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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER -戦場の最前点-

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08章 授かる少女-1

【ティスト視点】

翌朝、小屋の前にある庭。
隣のアイシスも、準備万端だ。
「さて…と」
木製ダガーもなんとか二本、用意した。
準備は万端、問題は何の訓練をするか、だな。
「大剣のときは、どんな練習をしたんだ?」
「箱から剣を取り出して、好きなように切りあえ…と」
箱から…ね。
ロウの言ってたとおり、自分の武器は持たないみたいだな。
「それだけか?」
「はい。実戦を積むことが、何よりも早道だ…って」
声を詰まらせて、アイシスが答える。
その方法は、あながち間違いじゃないと思う。
俺の訓練も、ほとんどは師匠たちとの実戦だった。
一人で漫然とやるときと比べて、相手がいるのはそれだけで集中力が格段に違う。
だから、その分だけ体得が早い。
だが、苦手意識を持ったままのアイシスに、それをさせても…な。
記憶をたどって、訓練してきた道を思い返す。
そういえば、一人でも出来る基礎があったな。
かたの訓練をしてみるか?」
「形…って、何ですか?」
「いかに効率の良い動きが出来るか、それを突き詰めた動作だな。
 それを仮想の敵と結びつけて、なるべく実践に近い状態で覚える」
体捌たいさばきを、足運びを、切っ先の軌道を、動作の中で覚えていく。
どうすれば、攻撃の威力を高められるのか。
どうすれば、体重の移動を円滑にできるのか。
技の要点を絞込み、反復動作で身体に覚えさせ、反射の域に昇華させるのが最終的な目標だ。
「効率の…よい?」
「たとえば…相手が上から剣を振り下ろしてきたとするだろう?」
防御の姿勢を取って、ダガーをかまえる。
「攻撃を受け止めるときの姿勢、足の配置、重心に気を使うだけでも、棒立ちより遥かにマシだ。
 防御と同じことが、攻撃にも当てはまる。
 切っ先の動きは、太刀筋と言われるくらいだからな。
 力任せで闇雲に振り回すよりも、正しい軌道のほうが一撃の威力は増す」
踏み出した勢いに乗せて、ダガーを振りぬく。
大きく風を切り裂いて、想像していた場所に弧を描いた。
「こういう基本動作を厳選して、つなげたのが形だ」
剣舞とも呼ばれるらしいが、師匠たちから聞きかじったくらいだから、よく分からない。
「説明は初めてだから分かりにくいと思うが、下手だったら遠慮なく聞いてくれ」
「そんなことないです。よく分かりました」
「そういってくれると、助かるな」
前と比べると、アイシスの言葉や雰囲気になんとなくやわらかなものが見える気がする。
あの木製ダガーを気に入ってくれたから…ならいいが。
「まずは動きを真似て、一つ一つの技と流れを覚えてくれ。
 それが出来たら、今度は細かい点を教えていく」
「はい」
数歩離れた場所で構えをとり、後ろでアイシスが真似る音を聞く。
いつもの倍以上の時間をかけて、俺はゆっくりと形を打った。


適度に休みを入れながら、染み込ませるように同じ形を繰り返す。
さっきから何度か見ているが、アイシスの集中力はまだ途切れていない。
休憩の取り方も、なんとなく感じるものがあるようだな。
呼吸を整えるまでの時間が一定になってきたし、表情に明らかな疲れも見せない。
「ふぅ…」
立ったままで休憩する二人の間に、冷たい風が流れる。
形の練習で覚えた感覚を、なるべく早いうちに実戦で慣らしておくか。
「休めたか?」
「もう大丈夫です」
「なら、今度は、前にやったダガーの打ち込みだ」
アイシスが始めてダガーを握ったときにもした、武器同士の打ち合い。
あれは、攻撃と防御の形を確かめながらやるには、最適だ。
「要領は覚えてるか?」
「はい」
「なら、始めようか」
あのときのように棒立ちではなく、アイシスの見本となるよう基本に忠実な姿勢を作る。
最近は基礎をないがしろにしていたからか、ひどく懐かしい。
「行きます」
草原のときより踏み込みが早く、その勢いに乗せてダガーが振り下ろされる。
軽い木製で、これだけ重い攻撃を出せれば、上々だろう。
二、三発と小気味よい音が続いたところで、突然それが止まる。
「ッ!?」
歩幅を広くしすぎたせいで足を滑らせたアイシスが、慌てて体勢を立て直す。
まだまだ、意識をしないと体が動いてくれないみたいだな。
「一定の動作の繰り返しじゃなく、色々試してみた方がいい」
攻撃を受け止めながら指摘すると、アイシスがうなずいて返す。
真上から振り下ろすだけだったダガーの角度が変わり、突きや薙ぎ払いが混じる。
素直に応えるアイシスの動きに、いつのまにか笑んでいる自分に気が付く。
師匠たちも、こんな気分だったのかもしれない。
「やぁっ!!」
俺が刃を交える相手…か。
悪くない。


ライズ&セットの端にある、俺の指定席。
約束の時間から大幅に遅刻しても笑って昼食の用意をしてくれる、ユイへと頭を下げる。
「ごめんな、昼前には着く約束だったのに…」
「気にしないの。あたしも手伝いがあって、忙しかったし」
取り分けた皿を差し出しながら、ユイが笑顔で返してくれる。
出来立てを一緒に食べるために、こんな時間まで食べずに待っていてくれるのは、本当にありがたい。
「街道を使わないと、やっぱり辛い?」
「ああ、いつもの倍近く時間を食うな」
魔族の王の忠告に従い、あれから街道には足を踏み入れていない。
安全を買うためとはいえ、こうも時間を取られるのは面倒だ。
「アイシスちゃんも、お疲れさま」
「いえ、たいしたことありません。それに、今日は私の用事ですから」
ロウのことだ、ダガーをきっちり仕上げて待っているだろうな。
ファーナとの待ち合わせには連れて行けないが、ここで、二手に分かれるのも薄情だ。
まずは、一緒に武器屋だな。
「食べ終わったら、早速行こうか」
「あたしも一緒に行ってもいい?」
「ああ。せっかくだから、その後はアイシスと二人で買い物にでも行ってくればいい」
「? ティストは?」
「用事があって…な。晩御飯までには帰ってくるつもりだが、お願いできるか?」
「もちろん、任せてよ」
ユイの笑顔を見て、心に誓う。
昼飯は、軽めに済ませておこう。
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