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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER -戦場の最前点-

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17章 怒りの少女-6

【アイシス視点】

「はぁぁぁっ!!」
奴の前に立つ、最後の護衛を打ち倒す。
これで、もう奴を守る者はいない。
「まさか、ここまでやるとはな…」
吐き捨てるようにつぶやき、下げていた長剣を引き抜く。
ようやく、終わりが見えたんだ。
「貴様は…貴様だけは、絶対に許さん。
 私の人生を狂わせおって、この忌み子がっ!!」
奴の罵倒も、まったく心に届かない。
きっと、何を言われても、今の私なら恐怖を感じないだろう。
絶対に許さない…か。
それだけは、同感だ。
お兄ちゃんを殺そうとしたこの男だけは、絶対に許さない。
「これで、終わりね」
「ほざけぇっ!!」
後ろに回されていた手が、前へと突き出される。
その掌の上にあった赤黒い物が、こっちへ向かって飛んでくる。
「まさか!?」
有色の魔法!?
とっさに水の魔法で右手を守り、そこで受け止める。
「な!?」
だけどそれは、私の魔法に覆いかぶさって、私の水を侵食し始めた。
徐々に濁り、粘性を帯びて、私の手に絡み付いてくる。
だけど、痛みはまるでない…これは何? 液体?
「この臭い…血!?」
「ふん、遅いわぁっ!!」
剣を構えた奴が、わき目も振らずに突撃してくる。
視野が狭くなっているはず、なら、回り込んでの一撃だ。
「うっ…」
思うように足が動かせない。
見れば、さっきまで手に付いていた水が、その跡を残して、今度は足へと纏わりついていた。
「っ! ふっ!!」
呼吸に合わせ、勢いをつけて足を動かしても蹴り剥がせない。
「貴様などに、外せるかっ!!」
高らかに吠えると、大きな予備動作から攻撃を繰り出してくる。
「チッ…」
軌道は単純。
だけど、足が使えないなら、受け流すのは不可能だ。
覚悟を決め、衝撃に備えて歯を食いしばる。
「がっ…」
身体の芯まで揺さぶられ、痺れている。
反撃なんて、とても無理だ。
「死ねっ!! 死ねえっ!!」
怨嗟の声をあげながら、次々と力任せの攻撃を続ける。
私の防御なんて、見えてない。
こいつは、剣で私を叩き潰すつもりだ。
「くっ…」
刀身がぶつかり合うたびに、押されていく。
刃は見えているのに、私に有利な間合いを保てないなんて…。
ダガーで中途半端な距離にいるなんて、格好の的だ。
「…!」
まずい、血で手元が滑る。
それに、もう握力なんて残ってない。
「くらえぃっ!!」
一番体重を乗せられる振り下ろしが、ダガーを直撃する。
「くぁっ…」
渇いた音を立てて、ダガーが地面を転がる。
武器を取り落とすなんて…。
「終わりだあぁぁぁぁっ!!!」
「くっ…」
ダメだ、体勢が悪すぎる。
避けられないっ!!
「!?」
甲高い風きり音をまとって、何かが飛来する。
「がはあっ!!」
奴の鎖骨あたりにぶつかったものが、その足元へと転がり落ちた。
「え!?」
まさか、あれ…。
「ふ、ふざけおってえ!!」
「あ…!」
激昂した奴が、足を浮かせる。
全体重をかけた踏みつけは、虚しく地面を叩いた。
だってそれは、風に運ばれて、もう私の手に収まっていたから。
私のために、お兄ちゃんが作ってくれた木のダガー。
お兄ちゃんが…助けてくれたんだ。
もう、大丈夫だ。
どんなに疲れていたって、このダガーでなら戦える。
私の手に一番馴染むのは、あのダガーだけど。
私の心に一番馴染むのは、このダガー以外にありえない。
「…!」
小さな水球が、頼りなく空を漂う。
私の足元に落ちると、血の拘束は、あっけなく壊れた。
「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
二人とも、辛いはずなのに。
もう、限界のはずなのに、私のことを助けてくれる。
私だけが、負けていられない。
手に着いていた血を払い、木刀の握りに指を添える。
その慣れ親しんだ感触が嬉しくて、つい頬がゆるんでしまう。
「ふふっ」
「死を前に、狂いおったか」
そんな風に言わせるほどに、私は喜んでいるように見えるらしい。
ここに鏡があったら、自分の顔を見てみたい。
私は、どれだけ幸せそうに笑っているだろう?
「ッ!!」
一息で、奴の前まで踏み込む。
狙いは、武器を握っている右手だ。
「やぁぁぁっ!!」
渾身の力を込めて、手首を思いっきり強打する。
「ぐうぅぅぅっ!!」
手の中の木刀がしなるほどの痛烈な一撃に、奴がうめき声をあげる。
目を血走らせて、痛みを必死に耐えている。
手応えとしては十分、これでもう右腕は…。
「うおぉぉっ!!」
野太い咆哮をあげて、刃の切っ先を私へと向ける。
「そんな…!?」
骨にまで響いたはずなのに、動かせるなんて…。
「死ぃねぇえええっ!!」
絶叫しながら、全身で刃を突き出してくる。
ダメだ、木刀で相手の武器は受けられない。
「くっうっ…」
とっさに身体を反らせて、左胸から刃を逸らす。
ダメ、避けきれない。
私の目の前で、凶刃が左肩に差し込まれていく。
なぜだか、それがひどくゆっくりと見えた。
「ああぁあぁぁ…」
焼けるような痛みに、声を出して抵抗する。
思ったより傷が深い…痛みで、おかしくなりそうだ。
血がいくつもの筋を作って、腕を赤く染める。
頭までぼんやりしてきた。
まさか、私の攻撃を無視して、反撃してくるなんて…。
「…はぁ…はぁ」
間合いを外し、呼吸を整えながら、もう一度距離を測り直す。
どれだけ空気を吸い込んでも、ぼんやりとした頭は働いてくれない。
まずい、もう長くは…もたない。


「ここだ」
これが私の間合い。
後は、踏み出すだけだ。
体力なんて、もうとっくに使い果たしている。
全力を振り絞れるのは、きっとこれが最後になる。
今の私で、倒しきれるの? もし、倒せなければ…。
「死ぬ覚悟は出来たか?
 刺し違えてでも、貴様だけは必ず殺してやる」
私の迷いを見透かしたように、悪意を具現化したような笑みで、最悪の言葉を吐く。
それが、私の奥底に突き刺さった。
さっきの致命的な失敗が、私の真横を通り抜けた死が、身体を縛り付ける。
奴は本気だ。
さっきの攻撃を見てれば、イヤというほどに分かる。
自分の身体なんて、生き残ることなんて考えてない。
ただ、私を殺せれば、それでいいんだ。
「くっ…」
こんなところで、死ねない。
…死にたくない。
失いたくないものが、私には、たくさんできてしまったから。
がむしゃらに戦っているうちは、気にも留めなかったのに…。
どうして、こんなときに…。
失血のせいか、それとも死の恐怖か、膝が笑う。
ダメだ、もうこれ以上時間をかけたら、絶対に勝てなくなる。
なら、行くしか…。

「アイシス」

騒然としている中では消えてしまってもおかしくない、つぶやくような声。
だけどそれは、はっきりと私の鼓膜を揺らした。
その暖かな声音で自分の名前を呼ばれるだけで、安らぎに包まれる。
どんなものからも、その声が私を守ってくれる。
「俺があわせる」
そうなんだ、どんなときだって、お兄ちゃんの声は私に届く。
私を、導いてくれる。
「行け」
「はいっ!!」
さっきまでの恐怖なんて、嘘のように消えていた。
あるのは、戦場に似あわない、安心だけ。
「………」
踏み出す足に、精一杯の力を振り絞る。
これが、今の私に出来る全速力だ。
「来い…そのまま、死にに来い!!」
血走った目を見開き、声高に叫ぶ。
狂っているようにしか見えないのに、奴の切っ先は、しっかりと私を捉えて離さない。
だけど、踏み出す。
私には、お兄ちゃんがいるんだから。
「!」
お兄ちゃんのダガーが、風を切り裂いて私の横を過ぎる。
そのまま、真っ直ぐに奴へと吸い込まれた。
「………」
音を立てて肉を裂き、左肩に深々と突き刺さる。
流れ出した血は服を汚し、地面に赤い水溜りを作った。
「こんなもので、ワシを殺せると思うなあぁぁっ!!」
狂笑を浮かべて、声を裏返し、奴が自慢げに吼える。
だけど、そんなことで、私の足は…私たちの攻撃は、止められない。
これで終わりなんて、勘違いもいいところだ。
この程度じゃ、波状攻撃は終わらない。
私が踏み込む寸前で、もう一度聞こえる風きり音。
この木製のダガーの兄が、自由に空を駆けていた。
「!?」
奴の意識が奪われたことを確認してから、音とは逆方向へと飛ぶ。
右からお兄ちゃんなら、私は左からだ。
「風よ」
魔法が発動して、木刀の軌道が身体から顔面へと変わる。
防がなければ、それだけでも致命傷になる。
「くそがぁっ!!」
奴の左手は、お兄ちゃんのダガーが突き刺さっていて、使い物にならない。
木刀を叩き落すために右腕を振り上げる、その一拍で、最大限に力を溜める。
これが、私たち兄妹の…。
戦場の最前線の、波状攻撃だ。
「やあぁぁぁあぁぁっッ!!」
全体重をかけて踏み込み、がら空きの胴にダガーを叩きつける。
肉を押しつぶし、骨が軋む手応えが、はっきりと伝わってきた。
木刀がしなり、力に耐えられずに、へし折れる。
それでも、決して力を緩めずに、ダガーを振り抜いた。
「がっ、あっ…」
口から空気と一緒に、血を吐き出す。
目の焦点があわなくなり、ゆっくりと後ろへ倒れていく。
地面にぶつかる音が、ひどく遠くで聞こえた気がした。
「…ふぅ」
ゆっくりと、深いため息を吐く。
これで、終わったんだ。
悪夢も、消し去りたい過去も、私の父も、全て無くなった。
私の手で、終わらせたんだ。
「あ…」
自分が握っていたものを見て、思わず声が出る。
木刀は、見事に二つに分かれてしまっていた。
「折れちゃった…かぁ」
お兄ちゃんから、初めてもらったものだから、ずっと大事にしておきたかった。
壊れたのは悲しいけど、これのおかげで私は勝てたんだ。
折れた刃先を拾い上げ、精一杯の感謝をこめて、柄と一緒に抱き締める。
「ありがとう」
私のことを守ってくれて、ありがとう。
私の訓練に付き合ってくれて、ありがとう。
今まで、本当にありがとう。
心の中で、何度も何度も感謝する。
私の思いが、少しでも伝わるように。
「アイシス」
「アイシスちゃん」
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
駆け寄る私を、二人が笑顔で迎えてくれる。
その輝きに目を細める。
私の宝物は、まぶしいくらいに光っていた。
守ることができたんだ。
私の居場所を…
私の家族を。

点と点は、互いを必要として線になった。
この結びつきは、誰であろうと断ち切ることなんて出来ない。
最期までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
誰か好きなキャラが一人でも見つかったり、
少しでも、楽しい、面白いと思って頂ければ、
それに勝る幸せはございません。

同人ゲームのほうでは、この話の続きが発売されております。
『戦場の最前点』の裏側、レジ師匠とクレア師匠の活躍を描く『点を支えし者たち』
『戦場の最前点』の続編、セレノアをヒロインとした『有色の戦人』

また、2014年の冬コミで、最新作が発売されます。
『有色の戦人』の続編、ユイをヒロインとした『銀環の誓い』

お楽しみいただけた方、よろしければ、こちらも合わせてお願いします。
HP:http://blackgamer.sakura.ne.jp/
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