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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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17章 気まぐれな復讐-3

【ティスト視点】

「ほう、この状況で、ワシを狙うというのか。背後から打たれても知らんぞ?」
「関係ない」
くだらない気遣いを聞き流して、ひたすら足に力を込める。
後ろにも前にも、興味はない。
狙うのは、奴の命だけだ。
「殺しなさい、アタシたちを!」
「あなたならできるでしょう? 早くっ!」
「黙ってろ」
口々に叫ぶレイナとサリに命令して、手足に極限まで力を込める。
あれが魔法だというなら、簡単だ。
術者を殺せば、それで解放される。
「死ね」
冷淡な声でそう告げて、予備動作もなしに拳が繰り出される。
狙う場所を目で追いかけるわけでもないし、攻撃の際の呼吸も感じ取れない。
奴が操っているのは、本人の思考じゃなく、もっと肉体的な身体の動きらしいな。
「………」
数発の攻撃を回避して、予想が確信へと変わる。
いつもと比べると二人の動きは、明らかに精細を欠いている。
相手を思い通りに操れるからといって、本人と同等の能力を引き出せるわけではない。
所詮は、下手くそな人形繰りだ。
だったら、気に留めることもない。
「ッ!!」
二人からの攻撃を完全に無視して、最短距離を駆け抜ける。
身に降り注ぐ痛みは、俺を急き立てる鞭だと思えばいい。
「ふっ!!」
鋭く息を吐きだし、さらに足へと力を送る。
切っ先に全体重が乗るように身体を前傾にして、さらに前へ。
どんな盾を使おうが、突き破ってやる。
覚悟を決めて、最後の踏み切りをしようとした、その瞬間。
「………」
ありえない速度で、眼前を横切る二つの影。
手をいっぱいに広げたレイナとサリが、切っ先の前へと身を投げ出してきた。
「…!」
身を挺して、あの男を守る形だ。
自責で苦渋に満ちたその顔は、見ていられないほどに悲痛なものだった。
「チッ」
押し退けては、通れない。
一歩間違えれば、心臓を貫くことになる。
「ッ!!」
瞬時に迂回へと切り替えたにも関わらず、道を潰そうと二人とも横滑りでついてくる。
一人ならまだしも、二人分の幅では、回りきれないな。
「チィッ」
もう一度舌打ちをして、しかたなく距離を外す。
矛だけではなく、盾にもなる…か。
無視するわけにもいかないとは、本当に厄介だな。
「ほっほっ、クレア・セイルス愛用の足運びとは、危ない危ない。
 木偶でくが守ってくれなければ、死んでるところじゃわい」
白々しく笑ってみせる。
いいだろう、その挑発…乗ってやる。
「だから言ったでしょう!?」
「早く私たちを殺しなさい!」
「いいから、黙ってろ」
どれだけ言われようと、二人を手にかけるつもりは、欠片もない。
奴の思い通りになど、させてたまるものか。



【セレノア視点】

「セレノアさん! セレノアさんっ!!」
力の限りに呼ばれているのは、アタシの名前。
遠のいていた意識が、その声に引きずられるように戻ってきた。
「気が付きましたか!?」
アタシの顔を不安げに覗き込んでいたアイシスが、弱弱しく笑みを浮かべる。
どうやら、いらない心配をさせたみたいね。
「アタシなら、大丈夫よ」
唇は、自分の思った通りに動いてくれた。
ろれつが回らないわけじゃないなら、まだマシね。
「ったく、やってくれるじゃない」
地面につけていた背を離し、怪我の具合を確認しながら、立ち上がる。
思ったよりも軽傷だ、これなら、動くのにも差し支えない。
「ティストは、苦戦してるみたいね」
何度も攻撃を繰り返しているのに、奴には、わずかに届かない。
逆に、おばさんたちの攻撃によって、じわじわと傷を負っていく。
身体を乗っ取られている二人を攻撃できないのだから、ティストが攻めあぐねるのも、無理はない。
さっさと加勢しないと、まずいわね。
拳をきつく握り、踏み出すために、地面へとつま先を噛ませる。
そこで、行く手を遮るように、アイシスが立ちはだかった。
「私に、セレノアさんの援護をさせてください。
 必ず、攻撃の機会を作ります。だから、そこで仕掛けてください」
滲み出る怒りを瞳に灯して、アイシスがはっきりと断言する。
何か、考えがあるみたいね。
「任せていいの?」
「はい、大丈夫です。絶対に、二人には怪我をさせません」
「分かったわ。お願い」
「はいっ!!」
勢いよく走り出すアイシスの背中を見つめ、力を練り上げる。
アタシのやるべきことは、アイシスを信じて、最大の力を用意するだけだ。



「お兄ちゃん、下がってくださいっ!!」
アイシスの声に、驚くほど素直にティストが従って、前衛が入れ替わる。
本当に、息の合った兄妹ね。
「はぁぁぁっ!!」
ティストのいた場所を正面とするなら、アイシスが攻めたのは、奴の真後ろに相当する。
位置関係からして、おばさんたちに防がせるのでは、間に合わない距離だ。
予想した通り、振り返った奴の前へ次々に土槍がせり上がり、アイシスのダガーを阻む。
「ふん。これほどの力の差を見て、まだ掛かってくるか。
 雑魚は、往生際が悪いから面倒じゃ」
「格上なんて、当たり前。だから、私は臆さない」
左右から迫り来る魔法を脚力だけで避け、ただ前へと進む。
頬をかすめ、肩口を切り裂かれても、その足運びは鈍らない。
「強大なのも、いつものこと。だから、私は揺るがない」
行く手を遮るように展開された魔法を、水の魔法で迎撃する。
軽減した魔法を飛び越えて、ひたすらに前へ。
飛び石で鍛えあげたその足運びは、力強く、無駄がない。
「そして、私は学んだの。
 刃を下ろしてしまったら、勝利は絶対に訪れない。
 そのときに来るのは、一方的な敗北だって」
刃を突き立てようとし、魔法で生み出された土壁に阻まれる。
剣戟にも似た高い音が響き、アイシスの身体が押し返された。
「どちらにせよ、敗北は必然じゃ。
 あがきたいというのなら、それもまた良かろう」
足の裏で地面を滑り、土煙を上げて、アイシスが踏みとどまる。
そして、また、さっきと同じように駆けだした。
「あなたの魔法が尽きるまで、私は足を止めない」
迷いのない言葉には、あふれるほどの力が込められていた。
その闘志は、驚くほどに純粋で、まぶしいほどに輝いていた。
「ほほう。ならば、この肉壁を越えて見せるがいい」
標的をアイシスへと完全に切り替え、おばさんたちを間に挟む。
それでも、当然ながら、背後の警戒は怠っていない。
アタシやティストが攻め込んだとしても、奴は対処してくるだろう。
まだ、攻めるべきじゃない。
アイシスは、攻撃の機会を作ると言ったのだから、それを待つしかない。



ティストと同じように、奴だけを狙って攻撃を繰り返し、その度におばさんたちに阻まれる。
足の動きは全開だろうし、速度を少しも緩めていない。
だけど、アタシには分かる。
あれは、アイシスの全力じゃない。
何かを狙っている? それとも、待っている?
「水よ」
アイシスが声に出して呼びかけ、左手に水の魔法を収束させる。
手のひらへと収まりきらなくなったそれが、アイシスの手を青く染めていた。
ふぅん、かなりの量を練り上げたわね。
「ほお、ワシと魔法でやりあうつもりか」
嗜虐的な笑みを浮かべて、奴が大仰に手を上げて見せる。
アイシスに見せつけるように、これ見よがしに魔法を収束させている。
本当に底意地が悪いわね、正面からぶつけて、完膚なきまでに叩き潰すつもりだ。
「ッ!!」
莫大な水の魔法を共にして、アイシスが疾駆する。
闇夜に浮かんだ鮮やかな青が、流麗な曲線となって、アイシスの軌跡を示した。
アタシが見とれてしまいそうになるほど、一切の淀みのない綺麗な足運び。
さながら、渇いた大地の中を流れる、一筋の河川だ。
「なんじゃ、つまらん。結局は、体力頼みか。ならば、ワシが相手をするまでもない」
おばさんたちを前へと配置して、奴が椅子の背もたれへと身体を預ける。
アイシスが突破してくるなどとは、微塵も思っていないだろう。
「っ!!」
鋭い息継ぎとともに、アイシスが急旋回する。
「…!」
あまりの速さに、思わず息を飲む。
今までの移動とは、速さの次元が違うわね。
強引に二人の横をすり抜けて、アイシスが奴へと向かった。
「ふん、所詮は小細工よ」
アイシスを迎撃するために、奴の姿が見えなくなるほど大きな岩塊が、目の前に浮かぶ。
動きこそ目で追える速さだけれど、大きさが大きさだ。
全力で跳躍しても、避けられるかどうか微妙な距離。
だけど、アイシスは、避ける仕草を見せなかった。
右半身で直撃を受け止めて、岩を回り込むように、横へと弾き飛ばされる。
痛みに表情を強張らせたアイシスの左の手のひらが、鮮烈な青で包まれた。
「水よ…」
「無駄じゃ。貴様の軟弱な水では、ワシの魔法は崩せん」
悔しいが、奴の言うとおり、アイシスの魔法では打ち勝てないだろう。
だけど、軌道さえ変えれば、当てられる可能性も…。
「水よ、凍れっ!!」
アイシスの命に従い、細長く伸びた水が、そのまま鋭利な氷の槍へと変化する。
まさか、水を凍らせるほどの、急激な温度変化が出来るなんて…ね。
「!?」
急いで展開された土壁に、氷の槍が突き刺さる。
ゆっくりと、しかし、確実に、槍は土壁へと食い込み、奥へと進んでいく。
「くっ…」
焦りの色を浮かべた奴が、手のひらを土壁へと向ける。
防御に集中せざるを得ないほどの、貫通力の高い攻撃だ。
迎撃をあえて受け、そのうえで奴に防御させることで、他への意識を手薄にさせる。
ったく、無茶が過ぎるわ。
「ありがとね、アイシス」
小さくつぶやき、拳をきつく握る。
アイシスの心意気に答えられるように、身体の中に溜め込んでいた力を、全て解放させた。
「たっぷり味わいなさい、あんたの大好きな魔法をね」
標的を奴だけに絞り込み、収束していた炎を火柱として放つ。
こうしておけば、他の二人には絶対に当たらないし、盾にもできない。
「…ッ」
呼吸とあわせて、火柱の内側へと力を向ける。
圧縮して範囲をさらに狭め、そして、爆発。
あれだけの熱波と爆風に見舞われれば、ただでは済まない。
「ぐっ…」
苦しげな声を上げて、奴がアタシの炎をかき消す。
続いて奴が使ったのは、反撃の…ではなく、癒しの魔法だ。
「ふぅん。効いているみたいね」
この隙を逃すことはない。
そう思って距離を詰めると、アタシを迎え撃とうと、おばさんたちが前へ出てきた。
「二人を頼む」
一瞬だけ遅らせて、ティストが別の方向から攻め立てる。
だったら、向こうはティストに任せたほうがいい。
ティストもアタシとの連携を意識しないで済む分だけ、攻撃に集中しやすいはずだ。
「はぁっ!!」
「ちぃぃぃっ」
片手で癒しの魔法を使いながら、もう片方で、ティストのダガーを防御している。
そのおかげで、おばさんたちは、ほとんど棒立ち状態だ。
自分の意思で、身体を動かすこともできないなんて…。
絶対に、奴を殺して、元へと戻して見せる。
「………」
ティストの猛攻を体裁もなく逃げ回って凌ぎ、治癒の魔法に専念している。
アイシスはまだ立って戦えるような状態じゃないし、ティスト一人じゃ仕留めきれない。
どうする? やっぱり、おばさんたちを放っておいて、ティストに加勢したほうが…。
「くっ…」
「うっ…」
苦悶の声をあげたその一瞬だけ、二人の身体が揺らぐ。
何? 今の反応は?
もしかして、奴の魔法が解けかかっているの?
魔法を絶えず継続している上に、二度も癒しの魔法も使っているのだから、奴だって、かなり消耗したはずだ。
今も、ティストを相手に手一杯だし、その可能性は、高い。
「母上っ!!」
今までに何度も口にしようとして、それでも、出来なかった、その言葉。
それが、自然と口から出ていた。
「母上っ!! そんな奴の魔法に負けないでっ!!」
もう一度、全身全霊を声に乗せて、叫ぶ。
きっと、もう少しなんだ。
後は、きっかけさえあれば、きっと…。
「せ、セレ…の…ア」
「…せ、れ…ノ…ア」
その声は、今にも途切れてしまいそうなほどに弱弱しくて、発音もでたらめだ。
それでも、二人は、今、アタシの名前を呼んでくれた。
きっと、今のは、奴の呪縛が解ける徴候。
間違いない、奴の魔法を、二人の力が打ち破ろうとしているんだ。
「母上っ!! 母上っ!! 母上っ!!」
力の限りに声を張り上げ、呼びかけを繰り返す。
そのたびに、二人の身体が、小刻みに震える。
「あと少しだから…もうちょっとだけだから…だから、負けないでっ!!」
「ッ!」
びくんと大きく身体が跳ね、頼りない足取りで、二歩、三歩とこちらへ歩いてくる。
「セレノア」
「母上っ!!」
こちらへと走ってくる二人へと、アタシも駆け寄る。
奴の魔法も、これで打ち破った。
後は、体勢を立て直し、力を合わせて勝つだけだ。

「!?」

不意に、背中が地面に吸い寄せられるような感覚が、アタシを襲う。
そう思ったときには、尻もちをついて座り込んでいた。
何? 奴の魔法なの!?
「なっ!?」
アタシがいた場所には、位置を交代したようにティストが立っていた。
何? じゃあ、今のはティストがやったっていうの?
なんで、そんなこと…。

ぞぶり。

そのあまりにも不快な音に、思わず耳を塞ぎたくなる。
鍛え上げた筋肉を、その下にある柔らかな内臓を、同時に貫いているはずだ。
見ないでも分かる、今のは、致命傷だ。
「がっ、あっ…」
ティストの口から、苦しげな声とともに血が噴き出す。
二人の右手と左手から伸びた爪が、深々とティストの腹に突き立っていた。
「何…これ? なん…なのよ?」
アタシの声が、情けないくらいに震えている。
でも、それでも、目の前の現実を受け入れられない。
「くっ…うっ…」
歯を食いしばったティストの身体が、大きく傾く。
もう一度、身の毛もよだつ音を立てて、体内へと侵入した爪がゆっくりと引き抜かれる。
血の滴る黒き爪から解放されたティストの身体が、力なく地面へと転がった。
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