猫になった夢
猫になった夢を見ていた。
言葉が全てニャー、だ。これは不便だ。コミュニケーションが取れない。
ちょっと舌を奥にひっこめると、ナーオ、と甘えた声が出る。
これはいい。誰かに甘えたい時に活用できそうだ。
「なぁに。餌が欲しいの?」
誰かが私を呼んでいる。飼い主だろうか。なんという美人だ。
私はこんな美人に飼われているのか。ペット万歳。
美人は台所に立ちガツン! ガツン!と何かをたたきつけていた。
「ほおら。今日は新鮮なお肉ですよ」
血がしたたるような肉だ。いや、実際生肉だ。くさい。
あのー、もうちょっと食べられるものをいただけませんか。
そんな私の言葉も全てニャーニャー、ナーオ、としか発音できない。
「おいしい? 良かったわぁ」
まるで通じていない。食べられないといっておろう。
私は苛立ちのあまり壁をがりがりひっかいてしまう。
「こらっ」
美人さんに首根っこを掴まれた。
「そんなおイタしてると、俊君みたいになっちゃうわよー」
あ、俊。それ私の名前だ。
あれ?
「俊君みたいになっちゃうと痛い痛いよー」
美人さんは私のお尻をたたいた。ニャー。痛いニャー。
「俊君のお肉たくさんあるから、いっぱい食べなさーい」
俊は自分のことニャ。このお肉が俊だったニャ?
ニャー。それじゃこニャ夢ニャー。
お肉にニャー、ニャんでそニャー? ニャーニャー。
人間ニャー。自ニャーはナーオでニャー! 夢ニャー。
「そうそう。おいしいでしょ?よかったわねぇ」
ニャーニャー、ナーオ。ニャー。ニャー。
「うん。いいこいいこ」
ニャー。
(終)