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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

点を支えし者達

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01章 刃がその手に宿るまで-02


【クレア視点】

「………」
廊下では、私もレジも会話をしようとしない。
苛立ちが募り、不用意な発言をしてしまうかもしれない私を戒めてのことだった。
「………」
あの子を守るためには、どうしても武器がいる。
だけど、周りの貴族たちは、ティストに武器を持たせることを絶対に認めない。
もう何度目だろう、あの話の分からない人間たちを相手にするのは…。
何度言っても無駄なのは、私もレジも既に理解している。
だけど、こちらが先に根負けするわけにはいかないし、諦めるわけにはいかない。
あの子の命が掛かっているのだから。
王からの許可は頂けたが、それだけで強行するわけにはいかない。
そんなことをして何かあれば、ティストの処遇は良くて追放、悪ければ…考えたくもない。


扉を開け、集まっている誰とも目を合わせず、自分の席につく。
レジも同じように、無言で席に着いた。
「お待ちしておりましたぞ」
ティストとの訓練を始めてから、会議に呼ばれる回数は増える一方だ。
まったく、忌々(いまいま)しい。
この会を取り仕切っているイスク卿も、私が最も嫌う人間の一人だ。
貴族であることをどこまでも誇示し続け、周りを見下す彼の態度は、私を苛々させる。
貴族は最後まで生き残るべきなどと理不尽な理屈をつけ、戦時にも保身を考え続けることが、余計に私の怒りを煽る。
「時間を厳守していただかなければ、他の方々の迷惑になります」
私が何も答えなかったのが気に食わなかったのか、そう言葉をつけたしてきた。
「もうしわけありません」
嫌味にたいして、何の感情も交えずにそう儀礼的に答えた。
私の平坦な返事に奴が鼻を鳴らしてから、今日の会議が幕を開けた。



ことあるごとに話が逸れ、くだらないお喋りと大差ない会議が続く。
戦場に立たず、戯れに剣の稽古をする程度のこの連中が、身の危険がないこんなところで話したことなど、何になるか。
有能な人員の大半は、戦地に留まるか、戦場と城を往復しながら、軍を指揮している。
こんなところで、お喋りに興じていられる暇な者は、誰一人としていない。
つまり、ここにいるのは、使えないものの集まりだ。
こうして行われている会議は、おそらく、何もしていないことに引け目を感じているから。
だから、分かりもしないのに知った風な口を利いて、何かしたつもりになる。
まったく、救いようのない馬鹿の集まりだ。
だが、今日は一つだけ、いつもと違うことがあった。
膠着している戦況の打開法を思索するために戻っていらしていたティルナス卿が、この会に参加している。
彼なら、ティストが武器を持つことに同意してくれるかもしれない。
私の中に、今日こそはという期待があった。



そろそろ飽きたと言わんばかりに、壁掛け時計に視線を向けるものが、何人か出てくる。
議題なんてあってないようなものだから、こうでもしないと終わりもしない。
「では、本日は…」
「お待ちください」
今まで言葉少なだったレジが、その口を開く。
私は、会議が始まってから一度として声を出していない。
普段でも議論には参加しないが、今日の会議では余計なことを言うな…とレジに釘を刺されていた。
「ティストの武器の所持について、もう一度お考えください」
またか…と言わんばかりに、誰もが露骨に表情を変える。
どう思われようとかまわない。
このくだらない会議に顔を出しているのは、そのためだけなのだから。
許可さえ取れれば、仕事を理由に二度と参加するつもりはない。
「何をしでかすか分からないものに武器を持たせるなど…」
「そうだ。それで謀反を起こされたりでもすれば、国が揺らぐ」
何を馬鹿なことを…。
あの子にその気があれば、素手であろうと、ここにいる貴族が太刀打ちできる強さではない。
そして、ここにいる誰が減ったところで、この国が良くなることはあっても揺らぎはしない。
「弟子を取らず、闘士として名を馳せたセイルス一族の一子相伝なら、武器など必要ないのでは?」
皮肉に口元を歪めて卑しく笑うと、わざとらしく同調するような台詞があちこちから上がる。
「我らは、己の選んだ武器に関する武技には、絶対の自信を持つが…
 無手を極めた覚えはないし、極めたことのないものは、伝承させようも無い」
そう、私もレジも必死に無手の技を練っているが、今までの積み重ねと比べると、どうしても稚拙になる。
レジは大振りの武器を、私は小振りの武器を、ある程度は試してたことがあるが…。
無手など、武器を構えるまでの凌ぎ程度にしか考えたことがない。
こんなことになるならば、魔族から体術を、もっと真剣に学んでおくべきだった。
「どうせ、戦場で死ぬのであれば、武器など勿体無いだけだ」
あまりに的外れな意見に立ち上がりそうになると、咳払いが聞こえた。
レジからではない、今のは…。
「武器を持たせないなら、それでいいが…
 武器の扱いも知らぬ足手纏いは、戦場に不要だ」
この場の誰よりも影響力のある言葉に、全ての声が止められる。
厳しい発言のように聞こえる者も多いらしいが、ティルナス卿の言葉は嘘が無く、優しさに溢れている。
あの言葉は、おそらくティストが戦場に行くことのないようにという裏返しだ。
「では、武器を持っていれば、戦場に行く資格はあるということですな」
急に心変わりしたかのように聞こえるイスク卿の言葉に、周りの貴族たちが動揺する。
だが、そんなことで自分の意見を変え、相手を尊重するような男ではないことを、私もレジも良く知っている。
つまり、あの子に武器を持たせることよりも、戦地へ送り出せないことのほうが都合が悪いのだろう。
この男は、何が何でもあの子を城から追い出したくて、たまらないらしい。
選ばれたものだけが住まうことのできる地に、迷い込んで来たものがいてはならない…とでも、考えているのだろう。
「奴の武器は、何にするおつもりかな?
 まさか、貴族と同じものを持たせるわけにもいかないだろう?」
ティストに持たせる武器、その話は、毎晩のようにレジと語り合った。
成長期の只中にいるティストは、使える武器が少ない。
剣や斧、槍などの長大な武器では、身長を越してしまう物もあるし、その自重も枷になる。
自在に扱えるようになるまで、時間が掛かりすぎるだろう。
殺傷能力には目をつぶり、使い勝手の良さを重視する。
そうして、導いた結論は…。
「ダガーにしようと思っております」
「最小かつ最弱…か。忌み子が持つに相応しい、最低の武器だな」
「………」
気が付けば、私もレジも、全身の力をいつでも出せるようにしていた。
あれほど侮辱されて黙っているのは、奴の言う貴族の誇りとやらに反するだろう。
「では、議論はこれまででよろしいな?」
ティルナス卿の一言により、終了が促される。
イスク卿は、静かに席を立つと、無言で部屋を出て行った。




うやむやにではあるが、あの男が武器を持つことを認めたのだ。
この機会、絶対に逃すわけにはいかない。
苛立たしげな足取りのままで、レジと共に、馴染みの鍛冶屋へと足を運ぶ。
ロアイス随一の腕を持つ店主がいるのに、名前すらない貧相な店。
商才のない主が、商売っ気を出さないのだから、無理もない…か。



「邪魔するぞ」
中へ入ると、当然のことながら、客の姿はない。
まあ、店の人気など関係なく、こんな夜分に武器を求めて立ち寄るものなど、そうはいないだろう。
こちらとしては、そのほうが都合がいい。
一振りの剣を手にしていたロウが、こちらを一瞥して、すぐに視線を手元へと戻す。
もとより、こちらもロウから愛想笑いや接客などは、期待していない。
そんな常識が通じる男ではないことは、十分に理解している。
「珍しい客じゃな、何の用じゃ?」
「ダガーの類は、これか?」
並んでいるものの一つをレジが手に取り、握りをたしかめる。
「で、そのダガーで何をするつもりじゃ?」
一閃、壁に叩きつけられたダガーは、ひしゃげる自由も無く、二つに分断された。
人ほどの重さがある両手斧を軽々と扱うレジの腕力に、あんな小さな刃が耐えられるわけがない。
「この程度の衝撃に耐えられぬようでは、話にならんな。
 こんな、なまくらしかないとは…」
「来てそうそうに、武器を叩き壊し、罵声を浴びせるとは、ふざけた客もいたもんじゃな」
呆れたように言うロウが、口の端を吊り上げて笑う。
自分の鍛えた武器を叩き壊されたのに、まるで怒りが感じらない。
久しぶりに来た難儀な客を、心から喜んでいるように見えるのは、都合が良すぎるだろうか。
「ダガーは、どう使われる?」
「そうさな、近接戦闘の最後の手段…いや、魔法が使えるなら、おまけと言ってもいいかもしれんの。
 何かとの併用で持つものは少なくないが、それ自身だけを武器として扱うものなど、まず、おらんだろうな。
 お前のような馬鹿力で振り回す必要もないし、正面から大剣とぶつけ合うこともない」
「しかし、そのダガーで、他の武器と渡り合わないとならなくなった」
「ほお」
まるで、その難題を楽しむように、ロウが拳を握り締める。
不可能と投げ出したり、馬鹿笑いをしないだけでも、この職人を褒めるべきかもしれない。
この男は、職人として真剣にダガーの至高と向き合う気があるのだから。
「私たちの希望は、屈強で、壊れぬダガーです」
「できますか?」
「お前たちの武器に何年の時間をかけ、技巧を凝らしたか、知らぬわけではあるまい?
 果てしない時間…そして、それほどの材料と助力もな」
私たちの武器の中には、自らが作り出した自精石を薄く引き延ばしたものが、何層も埋め込まれている。
ロウの指定する形状にあわせて自精石を作り出し、金属の間に埋め込み、ときには、金属を覆う。
それを何度も繰り返し、ロウが丹念に鍛え上げ、普通では得られないほどの硬度や切れ味を作り出している。
気の遠くなるような手間をかけて生み出した、消耗品ではない生涯の相棒。
それが、私のロッドと、レジの斧だ。
「あの時と同じか、もしくは、それ以上の労力を…」
「協力は惜しみませんし、労力も厭いません」
ロウの言葉を途中で遮り、私の決意を言葉にする。
そんな確認など、聞くだけ時間の無駄だ。
ティストのための武器作りに、どれだけの手間が掛かろうと、私は構わない。
「やれやれ、ご執心となると周りは見えないらしい」
ロウの物言いに、レジがふっと鼻で笑う。
…まったく、二人していまいましい反応をしてくれる。
「己が培った力を、他人に譲るというのだな?」
ロウの最終確認に、私とレジは、ゆっくりとうなずく。
今更、そんな言葉で、思い悩むわけがない。
「全盛期に比べれば、わたしたちの力もずいぶん落ちたものです。
 この力が緩やかに朽ちていき、最後には、消え去ってしまうのならば…。
 せめて、あの子に残してあげたい」
私が、あの子にしてやれることなんて、数えるほどもないだろう。
だからこそ、できることは、全てしてあげたい。
「あのクレアが、親馬鹿になったもんじゃ」
「だろう?」
気に障るような笑みを浮かべ、男たちが同意しあう。
うるさい。
「万に一つ、どちらかが修復不可能になったことを考えると、二振りを常に作り続けることになるぞ」
「ええ。それで、かまいません」
「頼む」


こうして、ロアイス屈指の名工に生み出された最高傑作の兄妹刀が、今では、兄妹の手に握られている。
その事実をあの子たちは知らないし、今後、話すつもりもない。
ただ、あのダガーが子供たちを守ってくれれば、それで良かった。
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