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おもいつき読切

魔王食べちゃったっ!?

作者: ひまうさ

『武器っちょ企画』カムバック

・短編であること

・ジャンルは『ファンタジー』

・テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』

http://shinabitalettuce.xxxxxxxx.jp/buki/book.html

 生まれてこの方、私は満腹になった覚えがなかった。


「おかわり!」

 自分の弁当(登校してから既に四つ目)を食べ終えた私は、隣で本日一つ目の弁当を食べている友人の手元へと視線を向けて叫んだ。


「誰がやるか、この胃拡張!!」

 友人からはなんとも冷たい言葉だけが返されたので、諦めて私は肩を落とし、目元を潤ませる。


「っ、ひどいわ、夏梅(なつめ)。大切な親友が飢餓に苦しんでいるっていうのに……っ」

「あんた、昼休み前に私宛に預けられたカップケーキどうした」

「ごちそうさまでしたっ! やー、さすがは時期料理部部長と名高い、夏梅信奉者さんだねぇ。店開けるよ」

 その暁には、是非ともお祝いに呼んでほしいね!と私が満面の笑顔で答えると、親友の二宮夏梅は眼鏡の奥の瞳を眇めて、舌打ちした。


 同じクラスの親友とも言える彼女と私が出会ったのは、極普通に高校一年の春のことだ。隣の席になった、イケメン美女と普通に会話していたら、いつのまにやら親友という位置を獲得していたのだ。ちなみに、彼女のどのへんがイケメンというかというと、まず切れ長で曇りのない眼差し、筋の通った鼻筋にグロスを付けなくても瑞々しい唇。ああ、美味しそうー。実に日本人らしい黒々としたストレートの髪をざっくりショートにしていて、その項もまた時々美味しそうに見えてくる。


「しかたないな、ほら」

 身の危険を察知したのか、即座に夏梅から差し出された、彼女の片手よりかなりはみだすサイズの大きなおむすびに、私は迷わずかぶりついた。


 顔もさることながら、背中がピンと伸びた姿勢の良さが、ちょっとした仕草の細やかさに育ちの良さが現れていて、その上中身もかなり男前な彼女は、このお嬢様学校におけるアイドル的な存在なのだ。


 その手ずから食べるおむすびの美味しいことと言ったら。


「ふがふぐぐーっ(いただきまーすっ)」

「代わりに、帰りに喫茶店(リヨン)でパフェおごってね」

「むぐぅーっ(なにぃー)!?」

 実にお嬢様らしからぬ私は、東条ゆかり。極普通の一般家庭で、極普通に育った、極普通のじょしこうせーである。


 ただちょっと、人より食い意地が張っていることは否めないが。


「ゆかりの胃袋って、マジわかんない。大体、今朝起きてから食べたもの何か言ってみなさいよ」

「ん?普通にごはんとお味噌汁とシシャモ食べて、デザートにカップアイス食べて、登校してからお腹すいたから、特製おむすび二つ食べて、休み時間にお弁当三つにカップケーキにホールケーキにシュークリーム、焼きそばパン、コロッケパン、シチューに……」

「待て。お弁当とパンはともかく、ケーキとシチューはいつ食べてた!?」

「……てへ」

「授業中に美味しそうな匂いを発生させてたのは、アンタかァァァっ!」

 額を軽く叩かれ、私は思わず目を閉じていた。


「てっ!」

「痛くないでしょ。てか、マジ、それだけはやめて? ここがどこだと思ってるの、ゆかり。ここは幼稚舎や小学部じゃないのよ。それに男子校でもないんだから、授業中に早弁とか、マジやめて。私の胃袋も保たないじゃないっ!」

「じゃあ、今度は夏梅の分も一緒に用意してあげる」

「そういう問題じゃないっつーのっ」

 そう言いながら、今度は降ってきた夏梅のチョップを右腕で受け、即座に流す。それを見ていた夏梅は不可解に眉間に皺を寄せる。


「……あのね、ゆかり」

「おなかすいたなー」

「あんた、一回検査した方がいい。病院で」

 冷静に、至極真面目に言われた私は、彼女にへらりと実に力ない笑顔を向けていた。


「無駄だよ、夏梅。だって、私ーー……」



* * *



「うわぁぁぁっ!」

 自分の大声で目を覚ました私、二宮夏梅は、荒い息と共に、左腕で汗を拭った。脳内をさっきまで見ていた夢が巡っている。


「……じょ、冗談にもほどがある。ゆかりが、魔王とか。あの子、ラノベ読みすぎて、とうとうオカシクなったんじゃ……て、元からか」

 高校に入ってから友人となった東条ゆかりは、おそろしく大食らいの少女だった。見た目は普通の女の子なのだが、男子高生以上の食事をしても足りることがないという食欲魔人だ。


 彼女が夏祭りを最後に行方不明となってから、既に三ヶ月が経過している。だから、こんな妙な夢を見たのだろう。私は悪夢を振り払う意味で、一度頭を振った。


 それから、我に返ってから、しばらくの間硬直してしまったのは、仕方がない。目の前には、夏祭りの日に着ていた浴衣を同じ物を着たままの、変わらない親友がいたのだから。


「オハヨー、夏梅」

 しかし、どこか可笑しい気がするのは何故だろう。いつものように笑っているのに、いつもとどこか違う、憂いを帯びたー……。


 いや、その前に気にするところが違うだろうと、脳内で誰かが言う。そもそも何故、自分の部屋にゆかりがいるのかとか、なんで彼女の周囲だけ昏いのだとか。そもそも夏祭りの後から、どこへ行ってたのかとか。


 私が着ているのは薄紅チェックの実に女の子らしいパジャマで、部屋はいつも使っている和室で、枕元で充電している携帯電話からチカチカと小さな光が瞬いている。


「え、っと、ゆかり……?」

「うん」

「なんで、いるの?」

「んー、厳密にはいない、かなぁ。ほら、テレビ電話とかって考えてくれればいいよ。もっとも、何度も繋げるわけにはいかないんだけどね」

「え?」

「話したいことはいっぱいあるんだけど、ありすぎるからまとめといた。後で、そこの日記でも読んでおいてね。なお、日記は読み終わると自動的に消滅しまーす。……なんつって」

 やけに元気の無いカラ笑いをするゆかりに、私は不安を覚えて手を伸ばした。でも、その手は何故か全然届かなくて。


 今にも泣き出しそうなくせに、笑顔でゆかりが言う。


「夏梅にはお弁当勝手に食べたり、奢らせたり、私の分までおむすび作ってきてもらったり散々迷惑かけてごめんね。あの時、夏梅も言ってたけど、やっぱ私ってソコでは異端だったっていうか、アレだったよね。ほんと、ごめん」

「今は原因も分かったし、毎日ちゃんとお腹いっぱいにもなれるし、普通の食事量でも全然足りるし。問題は取り過ぎることだよねー。太らないように運動しようかと思ったら、世界が崩壊するからやめてくれとかって言って止めるセイルは、女の子に対して、ひどいよね。ユリースもユリースで、私に傷ひとつ付けられないくせに、女が戦うなんて非常識だとか言うし。カッセルに至っては、もっと魔王らしくしろとか、意味分かんないし! 私はただお腹いっぱいになりたかっただけなのになー。空腹の私の前に美味しいご飯置いたら食べるに決まってるじゃない。それが魔王だったとか言われても困るっていうかーー」

 何か途中から愚痴のようになってくるゆかりの話し方は、普段と変わらないもので、その御蔭で私もだんだんと冷静になっていけたんだけど。


 急に目の前のゆかりの姿がテレビのノイズみたいに途切れて、消えて。辺りが真っ暗になってから、ようやく私は我に返った。


「え、ちょっと、ゆかり!? なんなのちょっと!」

 動揺する私に慌てて誤魔化すゆかりのいつものトーンが、脳内に直接響いた。


『ごめん、これ以上の干渉はだめだって、怒られちゃったー。詳しいことは日記読んでね。じゃあね、バイバイ、夏梅』


 それから、プツッという小さな音とともに声は収まり、朝日の光が室内を薄っすらと満たしはじめた。見慣れた室内が明るくなるのを夢心地のまま見ていた私は、ふと自分の机に目を向けた。


 さっきの話を信じていないわけじゃないけど、机の上には古ぼけた小さな本が見える。古いといっても手の込んでそうな革装丁で、手にしてみるとずしりと重い。


「……まさか、ね」

 半信半疑ながらその本を開いた私の目に飛び込んできたのは、見慣れた親友の、突拍子もない一文だった。






ーーどうしよう、私、魔王様食べちゃった!?






 私は眩暈を感じつつも、布団に座って、それを読み進めることにした。


「どうしようじゃないでしょーが」

 今日はまだ日曜日。読む時間はたっぷりあるーー。











おそまつさまでした(深謝)

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