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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

点を支えし者達

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02章 もう一つの最前線-02


【レジ視点】

「やれやれ」
ため息を押し止め、こちらを半包囲する精霊族に目を向ける。
クレアから発せられた殺意に当てられたのか、ほとんどが戦意を喪失していた。
本人は自制しているつもりだろうが、無意識で漏らした殺気で、この有様なのだ。
クレアが、どれほどの怒りを内包しているのかなど、考えたくもない。
「………」
突然、武装した人間の兵が森の近くに出現し、危険な空気をまき散らしている。
まったくもって気の毒な話だが、精霊族に同情してやるわけにもいかない。
ワシに出来るのは、血の流れない道を選んでやることくらいだ。
「話がしたい。お前たちの頭目は、誰だ?」
問いかけで正気を取り戻したのか、第二射の準備が始まる。
聞く耳は持たん…か。
信頼関係を築けていなければ、会話など成り立たない。
ならば、聞かせるように仕向けるしかないな。
「総員、下がれぃっ!!」
大声で号令をかけ、精霊族の射程外へとロアイスの兵を逃がす。
これで、ようやく目の前の相手に集中できるというものだ。


精霊族が仕掛けてきたのは、掛け声にあわせての一斉掃射。
一つ一つの威力は軽微だが、その数はたいしたものだ。
「ふんっ!!」
それが届くまでの数秒の間に、地の魔法を頭上で傘のように広げ、降り注ぐ攻撃を防ぐ。
土壁に当たると、音を立てて次々と地面に落ちていった。
数十秒が経ち、ようやく衝撃が収まる。
傘の外には、足の踏み場もないほどに、投げつけられた武器が散乱していた。
「終わりか? 気が済んだなら、代表者と話がしたい」
「圧倒的な力を見せれば、退くと思ったか? 甘く見られた者だな。
 我々は、決して腕力などに屈しない!」
森から少しだけ足を踏み出して、男がそう叫ぶ。
前線に配置されるだけあって、ずいぶんと威勢がいいな。
この手の馬鹿は、嫌いではない…が、今日は相手をする気にもなれない。
「行くぞっ!!」
歌うように声を重ね、時間とともに威力が増していく。
力強く響く男声の重低音と、それを包み込むような澄んだ女声の高音。
聞きほれるほどの美声は、相手を殺すために紡ぐ呪いの言葉だ。
複数人で、一つの魔法を操る。
常に集団で戦う精霊族が、声を出して唱える魔法を使うからこそ、成し得た技だ。
詠唱中の今なら潰すのは容易いが、精霊族に怪我をさせるわけにもいかぬ。
退くか?
「いや…」
どんなものが来ようとも、己が力で打ち破るのみだ。
必要なのは、ただ、一撃の威力。
相手に負けぬように力を練り上げ、筋力と魔法の両方を高める。
芯から吹き上げるように熱が生まれ、心臓の鼓動にあわせて、身体中へと巡った。
「…ふぅ」
呼吸を落ち着けて状態を維持し、切り捨てるべき物を見据える。
連中の真上に表出した炎弾は、斧をかまえたワシさえも覆えるほどの大きさだ。
魔族の有色魔法と比べれば劣るものの、決して侮れない。
爆発されたら、待機しているロアイス兵にも被害が出るだろう。
「我が敵を、滅したまえっ!!」
その場にいる全ての精霊族が唱和し、大きな炎が生き物のように揺らめく。
ゆっくりと滑り出すように、空気を焦がしながらこちらへと迫る。
「おおぉぉぉぉっ!!」
足を突き立て、大地に噛みつかせる。
大地の感触を確かめて、斧を大きく振りかぶった。
「ふんっ!!」
両腕にありったけの力を込め、全体重を乗せて振り下ろす。
視界の全てを埋め尽くす炎を一撃で両断し、二つに割れたそれを土の魔法で囲い込んだ。
爆発の前に完全に包み込み、その余波を最小限に抑え込む。
わずかな炎塵と、手を叩くほどの小さな音だけを残して、炎は跡形もなく消え去った。



斧を構えなおし、相手の姿を両の目でしっかりと捉える。
連中は、慌てふためきながらも、まだ闘志を失っていなかった。
「つ、次だっ!! すぐに準備するぞっ!!」
「ふん」
一撃を防がれただけでは、向こうも引き下がれないだろう。
気が済むまで、いくらでも受け止めてやる。
いくつかに部隊が別れ、それぞれが違う魔法の詠唱を始める。
タイミングをずらして魔法を放ち、併合と分離を駆使した編隊を繰り返す。
単純な等分というわけでもないのに、動きに乱れは見えない。
集団から外れて弓に矢をつがえているのは、どうやら、魔法が不得意な連中のようだな。
「なかなか、統率されている」
血が騒ぐのを御するために、斧を片手で振るい、自分の前に掲げるように持つ。
防御の姿勢を取るのは、後ろで控えている騎士団を、さらに下がらせるための合図だ。
大小さまざまな魔法が入り乱れ、次々に着弾する魔法を全て斧で対処する。
炎弾を切り伏せ、水柱を切り潰し、烈風を薙ぎ払い、土塊つちくれ穿うがつ。
間合いの中に入ったものは、決して逃がさない。
斧を振るうことで、周りに滞っていた魔法の余波を消し去る。
その様を見ていた奴らは、顔面を蒼白にしていた。
「なんて奴だ」
「我々が放った魔法をことごとく…」
「しかも、たった一人で…」
周囲とささやきあい、精霊族が恐怖を共有し始める。
時間が経つにつれ、次第に攻撃が手薄になってきた。
これが、集団戦の厄介なところでもあるな。
一人の心が折れたときに、それは誰かへと伝播する。
それに飲み込まれてしまえば、それでおしまいだ。
「こうなったら、もう…」
思わせぶりな言葉に、周囲の精霊族たちも強張った顔でうなずく。
どうやら、さっきまでとは、比べ物にならない大技が来るらしいな。


「お願いっ、早く後ろへ」


切実な声に従って、その場から後退する。
距離を取るにつれて身体が軽くなり、肌を刺すようなあの感覚が減衰する。
どうやら、これが、その魔法の間合いらしいな。
数十人掛かりで発動させているのに、この射程距離では、狭すぎる。
実戦での使い道は、皆無とも言えるな。
「くそっ…逃がすか」
陣形をわずかに乱しながら、男たちが森から抜け出ようとする。
こうなってしまえば、もはや会話など不可能だろう。
徹底的に、やるしかないか。


「待ちなさいっ!!」


突然の大声に、誰もが振り返る。
見れば、誰よりも早く森から飛び出した女が二人、間に滑り込むように走ってきた。
「種族不可侵を、忘れてはいないでしょう?」
背の高いほうの女が、よく響く声で問いかけてくる。
意志の強い真っ直ぐな瞳に怒りを宿して、ワシを睨みつけていた。
ようやく、気骨のある者が出て来たようじゃな。
「人間よ、即刻、ここから立ち去りなさい」
『立ち去れ』という言葉は、前大戦中に、精霊族が最も多く使ったといわれている。
精霊族は、己の領地を守るためにしか戦わず、相手を倒すことではなく追い払うことに注力する。
それは、今このときも変わっていないのだろう。
「言い分はもっともじゃ。じゃが、我々は情報を提供しに来たのだ。聞いてはもらえないか?」
「情報? 何の話?」
疑いに目を尖らせ、それでも問いかけてくれる。
どうやら、話を聞く度量はあるようじゃな。
「人間の国ラステナと魔族の国ブラスタが、戦争を起こした。我々は、それを伝えに来たのだ」
「なっ!?」
この場にいた誰もが驚愕し、互いに顔を見合わせる。
精霊族という閉鎖された世界では、当然ながら初耳だろう。
「それを我々に教えて、どうするつもり?」
「事実を伝えたに過ぎぬ。他意はない」
あらかじめ決められた言葉をなぞり、相手の反応をうかがう。
理由を問われたとしても、この一言だけで大丈夫だとファーナ・ティルナスが断言した。
後は、黙っていれば、精霊族が自分で進めてくれる…と。
「………」
ワシの言葉の意味を計り終えたのか、しばしの黙考を経て、女が息をつく。

その目からは、敵意が薄れていた。
「こちらの無礼を、どうか許してください」
彼女の落ち着いた声音に安心したのか、小さい方の子にも笑顔が戻る。
後ろにいた連中からも、剣呑な殺気は消えていた。
どうやら、これで収まったようじゃな。
「情報の提供に、感謝します」
誠実な態度の彼女にあわせて、返礼する。
「こちらこそ、不用意に領地へ近づいてすまなかった」
「では、これで失礼する」
武器を収め、背を向けて歩き出す。
なすべきことを終わらせたら、撤収は速やかに。
そうすることで、余計な問題の発生を防ぐことができる。
これで、関係の改善とは言わなくても、維持はできたはずだ。
こちらの仕事は、無事に完遂した。
お前も、乗り切れ。
届かぬと分かっていても、胸中で願を掛ける。
何もできぬのだから、信じる。
それだけが、全てを教え込んだ弟子にできる、唯一の事だった。
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