挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

点を支えし者達

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

74/129

04章 激情の命ずるままに-01


【クレア視点】

そして、待ち焦がれた、その日が来た。


中庭で向かい合うファーナとイスクの舌戦は、途絶えることがなく続いていた。
「所属不明の集団は、ロアイスとラステナをつなぐ街道の途中で、森へ姿を隠したそうです。
 街道を使う者への脅威となる前に、なんらかの対処をするべきではありませんか?」
「ふん。蛮族など、捨て置けばいい。何もない場所に集ったところで、何の不利益もない。
 大方、くだらん馬鹿騒ぎでもするつもりなのだろう」
「潜伏して、街道を利用する民を襲撃するつもりかもしれません」
「それだけはないな」
自信たっぷりに、イスク卿が言い切る。
あの部隊を自分で操っているのなら、その返事は当然だろう。
「断言なさる理由を、お聞かせ願えますか?」
「どの程度の規模か知らんが、大人数なのだろう?
 人数が増えるということは、襲撃をしても一人当たりの分け前が減るということだ。
 そんなに大勢いては、街道を通過する全ての人間を襲ったとしても、利益なんて出ないだろう」
中庭で行われている言葉の応酬を、レジと共に、一歩下がって見守る。
一度でも口を挟んでしまったら、我慢していられる自信がなかった。
そして、今の私に論理的な説得など不可能だろう。
それにしても、まったくもって、よく動く減らず口だ。
淀みなく語られる白々しい御高説は、見事に私の怒りを高めてくれる。
「ふむ。もしや…」
考え込むようにあごへ当てていた手を、思わせぶりに下ろす。
どうやら、猿芝居はまだ続くらしい。
「連中が集まっているのは、それ自体が目的ではないやもしれん。
 ロアイスから、兵を引き離すための陽動とは考えられんか?」
「その可能性は、否定できません。
 しかし、実際に荷を奪われた商人もいるのです。
 これ以上、被害が出る前に手を打つべきかと存じます」
「対処なら、道を封鎖すれば、事足りるだろう。
 後は、相手の狙いが分かってからでも遅くはない」
民を守る人間が、こんな体たらくとは…。
演技だと分かっていても、この対応は許せそうにない。
何の役にも立たないのなら、なぜ、民に生かされているというのか?
「それよりも、奪われた物品は、なんだったのかね?
 その気の毒な商人に、援助しようではないか」
露骨に話題をそらし、だらだらと引き延ばされる会話にうんざりする。
もう、この男を無視して行くべきではないだろうか。
既に、かなりの数が、あの子の家に向けて出立したという話だ。
ラインとシアが、別働隊を潰すことになっている。
だが、それでも、ぐずぐずしていたら、間に合わなくなってしまうかもない。
怪我をして動けないあの子では、寄せ集めの傭兵相手でも、ひとたまりもないだろう。
「………」
ファーナの懸念していた事態が、やはり起きてしまった。
ロアイスから離れていて、世間での被害も極少数。
つまり、連中を掃討するだけの理由がない。
イスク卿は、最初から時間を稼ぐことだけが、目的なのだ。
戯れ言を言って、時間を潰せばそれでいい。
問題は、この男だ。
この男さえ黙らせれば、後はどうとでもなる。
しかし、どうすれば…。


遠くで、しかし、誰の耳にも聞こえるように力強く、一陣の風が吹いた。


「今の…は…」
他に聞こえないように、声を抑えてリース様がつぶやく。
私と同じように、感じ取られたようだ。
間違えるはずがない、今のは、ティストの魔法だ。
「申し上げます」
血相を変えて飛び込んできた男が、たどたどしい口調で事態を告げる。
その報告を受けて、イスク卿の顔が一気に厳しくなった。
「木が…宙を舞っただと!? そんな馬鹿げたことがあるか!!」
動揺するイスク卿に、あくまで深刻な表情でファーナが追い討ちをかける。
「やはり、調査の必要があるようですね。
 これほどの危険因子、到底、捨て置けません」
よくやってくれたと、心の中であの子に、賛辞と感謝を告げる。
まさしく、あの子の魔法が風向きを変えてくれた。
もう、この流れは覆らないだろう。
「よろしいですか? ライナス様」
切迫した表情で訴えるファーナに、ライナス様が真剣な顔で答える。
「騎士団は、部隊の編成に時間を要する。
 レジ、クレア。二人に先遣隊として現地へ赴いてほしい」
「かしこまりました」
王子の命令に対して、レジが恭しく頭を下げる。
レジの斜め後ろで、丁寧に礼をして合わせた。
茶番だ。
これほどに楽しい劇は、もう見られないかもしれない。
ライナス様は、王子という立場にふさわしく、成長されたものだ。
冷徹を演じながら、心の奥底では笑顔を浮かべておられる。
それに比べてリース様は、胸に募る不安を顔に映してしまっている。
まあ、事態を鑑みれば、それも仕方のないこと。
平静を装いながら、足の疼きを抑えられないでいる私も、姫のことをどうこう言う資格などない。
「現場では、各々の裁量に任せる」
「しかし、これほどの事態に、二人だけなど…」
反論にもならない戯れ言を聞き流しながら、体に力を溜め込む。
この日のために体調を万全に整え、虎視眈々と待っていたのだ。
問題は、間に合うか、間に合わないか、ただそれだけだ。
数など関係ない、どれだけ雑兵が居ようとも、全員叩き伏せてくれる。
「せめて、騎士団から数人でも…」
「即刻だ。ロアイスの街に何かあってからでは遅い。
 援軍の到着が間に合わなかった場合には、国のために命を捨てろ」
「承知いたしました」
思わず笑みが零れそうになり、それを深刻な顔でどうにか隠す。
ライナス様も、本当にいい命令を出してくださる。
ティストのために、命を捨てる。
残された命の使い道としては、申し分ない。



ロアイスの市街を抜けて、街道へ。
はやる気持ちが足を前へと押し出し、レジと速度をあわせるために遅らせる。
もう、何度これを繰り返したことか。
気を抜けば、レジを置いて走り去ってしまいそうになる。
まったく…我ながら、なんて自制のない。
「クレア」
「なんです?」
「もういい、先に行け」
今にも、ため息をつきそうなほどの呆れ顔。
私の行動を見るに見かねたと、その表情が雄弁に物語っている。
「しかし…」
「挟撃を仕掛ければいい。そのほうが、二人で固まっているよりも効率的だろう?」
たしかに、そのほうが広範囲を相手に出来るし、倒せる量も増えるだろう。
レジの提案はとても魅力的で、つい、私のわがままを通したくなってしまう。
「本当に、いいのですか?」
「間に合わなければ、全ては無意味だ。分かったら、さっさと行け」
淡々と、ただ事実を告げる。
合理的で、ごまかしがないから、反論の余地もない。
これ以上、意地を張るのも馬鹿らしい、ここは、素直に甘えさせてもらおう。
「分かりました、先に行きます」
「レジ、ありがとう」
「早く行け」
追い払うように手を振るレジに一礼して、前を向く。
少しだけ腰を落として下肢に力を溜め込み、一気に解き放った。
レジの足音が、一秒ごとに遠ざかっていく。
「まったく、世話の焼ける奴だ」
その声は、とても小さな声だったけれど、たしかに私の耳へ届いた。
聞こえていますよ、レジ。
本当に、ありがとう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ