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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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15章 気まぐれな悪意-2


【ティスト視点】

「ようやく、面を拝めたな」
不機嫌そうに歪められた顔には、真新しい傷は、一つとしてない。
あの距離で放ったというのに、完全に防がれた…か。
「小童…貴様、何者だ?」
「あんたと同じで、名もない小童だよ、どこぞの爺さん」
「二人でじゃれてるんじゃないわよ。狙いは、アタシなんでしょ?」
微笑みを称えて、セレノアが優雅に俺の隣へと進み出る。
悪戯っぽく笑えるぐらいなら、まだまだ余裕だな。
「にしても…よくもまあ、あんな強引に突破したわね」
「攻撃で体勢が崩せない相手っていうのも、散々に訓練させてもらったからな。
 受けに回ったときのレジ師匠に比べたら、あの程度じゃ、まだまだ緩い」
レジ師匠は、人でありながら…いや、人であるからこその、柔軟で、鉄壁な防御だった。
攻撃を受け付けない相手への様々な対処法を聞いていたからこそ、今回の突破に至っただけだ。
疲労は別だろうが、痛みが蓄積されないだけに、やりにくい相手であることに変わりはない。
「レジ…じゃと?」
ぎょろり…と音がしそうなくらいの勢いで、目がこちらを向く。
こっちに対してこんなにも反応をしてくれたのは、これが初めてだな。
「それは、レジ・セイルスのことか?」
「だったら、なんだ?」
俺の返事に目を見開き、唇を揺らして笑ってみせる。
「ほお…なるほどな。道理で、初めて闘う気がせぬわけだ。
 まさか、お前が、あのセイルスの弟子だったとはな」
くつくつと奇妙な声をあげて、奴が笑う。
ただ笑うという行為が、こうまで不気味に見えるとはな。
「だったら、話が変わる」
ようやく、俺のことを見てくれるようになったな。
さっきまでとは、注がれる殺気の濃さが段違いだ。
「ついでとしては、悪くないな。
 貴様を血祭りにあげ、棺桶をあの二人に送りつけてやる。
 そうすれば、あの歩く仏頂面たちの表情も、少しは変化に富むだろうな。
 ぜひとも見てみたいものだな、奴らが泣き叫び、怒り狂うところを」
心底嬉しそうに笑い声をあげ、それでも足りないらしく、喜びに顔を歪める。
哄笑するその姿は、見るものを圧倒するほどの狂気に満ちていた。
「悪趣味な爺さんだ」
「ったく、最低ね」
褒め言葉だといわんばかりに、奴が、薄気味の悪い笑顔を浮かべる。
悪意に満ちたその表情は、見ているだけでも気分が悪くなるほどだ。
「素性を知ったからには、相応の対処をしてやろうではないか」
そういって、黒衣の下から両手を突き出す。
今までで一番派手な予備動作に答えるように吹き出す魔法の力を、肌で痛いほどに感じた。
「…!」
危険を察知して、反射的に飛び退る。
それとほぼ同時、俺がいた場所からは、勢いよく石柱が生えてきた。
「な…」
俺の腰ほどもある太さのそれは、先端が鋭利に尖っていた。
人間だって、容易に串刺しにできるほどの凶悪な形状だ。
「止めてみい。出来るものならな」
風で作った壁を易々と貫き、耳が痛くなるほどの音を立てて、次々に突き出してくる。
予備動作がまるで見えないだけに、物理的な攻撃よりも、性質が悪い。
感覚だけを頼りに、足を止めずに円を描きながら、後方へと下がり続けた。
「くっ…」
同じくセレノアも舞うようにして、回避を続けている。
向こうの方が速く数も多い、攻め立ては、こちらよりも一層に苛烈だ。
「セレノアっ!!」
「ほう、余所見とはいい度胸じゃな」
上ばかりに突き出ていたのが、今度は、斜めへと変わり、心臓へと一直線に伸びてくる。
「くそっ…」
ダガーを盾にして、どうにか直撃を避ける。
岩を使ってるだけあって、硬度もかなりのものだ。
切り捨てたとしても、無駄に疲れるだけだろうな。
「さて、頃合いかの」
男が、左腕を天高くへと掲げる。
呼応するように、俺たちを攻撃するために突き出していた岩が、全て空中へと舞いあがった。
「なっ…!」
空を覆い尽くす、石で作り上げられた槍の群れ。
まさか、今までのは、このための布石だったっていうのか!?
「何人死ぬか、楽しみじゃな」
「…!」
セレノアと共に、倒れたまま動けないでいる二人へと駆け寄る。
おそらく、狙いを分散させないための脅し文句だろうが、無視することもできない。
奴なら、何のためらいもなく、二人を殺すだろう。
「そう、それでいい」
俺たちの反応に対して、予定通りと言わんばかりの表情で、奴が満足げにうなずく。
奴の狙いどおりに事が進むのは口惜しいが、今はどうにかして、受けきるしかない。
「逃げなさいって…言ってるでしょ」
「今からでも、遅くないわ、早く…」
その場に座っていただけだというのに、二人の声は、さっきよりも弱弱しい。
回復どころか悪化しているとは、かなりの深手らしいな。
動けば身体に障るだろうし、この場で、受けきるしかない。
「さあて、何発耐えられるかの?」
実験を楽しむ、研究者のような声音。
命のやりとりをする対等な相手、なんて、毛ほども思ってないだろうな。
奴にとっては、この戦いも、実験台で遊ぶ座興なのだろう。
「人の心配よりも、自分の寿命でも心配してなさい。ただでさえ、老い先短い命でしょ?」
「ふん。せいぜい、一秒でも長生きするのじゃな」
風切り音を響かせて、岩たちが天空から降り注いでくる。
「炎よ」
命に従って広がった桃炎に触れると、次々に飛来した岩が爆散する。
焼き尽くすのではなく、爆発で砕く…か、なるほどな。
「これは、アタシが止めるわ。もし、取りこぼしたら、頼むわね」
広げた両手で桃炎をもてあそぶようにして、セレノアが告げる。
「了解」
回避をすれば二人に当たる、俺たちに許されるのは、相殺と防御のみ…か。
覚悟を決めてダガーを握り締め、視界を埋めつくす岩たちを油断なく睨みつける。
「受けきってやろうじゃないか」
爆炎と粉塵で閉ざされそうな視界を確保し、ひたすらに目の前に飛び込んできた岩を弾き返す。
息をつく暇さえ、許されない。
終わりの見えない岩の列は、まるで、地獄の責め苦のようだ。
「チィッ」
俺がダガーを振り下ろした直後。
セレノアが放った炎に紛れて。
さらに性質が悪いのだと、急に動きを止め、その後ろから来ていたものが先に着弾なんていうこともある。
狙われるのは、どれも全てが、こちらが最悪と思うタイミングを逃さない。
「術者の性格がよく出ているな」
よくもまあ、こんなえげつないことまで思いつくものだ。
ここまで悪意の込められた魔法は、初めてだ。




【セレノア視点】

気を抜かないように、ゆっくりと息をつく。
隣からは、ティストの荒い息遣いが聞こえた。
重症…とは言わないけれど、そこかしこに数えきれないほどの傷が出来た。
でも、どうにか、目の前に浮かんでいた岩は、全てが地に落ちた。
「ほっほっ、あれを止めたか。さすがに、往生際が悪いのう」
あれだけの魔法を使ったっていうのに、奴の態度からは、まるで疲れが感じ取れない。
声、口調、呼吸、表情、肌、姿勢、考えられるものを、端から全て確かめる。
どれだけ巧妙に隠しても、滲みだしてしまう疲労までは、消しきれないはずだ。
「勝てぬと分かっていても足掻くのは、貴様らの血なのかのう。
 結果は変わらぬというのに、ワシを楽しませるために、ご苦労なことじゃな」
ったく、好き勝手に言ってくれるじゃない。
「ふざけるんじゃないわよ。勝ち誇るのは、アタシに勝ってからにしなさい」
相手が疲れているかどうかを気にするなんて、アタシがどうかしていたわ。
どうであろうと、こいつを全力で攻撃することに、変わりはない。
相手の力が強いからって、委縮してやる必要はない。
弱気になるな。
「ふん。ここにきての空元気とは、ますます、シーナ・グレイスと同じじゃな」
「…?」
奴の口から出てきた思いもよらない名前に、思考がついていかない。
なぜ、ここで、母上の名が出てくるの?
「安心するがいい。望みどおりに、母親と同じ末路を辿らせてやる」
「同じ…末路?」
自分で口にして、全身を悪寒が這いまわる。
なに、これ? どういう…こと、なの?
「くっくっ、めぐりの悪い頭よの。底抜けの馬鹿らしいな」
頭を働かせようとしても、奴の言うとおり、まったく思考ができない。
考えようと思えば思うほどに、その焦りだけが募っていく。
「何…を、何を言ってるのよ?」
やっとの思いで口を開いたのに、今度は、自分の声が弱弱しく揺れるのを抑えきれない。
奴の話していることの意味も、アタシの身体が勝手に震えだす理由も…。
何も分からない。
「なんじゃ、本当に知らんのか? 知らぬならば…」
「…っ!」
鋭い呼吸と共に、ダガーを片手に握りしめたティストが、正面から突進する。
馬鹿正直にも程があるわ、あれじゃあ、反撃覚悟の玉砕攻撃じゃない。
いつもより速く、力強い踏み込みは、無鉄砲ともいえる。
あれだけ攻勢に傾いて迎撃されたら、なす術もない。
そんなことを考えている場合じゃないのに、頭の中は、ずっと、ティストの動きを冷静に分析していた。
「ふん、無駄なことを」
纏わりつくように攻撃をしていたティストが、魔法によって振りほどかれる。
そして、地面に倒れこむまでに、何十という岩が全身を打ちのめし、刺し貫いた。
「があぁあぁっ、ぐうぅううっ」
痛みをこらえる、くぐもった声。
それに混ざって、血が吹き出し、滴るような音が、たしかに聞こえた。
「貴様ごときに、ワシの口を封じることができるものかよ」
「やめ…ろ」
「弱者の頼みなど、聞くと思うか」
地面に転がったティストを悠然と見下ろしてから、アタシへと向き直った。
作り物のように奇妙な真っ黒の瞳が、アタシを見据える。
捕らえられた。
何をされたわけでもないのに、直感的にそう思った。
「にげ…て」
「は…やく」
二人の掠れた小さな声が、アタシの心臓の鼓動を加速させる。
それでも、手も足も、自由が利かなくなったように、アタシの言うことを聞いてくれなかった。
「では、教えてやろう。お前の母は、殺されたのだ。このワシの手に掛かって…な」
粘ついた声が、鼓膜にべったりと塗りたくられ、じわじわ奥へと染み込んでくる。
それは、ゆっくりと時間をかけて、何も考えることができない、アタシの頭まで届いた。
「何…言ってるのよ、そんなわけ、ないでしょう?」
気力を振り絞り、奴の妄言に反論する。
「だって、母上は…母上は、病で…」
そこまでで、自分の声が途絶えてしまう。
あんなに元気だった母上が…。
病気になんて一度もなったことのない母上が…。
本当に、突然の病で?
その疑問に、奴の言葉を当てはめてしまう。
『お前の母は、殺されたのだ。このワシの手に掛かって…な』
耳にこびりついたように、何度も何度も、アタシの頭の中で反響する。
思考が、それだけに塗りつぶされていく。
「今でも覚えておるぞ、盛大な国葬だったな。
 悲嘆にくれる貴様等…負け犬どもの顔は、痛快の極みじゃった。
 あれをもう一度みられると思うと、年甲斐もなく高揚が抑えられんわ」
奴の胸の内から溢れる喜悦が、あんなにも歪んだ笑みを作りだすのだろう。
こいつが、本当に、母上を…?
血が昇った頭で、懸命に思考を巡らせる。
こいつを見るなり、突然に飛び掛かっていったおばさんたち。
この話をしようとした奴の口を、無理矢理にでも塞ごうとした、ティスト。
認めたくないけれど、みんなの反応こそが、奴の言ってることが事実であると肯定していた。
その結論にたどり着いたときに、わずかに残っていた理性は、残らず崩壊した。

「あぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁっ!!」

身体中の力が、行き場を求めて荒れ狂い、奴を殺せと急き立てる。
「ほほう。ほれぼれするような、いい声じゃな」
あの不愉快な声を…奴の息の根を、完全に止めてやる。
伸ばした指をそろえて、指先にありったけの力を込め、奴の喉元へと突きこんだ。
「ふぉっふぉっふぉっ、危ない危ない。一撃必殺の、魔族の爪とはな」
残りは、ほんの少しだっていうのに…。
そのわずかな距離が、硬い岩の壁に阻まれる。
「あああああぁあぁぁぁぁっ!!」
声を張り上げて、何度も、何度も、がむしゃらに爪を突き出す。
それでも、こちらの成果は、壁がわずかに削れるだけ。
その代償に、こちらの指先からは盛大に血が吹き上がり、地を蹴る足の感覚が一歩ごとに薄れていく。
限界を超えて力を込めた場所が、次々に悲鳴を上げている。
かまわない。
何をしようとも、どうなろうとも、こいつを殺せれば、それでいい。
「ふん、つまらんな。愚直な突進なぞ、受ける価値もない」
地震のように足場が揺れ、動きが鈍った一瞬の隙に、足元から巨大な石柱が突き出してくる。
「ぐはっ…」
胸部に鈍痛を感じて、そのまま地面に倒れ伏す。
息が…。
どんなに吸い込もうとしても、空気がアタシの中に入ってこない。
視界が、暗くなっていく。
アタシの意識は、そこで途絶えた。
+注意+
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