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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER -戦場の最前点-

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07章 受け入れる少女-2

【ティスト視点】

「クレネアの森にいた有色の魔族は、誰なのかしら?」
アイシスと入れ替わりに部屋へ入り、椅子に座ると同時に質問が突きつけられる。
穏やかな口調とは裏腹に、部屋の空気は痛いほどに張り詰めていた。
「レオン・グレイスだ」
俺の質問に、ため息をついてからペンを走らせる。
「やはり、グレイスの国王なのね。
 南端の魔族の国王が、なぜ国境の森になんて…」
言わずにはいられないのか、愚痴をこぼしながら紙を新しいものと取り替える。
アイシスの分と、調書を分けておくつもりだろう。
人間は血の繋がりによる世襲制、魔族は力による選定、精霊族は周囲による選定で王が決められる。
つまり、クレネアの森で遭遇したあの魔族は、掛け値なしに魔族の中でも最強だ。
「お待たせしました。順を追って、説明してもらえるかしら?」
「ああ」
俺の説明をアイシスの話と照合し、ファーナが頭の中に補完しながら話が進んでいく。
器用なことだ、こんな思考の整理の仕方は、絶対に真似できない。


「で、焼け跡からは何も見つけられなかった…と?」
「ああ」
念入りに調査したわけではないが、特に怪しげなものもなかった。
まあ、そんなものがあれば、とっくに精霊族に回収されているだろう。
「悪いな、何も発見がなくて」
「いえ、十分にあったわ」
「…どういう意味だ?」
ファーナの言葉の意味が分からない。
俺の反応に、小さく息をついてから、メガネの位置を直した。
「なら、あなたに確認させてほしいのだけど…。
 魔族の王とその側近が、精霊族に気づかれずに森を散策するのは、不可能なこと?」
その質問を受けて、ようやく事の異常に気づく。
あそこで、魔族と精霊族が向かい合っていたということは、どちらかが接触したということだ。
気配に敏感な魔族の王が、相手に気づかれるような愚を犯すとは思えない。
「従者の二人だけならまだしも、奴なら十中八九は気づかれないだろうな」
「なら、魔族の側から接触を持った可能性が濃厚ね」
「何のために?」
「食糧の交渉が目的でないことは、断言できるわ」
今までの経緯から、なぜそんな話が確証を持って導き出せるのか、理解できない。
俺の表情を読んだのか、ファーナが続けて説明をしてくれた。
「思い出して。あなたに依頼したのは、クレネアの森であがった煙に対する調査よ。
 森に異変があったなら、警戒している精霊族と交渉の余地がないことくらい想像できるでしょう?
 あの場所に来た理由は、先日の事件に関心または関連があると考えて、まず間違いないはず」
クレネアの森に上がった煙との関連を重視…か。
だけど、その思考がどうもしっくりこない。
領土外のことをそこまで気にかけるか?
しかも、そのために魔族の王がわざわざ動くなんて、考えにくい。
「単純に、警告とは考えられないか?」
「あなたに告げた、南側の街道は使うなという話のことね」
丸められた地図を机上で伸ばして、その上をファーナの指が伝う。
大陸中央の最南端が、あのレオン・グレイスの統治するグレイス国。
そして、奴が警告してきたのが、ロアイスからラステナまでを繋ぐ道である、南側の街道だ。
「あなたに会えたことを偶然と考えるなら、精霊族に伝えにいくつもりだったはず。
 森から出ない種族に対して、そんな警告をして意味があるのかしら?」
思案顔でペンを揺らしていたファーナが、数秒の間をあけてからメガネを直す。
「それに…なぜ、自分たちの行動を教えたのかしら? 黙っていれば済むことでしょう?
 私たちに伝えたことは、処置をこちらに促しているのか、それとも…」
「純粋に人払いをしたいからじゃないのか?
 巻き添えを…そこまで考えないにしても、余計な邪魔を排除しておきたいだけかもしれない」
日常的にあの街道を使い、俺のためにユイも使っていることを考えれば、あの忠言は本当にありがたい。
無駄な事件に巻き込まれる可能性を減らせるのだから、聞いておいても損はない。
「逆に、その場にこちらの目を向けさせるためで、目的は他にあるかもしれないわ」
俺の言葉に耳を貸しながらも、その意見に流されたりすることはない。
猜疑心さいぎしんを持っていないと務まらないなんて、皮肉な仕事だな。
老獪ろうかいにいいように遊ばれてきたわね」
「まったくだ」
重なるため息を振り払って、互いに下がりがちになっていた視線をあげる。
嘆いてる暇もない、今は対策を練るのが先だ。
「南側の街道を封鎖して、立入禁止にしたりできるのか?」
「できなくはないけれど…。
 ねずみにねずみ捕りがあることを教えるだけで、何の意味もないわ。
 一時しのぎにはなるかもしれないけど、喉元を過ぎてから地獄の業火に焼かれるわよ」
国が目を光らせている間は動きを潜めていても、監視が解かれるとともに再開される。
監視を永久にできない以上は、根本原因を除去しない限り、いつか起きる問題だ。
「街道沿いという情報だけでは、広範囲すぎて手がつけられないわね」
地図上の街道沿いに指を滑らせながら、ため息をつく。
町や村を指定されたなら兵力を集中させればいいが、分散させるなら数が必要だ。
「それに、騎士団を派遣して魔族の王と遭遇したら、目も当てられないしね」
魔族の王に太刀打ちできる者なんて、騎士団の精鋭を何人揃えてもいないだろう。
たとえ騎士団長でさえ、勝利の見込みは限りなくゼロに近い。
「今回の件は、魔族に任せておけばいいんじゃないのか?」
「結論がそれであることはかまわないけれど、思考の放棄は好まれないわね」
何度目かも分からないため息をついて、ファーナが俺の目を真剣な顔で覗き込む。
それだけで、何を言い出すのか検討がついた。
事前に魔族が潰すといっていたネズミをこちらで退治すれば、円滑に事件が片付くだろうな。
「申し訳ないが、この件に関しては手を引かせてもらう。
 懇切丁寧こんせつていねいな忠告を無視するほど、命知らずには成りきれないからな」
次にレオン・グレイスと対峙したら、逃がしてもらえないだろう。
奴の遊び相手として命懸けで相手をするのは、ごめんだ。
それに、自分の意思に反して仕事をするようなことはしないって、ユイと約束したばかりだしな。
「そうね。それが賢明だと思うわ」
意見を押し付けることもなく、あっさりとファーナが引き下がる。
無理に権力を行使しようとしなかったのは、俺としても好感が持てるな。
「何かあったら連絡をくれ。出来る限りは協力する」
「そういってもらえると心強いわ。
 長々とごめんなさい。今日は、これで終わりにさせてもらうわ。
 申し訳ないけれど、三日後に時間を割いてもらえるかしら?」
「今度は、何があるんだ?」
また厄介事なら、せめて、心の準備ぐらいはしておきたい。
「警戒しないで。報酬を渡すだけよ」
「今日もらうわけにはいかないのか?」
「アイシスさんの話、当初の想像より、かなり複雑な話になっているわ。
 まだ、私の小難しい話を聞ける集中力が残っているのなら、今にしてもいいけど?」
「いいや、限界だな」
「でしょう?」
勝ち誇ったような笑顔を見ると反抗したくもあるが、今から一方的な報告を聞かされても頭に入りきらない。
それに、この頭の切れる人間が込み入った話だというなら、気合を入れて聞いた方が良さそうだ。
「報告書にまとめてもいいけど、書類に目を通す煩わしさは分かっているつもりよ。
 慣れない拾い読みよりも、質疑応答のほうが楽でしょう?」
「ああ、よろしく頼む」
俺の理解力にあわせて、情報の提供方法をきちんと考えてくれるのは、本当にありがたい。
礼を言って、ようやく冷めた紅茶のカップに手を伸ばすことが許された。
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