくて…すごいですよね、これ」
感心したように、アイシスが優しくベッドを撫でる。
たしか、用意してくれたセレノアは、布団って言ってたな。
俺たち二人の全身を包んでも、なお余るほどの大きさ。
上と下で違う素材を使っているのか、下はしっかりと、上は優しく、俺たちを包みこんでくれた。
手触りは上質な布なのに、毛皮以上の暖かさを持っているのだから不思議だ。
詰められている物に、秘密があるのかもしれない。
「それに、綺麗ですよね」
描かれた鮮やかな花を見て、アイシスが嬉しそうに笑う。
たぶん、ユイも似たような反応をするだろうな。
魔族の基準は分からんが、やはり、女性向けだと思う。
もし、みんな同じような柄なら、レオンやガイもこれを使ってることになる。
「………」
「お兄ちゃん?」
「いや、なんでもない」
くだらなく、おぞましい妄想を捨てさる。
この部屋の持ち主は、いったい誰なんだろうな?
「さて、支度が出来次第、訓練に行くぞ」
「お兄ちゃんは、大丈夫なんですか?」
「ああ。今日は、気分よく動けそうだ」
ここまで歩いてきた疲れは、一晩寝たら、すっかり消えていた。
暖炉もない冷え切った部屋で熟睡できた理由は、この布団と…あの特殊な風呂のおかげかもな。
さすがに治癒の魔法には及ばないが、あの湯も、たいした効果らしい。
「前にも言ったけど、もうほとんど傷は癒えてるんだ。鈍った身体を慣らせば、元通りになるさ」
それに、休んでいられるような状況場合じゃない…と、心の中で付け足す。
ガイとの一戦で、己の実力不足を嫌というほど思い知らされた。
目指すべき上がまだまだいるのだから、現状維持では、まるで足りない。
「分かりました」
渋々といった感じで、アイシスがうなずく。
俺に対して過保護なところは、ユイに似てきたのかな。
「さて…と」
戸に手をかけて、ゆっくりと横へ滑らせる。
押すでも引くでもないドアっていうのは、慣れないな。



「おはようございます」
「っ!?」
直立不動のサリが唇だけを動かして迎えてくれる。
声をかけられたアイシスは、部屋の中に飛び退いて身構えた。
どうやら、監視されてるのに、気づいてなかったみたいだな。
アイシスに、言わなくて正解だった。
下手に意識したら、眠れなくなりそうだからな。
「おはよう」
見回しても、もうひとりの姿は見えない。
どうやら、交代で俺たちを見張ってるみたいだな。
「何か?」
「身体を動かせる場所に、案内してもらえないか?」
「かしこまりました」
必要最低限の言葉を交わして、サリが歩き出す。
その後ろ姿を追いかけて、アイシスと一緒に板張りの廊下を抜けた。


【セレノア視点】


「…ふわ」
さっきから、何度も勝手に出てくるあくびを噛み潰す。
今日やることを考えていたら、昨日は、ほとんど眠れなかった。
父上から厳命されたのは、あくまでも、外出不可だ。
城内で客を持て成すだけなら、文句はないだろう。
「さて…あの二人、起きてるかしら」
昨日だって布団のことを知らなくて、床で寝ようとしてた。
どうせ、起きた後もたたまないで、そのままにしてあるに決まってる。
「まったく、しょうがないんだから」
アタシに世話を焼かせるなんて、光栄に思いなさいよね。


「?」
部屋の中からは、かすかに物音が聞こえてくる。
なんだ、もう起きてるのね。
「…!」
部屋の中では、レイナおばさんが、しかめっ面で布団を畳んでいた。
なんで、おばさん一人だけがここに? ティストとアイシスは?
「おはようございます、セレノア様」
手を止めて、深々としたお辞儀と共にそう挨拶してくる。
さっきまで見えた不機嫌な表情は、顔をあげたときには、笑顔に変わっていた。
「…二人は?」
「さあ? 存じません。私が来たときには、すでに誰もいませんでした」
不愉快そうに唇を歪め、それでも作り笑いで答えてくれる。
やっぱり、二人にこの部屋を使わせるのを、納得してないみたいね。
「そう」
行く場所も、やることもないだろうに、どこへ行ったんだろう?
おばさんたちじゃないとしたら、もしかして、父上が連れ出した…とか?
「魔族に恐れをなして、逃げ帰ったのではないですか?」
考えているアタシの前で、ティストたちを馬鹿にするように、おばさんが嘲笑う。
逃げる? あれほどの力を持っているあの二人が?
でも、アタシと最初に戦ったときにも、ティストは、やたらと戦う理由を求めていたっけ。
臆病風に吹かれたわけでもないのだろうけど、戦い自体が好きなわけでもなさそうだしね。
「何か御用ですか? 必要でしたら、探して参りますが?」
「いいわ、自分で探すから」
それきり、互いに無言になってしまって、沈黙が続く。
向こうは、もう話が終わりだと判断したのか、止めていた手を動かし始めた。
「後は、アタシがやるからいいわ」
あんな顔をするぐらいに嫌な仕事なんて、無理してやってもらう必要はない。
それぐらいのことなら、アタシにでも出来る。
「いえ、セレノア様のお手を煩わせるわけには…」
「アタシがやるから、いいわ」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」
少し語調を強めて言うと、おばさんはあっさりと引き下がって、部屋を出て行く。
本当に、間が悪いわね。後五分もずれてれば、会わなく済んだのに…。
「はぁ、朝から最悪だわ」
やっぱりダメね、おばさんたちとは普通に話せない。
うまく言葉が続かないし、言葉選びも最低だ。
だって、しょうがない…話すことなんて、ないんだから。
つぶやきたいのを我慢して、拳を握りこむ。
この苛立ちが、どうしたら消えるのか、全然分からなかった。
「さて、と…」
中途半端なままの布団を最後まで畳んで、端に片付ける。
それをきっかけに、気持ちを切り替えた。
「それにしても、どこ行ったのかしら? あの二人」
まさか、ふらっと散歩して、城内で迷子にでもなってるんじゃないでしょうね?
あの二人、どこか間抜けなところがあるし…でも、そこまでバカじゃないか。
「ったく、本当に世話を焼かせるんだから」
騒がしくならないように、足音を消して部屋を出て、板張りの廊下を駆ける。
いつもは、狭くてしょうがない自分の家が、今日ばかりは、とても広く感じた。
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