初めての甘いお酒
「これ、なんかお前みたいだな」
私の手に持っていたグラスを不意に取り上げて、一口飲んだ後、彼は言った
そのとき、私はびっくりして、すぐに返事ができなかった
反応できない私を不思議に思ったのか隣に座る私の顔を見る
表情をなくして、固まっている私と目が合う、2秒間無言で見つめた後、目をそらされてしまった
「ごめん」
下を向いて目をそらされたまま、謝られる
私もハッとなって、思わず下を向いてしまう
ぎこちなくさせてしまった
バカみたいにうろたえた反応してしまった
気持ちをやわらげようと、目の前にあったお酒に手を伸ばそうとして
でもそのグラスは、まだ彼の手の中にあることに気づく・・・
あっやだ、この行為、きっとグラスを催促してるみたいに見えるだろう
そう思ったときには
「あっごめん」ってあわてて、グラスをつき帰された
ああ、ダメだ、自己嫌悪だ、私ってなんて嫌なやつなんだろう
「・・・これは私のイメージじゃないんです、だからびっくりしちゃって・・・なんていうか、私は自分のこと、この甘い飲み物にあこがれて、列を作る蟻みたいだって思ってて・・・」
・・・駄目な酔い方したみたい・・・心の中で思っている事がそのまま口にでるのは問題かも
自分が甘くて可愛い女の子になりきれなくてあこがれてる、そんな事をどうして私は彼に告白しているのだろう
この人は私に女の子らしいイメージを少しは持っていてくれたというのに
どうして私が自らそれを壊しているのだろう・・・
すごく居心地が悪い、このままここにいてはダメだ
去ろう、ここを。もう動揺しすぎて、どうせまともな会話なんてできないし
思い切って、椅子から立ち上がる
やっぱりちょっとふらっとする、なんか飲みすぎたみたい
かばんを手にして「じゃあ」って別れようとしたら
「駄目、帰らないで、話、面白いからもっといよう」
手を強く引っ張られて、元の席にどさっと座ってしまう
楽しいの?この会話が?
このぽつぽつとしか話せない、盛り上がりにかけるこの内容が?
彼も酔っ払ってるな、と気づく
いつもはそんな風には強引なことしないし、言わない
普段はもう少し、距離があって、会話で相手がどうしたいって探ってから
事を推し進めるタイプ
だから彼自身が何を考えてるかなんて、全然普段は読めないし
といっても、今も彼の考えが、全然読めない・・・
なんで、手を引っ張るの?
仕方ないのでなんとなくそこに座ってる
会話するでなく、他のメンバーの会話をなんとなくBGMにしながら
時々、お酒に口つけて
お互い前をみてる、視線が合わさることも少なくて・・・
全然盛り上がってないんだけど・・・
私が頼んだお酒、実は普段はあんまり飲まない
でも、これ、彼がいつも頼んでるやつだって知ってから
試してみたくなった
いつかの飲み会で話してるのを聞いてた
「最近、すごいはまってて、なんかいっつも飲みたくなるんだ、甘いの好きだし、でもってけっこう、きつい酒だから飲んでると気持ち良く酔えるし・・・女の子の飲み物ってわかってるから注文するとき、恥ずかしいんだけど、なんか中毒みたい、めっちゃ好き、ないと生きていけない」
そういって目を細めて、そのお酒をすする彼はもう幸せな顔で・・・
うわっ思い出した、駄目だやっぱ冷静でいられない・・・
こんなこと思い出して、今私から口にしてしまったら
もう駄目・・・自滅する・・・
最後にひと口飲んで、
「ちょっとごめん」って声をかけて、トイレに行くふりをする
そのままさりげなく出口に向かおうとしたら
ぐって腕をつかまれた
さっきよりずっと力が強くて
思わず誰かの胸に倒れこんでしまう
顔を上げると彼の顔が近い
目を細めて幸せそうな顔で唇を吸われる・・・
「やっぱ、好き」
彼の声か、自分の思ったことなのか、もうわからない・・・