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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER -戦場の最前点-

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05章 驚く少女-6

【アイシス視点】

「ふぅ…」
際限なく出てくるものを食べ、振舞われたお酒を飲んだ。
こんなに心地よい満腹感は初めてで…もう起きているのも面倒になる。
今日は、いろんなことがありすぎた。
王城に行った、武器の扱いを習った、あいつらに…会った。
そこで、思考を止める。
思い出したくもなかった。
「ごめんね、相部屋で」
ベッドのシーツを整えながら、小さくユイさんが謝る。
「いえ…」
本当は、毛布の一枚でも借りて、一人で寝たいけど…。
部屋に泊めてくれるっていうのに、そんなことはできない。
「明日のことが気になる?」
私の表情をそういう風に解釈したのか、優しい声をかけてくれる。
異種族との国境に位置する森。
危険なのは分かるけど…。
どれぐらい危険で、だからどうなるのか、ある程度でも想像ができないと恐がることさえできない。
「大丈夫、ティストはとっても強いから」
私に聞かせているというより、あの人が自分に言い聞かせてるように感じる。
いい返事が見つからなくて、私は曖昧あいまいにうなずいた。
「だから…ね。アイシスちゃんも、ティストのことを頼ってもいいと思う」
「…そんなに強いんですか? 先生は」
先生の訓練とか、私を軽々とあしらう力とか、たしかにすごいと思うけど…。
五人に、しかもクリアデルの人間に囲まれて、勝てるなんて思えない。
そして、先生が倒れた後には、私への報復が待っている。
泣いても倒れても終わることのない、執拗な報復が…。
しかも、抵抗をしたと思われたら、報復は何倍にもなる。
「あたしは、強さの単位とか、表現方法なんて分からないけど。
 ティストは、誰にも負けないよ」
確信を持った言葉…疑いなんて、少しもない。
そこまで先生を信頼する理由が、私には分からなかった。
「誰にも…ですか?」
「そう、誰にも。
 あたしが知っている誰よりも、ティストは強いから。
 あたしがそう言っても、信じられないかもしれないけどね」
私の考えていることが分かったのか、そう言葉を付け足す。
私には、自分の好きな人を過大評価しているようにしか見えない。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
試さなければ分からない不毛な会話を終わらせるために、目を閉じる。
先生の強さ…か。
漠然と私よりも強いということ以外、考えたことなかった。
どのくらい、誰と同じくらい…でも、結局、どんなに強くてもあんまり関係ない。
強いのは先生であって私ではないし、先生が私を必ず助けてくれる保証なんて、ないんだから。


【ティスト視点】


アイシスとユイが二階にあがってから開けた酒瓶さかびんも、もう半分も残ってない。
これがなくなったらお開き、明日に備えて寝るだけだ。
グラスを空にしたラインさんが、俺の顔を見て盛大にため息をつく。
「昔っから、いらない我慢が多すぎるが…ちぃとばかし、やりすぎだな。
 降りかかった火の粉を払い除けるぐらいは、迷わずやれ」
少し苛立ちを含んだ声。
おそらくは、五人組に絡まれた昼間の一件のことだろう。
「見てたんですね」
「ちょっとした騒ぎになってたから、お店を抜け出してちらっと見に行ったの。
 怪我しそうになかったし、大人気ないから割って入りはしなかったけど」
「はぁ…」
騒ぎが始まってから終わるまで数分、シアさんが来るには十分な時間だな。
物陰からシアさんがいつもの笑顔で覗いてる姿が、かんたんに想像できる。
「ユイと内緒でデートするなら、街の外をオススメするわよ。
 私たちの目の届く範囲で、見せ付けちゃってくれてもいいけど」
「………」
俺が何も答えられないでいると、ラインさんが真剣な顔で俺を覗き込む。
「その辺は、俺は口を出さねえが…。
 大事なところで、力を出し損ねるなよ。
 同じことを明日やれば、どうなるかぐらい分かってるんだろ?」
怒るというよりも心配そうな口調に、なんだか申し訳なくなる。
「自分のために力を使っていいのよ?
 本当に守らなくちゃいけないのは、自分と自分が守るって決めたものだけでいい。
 分かるわね?」
「はい」
「いい返事ね」
俺の瞳をまっすぐに覗き込んで、シアさんが満足そうにうなずく。
「明日は、留守番だな」
「そうね、残念だけど」
「何の話ですか?」
「ティストちゃんが心配だから、明日は一緒に行こうかってラインと話してたのよ。
 クレネアの森なんて久しぶりだし、ね」
散歩にでも行くかのような気軽さで、シアさんが微笑む。
そんな笑顔で俺を見守ってくれる人たちだからこそ、迷惑はかけたくない。
「大丈夫です、俺でなんとかしてきます」
「さすが、男の子ね」
「気をつけて行ってこい」
「はい」
俺の返事を笑顔で受け取り、半分ほど残った酒瓶に栓をしてラインさんが立ち上がった。
「こいつは、帰ってからにしておくか」
「そのときは、お願いします」
外見に似合わず約束や願掛けにこだわりたがるラインさんに、なんとか笑顔でそう答えた。
その優しさが、ただ嬉しかった。


開店前のライズ&セットは、驚くほど静かで、少し寂しい。
客を待つように整然と並ぶテーブルや椅子が働くには、まだ早い。
だが、その奥にある厨房には、もう火が入っていた。
見慣れたエプロンをつけたユイが、次々に野菜を下ごしらえしている。
おそらく、今日の分の仕込みだろう。
「おはよう」
「あ、おはよ」
「水、もらってもいいか?」
「うん、ちょっと待ってね」
鍋をおたまでかき混ぜてから、グラスに水を汲んでくれた。
「ありがとう」
よく冷えた水は、ゆっくりと俺の身体に染み渡っていく。
酒もたしかに美味いかもしれないが、今のこの一杯が何よりも美味いと思う。
「ふぁ…」
ユイが小さくあくびをして、慌てて口を手のひらで隠す。
「眠いなら、今からでも寝てきたらどうだ?」
「ううん、いい。
 きっと寝られないし、ティストのご飯を作ってる方が落ち着くから」
いつもの笑顔を浮かべてくれるけど、その声には無理が聞こえる。
「ごめんな」
「いいの。それより、そこに座って」
言われたとおりに、いつもの椅子に腰掛ける。
すると、ユイがエプロンを外して俺の斜め前に立つ。
「ごめんね、時間が空いちゃって」
ユイの指から淡い光が漏れ出して、俺の左肩に添えられる。
湯につけたときのような暖かさが、身体の内側からあふれ出してくる。
どんなに休息をとっても、わずかに残る類の疲れが、ユイの力でじわじわと削ぎ落とされていく。
「消えないね、ティストの傷」
もう痛みを感じない古傷を、刺激しないように優しく白い指がなぞる。
上に、下に、ユイが気になった場所に指が伸びては、そこに癒しの魔法が注ぎ込まれる。
「………」
『もう、傷は消えないかもしれない』
その言葉を、言いかけて飲み込む。
傷の具合なんて、たぶん、俺よりもユイのほうがずっとよく分かってる。
それでも、週に一度は必ず俺の家を訪れて、こうやって癒しの魔法をかけてくれる。
アイシスが来たあの日にユイが俺の家まで来てくれたのも、これが理由だった。
だから…。
「ユイ」
「なに?」
「ありがとな」
「うん」
俺は俺にできることで、ユイに返していこう。
仕事の報酬が出たら、また何か買ってくるか。
「ユイに迷惑かけないためにも、今回は怪我しないで帰ってこないとな」
「迷惑なんかじゃないよ。
 あたしは、ティストから迷惑をかけられたことなんて、一度もないからね」
ちょっと向きになったように、ユイが語調を強める。
「でも…。もう傷は増やさないで…。
 ティストが痛い思いをするのは、イヤだから」
「ああ」
震えを帯びたユイの声に小さく返事をして、目をつぶる。
わずかでも万全に近づけるために、癒しの魔法に意識を集中した。
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