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初作品です。

どうかお手柔らかに感想お願い致します。

皆様の想い出が、どうか美しく想い出されますように。

これからも宜しく御願い致します。

風鈴
作:チナ・カタナ


がらんとした部屋で、私は煙草を吹かしていた。

木造二階建ての古いアパートの二階角部屋で、風鈴の音に耳を傾け、静かに…真っ白な煙を窓の外へとやった。

真っ青な空に映る白い煙はまるで雲の様に見えたが…すぐに大気に溶けて消えて行った。

風鈴がチリンチリンと、柔らかに鳴っていた…。

明日、この部屋を離れ、新しい場所で、新しい生活が待っている。
私は幼い頃から物に対する執着が人一倍強く、自慢ではないが、小学生の頃から使っている筆箱を今でも持っている。
何に対しても長く使えばどんどんそれは強くなる。

この部屋もまた。沢山の想い出が詰まっている。

オンボロアパートだが、私はここが気に入っていた。

春の桜が見える部屋。

梅雨の紫陽花の見える部屋。

夏の蝉の声の響く部屋。

冬の笑い声が響く部屋。

一人の夜も、二人で過ごした夜もあった。
いったい何人の人がここに訪れただろう。

そんな事を考え、私は風鈴を見上げた…。

立ち上がり、ふぅと息を吹き掛けると、チリン…と鳴った。

そして、その音色と共に想い出は蘇ってきた。



私は暑いのは好きだ。
暑い部屋で、冷たい麦茶を飲んだり、扇風機に向かって、小学生みたいに声を震わせる。
それこそが夏の過ごし方だと思っているし、これからもそのスタイルを変える気はさらさらない。

だから、こんな風にダラダラと暑いぃ、とか、だるいぃなどと唸る人の気が知れない。
したがって。
クーラーなんて絶対に付けてあげる気は全くない。

全く男ってだらしない。

「しょうがないよ、夏なんだもん。早く諦めて起きなよ。」

私は鼻で笑い、麦茶を啜りながら言った。
麦茶で冷えたグラスに私の熱い息がかかると、グラスは薄く曇った。

「もぉだめ、あっつい!!」

やっと寝床から這い出て、私の手の中のグラスに手を伸ばして来た。最早人間ではない。
呻き声をあげ、私に向かってくる、出来る事なら迎え撃ち、撃退したい所だったが、残念ながら、私にはそんな力はなかった。
なので…。

ペチン!!

と、オデコを叩いてやった。
以外と良い音がするもので、気持ち良かった。

「痛いぃ…痛いし暑いぃ。」

と、言葉を残して、奴は冷蔵庫へ向かって行った。
…這って。

「自衛隊かっ。」

私は言ったが、シカトされた。
どうやらそんな気力は奴には無かったみたいだ。

私は笑いながら、煙草に火をつけた。

「あぁー。気持ち良い。」

煙を窓の外へ吐き出し、残りの麦茶を喉へ滑らせた。
カラン、と氷とグラスがぶつかり、私の気分をもり立ててくれた。
台所では、夏を楽しめていない淋しい男が、冷蔵庫に頭を突っ込んで笑っていた。

馬鹿みたいに。

不意を突かれ、私も笑ってしまった。

振り返り、えへへ。

と子供みたいに笑う奴が、私は好きだった。

あはは。ばーか。

頭の上で、風鈴がチリンと笑っていた。

思いだし笑いなんて、久しくしなかったが、その時の風景や、匂いは不思議と鮮明に思い出され、笑わずにはいられなかった。

そうすると、私の記憶は勢力を上げて想い出の引き出しをバタバタと開き始めた。

奴の言葉は、心に残る。

「ねぇ。じゃんけんしよ?」

じゃんけんしよ。
突然、奴は言ってきた。

「何で?」

良いから、じゃんけん。

何故?と聞き返しながらも、大体の検討はつくもんだ。
大抵、自分が動きたくない時に、奴は決まってそぉ言う。

多分、飲み物か、雑誌だ。

奴は負けたら、ちゃんと自分で行ってくるから、そんなゲームも嫌じゃ無かった。

美学らしいが、意味がわからない。

結局私は麦茶を入れていた。
ちょっと悔しいが、楽しかった。差し出すと、ご苦労。
と一言。

憎たらしいが、好きだった。


そう言えば、こんな事もあった。
私は北国生まれの北国育ちのクセに、寒いのが大嫌いだ。
冬になると、毛糸の靴下がなければ夜もおちおち寝ていられないくらいだ。

そろそろこたつかな。

と思い、私は石丸へ出向き、勢いでこたつを買った。

こたつの上にはもちろん蜜柑で、私は上機嫌だったが、奴は納得していなかった。

きっとこう思っているに違いない。
こいつ散々クーラーなんてって言ってたくせにこたつなんて買って来やがった。

だろう。目が語っていた。

語ってはいたが蜜柑を食べているところをみると奴も満更でも無いらしい、やっぱり日本人にははこたつで蜜柑だった。

数日後には嫌みのつもりか知らないが、湯タンポを買って来やがった。
やっぱり日本人は湯タンポだよなー。と言ってきたが、残念ながら願ったり叶ったりだ。

私は銀色のそれを今でも使っているし、無くてはならない必需品となっていた。

当初、奴は本当に使うとは思って無かったらしく、ばばくさいばばくさいと馬鹿にしていたが、私がありがたく使っているのを見て、どうやらそれはそれで気分が良かったらしい。

その頃から奴は何かにつけて、
「日本人は」
と言うようになった。

私はその言葉に弱い。
気分と想像で生きてる私にとって、日本人と言えば何々とか、そういった私が連想しやすい言葉を並べる事を覚えたが、やっぱり日本人の夏はクーラーだよなー。は違っていた。

残念だけど。



日が傾きかけて、私は何本めかの煙草に火をつけた。

蝉は今日の最後にと言わんばかりに鳴いている。

大きく煙を吐き出すと、また一つ引き出しは開いた。

煙りに巻かれ、風鈴は淋しく音を立てた。小さく。

チリンと…


「ねぇ、煙草辞めなよ。」

いきなり奴は言った。

「ご飯の後にプカー。お風呂上がりにプカー。」

延々と言って来そうなので、私はその内辞めるよ、と適当に言ったが、どういう訳か、食って掛かってきた。

「その内辞めるって言ってる人って結局辞めないんだよね、辞める気がないから、女の子なんだから体の事くらいちょっと考えなよ。」

喧嘩の内容なんてこんなもんだ。
突然始まって終わらない。

めんどくさいから。

私はじゃあ減らして行くね。

と約束することにした。

絶対辞める気は無かった。
減らすつもりもさらさらない。

だけど、熱心に言うもんだから、
その気になった。

女の子…かぁ。

まさか奴の口からそんな言葉が出てくるなんて。

今じゃ感謝してる。

本当に奴のおかげで、煙を吐きながら、…辞めよ。

と決めた。


あの日の事忘れない。
あの日々の事忘れない。
あの景色、忘れない。

いつだって思いだす。
あの頃。

気が付けば、日は沈もうとしていた。

最後の一本残した煙草の箱を私は台所の引き出しに入れた。


よし。

行こうかな。窓辺に歩み。

景色を眺め。

窓を静かに閉める。

風鈴を手に取り。

丁寧に新聞紙にくるんで、鞄へ入れた。


外は綺麗な夕焼けで、気持ちが良い。

携帯を取り、振り返って。

オンボロアパートの写真を撮ってメールに添付した。
送信ボタンを押して、私はまた歩き出した。


新居にクーラー着いてて良かったね。パパ。



頭の中で、風鈴がチリン…と楽しそうに笑った。




高校生、大学生、社会人。

節々で色んな出会い、色んな景色、空気を感じると思います。

一人一人が優しい気持ちになって頂ければ幸いです。

チナ・カタナ













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