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DAGGER 戦場の最前点 作者:BLACKGAMER

DAGGER 有色の戦人

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08章 気まぐれな会談-4

【セレノア視点】

風を切り裂く音はさらに高くなり、当然のことながら、攻撃の手も休まる様子がない。
疲れるどころか、ここから、まだ加速できる…か。
「…ふぅん」
止まることなく流れる剣先は、もはや、アタシの肉眼でも完全に捕えることが不可能だ。
当たり所が悪ければ、致命傷だろう。
でも、それだけだ。
どんなに速くても、どんなに重くても、次の一撃は、予想どおりで、驚くに値しない。
「つまらないわね」
「ふん」
気分が乗らないし、熱くもなれない。
うまく言い表せないけど、そんな感じだ。
ティストと戦ったときは、本当に楽しかった。
髪解き組み手でも熱くなれたし、圧倒的に勝った魔法の打ち合いですら、楽しめた。
森の中で手合わせしたときなんか、際限なく自分が高まっていくのを実感できた。
なのに、ティストと同程度の力量があるはずのこいつと戦っていても、まるで面白くない。
実際、それほどの差はないはずなのに、どうして、こんなにも違うんだろう?
「はぁぁぁっ!!」
裂帛の気合いを込めて、あらゆるものを切り伏せんと刃を振り下ろす。
力強いはずなのに、その一撃では、物足りない。
「そうか」
ようやく、しっくりくる言葉が見つかった。
物足りないんだ。
戦いの中で、相手以外のことをここまで考えるなんて、初めてのことだ。
でも、意識すればするほど、それを止められなくなる。
こんな奴が相手じゃ、闘いに酔いしれることもできないし、気分も昂揚してこない。
己が知覚している世界には、自分と相手しか必要ない、あの空間。
余計なものに気を取られている余裕などない、あの時間。
互いが互いを独占する、あの瞬間。
もう一度、あの時のような、全身の血が沸き立つ感覚を味わいたい。
だから、こいつの相手は、もう終わらせていい。
「………」
こんなにも激しく攻撃を打ち合っているのに、アタシたちは、互いに相手を見ていない。
アタシたちが見ているものは、ティスト・レイアだ。
アタシたちの技の応酬を見ても、その表情は、普段とまるで変わらない。
ただ、その瞳がアタシたちのことをしっかりと捕えていた。
見られている。
その事実が、わずかに疲れを感じ始めていた身体に、鞭をくれる。
「はぁっ!!」
「っ!!」
予備動作から斬撃の軌道を推測して、強引に飛び込む。
どうせ、待っていたって、崩れてなどくれないだろう。
アタシの顔のすぐ脇を、刺突として放たれた銀色の刃が流れていく。
頬が浅く切り裂かれ、あふれ出した血が、下ではなく真後ろへと垂れた。
「………」
この間合いなら、拳よりも手のひらのほうがいい。
自分の直感を信じて、固く握りしめていた拳をほどく。
「ッ!!」
思い切り手を伸ばして、奴の顔面に平手を当てた。
「チッ」
乾いた音が響いた後に聞こえた、小さな舌打ち。
それに満足して、角度をつけて数回下がり、双剣から逃げ出した。
「ふん、軽いな」
「頬を張られて言う台詞じゃないわね。男前が台無しよ」
角張った頬に手形がくっきりとつき、口の端から血が流れている。
その無様な顔には、さっきまでとは違う何かが浮かんでいた。
「この程度の攻撃では、いくら当てても、私は倒せない」
相手の強がりを聞き流し、目を凝らして、つぶさに相手の表情を読み取る。
戦いの中でもっとも目にすることの多い顔、あれは、痛みを堪えているときのものだ。
「ふぅん、なるほどね。ティストよりは、打たれ弱いみたいね」
「…!」
図星だったのか、目を見開き、それでも、反論せずに唇を拳で拭う。
その傷を庇う動作で、自分も怪我をしていることをようやく思い出した。
「………」
頬から流れ出している血を指先で押さえつけ、乱暴に拭う。
それでも、血は止め処なくあふれだしてくる。
思ったよりも深いわね。
「敗北を認めれば、終わりにしてやる」
「ご親切にどうも。でも、余計なお世話よ」
指先に炎を最小限に集めて、頬を斜めに走る傷口へと当てる。
痛みを別の痛みが食いつぶす形で、ようやく血が止まった。
火傷で止血、魔族では常識だ。
「さて、続きと行きましょうか」
父上は自分の仕事を果たし、ティストも魔族のために言い募ってくれた。
こんなところで、アタシが無様な真似はできない。
「ッ!!」
一呼吸で相手の間合いまで突き進む。
「!?」
怪我の痛みが落ち着くまで、また様子見が始まるとでも思っていたのだろう。
アタシを迎える斬撃は、手先だけで打たれた軽いものだった。
ったく、戦いの機微が、まるで分かっていないわね。
「………」
剣を掻い潜って、さらに前へ飛び込み、拳を乱打する。
狙いを絞らなければ、当然、効果的な防御も難しくなる。
「ぐっ…このっ!!」
苦し紛れに放たれる剣を後ろへ下がって避け、また前へ。
防御を減らし、その分だけ攻撃に傾注する。
このまま、一気に押し込んでやる。
「なめるなぁっ!!」
正面から打ち合う覚悟が決まったのか、一気呵成に攻め立ててくる。
拳の間合いでは近すぎるだろうに、そんなことを感じさせないほど、二つの刃が、自由自在に駆ける。
間合いを調整するために少し下がってくれたら、そのまま追いつめてやったのに…。
さすがに、甘いか。
「…!」
右肩、左腰、そして、両の太ももへと、流れるように斬撃が伸びる。
完全に避けたつもりだったのに、服が切り裂かれていた。
「ふぅん」
足運びはそうでもないけれど、やっぱり、剣速だけは侮れないわね。
上半身を鍛え抜き、足を止めての稽古に異常なまでにこだわったみたいね。
「ッ!!」
互いに攻撃を放っても、決定打に欠ける。
最初にティストと戦ったときも、こんな感じだった。
残りは、ほんのわずかなのに、その距離がとてつもなく遠く、どんなに伸ばしても届かない。
そういえば、あのときにティストが言ってたっけ。
『人に合わせて戦うのも面白いが、そんな余裕は持てそうにないからな。
 俺は、こいつを使わせてもらう』
そう言って、ティストはダガーに手をかけた。
相手に合わせて戦いを楽しむよりも、自分の得意な技を使って勝ちを求めた。
そこまでしなければいけない相手だと、認めてやるのは癪だけれど…。
「はあぁあぁぁぁっ!!」
大声を張り上げて、絶え間なく刃を繰り出すこの男も、たしかに強い。
ったく、しょうがないわね。
「くらえっ!!」
渾身の力を込めた、大振りの一撃。
そう見えるように形だけの呼吸をあわせ、拳を振りぬく。
「甘いわぁっ!!」
何をしても変わらなかった厳つい顔が、攻撃があたることを確信して、喜悦で歪む。
アタシに誘われたことに、向こうは気づいていない。
「………」
向こうが振りかぶるのにあわせて、両手にそれぞれ魔法を溜め込む。
わずかに全身の力が抜け、その変わりに、手のひらへと力が集まるこの感覚が心地いい。
「遅いっ!!」
発動の前に潰すつもりなのか、より深く踏み込んできた。
その狙いは、別に間違いじゃない。
このわずかな時間では、あの渾身の一撃を防ぐほどの硬度は、作り出せない。
「炎よ」
右手を地面へと向けたままで、炎の魔法を展開する。
手のひらに生まれた桃炎は、アタシの命に答えるように、空気を吸い込んでさらに大きくなった。
「終わりだっ!!」
ぎりぎりまで切っ先が迫るのを待ち、その間に威力を引き上げた炎を、地面に向けて放つ。
すぐさま爆発が起きて、炎が持てる力の全てを使って荒れ狂った。
「なあっ!?」
轟音の中で間抜けな声がわずかに聞こえ、そして、かき消される。
一度でも勝機を感じたら、防御にまわらない…その融通の利かない性格が、命とりよ。
「くっ…」
手加減なしで打った魔法の余波で、周囲の大気が熱を帯びる。
数瞬遅れでやってくる爆発の衝撃に、左手で収束していた魔法を使い、少しでも威力を軽減した。
「くうぅっ」
ボロボロだった衣服の切れ端が、次々に炎へと食われて焼け落ちていく。
それだけでは止まらず、今度は、露出した肌をむしばむように、火傷が刻まれていった。
さすがに、あの距離で爆発させたら、ただじゃすまないわね。
「…ッ」
視界が戻るのを待ちながら、自分の身体を確かめる。
わずかに触れただけでも、この痛み…か。
我慢でどうにかなるような軽いものじゃないし、ろくに身動き取れないわね。
だが、それは、相手も同じだ。
「ぐっ…はあぁぁ…」
痛みに身悶えながらも、剣を握る手は、決して緩めていない。
アタシよりも重症のはずなのに、まったく、その根性だけは、たいしたものね。
「なんだ今のは!? 馬鹿げている! 己も相手も巻き込んで魔法を放つなど!!」
「戦いに反則などない。何をしようが、当人の自由だ」
「まったくですね。自分の価値観で、戦闘を決めつけるから、痛手を負うことになるのです」
予想通り、お気に召さない大貴族様を笑うように、レジ・セイルスとクレア・セイルスが笑う。
そんな野次馬の声を聞きながら、次の動きを考える。
いくら痛みを忘れようとしても、完全には無視できない。
接近戦で動きを止めるような醜態を晒すぐらいなら、魔法で…。

「それまでだ」

向かい合っている二人の間に、ライナス王子が平然と割り込んでくる。
その絶妙な間の悪さに、収束しようとしていた手を止めさせられてしまう。
やっぱり、王子なんてやってるだけあって、ただものじゃないわね。
あまりにも堂々とした立ち居振る舞いと、穏やかな笑顔は、そう簡単にできるものじゃない。
「王子!? なぜ、止めるのです!?」
「この試合は、魔族を歓迎するために行われたものだ。
 これ以降は、お互いの技を披露するのではなく、命のやりとりになってしまうだろう?」
「しかし…」
「君はよく戦った。仕事に備えて、傷を癒したまえ」
ねぎらっていながらも、反論を差し挟む余地を与えない。
ほんとに、いい性格してるわね。
文句を言うことも許されず、一礼して、騎士団長が退場する。
本当に、人間は身分の違いだけが全てなのね。
「魔族の力、この目でしかと拝見させていただきました」
「それは良かった。有事の際には、必ずや貴国のために役立ちましょう」
「その言葉、信じさせていただきます」
父上と王子が互いに笑いあって、握手を交わす。
どうやら、これで一件落着みたいね。
「お疲れさん。これ、羽織っておけ」
ふわりと後ろから掛けられたティストの上着が、肩や腕をこする。
それだけで、飛び上がりたくなるくらいの激痛が、全身を駆けめぐった。
「ちょっと、やめてよねっ!! 痛いんだから」
「あ、でも…」
「それは、着てたほうが…」
「いいわよ、別に。戦い終わった後って、暑いんだから」
あれだけ動き続けたの加えて、全身火傷。
もう少しぐらい、風に当たって身体の火照りを冷ましたい。
「そうまで言うなら、好きにすればいい。
 だからって、そんな格好でいるのも、どうかと思うがな」
不自然に顔だけをそらして、ぶっきらぼうにティストが言う。
そんな、格好?
「? …んなっ!?」
あちこち破れている上に、さっきの炎で、焼け焦げたり、消し炭になっている。
隠れている部分なんて、最初の半分もなかった。
戦いに夢中で、全然気づいてなかった。
「そういうことは、早くいいなさいよねっ!!」
全身が隠れるように、あわててティストの上着を羽織りなおす。
なれない肌触り、それに、不思議な匂いもして、なんだか落ち着かない。
膝のあたりまで隠れるし、めいいっぱい腕を伸ばしても袖から手はでない。
無駄に大きくて、落ち着かないったらありゃしない。
ったく、なんなのよ、もう!! 
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