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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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10章 気まぐれな想い-4


【ティスト視点】

ロアイス王城、ファーナの私室。
いつもどおり、アイシスから先に報告を済ませて、次は俺の番だ。
「なるほど、食糧の運搬よりも、別のところで苦労しているみたいね」
荷運びの報告と、これまでの大まかな経緯を聞き終えて、ファーナが息をつく。
いつものと変わらぬ怜悧な目の中に、気遣いや同情が見てとれた。
「にしても、まさか、そこまで深入りしているとは思わなかったわ」
「悪かったな」
自分でも、こんなつもりではなかっただけに、余計に性質が悪い。
今や、何をしても裏目に出そうで、行動どころか発言にまで気を払う始末だ。
「気を悪くしたなら申し訳ないけれど、これでも、褒めているのよ。
 物理的な距離は、誰にでも縮められる。
 でも、心理的な距離は、そう簡単でも、単純でもないもの。
 そこまで奥に踏み込むことなんで、誰にでも出来ることではないわ」
「そう言って、おだててくれるのは、ありがたいが…な」
戦闘で例えるなら、間合いを詰めた癖に何もできないなんて、最悪としか言えない。
早急に手を打ちたいところだが、解決の糸口すらつかめていないのだから、困ったものだ。
「さて、私からも報告があるのだけれど、聞いてもらえるかしら?
 もしかしたら、現状を打開する一助になるかもしれないわ」
「ああ、聞かせてくれ」
「ずいぶん待たせてしまったけれど、頼まれていた調べ物がようやく一段落したの」
「調べ物?」
「覚えてないかしら?」
こちらの反応を楽しむような顔で、ファーナが優しく問いかけてくる。
罪悪感を燃料にして頭を働かせてみても、何を頼んだのか、思い出すことができなかった。
「すまない、何の話だ?」
「魔族の大地に手を入れられたら…以前に、そんな話をしていたのは、覚えている?」
「ああ、その話か」
一番最初にロアイスと魔族の橋渡しをしたときに、ファーナとそんなことを話した記憶がある。
あの広大なくせに何も生み出せない領地を有効に使えたら、魔族もこんな苦労はしなくていいのに…と。
「それで…まさか、方法が見つかったのか!?」
思いがけずに出てきた希望に、思わず声が大きくなってしまう。
根本的な解決、もし、それが出来れば、誰もが幸せになれるだろう。
「見つかった…という表現は、正確ではないわね。まあ、順を追って話すわ」
そういうと、ファーナが机の上にあるうちの何枚かの紙を、手元に手繰り寄せる。
正式に依頼したわけでもないのに、どうやら、手を尽くして調べてくれたみたいだな。
その仕事への真摯な態度に応えるべく、俺も背筋を伸ばした。
「まず、初めに…。
 その昔、魔族の大地に木々を育むことを目的に研究したという事実が分かったわ」
「なるほどな、誰かが既に挑戦していたのか」
あの大地をどうにかしたい、それ自体は、俺でも思いつくような単純な話だ。
他に誰かが考えついて、実行に起こしていたとしても、不思議ではない。
「その名も、森のいしずえ
「悪くない名前だな」
礎をきちんと築くのは必要不可欠だし、基礎の出来栄えは、最後まで影響してくる。
魔族の領地に森を作りたいならば、ぴったりの名前だろう。
「それが始まったのは、前大戦よりも遥かに前。
 人間、魔族、精霊族の各国で名乗りを上げた者たちが、種族も国籍も関係なく手を組んだの。
 およそ、考えられる中でも最高の人材を選りすぐったようだし、数多くの出資者もいたみたいよ。
 私も名前を知っている著名人が、参加者の中にずらりと並んでいたわ」
「ずいぶんと本格的…というか、大がかりな話だな。よく、異種族間で協力なんて、出来たものだ」
種族不可侵によって、国交が断絶している印象しかないだけに、その話には現実味を感じられない。
三種族が手に手を取り合って物事に当たるなんて、夢物語にしか聞こえない。
「前大戦が始まる以前は、各国の技術者が手を組むというのは、普通だったらしいわよ。
 そうね。せっかくだから、あなたの知っている人を例にしましょうか。
 たとえば、武器や防具の研究には、必ずと言っていいほどロウ・エンゲイが呼ばれたそうよ」
「あのロウが?」
意外なところで、身近な名前が出てきたな。
俺やアイシスのダガーの生みの親で、師匠たちも武器を任せている、ロアイス一の鍛冶屋の主人。
たしかに、素人目で見ても実力はあると思うが、誰かと手を取り合って…なんて、考えられないな。
ひたすらに己の道を究め続け、誰かと寝食を共にするような研究なんて、苦痛に思いそうなものだが…。
「鋼の鍛え方だけでなく、精霊族の弓作り、果ては、魔族の衣服まで。
 職人として彼が残した功績は、計り知れないそうよ」
「そんなに…か」
腕はいいが客が寄り付かない、そんな店を守る職人気質の頑固なじいさんだと思っていたが…。
どうやら、認識を改めないといけないらしいな。
「でも、途中からは共同作業というよりも、ロウ・エンゲイに教えを乞うものが殺到したらしくて…。
 嫌気が刺した本人は、それを折りに、ほとんどの依頼を断っていたみたい」
「なるほどな」
そう聞くと、いかにもロウらしい。
「話を戻すけれど、技術提携は、どれもそれなりにうまくいっていたみたいよ。
 種族間の相性に関しても、種族というより個人の問題が多かったみたいだし、結局、目指す場所は一緒だったからね」
「なるほどな」
その道の専門家たちが、心血を注いだ後…か。
聞けば聞くほどに、手を加える余地なんて残っていないように思えるな。
「今は、もう継続されていないんだよな?」
「ええ、前大戦の開戦をきっかけに、幕を閉じたわ」
「じゃあ、どこまで何をやって、終わったんだ?」
魔族の大地に緑はないという現状からも分かるとおり、目論見が失敗したのは確かだ。
問題は、何をして、その結果、何を得たのか、だろう。
「それが、どれも曖昧なのよね。
 参加した各家に伝わる情報を聞かせてもらったのだけれど、どれも自分の功績を主張するばかり。
 それも、誇張と吹聴が混ざっているおかげで、本当のところが分からないの。
 断片をつなぎあわせるならまだしも、真偽まで怪しいようでは、情報とは呼び辛いわ。
 誰もが、自分の分野での権威だったし、己の実績に執着したのでしょうね」
いかに自分が役に立ったかを知らしめたいという、見栄か。
気持ちはわからないでもないが、そうなると厄介だな。
「つまり、お手上げってことか」
まあ、昔に挑戦した者たちがいたということが分かっただけでも、大収穫だな。
そんな夢を見た者たちがいるなら、同じ夢を抱いたって悪くはないだろう。
「勝手に終わらせないでくれる? この話には、まだ続きがあるの」
「どんな?」
「当時の活動を記録した本があるそうよ。
 それがあれば、もっと詳しい説明ができるのに…と、どこの学者も嘆いていたわ」
「しかし、成功していないんだろう?」
「過程を調べれば、同じ失敗をする手間は省けるわ。研究とは、そういうものらしいわよ」
「なるほどな」
まだやっていないことをして、失敗を重ねていく。
そうした試行錯誤の末に、成功を掴み取れるわけか。
「で、その本の行方は? つかめたのか?」
勢い余ったように問いかける俺にファーナは微笑を返し、そのあとに、ゆっくりと息をついた。
「もしかして、見つからなかったのか?」
「精霊族が書記を務め、事実だけを正確に書き綴ったものらしいの。
 おそらく、今も精霊族が保管してるんじゃないか? って話よ」
「そいつは、朗報…とは呼びにくいな」
よりにもよって、所持しているのが、精霊族…か。
人間や魔族にならば、頼れる者も何人かいるが、それも一切通用しない。
「それに、あくまでも可能性があるだけよ、そこにある保証はないわ。
 だから、この話は、事実確認ができるまで、あまり魔族には広めないでね」
「? どうしてだ?」
希望があったほうが、誰もがそれを目指して前向きに動けるようになる。
その活力を作り出すために、この話はとても有効なはずだ。
「今日、私が報告したのは、あくまでも私個人が調べた結果であって、情報の精度までは保証できないわ。
 それに、その本の存在も不明確なら、書いてある内容もまるで分らない。
 魔族の方々に期待されて何も結果が出せないのでは、困ってしまうわ。
 期待してから落胆させるのは、何もしないよりも性質が悪い。
 下手をすれば、反感を買ってしまうだけだもの」
「それで、俺に話してくれたわけか」
「情報を眠らせておくことも考えたけれど、あなたには話しておこうと思ったの。
 難しいと判断したなら、あなたが忘れてくれれば、それでかまわないわ」
俺が動かなければ、この話はここで終わりになる…か。
ファーナに迷惑をかけるのは心苦しいが、諦めるには早すぎるな。
「俺が精霊族に接触するのは、まずいか?」
「あまり好ましくはないけれど、他に方法はないでしょうね」
「精霊族が相手では、どれだけ待ったところで、進展は望めないのだから」
ため息とともに、諦めたようにファーナがつぶやく。
最良の選択とは呼べないだけに、俺に行かせるのも、苦渋の決断なのだろう。
「なるべく、穏便に済ませるよ」
「その言葉、信用させてもらうわよ。
 こちらから、ロアイスとして約束を取り付ける形で、いいかしら?」
「ああ、何から何まで、すまない」
頼もうと思っていたことを、向こうから提案してくれるのだから、本当に助かる。
また、返さないといけない借りばかりが溜まっていくな。
「別に、気にすることはないわ。
 こちらも魔族との関係を取り持ってもらったからね、持ちつ持たれつ…よ。
 向こうと連絡を取り合って、時間と場所を指定するから、そこで話を聞いてみて」
「了解」
「それと、一つ助言しておくわ。
 魔族と精霊族ならば、これ以上の関係悪化などありえない。
 だから、もし、魔族が同行を求めたなら、連れて行くのも選択の一つよ」
たしかに、国交すらないのだから、もし機嫌を損ねたとしても、魔族に直接的な被害はないだろう。
戦争となれば話は別だろうが、会話をするぐらいで、精霊族が魔族の領地へと攻め込むとは、考えられない。
「本当に困っているものでなくては、おそらく、言葉は届かないわ。
 それに、人間である私たちが精霊族にそれを頼むのも、筋違いだと思うしね」
「分かった、参考にさせてもらうよ。ありがとう」
「お礼は、無事にその本を入手できたらにしてちょうだい。
 三種族が手を組んで作ったものは、新しい知識の宝庫なのよ。
 私としても、読むのが楽しみだわ」
思わぬところで、ファーナが珍しく、子供のように無邪気な笑みを浮かべる。
普段の大人びた物腰とは別人に見えるほどの、あどけない顔だった。
「なに?」
「いや、べつに。期待に応えらえるように、努力するよ」
ほとんど返せていない恩を、今回くらいは返したいものだな。
ついでのことでこんなに喜んでもらえるなら、それだけでも、頑張る価値はありそうだ。
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