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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER -戦場の最前点-

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05章 驚く少女-4

【ティスト視点】

「ロクなもんが置いてねえじゃねえか」
武器屋の中から舌打ちが聞こえ、人相の悪い男たちが出てくる。
こいつら…この前、ギルドにいた五人組だな。
「あぁ? アイシスじゃねえか?」
無礼にこちらを指差して、男たちが下卑た笑いを浮かべる。
その言葉を合図に、俺たちのほうへと向かって連中が歩いてきた。
「………」
何も答えず、ただ、顔を真っ青にしている。
その反応だけで、奴らとの関係が十分にわかった。
こいつらは、クリアデルの関係者…だろう。
「下がっててくれ」
背にアイシスとユイを隠すように、俺は一歩前に出る。
男たちは意外そうな顔で俺を見ると、一層に卑しい笑みを浮かべて近寄ってきた。
「お前が、アイシスの飼い主かよ? 金持ってるようには見えねえな」
長身を揺らして、馬鹿みたいに笑いだす。
口から漏れ出る笑い声が、この上なく耳障りだ。
「何のようだ?」
「てめえに用はねえよ」
俺のことを無視して、背に隠れているアイシスを覗き込む。
「いよぉ、まだ俺のことは覚えてるよなぁ?」
絡みつくような、うっとうしい声で、男がアイシスに語りかける。
「…リント…さん」
アイシスのか細い声が、俺の後ろから力なく相手の名前を呼ぶ。
その声を聞くだけで、体内に溜まった怒りが、熱を帯びた。
「へっへえ。よく覚えてるじゃねえか、おちこぼれの癖によお」
「そう悪く言うな」
それまで黙っていた小さいのが、でかいのを制する。
…何の真似だ?
「こいつのおかげで、救われた人間だって大勢いるだろう?」
「…フェイ…さん?」
「こいつが最弱でいてくれたおかげで、俺たちは助かったんだ。
 お前くらいに役立たずで、何もできない人間なんて、他に見たことないからな」
すました顔で皮肉を吐いたチビの何が面白いのか、でかいのが、続いて後ろにいた三人が笑い出す。
徹底して痛めつけ、笑いものにし、踏みにじる。
これが、こいつらのやり方か。
馬鹿笑いは、止まらない。
不愉快だ。
「黙れ」
これ以上、こいつらの声を聞いている理由はない。
「んだとっ!?」
大声を出せば、退くとでも思っているのか?
体重を前に移動しようとすると、上半身が後ろへと引かれる。
? 上着を握られてるのか?
「なんでもっ、なんでもありませんからっ!!」
必死になって叫ぶアイシスの声に、俺は姿勢を戻して奴らを見据える。
アイシスの反応を楽しそうに眺めて、奴らが得意げに笑う。
それを見ているだけで、際限なく怒りは膨れ上がり、力んだ身体が不自然に強張る。
「………」
アイシスの手を離すために、上着を引く。
だが、何度やっても、その手は払いのけられなかった。
「お願い、だから…。なにもしないで…ください…」
相手に聞こえないように必死で殺したアイシスの声が、俺の耳に届く。
俺にとっても、街中で騒ぎを起こすのは本意じゃない。
問題を起こせば、報告は城に…そうすれば、師匠たちやあいつらに迷惑が掛かる。
だが…こいつらを放っておく気にはならない。
「どけぃ、貴様らぁっ!!」
大喝が、耳を貫く。
振り返れば、店から出てきたロウが、不機嫌な顔で俺たちを見ていた。
「何をしているのか知らんが、店の入り口を塞ぐな」
「なんだと?」
声を荒げる奴らに対して、ロウは気にした風でもなく睨み返す。
「騎士団の世話になるのか、失せるのか、どっちなんじゃ?」
「はっ、結局は他人任せかよ。騎士団が来る前に死んじまうぜ? じいさん」
「よかろう。そこまで死にたいなら、ワシが手を下してやる。
 騎士団には、死体の始末を任せることにしようかの」
ロウの口上と殺気に道行く人が足を止め、人だかりが大きくなりつつある。
こうなってしまえば、騎士団の連中が駆けつけるのは時間の問題だ。
連行されるのは、国からの信頼がないゴロツキ共。
もし、逆らおうものなら、騎士団長が黙らせにくる。
「行くぞ」
「チッ!!」
周りに聞こえるように舌打ちをし、奴らがこの場を去っていった。
ようやく、終わった…か。
やれやれとため息をつく暇もなく、ロウに詰め寄られる。
その目には、間違えようもない、非難の色が灯っていた。
「何をしておった? あんな阿呆ども、さっさと蹴散らさんか。
 ワシと違って、お前さんは手加減もなれておるじゃろう?」
言いたい放題に文句を投げると、すぐに店の中へ引っ込む。
まったくそのとおりで、返す言葉も見つからない。


振り返って、言葉を失う。
「………」
俺の服をぎゅっと掴んだまま、アイシスは、声も出せずに泣いている。
閉じられた目からは大粒の涙がこぼれ、頬を伝い地面へと落ちていった。
こうなってしまうことは、少し考えれば、分かったのに…。
アイシスが俺に対して、『戦ってください』なんて、言えるわけがないのに…。
アイシスの言葉を都合のいい様に聞いて、奴らに好きなように振舞わせて…。
俺は、愚かとしか言いようがない。
「すまない」
謝るだけで足りるなんて、思っていない。
それでも、謝らずには、いられなかった。
「………」
必死に感情を抑え付けるように、アイシスは自分の体を抱きしめて、口を閉じている。
少しでも口を開けば、きっと、そこから嗚咽が漏れてしまう。
せっかく、傷口が塞がり始めたかもしれないのに…。
そこに、奴らは毒を塗りこみ、痛みに苦しむアイシスを笑ったんだ。
そして…。
俺は、目の前でそれをやられたのに、アイシスを見殺しにした。
「………」
砕けてもかまわない…それぐらいの気持ちで、歯を食いしばる。
今から追いかけてあいつらをぶちのめしたところで、アイシスの痛みは消せない。
俺が何をしたところで、痛みは消せないんだ。
止められたのに、止めなかった。
その事実が、自分で許せない。
「大丈夫、もう大丈夫だから」
子供をあやす様にゆっくりとアイシスの髪を撫でつけ、耳元で優しく繰り返す。
「………」
息と一緒に、頭の中に充満していた怒りを、少しでも吐き出す。
アイシスに何か言葉をかけることさえおこがましくて、拳を固く握り締め、静かに時間が流れるのを待った。


数分後、なんとか落ち着いたアイシスを連れて、店に入る。
すみませんでした、と小さな声で謝られても、何も答えてやれない自分が情けなかった。
「邪魔するぞ」
「…なんじゃ?」
さっきの騒動で機嫌を悪くしたのか、苛立ちのこもった視線がこちらに向く。
だが、そんなことにかまうつもりはない。
「この子にあわせた武器が欲しい」
「…誰じゃ?」
アイシスを一瞥して、低い声でそう問いかけてくる。
「俺が刃を重ねる相手…だ」
「ふん、レジとクレアの真似事をするつもりか?」
「師匠には遠く及ばないが…な」
「好きなものを自分で選べ」
興味なさげに鼻をならして、ロウが椅子に腰掛ける。
アイシスは怯えるように小さく頭を下げて、店の中を歩き始めた。
「………」
隅々まで見回したあとに、視線が一点で止まる。
そこは、俺が使うものと同じ、ダガーの並ぶ棚だった。
「先生、すみません。
 先生のダガー、借してもらえますか?」
「ああ」
鞘をつけたまま手渡すと、アイシスが俺のダガーを引き抜く。
俺のダガーを握ってから台の上に置き、他の一つを手に取って丁寧に重さや握りを確かめている。
武具の優劣に疎い俺が口を出しても仕方ない、アイシスに考えがあるなら任せよう。
「この三本で、ウチにあるダガーは全てじゃ」
いつの間にか奥に行っていたロウが、アイシスの前に残りのダガーを並べる。
ロウの秘蔵の一品か、それとも、作り終わって間もない新作か。
今あるものを全て手にとって見た後に、アイシスが新しく運ばれた三本に手を伸ばす。
「…?」
ダガーを握るたびに、アイシスの表情が変化する。
どうやら、普通に店に並べるようなダガーとは一線を画すようだな。
触れてみるだけで何かを感じさせるような武器を作り出すのだから、やはり、ロウの腕は本物だ。


「これで、お願いします」
三本を相手に何度も確かめた後に、ようやくそのダガーを差し出す。
「なぜ、こいつを選んだのじゃ?」
「移動するから大きなものは不便だし、運ぶだけで疲れたら意味がない。
 それに…どうせ、どんな武器であろうと先生ほど扱えない。
 なら、私の武器は、先生の武器に何かあったときに代用がきくものでいい。
 それは、あの中で先生の武器に一番近いはずです」
「ほう」
ロウが頬を緩ませてうなずく。
どうやら、アイシスの考え方が、ロウとしては気に入ったらしい。
「よかろう。こいつはお前さんに貸してやる…が、条件がある。守るか?」
「…私に、できることなら」
「簡単じゃ、その武器を一度でいいから使ってこい。
 ワシが貸すのは飾りではない、武器じゃからな」
どこまでも職人気質なロウに、アイシスが小さくうなずいて答える。
武器を無駄にしないためにも、ダガーの最低限の扱いは教えておかないと…な。
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