挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

点を支えし者達

76/129

04章 激情の命ずるままに-03


【レジ視点】

寝静まった街を抜けて、ようやく城へと到着する。
時計で確認したわけではないが、もう日付が変わってから、ずいぶん経つはずだ。
「ふう」
思わず息をつくと、疲労が全身へと広がっていく。
倒すのは造作もなかったが、その後に連中を片付けるというのは、予想以上に厄介だった。
数人ならまだしも、やはり、あれだけ数が多いと手間だな。
「?」
益体もないことを考えていると、刺すような視線を感じる。
足を止め、視線へと振り返り、主を探した。
「ほう」
思わず、つぶやきが漏れてしまう。
中庭を挟んで、反対側。
何かを待つように立っていたイスク卿の顔が、こちらを認めて苦渋に満ちていた。
ふん、どうやら悪だくみは、完全に打ち砕けたらしいな。
「………」
こちらが庭の中央を超える前に、憤怒の形相が、いつもの取り澄ました無表情へと作り替えられる。
そのかわりざまをこの目で見ると、吐き気がするほど気味が悪い。
内心を隠すための仮面とは、ここまで醜いものか。
「よくぞ、ご無事で」
あの距離とこの暗さで、表情までは読み取られていないと思っているらしいな。
ワシの目も、見くびられたものだ。
「怪我など、されませんでしたか?」
「心配無用だ。あの程度、物の数でもない」
「そうですか。さすがは、武勇を誇るセイルスのお二人」
いけしゃあしゃあと、吐かしよる。
…が、さすがに、大失態の後とあっては、苛立ちは隠し切れていないな。
口先で褒めるイスクの目には、禍々しく暗い光が宿っている。
それも、当然のことだろう。
今までに一度としてなかった、奴にとって邪魔な者を一掃する、またとない好機を逸したのだ。
奴の胸中は、あのような兵数で満足すべきではなかったという後悔で、満たされているはずだ。
そう、奴は、この勝負に全財産を賭ければ良かったのだ。
そうすれば、全てを打ち砕いて、このくだらない戦いを終わらせてやったものを…。
「して、あの突風の原因は、分かったのですかな?」
「なんのことはない、集まったウチの一人が暴走したとのことだ」
「では、奴らの狙いは、いったいなんだったのですかな?」
あくまでも、その設定を押し通すつもりか、往生際の悪いことだ。
だったら、こちらも嘘で返してやる他ないな。
「こちらの問いかけに対し、連中は、武力で答えてきた。
 よって、捨て置くには危険と判断して、処分した」
「ほう、そうですか」
さして面白くもなさそうにそう吐き捨て、そこで言葉が止まる。
ならば、こちらからも問いかけてやるとするか。
「首謀者の男は、リンダントと名乗っていたようだが、ご存知か?」
「いいえ、聞いたこともありませんな。
 もっとも、私に名を覚えられるほどの貴族に、そのような馬鹿がいるわけがない」
ふん、お得意の切り捨てか。
尋問などという似合わないことは、やるべきではないな。
申し訳ないが、後の作業は、ファーナに任せるとしよう。
これ以上、くだらない冗談に耐えられそうにない。
「失礼する」
心にもない事を言葉として交し合うのが、城での会話。
頭で理解していても、生涯、慣れることはないだろうな。



ノックをして扉を開けると、正装のままのお二人が足早に駆けてくる。
その後ろには、ファーナも控えていた。
帰りを待ちわびていた三人の前で、膝をつき、頭を垂れる。
普段と変わらぬ作法だ。
「報告致します。街道沿いに集結していた賊を、鎮圧して参りました」
「ご苦労だった。それで、被害は?」
数秒の間を空けて問われたライナス王子の声は、いつもより硬い。
だからこそ、安心させるためにも、力強く断言する。
「被害は、まったくありません。
 念のため、クレアとシアが一晩、その場に留まって護衛いたします」
言葉を区切ると、二人の口から、長く深い、安堵の息が漏れる。
リース様の目尻からは、涙まで零れていた。
「ありがとう」
「いえ」
心からの感謝の言葉を受け、小さく首を横に振る。
礼を言われるほどのことではない。
クレアではないが、これは、己が望みを実現させただけのことだ。
本来なら、我々が命令されたことに感謝するべきだろう。
「にしても、手酷くやられたね。
 正直、ここまでとは、思っていなかった」
反省というよりも、自責を思わせる声で、ライナス様がつぶやく。
その拳は、固く握り込まれ、小刻みに揺れている。
その横でうつむくリース様の顔も、深い悲しみで満たされていた。
「いつものような陰湿な嫌がらせとは、話が違います。
 ここまで好き放題にされて、黙っているのですか?」
落ち着こうと努力しているのが分かるリース様からの進言。
それに応えるように、決意を瞳に称えて、ライナス様が厳かに告げた。
「捨て置くつもりなんて、欠片もないさ。
 彼らには、相応の報いを受けてもらうつもりだ」
たしかに、貴族の増長を防ぐという意味では、しかるべき処置は必要だろう。
「私見を述べても、よろしいでしょうか?」
ファーナが、静かに前へと歩み出た。
「ぜひとも、聞かせてほしいな」
「今回の件で、こちらの戦力が、いかに強大なものであるか、示すことができました。
 向こうからすれば、手負いであっても凌がれたのですから、彼が傷を癒せば、不用意には近づけないでしょう」
「下手に相手を刺激しただけではないのか?」
一度失敗すれば、誰であろうと学習する。
より強大な兵力を動かすきっかけを作っただけで、危険が増えたとも考えられる。
「ええ。むしろ、そうでなければ、困ります。
 小競り合いなど、いつまで続けても変わりませんから」
表情一つ変えずに、過激な発言をしてみせるな。
大局から見れば、今回の交戦など、取るに足らんというわけか。
「切り捨ての容易な末端が相手なので、残念ながら痛撃とまではいえませんが、牽制には十分です。
 その観点から言えば、今回の戦闘だけでも、有益だったと私は評しております」
「では、追撃を加える必要はない…と?」
「ええ。今は、動くべきときではないかと存じます。
 数年に渡って膠着していた事態が、この数十日で激変しました。
 彼を中心に、まるで渦を巻くかのように流動的です。
 不用意に手を出して、もし失敗でもすれば、目も当てられません。
 敗北はしないかもしれませんが、完全な勝利は望めないでしょう」
完全な勝利、か。
たしかに、願いが全て叶うのであれば、そう言い表してもいいだろう。
貴族の横暴を封じ、それに乗じて、ティストを再びこの城へ。
それは、あまりに遠くて険しい道だが、目指してもいいと思うだけの意味がある。
少なくとも、ワシとクレア、それにリース様とライナス様は、同じ願いだろう。
「だったら、動くべきときというのは、いつになるのかな?」
「相手を倒そうと、頭に血が上った状態で攻勢を続ければ、必ず防御が手薄になります。
 私でしたら、その瞬間を狙います」
まるで、弓矢でも構えているかのような、研ぎ澄まされた目。
細められた目は、狙い撃ちにする標的から、決して離されないだろう。
頼もしいことだな。
「なるほど…ね。参考にさせてもらうよ」
消極的だが、他に方策もない。
ライナス様としても、ファーナの忠言に耳を貸すしかないだろう。
「いつになったら、終わるのかな」
「どちらかが目的を達成するか、諦めるまで、終わらないでしょう。
 自分の望みを叶えるために、障害物を取り払う。元来、戦いとは、そういうもののはずです」
自分にとって都合のいいことを押し付けあう行為こそが、戦いの本質とも言える。
他人の希望を全て受け入れてやるなら、争いなど起きはしない。
それきり、誰もが口を閉ざしてしまい、沈黙がその場を支配する。
誰しも胸の内には、言葉にできない思いが渦巻いているだろう。
数十秒の後、口を開いたのは、ライナス様だった。
「すまないな、レジ。休ませるどころか、辛気臭い話ばかりしてしまって。
 今日のところは、ゆっくりと身体を休めてくれ」
「ありがとうございます。では、失礼致します」
もう一度、丁寧に頭を下げて部屋を後にする。
自室には戻らず、人目のない道を通って、街へと戻った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ