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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER -戦場の最前点-

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01章 孤独な少女-3

【ティスト視点】

小屋の前にある小さな広場は、長年の訓練のおかげで平らに踏み固められている。
二人で向かい合って身体を動かすぐらいなら、十分に出来るだろう。
「問題は、何をやるのが一番効果的か…だな」
「ね、ティストはアイシスちゃんのことをどのくらい知ってるの?」
ユイが言葉に含みを持たせて、俺のやるべきことを教えてくれる。
「そうだな。相手の力量ことが分からなければ、何もできないな。
 武器無しで…体術の訓練もしてあるのか?」
「…はい、一応は」
アイシスが表情をかげらせて、ゆっくりと頷く。
その不安そうな表情は、分かりやすいぐらいの拒絶だった。
「手合わせはやめておくか?」
「いえ、大丈夫です」
アイシスが小さく首を横に振り、消え入りそうな声で返事をする。
たしかな違和感を俺もユイも感じているが、アイシスから問いただすのは無理だろう。
「なら、始めようか」
戦えば、その理由が見えてくるかもしれない。
上着とダガーをユイに手渡して、アイシスと距離を取った。



「遠慮はいらない、全力でやってくれ」
「…はい」
アイシスが拳を握り、地面を踏みしめる。
そのまま、緊張した面持ちのままで、微動だにしない。
俺の出方を見ているのか?
「………」
どれだけ待っても、アイシスは動き出そうとしない。
俺から動くしかなさそうだな。
「…ッ」
手加減して繰り出した、ゆっくりと大振りな拳。
これぐらいなら、避けられるだろう。
「ぐっ…」
鈍い音をさせ、俺の拳をやっとのことで、両腕で受け止める。
なぜ避けない? 受ける姿勢を取ってもまだ時間の余裕があるのに、なぜだ?
「…ッ」
一拍以上の間をあけて、アイシスが拳を突き出してくる。
大きく距離を取ってその攻撃を避け、アイシスの表情を観察する。
「………」
あの辛そうに歪んだ表情は、痛みのせいか?
「ッ!」
今度は左の回し蹴りをゆっくりと放つ。
また、さっきと同じような反応でアイシスが無理やり受け止め、一拍以上の間をあけて反撃をする。
三回、四回と威力をできる限り抑えて繰り返すが、同じことの繰り返しだ。
そして、続けるうちに、もう一つの違和感に気づいた。
アイシスの反撃は、遅い上に、もう一つおかしいところがある。
「試してみるか」
聞こえないように小さく呟き、さっきまでと同じように攻撃を打ち込んでアイシスに受け止めさせる。
一拍以上の間をあけて、アイシスが反撃をする瞬間に…。
さっきまで下がって避けていたところを、あえてその場に残った。
「…!?」
驚いたアイシスの身体が硬直し、拳は俺の身体に触れる前に止まる。
俺は攻撃した場所から動いていない、なのに、反撃したアイシスの攻撃は届いていない。
やはりそうだ、アイシスは、俺に攻撃を当てるつもりがない。
「どうした?」
「いえ」
否定をするが、動揺は隠せていない。
これ以上続けても、アイシスに怪我をさせるだけで、意味はないな。
「終わりにしようか」
「え…あ…」
戸惑うアイシスの前でいつもの立ち方へと崩して、戦いの終わりを伝える。
アイシスは何も言えずに、自分のかまえを解いた。
「なぜ、攻撃を避けようとしないんだ?
 攻撃を当てようとしないのには、何か理由があるのか?」
俺の質問に、アイシスの顔色が見る見るうちに青ざめていく。
身体は小刻みに震え、その顔には汗がうっすらと浮かんでいる。
「アイシス?」
「い…や…」
「大丈夫」
その全てを優しく包むように、ユイが後ろからアイシスを抱きしめる。
そして、アイシスを光が優しく包んだ。
「え? え!?」
「大丈夫」
さっきと同じように、ユイがアイシスの耳元で優しく囁く。
「これは、あたしの魔法なの…だから、大丈夫」
「…はい」
ユイに小さく返事をして、アイシスが強張らせていた身体の力を抜く。
傷を癒すことのできる、ユイの癒しの魔法。
それには、その心を落ち着かせる効果もある。
「もし、アイシスちゃんがイヤじゃなかったら、さっきのティストの質問に答えてくれないかな?」
「私が…攻撃を避けたり、当てたりすると…。
 何倍にもなって、やりかえされるから…。
 だ…から…」
言葉はそこで嗚咽おえつに変わり、途切れてしまう。
でも、それで十分に伝わった。
全ては、クリアデルの連中が、そうなるように仕向けたわけだ。
自分より下であるように、自分より強くなれないように、圧力をかけて相手の成長を阻む。
騎士団、貴族、どこでも立場や争いがあれば、同じようなことをやっている…が。
悪質にも、程があるな。
この呪縛から解放されない限り、アイシスが誰かに勝つなんて不可能だ。


「腕は、大丈夫か?」
「あ…はい」
自分の腕をさすってみたアイシスが、あいまいな表情でうなずく。
傷の痛みが癒えていく魔法の違和感が、受け入れられないみたいだ。
「よく受けられたな、決して軽い攻撃じゃないのに」
「え?」
「その身体で、あれだけ攻撃を受け止められるのは、見事なものだ」
俺が攻撃した速度はたしかに遅いが、それほどに弱い攻撃じゃない。
アイシスが本当に外見どおりの華奢な少女なら、まず、受けきれないだろう。
「いえ…」
褒められてどうしていいのか分からず、顔を赤くしてアイシスが戸惑う。
誰だってそうだ…褒められたら悪い気はしない。
それが、ずっと認めてもらえなかったことなら、尚更だろうな。
「手合わせをして、俺が分かったことと言えば…。
 もし、俺がアイシスに教えるのなら、おそらく戦いの根底からになると思う」
「根底?」
「ああ、武器の扱いや、技よりも、もっと前のところからだ」
「…はい」
積み重ねるのに必要な土台を根こそぎ壊されていることを、おそらく自覚していない。
だから、筋力や体力を積み重ねても、それを戦いに生かすことができないんだ。
「………」
『踏み込みすぎたらダメかもしれない。でも、一番大事なのは離れないこと』…だったよな。
今の二人を見ていれば、ユイのちょっと大きな踏み込みが、アイシスの救いになることがよく分かる。
俺には、やることも、やらなければならないこともない。
一人で日がな一日訓練をし、家事をし、食事をし、持て余した時間を誤魔化すように使っている。
訓練に目的はなく、目指す強さなんてものもない、ただ怠惰に過ごしているのと変わらない。
それに、俺の意思でアイシスをここまで連れて来ておいて、知らん顔するわけにもいかない。
何より、ユイや師匠…そして、あいつに助けてもらったときに、俺は嬉しかったから。
少し、あいつを見習ってみるか。
「俺から、戦いを習ってみるつもりはあるか?」
「…え?」
「別に、強制はしない。
 それに、期限を決めるつもりもないから、アイシスの好きなときに終わりにしていい」
「どうして…そこまで?」
「一人で住むには、あの家が大きすぎるから…かな」
自分の弱音に、自分でも情けなくなる。
だが、誰もいない家に帰るたびに、少しの寂しさを感じていたのも事実だ。
ドアを開けて、真っ暗な家に帰ったとき。
自分のためだけに料理をして、片づけをするとき。
自分は、何をしているんだろうという虚無感に襲われていた。
それが、少しでも紛れるなら、俺としては大歓迎だ。
「…ほんとうに。ほんとうに…いいんですか?」
「アイシスが俺のことを、教わるに足る存在と認めてくれれば…な」
無言でアイシスが俺の瞳をみつめる。
俺は、黙ってアイシスの目を見返していた。

「よろしく、お願いします」

小さく、やっと聞こえる程度の声で、アイシスがそう呟く。
涙で顔を塗らすアイシスの頭を撫でながら、ユイも優しく笑ってくれた。
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