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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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10章 気まぐれな想い-3


【ティスト視点】

あれから、数日後。
ロアイスからグレイスへと荷を運ぶ、その道中。
「待ちやがれ、てめえらっ!!」
遠くから大声が響いたかと思うと、複数の足音が迫ってくる。
ダガーの柄に手をかけて振り返ると、見覚えのある五人組がそこにいた。
「俺たちの顔、忘れた…とは言わせねえぞ?」
やかましい声とこの顔を見れば、数分しか関わっていなくても、さすがに思い出す。
ロアイスへと向かう道すがら、運悪く俺たちを襲撃してきた、間抜けな盗賊たちだ。
「また、お前たちか」
息をついてダガーから手を離し、周囲を見渡す。
数に任せて勝負に来たかとも思ったが、前回と変わらず五人で、伏兵の姿もない。
前回、あれだけ惨敗したというのに、進歩が見えないな。
「覚えてたみたいだな。たっぷりと復讐させてもらうぜっ!」
意気揚々と長大な剣を振り回して、切っ先を俺たちに向けてくる。
買いなおしたらしいその武器は、前よりも一回り以上も大きい。
「まさか、武器を新調したくらいで、勝てるつもりなのか?」
もし、そうだとしたら安易にもほどがある。
重量だけを頼りにして、威力を底上げ…なんて、鍛冶屋のロウが聞いたら、怒鳴るだけじゃすまないだろう。
「うるせえっ! このすさまじい切れ味を、すぐにでもお前らの身体に教えてやるっ!!」
長大な武器と比べて、明らかに、使用者の筋肉が足りていない。
全力で振るうことができるのは、多くても十回程度だろう。
それ以降は、斬撃は鈍る一方だろうし、空振りを繰り返せば、すぐに腕が上がらなくなるだろう。
「まったく、懲りない連中だな」
あんなにこっぴどく負けて、まだ立ち向かう気力があるのだから、ある意味感心してしまう。
俺が相手の立場なら、遠目で顔を見ただけでも、逃げ出してしまうだろう。
「あの人たち、種族不可侵は大丈夫なんですか?」
「言われてみれば、そうだな」
セレノアたちと合流した地点から、もう魔族の領地だ。
勝手に入ってきた人間が、魔族に何をされようとも文句は言えない。
「じゃ、アタシが相手をしても、いいわけね?」
凶悪な笑みを浮かべて、セレノアが一歩前に出る。
とてもじゃないが、手加減できそうな雰囲気じゃない。
「待て、俺が…」
「ティストの魔法じゃ、物足りなかったから、また来たんでしょ?
 だから、このアタシが本当の魔法を教えてあげるわ。その骨の髄にまで…ね」
そうつぶやくセレノアの声には、冗談とも本気とも取れない凄味がある。
とにかく、前に言われたことを忘れていないのだけは、この反応からもたしかみたいだ。
「でもな…」
ファーナも、この連中は覚えているはずだから、多少の揉め事なら、うまく対処してくれるだろう。
だが、しかし…。
「いいじゃない。何が心配なわけ? アタシの身の安全じゃないでしょう?
 それとも、あんな馬鹿どもの心配をしてるの?」
そうやって聞かれてしまうと、適切な返事が見つからない。
こんな連中に負けるとは欠片も思っていないし、セレノアも馬鹿じゃないから、きちんとした対処もできるだろう。
だが、種族間での火種になるようなことは、できれば避けておきたい。
「私たちに…」
割り込んでくる声の主へと、視線を向ける。
そこには、事態を静観していたレイナとサリが、仏頂面で立っていた。
「任せて頂けませんか?」
従者としての姿勢を崩さぬままの丁寧な口調で、セレノアへとお伺いを立てる。
問われたセレノアは、答えるかわりに、渋い顔をして見せた。
「どうか…」
「お願いいたします」
「…好きにすれば」
数秒の後、殺気を消したセレノアがそう吐き捨て、連中に背を向ける。
それが、この件にもう手出しをしないという、セレノアなりの意思表明らしい。
こうやって権利が流れた以上、どう頼んだところで、俺には任せてくれないだろうな。
「約束、守ってくれよ」
絶対に人間を殺さないこと。
やむなく怪我をさせる場合にも、必要最低限であること。
その他にも、ロアイスとグレイスで交わした細かい取り決めは、たくさんある。
それを破れば、せっかくの国交も断絶してしまうだろう。
「分かっているわ」
こちらを見もせずに、ぶっきらぼうな返事をくれる…が、信頼しても大丈夫だろう。
ロアイスとの話を決めたのは、レオン・グレイスだ。
短い付き合いだが、レイナとサリの二人が、どれだけレオンに心酔しているのかは、よくわかる。
レオンの決定に逆らう姿など、想像できなかった。



「おぉおおおおおおおおおおーーーーーっ!?」
「!?」
天まで届けと言わんばかりの雄叫びに、アイシスとセレノアが顔をしかめる。
男の野太い声が、どこまでも不快に響き渡った。
「おいおいおいおいおい、お前、よく見ろよ!!!
 これだよ。この胸、この足、この身体つき! この色気!! この曲線美っ!!!
 これでこそ、女ってもんだぜっ!!!」
前回、その言動でセレノアの機嫌をぶち壊し、あのアイシスさえも怒らせた男が、騒がしくはしゃぐ。
どうやら、レイナとサリの容貌が、奴にとっては、最高らしい。
垂涎すいぜんとは、よく言ったものだ。
言葉どおり、本当に、よだれを垂らしかねない。
「ああ、たしかにな、これなら俺も文句ねえわ」
反対していた男も、ちらりとアイシスとセレノアの方に目を向けてから、そうつぶやく。
その視線の意味を考えるほど、背筋が寒くなっていく。
まったく、とんだ命知らずだな。
「………」
二人が浴びせかける冷たい視線を受け流し、男たちは勝手に盛り上がっている。
大胆に露出している太ももや胸元など、色々な部分に目を向けては、しまりのない笑みを浮かべていた。
「お褒めにあずかり、光栄ですわ」
可愛らしい余所行きの声を出して、レイナが淑やかに笑う。
油断をさせるためなのか、こんな手段まで使うとは思わなかったな。
「私たちが、お相手致します」
「するってえと、なにかい? あんたら二人が犠牲になるっていうのかい?
 健気だねえ、泣かせるじゃないか。その思いに答えてやりてえところだが…」
「私たちを捕まえられたら、あなたたちの好きなようにしてください。
 どんな願いだろうと、私にできることなら、何でも致しましょう」
蠱惑こわく的な笑みを浮かべて、艶然と立つ。
その挑発的な姿は、見事なまでに、男たちの劣情を煽り立てたようだ。
「その言葉、忘れるなよっ!!!」
二人の肢体へ向けて、武器を放り出した男たちが、次々に飛び掛かる。
せっかく買った自慢の武器は、もうお払い箱か。
ま、相手を殺したら楽しめないだろうから、当然の判断なのだろうが…。
「呆れるくらいに馬鹿ね」
「本当ですね」
「擁護するべき点が、見つからないな」
こんな方法で、籠絡させることができるのは、男を相手にする女の特権だろう。
欲望を剥き出しにして、本能のままに生きる。
幸せな生き方なのかもしれないが、あれじゃあ、殺されても文句は言えないな。


「なんだよ、逃げるなよ」
「おら、待てってば」
だらしない笑みを浮かべ、男たちが手を伸ばす。
復讐に来たはずなのに、そこには、既に戦意の欠片もなかった。
まさに、骨抜き…骨の髄まで痺れているせいで、思考が回っていないのだろう。
あんな間合いの中で戯れるなど、とんでもない自殺行為だ。
見ているこっちの心臓に悪いな。
危なげない足取りで、五人の間を舞うようにすりぬける。
相手の動きを完全に見切っていなければ、できない芸当だ。
四方から伸びてくる手や足をひらりと避けて、衣服にさえ指一本として掠らせない。
「おい、さっさと捕まえろっ!!」
「チッ、なら動けなくしてやるぜっ!!」
捕まえられないことに苛立ちながら、男たちが必死で手を伸ばす。
あれじゃあ、何時間頑張ったとしても、衣服にすら触れないな。



「くっそがぁぁ…」
「なんでだ、なんで捕まえられねえんだ?」
数分後に、汗まみれになった男たちが次々に地面へと倒れこむ。
度重なる方向転換や急加速は、足腰への負担が大きいからな。
気力は、いまだに衰えを見せていないが、身体が先に疲れ果てたらしい。
これでも、目の前に美味しそうなエサがあった分、頑張ったほうだろう。
「女を口説くのなら、もう少し身体を鍛えるのね。弱い男なんて、論外よ」
「次は、ないわ。失せなさい」
さっきまでの、淑やかな雰囲気は、どこへ行ってしまったのか。
動けなくなった男たちを、蔑んだ目で見下ろし、そう吐き捨てる。
「っざっけんなぁ…」
どうにか絞り出した声にさっきまでの力はなく、立ち上がろうとしてその場にひっくり返る。
既に、そのときには二人とも背を向けていて、その男の姿を見もしなかった。
完全に、勝負あったな。
「お待たせ致しました」
「先を急ぎましょう」
そう告げる顔には、疲れの色どころか、汗の一つすらない。
まるで、何事もなかったように、平然と歩き出した。
「見事なもんだな」
「ホントに、すごかったですね」
結局、相手に対して一度も攻撃をせずに、打ち負かしてしまった。
力量差があるから出来たとはいえ、今の状況を考えれば、あれ以上はないというほどの最善の対処だ。
「べつに、普通でしょ? あのぐらい、アタシだって出来るわよ」
俺の言葉に、セレノアが目を吊り上げ、口を尖らせる。
不機嫌なのは、戦いの機会を奪われたからか、それとも、褒められる機会を奪われたから…か。
「俺が言ってるのは、できるできないの話じゃない。ああいう大人の対応を見習ってくれ…ってことだ」
「なによ、ティストまで、アタシを子供扱いするつもり?」
「だったら、悪口ぐらい我慢してくれ」
あんな安い挑発に乗るようじゃ、危なっかしくて、任せられやしない。
「アタシは、ティストみたいに耐える趣味はないの」
「聞き捨てならないな」
「違うの?」
冗談なのかと思えば、心底意外そうにセレノアが問いかけてくる。
まったくもって、心外な反応だな。
「俺が耐えるのは、その必要があるときだけだ」
「だから、その範囲が、広すぎるんじゃないの? って言ってるのよ。
 別に、あれもこれも我慢する必要はないでしょ?」
「………」
前にも、色んな人に、何度も指摘された話だ。
思い当たる節もあって、何も言い返すことができない。
「ま、その辺は、個人の自由だから好きにしたらいいけどさ。
 ともかく、次はアタシがやるからね」
絶対だからねっ! と念を押してセレノアが離れ、その後をアイシスが追いかける。
入れ違いのように、レイナとサリがこちらへと近づいてきた。
「今後も、馬鹿の相手は、全て私たちがするわ」
「だから、絶対にセレノア様を戦わせないで」
俺を巻き込まずに、当事者で話を決めてくれ…とは、言うだけ無駄だろうな。
それができるくらいなら、この二人は、俺なんかに話しかけないだろう。
「悪いが、それは、俺の一存じゃ決められない」
俺の返答を非協力的と判断したのだろう、一気に二人の表情が険しくなる。
細心の注意を払った行動は、従者としては当然かもしれないが、あんまりにも徹底しすぎているな。
あの程度の雑魚ならば、誰が相手にしようが問題ないだろうに…。
「そんなに、セレノアのことを大事に思っているなら…」
『おばさんは、おばさん。それ以上でも、それ以下でもないわ』
そう言っていたセレノアの表情を思い出し、言葉を途切れさせる。
どこまで何を言うべきか、また、黙するべきか、その判断が難しい。
だが、余計なお世話と知りつつも、見て見ぬふりで済ませたくはなかった。
「もう少しセレノアに、自由を与えてもいいんじゃないのか?
 少しばかり、世話を焼きすぎ…というか、過保護だと思うが」
必要以上に近づかない…とセレノアは、言っていた。
それが正しいとは、到底思えない。
だけど、セレノアがそう判断したのであれば、その意思を尊重するべきだろう。
「魔族の風習は知らないが、セレノアも、もう一人前だろう。
 加えて、あの強さなら、どんな敵が来ても、問題ないだろう。
 ことある事に干渉して、あれこれ世話を焼くのは、互いのためにならないと思うが?」
「あなたごときに、何が分かるの?」
引き絞られた弓矢のような、いつ飛び出してきてもおかしくない緊張感。
それを全身に纏ったレイナが、震える声を絞り出した。
そこには、今までにも何度か見てきた、本気の怒りが見て取れた。
だから、それを真正面から受け止めて、睨み返す。
「仰るとおり、俺には、魔族の内情は分からない。
 俺にでも分かることは、今のままだと、誰にとっても不幸だということくらいだな」
挑発的な口調になってしまうことを、自分でも抑えられない。
お互いに、相手のことを想って行動した結果が裏目に出るなんて、俺には我慢できなかった。
「知った風な口を叩いてくれるわね。
 それ以上続けるつもりなら、馬鹿どもの前にあんたを排除するわよ?」
俺にはこれほど直接的に感情をぶつけられるのに、セレノアを相手に、なぜ、それができないのか?
その疑問を、口にすることなく、何とか喉の奥へと押し込める。
事情を知らない俺が首を突っ込んで、事態を悪化させてしまえば、誰もが不幸になるだろう。
「私たちが正しいとは言わない。でも、あの子を戦わせたくない」
俺の眼を見据えて、サリが、はっきりと断言する。
普段は感情を見せないのに、今は姉と同等以上の、強い意思が込められていた。
「できれば、理由を聞かせてもらえるか?」
「シーナのことは、レオン様から聞いたのでしょう?」
問いかけてきたのは、さっきまでとまるで違う、沈痛な声。
あまりの不意打ちに返事が出来ないでいる俺へと向けて、サリは、淡々と言葉を投げてきた。
「シーナは、レオン様と互角に渡り合うことができた。
 そのシーナでさえ、戦いの中で、命を奪われた。
 だから、私たちは、あの子を戦わせたくない」
事実を連ねて、理解を求められる。
その真意を聞けば、二人の過剰なまでのセレノアへの配慮も、分からないでもない。
だが、他にいくらでもやりようがあるはずだ。
せめて、その意図をセレノアに話しておければ、ある程度でも変わっただろう。
「贈り物を相手に渡すとき…。
 手渡しでも、どこかに置いて渡しても、投げつけても、たしかに相手には届く。
 だが、それは、同じ事ではないだろう?」
受け取った者がどう感じるのか、それは、無視していい話ではないはずだ。
少なくとも、誰かのために何かをするというのは、そういう行為だと思う。
「手段を選べるならば、なぜ、そうしない?」
「それは、人間の理屈よ。人間は過程を大事にするらしいけれど、私たちは、結果にしか興味がないわ。
 だから、その方法までは、こだわらない」
意地っ張りの強がりなのか、それとも、心底からそう思っているのか。
それを見定めるよりも前に、二人は背を向けて、歩き始めてしまった。
取りつく隙なんてありはしないし、話にも、最低限しか応じてくれない。
あわよくば、どうにかできないか…と思っていたが、甘かったようだ。
「どうやら、難攻不落という表現は、人を示すときにも使えるみたいだな」
皮肉をこぼして心をなだめ、食糧を満載させた荷車を引いて、歩き始める。
グレイスまでの距離を、そして、これから何度となくこの道程を往復することを考えると、気が滅入りそうだった。
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