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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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11章 気まぐれな嘆願-2


【セレノア視点】

さっきの場所から、鬱蒼と茂る木々の合間を、数分歩いた先。
少し開けた場所には、他の木々とは規格が違う、巨大な木が立っていた。
四方八方へと延びる巨木の根には、そこかしこに、座れるほどのくぼみや、物を置けるでっぱりがある。
その表面は、他の部分と違った色合いをしていて、手を入れてあるのは、遠くから見ても明らかだ。
「なるほどね、あれが精霊族ご自慢の食事場所ってわけ」
向こうからは気づかれず、こちらからは、全員の顔が見える位置取り。
そんな無理のある条件に合致する場所をどうにか探し当て、そこに音もなく潜りこむ。
ここなら、普通の会話なら声まで十分に拾えるし、退屈しなくてすみそうね。
念のために、感覚を研ぎ澄ませて、もう一度索敵してみても、敵影はない。
「とりあえず、これで一安心ね」
さっき、相手が敵意をむき出しにしたときも、二人は武器を持たなかった。
戦うつもりはないという意思の表れなのだろうけれど、アタシからしたら、危なっかしくて見ていられない。
どうせ、あの二人のことだから、話がこじれて戦いになったら、防戦しながら逃げればいい…とか思っているのだろう。
その考えを否定するつもりは、ない。
アタシは、二人がより安全になるように、手をまわしてやればいいだけだ。
「………」
そんな緊張感のある思考も、キシスとかいう大女の顔で、全てぶち壊しになる。
さっきまでの仏頂面は完全に消えて、一口食べる度に、顔が綻んでいた。
食べるのが嬉しくてたまらない、って顔だ。
「どうやら、気に入ってもらえたようだな」
「ま、まあ、それなりに…ね」
「まったく、素直じゃないんだから」
「うるさいわね」
「まあまあ」
そんなやりとりをしてから、また大女が次を口の中に放り込み、だらしなく頬を緩ませた。
「…ったく、なんなのよ」
あれが、精霊族へのご機嫌取りで、懐柔しようとしていることぐらい分かる。
でも、そうだと理解していても、なんだか気に入らない。
微笑ましく、あの大女が食べるさまを見守っているティストも。
にこやかに笑いながら、談笑に加わるアイシスも。
二人とも、あんな連中に愛想笑いなんて、必要ないでしょうに…ったく。
そもそも、なんなのよ、あの女たちは…。
なんで、ティストたちと…特に、ティストと、親しそうなのよ?
前に一度、見かけたときには、どっちもそんな素振りなんて見せなかったくせに。
ティストもティストよ、へらへらと笑ってるんじゃないわよ。
なんで、こんなにも気に入らないんだろう?
自分の中に、イライラが募っていくのが分かる。
余計な思考に集中力を削がれないように、目の前に意識を戻した。

「………」

にしても、ほんと、よく食べるわね、あの大女。
勢いこそ普通だけれど、その量は、到底尋常とは言えない。
アイシスやティストは、とっくの昔に食べ終えたっていうのに…。
ティストの話に耳を傾けながら、ずっと手と口を動かし続けている。
まったく、いくら身長が高いにしても、あれだけの量を食べたら…。
そう思いかけて、視線がある箇所で固定で止まってしまう。
あの服の下からでも、しっかりと突き出しているのが分かる、胸。
あれ、まさか、毎日のように、あの量を食べてるから?
「………」
やっぱり、あれは鍛え残しの贅肉よ、アタシには必要ないわ。
的が大きくなるだけだし、動くにも邪魔になるだろうし、いいことなんて、一つもないわ。
アタシと同じ考えなのか、アイシスの視線も、同じ場所で止まっている。
ったく、戦いじゃないからって、油断してるわね。
視点を一箇所で固定していると、相手に気取られる可能性が高いから、やめなさいって教えておいたのに。
「ほらー、お姉ちゃん、やっぱり見られてるよ」
…言わんこっちゃない。
「マナ、いつも言っているでしょう? あなたは、言葉が足りないの。
 相手に何を伝えるべきかを考えて、きちんと言葉を選びなさい」
偉そうに説教をかます大女に向けて、ちびっこが口を尖らせて、頬をふくらませる。
全身で怒ったことをアピールしてみせると、食べ物を完全に飲み込んでから、大きな口を開けた。
「ったくもう、せっかく私が気を使って伏せてあげたっていうのにっ!!
 だったらいいよ、言ってあげるから。
 見てるのはアイシスさんで、見られてるのはね、お姉ちゃんの栄養補給のなれの果て」
「…え?」
「なにを…? !?」
突きつけられた指の示す方向と、さっきの言葉から、ようやく分かったのか、両腕を胸の前で交差させる。
ったく、そんな脂肪に包まれてるから、視線にも気づかないほど、鈍感になるのよ。
それに比べれば、まだ、妹のほうが敏感なようね。
「え、あの、これは、その…」
気まずい沈黙の中で、しどろもどろになったアイシスの声が響く。
大女のほうは、唇を引きつらせていたけれど、声は出てこない。
「こほん」
結局、事態を収めたのは、ティストのわざとらしい咳払いだった。
「そろそろ、本題に入らせてもらっていいかな?」
「え、ええ。どうぞ」
大人げないとでも思ったのか、すました声を取り繕って出してくる。
その気取った様子にうんざりしてから、本題に向けて、アタシも思考を切り替えた。
ここから先は、一言一句、聞き漏らさない。


「森の礎を、貸してほしい」
「そう。森の礎を…ね」
鋭い目つきでティストを睨みつけながら、低い声音でつぶやく。
さすがに、快諾はしてくれないみたいね。
「頼む。この通りだ」
その場で立ち上がったティストが、テーブルに手をついて、深々と頭を下げる。
その姿は、依頼ではなく、もはや懇願だった。
「どうか、お願いします」
アイシスも、隣にいるティストにならう。
なに…これ?
想像していたものとあまりに違っていて、頭の中が真っ白になる。
てっきり、ロアイスの会議のように、言葉を交わして、相手を言い負かすものだとばかり思っていた。
これじゃあ、交渉なんて呼べない、まるで物乞いだ。
二人の姿を見ているだけで、締め付けられるように胸が痛くなる。
「…お姉ちゃん」
「マナ、あなたは黙ってなさい」
さっきまでの雑談とまるで違う冷ややかな声音で、妹の訴えを遮る。
なるほど、取り繕っていた仮面が剥がれて、本性が出てきたみたいね。
軽く拳を握って、その中に隠すように魔法を収束させる。
この距離関係じゃ、とっさのときに飛び込んでも、二人を守るのは無理だ。
だけど、魔法なら、発動の瞬間さえ間違えなければ、十分に間に合う。
「やめてもらえるかしら?
 べつに、あなたたちがどんな態度で頼もうと、不可能なものは変わらないわ」
言葉づかいこそ丁寧なものの、それが、期待に応えられないことに対する謝罪でないのは、明らかだ。
殺気こそ見せてないけど、そこには、はっきりとした拒絶の意思が見えた。
「難しいのは、さっき、マナにも聞かせてもらった。だが、どうか、考えてほしい。頼む」
「お願いしますっ!!」
素気無い返事だったにも関わらず、なおもティストとアイシスは、食い下がる。
ただ真正面から、誠意と共に言葉をぶつけていった。
「あなたたちは、人間でしょう? 魔族とは無関係ではないの? なぜ、そこまで必死になるの?」
理解できない…と直接口にしないだけで、そう言いたくてしょうがないのが、よく分かる。
不本意ながら、アタシも精霊族と疑問は同じだ。
なぜ、二人がここまでしてくれるのか? それは、アタシにもよく分からない。
しばしの間、その場の全員の視線を受けながら考え込んでいたティストが、呼吸を整えるように息をつく。
そして、正面からまっすぐに相手を見据えた。
「困っている人を助けておけば、そのうち、自分が困ったときに助けてもらえるかもしれない。
 俺が動いている理由なんて、そんな単純なものだ」
どこまでも穏やかに、敵意の欠片さえも含まずに、ティストが笑顔で答える。
聞いていただけでも安らげるような、不思議な響きを持った声だった。
ったく、本当に甘いわね。それで、誰を相手にしても、どうにかなると本気で思ってるんだから。
それでも、ティストは、それを実現させてきたし、アタシもそれに巻き込まれた。
だから、きっと、今の台詞も本心から言っているんだろう。
心地よさと呆れを混在させて、小さく息をつく。
そんなアタシの反応とは対照的に、相対している精霊族には、はっきりとした不信と戦意が浮かびあがった。
「なるほど、打算というわけね」
その見下げた物言いが、アタシの頭へと勢いよく血を昇らせてくれる。
嘲笑うような声が、侮蔑するような眼差しが、そのすべてが気に入らない。
「打算…か。まあ、そう思ってもらって、かまわない。それに、そう捨てたものじゃない。
 現に、俺は妹に何度も助けられ、精霊族から秘薬をもらい、魔族の助太刀を得たからな。
 一つでも欠ければ、俺はとっくに墓の中だ」
決して怒らず、感情を揺らさず、苦笑交じりにティストが答える。
それでも毒気を抜かれることはないようで、むしろ、疑心が増したようにも見えた。
「それで、他には?」
「ほか?」
「そこまで協力したのなら、当然、魔族からも見返りがあるのでしょう?
 人間は、欲深く、報酬に目がくらむと、どんな仕事もする…と聞いているわ。
 あなたは、何を得るためにここまでしているの?」
「…!?」
思いもよらぬ話の流れに、思わず声を出してしまいそうになり、慌てて口をつぐむ。
でも、言われてみれば、たしかに、あの精霊族の言うとおりだ。
食糧を運ぶだけでは留まらず、魔族の地で食べ物を生み出す方法まで探している。
これほどのことを成し遂げるならば、報酬を受け取るのは、当然の権利だ。
…だというのに、二人は、今回のことで、何を得た?
何より、二人の好意に対して、アタシは、いったい何を返した?
ティストに、茶を振る舞い、アイシスに、ほんのわずかな手解きをした。
ただ、それだけだ。
それ以外には、何もしていないし、他に何かを用意するべきかなど、考えてすらいなかった。
そんな当たり前のことに、今まで気づいていなかった自分の愚かさに、思わず歯噛みしてしまう。
短い付き合いだけど、二人のことは、知っているつもりだ。
あの二人は、自分から報酬を寄越せなど、何があっても言わないだろう。
馬鹿みたいに優しくて、底抜けにお人好しで、いつも、誰かのためを想って動いてくれて…。
そんな二人に対して、礼を忘れていた…なんて、あってはならないことだ。
受けた施しに礼もできないほど、アタシは、恥知らずでも、恩知らずでもない。
「私には、教えられないほど重要なことなのかしら?」
その場の沈黙と、アタシの思考を同時に遮ったのは、あの女の高飛車な声。
答えないティストの姿を、核心を突かれて困っているとでも思いこんだのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そんなものは、ない。
アタシが、アタシたち魔族が何も用意していないのだから、あるわけがない。
「………」
もう、これ以上、黙ってなどいられない。
そう思って足へと力を込めた矢先に、優しげな声が割り込んできた。
「報酬は、特にない。今のところは…な」
さりげなく添えられたアタシたち魔族を擁護する言葉が、耳に痛い。
その信用に、信頼に答えられていないことが、口惜しい。
「助けてもらっておいて、何の礼もしないなんて…。想像の通りとはいえ、ずいぶんと薄情なのね、魔族は」
「べつに、これ見よがしに感謝の気持ちを見せつけるだけの、おざなりで薄っぺらな礼がないだけだ。
 恩はあれで返したと、肝心なところで知らん顔されるよりは、よほどマシだと思うがな」
「私は、魔族全体のことは分からないですけど…。
 私の一番よく知ってる魔族の人は、薄情なんかじゃありません。
 とっても、義理堅い人です」
あくまでも魔族を悪く言おうとしない二人の気遣いに、胸が苦しくなる。
アタシがこの場にいることを知らないのだから、そんな反論をする必要はないのに…。
向こうの機嫌を取るためなら、相手の意見を肯定すればいいだけなのに…。
二人は、そうしない。
まったく、買いかぶりもいいところね。
魔族は、そんなに立派な存在ではないし、礼儀正しくもない。
だけど、二人を嘘吐きにだけは、絶対にさせない。
アタシが、絶対に。
「…はぁ」
二人の視線を正面から受け止めていたキシスが、諦めたようにため息をついた。
「そう、分かったわ」
分かった…って、ティストたちの言い分を、認めた…ってこと?
じゃあ、つまり、この話し合いが成功したの?
「あくまでも、あなたたちは、魔族の味方をするというわけね」
アタシの勘違いは、冷めた声が両断してくれる。
刃のように鋭く冷たい瞳は、アタシの知っている、戦いに臨む目とは明らかに違う。
話の通じないものを見下し、自分に理解を示さないものを否定する、そんな侮蔑に満ちていた。
「だったら、もう話すことはないわ。お引き取りを」
形相を変えて言い放ったかと思えば、反応を待たずに踵を返す。
頼まれている方だからこそできる、乱暴な会話の終わらせ方。
そんなことを冷静に観察しているくらいに、アタシは、驚いていた。
どうして、そんな結論になるのか、理解が追いつかない。
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん。いくらなんでも…」
「マナ、あなたも来なさい。帰りが遅くなれば、皆が心配するわ」
「待ってくれ! 魔族には、森の礎が、どうしても必要なんだ」
「お願いしますっ! お願いしますっ!!」
すがるように頼み込む二人のことを、肩越しに振り返る。
その顔は、鬱陶しいという心情を余すことなく表していた。
「もう、あなたたちは、この件から手を引いたほうがいいわ。
 このままでは、いいように使い捨てられるだけよ?」
ティストとアイシスに向けられたのは、哀れみの目。
そんな目で見られるようなことになったのは、全部、アタシの責任だ。
炎を飲み込んだような自責が、胸を内側から焦がしていく。
アタシは、馬鹿だ。
本当に、救いようがないくらいに、大馬鹿だ。
一番最初に、アタシは、何を思っていた?
ティストたちを見守る? 何かあったら助ける? どんな危険からも守ってやる?
いったい、何を勘違いしていたの?
この二人が動いてくれているのは、魔族のためだっていうのに…。
何もしないで、覗き見だけして、満足した気になって…。
本来、あそこで頭を下げているべきなのは、ティストたちじゃない。
アタシなんだ。
ティストたちは、ただ、好意でやってくれているだけだ。
自分たちが、食糧難で困っているわけじゃない。
頼みが通らなかったところで、ティストたちには、他人事だ。
だというのに、魔族のために、そこまでしてくれている。
これ以上、黙って見ているなんて、できない。
違う、黙って見ていたら、いけないんだ。

「お待ちください」

声をあげて、前へと出る。
これ以上、隠れてなどいられなかった。




【ティスト視点】

「お待ちください」
凛とした声が横から突然響き、視線が全て集められる。
「セレノア!?」
ここにいるはずのない人物の登場に、思わずその名前を呼んでしまう。
気を付けていたはずなのに、まったく気取ることができないとは…な。
さすがは、魔族の王女…か。
今までの会話は、おそらく、全て聞かれていただろうな。
でも、そのわりには、驚くほどに穏やかな表情をしていた。
「ティスト、アイシス、ありがとう。後は、アタシに話をさせて」
こんなにも落ち着いた声で頼まれたら、断るわけにもいかない。
それに、今のセレノアなら、きっと、怒りに我を忘れたりしないだろう。
「分かった」
「お願いします」
殺気立った相手を刺激しないような、ゆっくりとした足取りで、俺と位置を交代する。
その所作には、貫禄が…いや、王者の風格があった。
立ち回りは、誰かにとやかく言われて覚えるものではない…か。
たしかに、レオンの言うとおりだな。
その立ち居振る舞いは、セレノアにとって、ごく自然なものだろう。
「なるほどね。陰で、こそこそと見ていたというわけ」
「卑怯なのは、アタシだけよ。二人は、本当に私がここにいることを知らなかったわ」
責は、全て自分にあるというセレノアの態度が気に入らないのか、キシスの目が釣り上る。
「いまさら、何をしに出てきたっていうの?」
「どうか、森の礎を、魔族に貸してください」
飾り気のない真っ直ぐな言葉とともに、セレノアが深く腰を折る。
顔をあげ、自分の意思を伝えるかのように、真摯な瞳で相手の目を見つめた。
「あなたは、自分がどれだけ勝手なことを言っているのか、その自覚はあるの?
 元はと言えば、原因は何もかも、あなたたち魔族にあるのよ?
 精霊族の反対を無視して、木を切り、山を崩し、大地を枯渇させた。
 それだけでは飽き足らず、今度は、食糧が足りなくなったと言って、前大戦まで始め…。
 あろうことか、あなたたち魔族の都合で、勝手に終わらせたのよ?
 身勝手で血塗られた戦いのおかげで、どれだけの人が不幸になったと思っているの?
 そこまでしたのに、今度は、あつかましくも、助けてくれ、ですって?
 ずいぶんと、勝手なことを言ってくれるわね。
 魔族と人間のおかげで、いったいどれだけの同胞が殺されたと思っているの?
 その犠牲を無視して、まだ魔族を助けろなんて、身勝手が過ぎるわっ!」
さっきまで俺たちと応対していたのは、あれでも、かなり穏やかだったようだな。
そう思わせるほどの大声と剣幕で、キシスがまくし立てる。
息が続くのならば、怒りを言葉に換えて、永遠に吐き出し続けただろう。
そう思わせるほどの迫力があった。
「………」
セレノアが小さく息を吸い込む姿が、俺には、反論の全てを飲み込んだように見えた。
言い争うために、ここへ来たのではない。
目的を、そのための手段を、全て理解しているからこそ、できること。
その表情には、一切の負の感情が浮かんでいない。
ただ、真剣に相手の顔を正面から見ていた。
「だからこそ、こうして、お願いに参りました」
服が汚れることも厭わずに、地面に膝をつき、手をつく。
結わえた自慢の髪さえも大地につけて、セレノアが頭を下げた。
「過去のことは、変えらません。けれど、未来なら変えることができる。
 食糧さえあれば、もう大戦は起こらない。
 魔族が、二度と開戦しなくていいように…。
 二度と他の種族に迷惑をかけないように…。
 どうか、力を貸してください」
余計な感情を込めずに発せられたその声は、とても聞き取りやすい。
必要以上に力の込めらていないそれは、心からの声に聞こえた。
「仮に、渡したとしても、あなたたちが使いこなせるとは思えない。
 それこそ、宝の持ち腐れになるわ」
「仰る通りかもしれません。それでも、最善をつくしたいのです」
相手の言葉を受け止め、セレノアが自分の主張を返す。
そんなやりとりを、何度も何度も繰り返し、積み重ねていく。
辛抱強く、どんな罵倒にも耐え、頭を下げ、言葉を尽くすことで、誠意を見せる。
そんなセレノアの姿を、アイシスとともに後ろから見守る。
口を挟むことも、言い添えることも、できなかった。
そんなことで、セレノアの邪魔をしたくなかった。
だから、その一つ一つに耳を傾け、ただ、じっと立ち尽くす。
目の前で交わされる、暴力ではない戦いを記憶に焼き付ける。
日が暮れるまで続いた対話の末。
キシスは、『長に具申する』とだけ言い残して、妹と共に帰っていった。
セレノアの熱意がつないだ、わずかな希望。
それだけでも、十分に大きな収穫と言えるだろう。
+注意+
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