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短編小説集

文章が音楽に嫉妬したら世界が平和になった

作者:はじめ一号
 あるところに文章と音楽がいた。
 文章は言った。

「どれだけ興味深い文章を書いても、音楽のやつが鳴り出すと皆すぐにノリだして、私を放り出して音楽のほうに行ってしまう。なぜなんだ。悔しい悔しい悔しい悔しい」

 文章は音楽へ行こうとする人を呼び止めて聞いてみた。

「こんなに面白くて楽しくてスリリングで不思議で悲しくて感動する文章がここにあるのに、なぜ音楽へ行きますか」
「速いからです」

 その人は続けた。

「音楽は耳から入ってきてすぐに面白かったり楽しかったりスリリングだったり不思議だったり悲しかったり感動したり、何かしらすぐに味あわせます。文章は目から入ってきた文字を一つ一つ読んで理解して初めて何かしらを味わうことができます。私はすぐに何かしらを味わいたいので、音楽へ行きます。それじゃぁさようなら」

 文章はもう一人の音楽のほうへ行こうとする人を呼び止めて聞いてみた。

「こんなに壮大で未知の領域で新しい世界を知れる文章がここにあるのに、なぜ音楽へ行きますか」
「より気持ちよいからです」

 その人は続けた。

「音楽は耳から入ってきて頭の中を掻き回していろいろな嫌なことを忘れさせます。それから身体の中を伝って肩だったり手だったり足だったりを音楽に合わせて勝手に動かすことさえあります。それはとても気持ちよくて幸せです。文章は目から入ってきた文字を読むことで壮大で未知の領域で新しい世界を頭の中にとても静かに知らせます。それから胸のあたりに伝って心臓を弾ませたり、締め付けたりします。それはとても気持ちよくて幸せです。私は全身で気持ちよくて幸せになりたいので、音楽へ行きます。それじゃぁさようなら」

 文章は思った。

「なるほど文章を読むのも音楽を聞くのも、すぐに嫌なことを忘れて気持ちよく幸せになりたいからなのか」

 文章は音楽に話をつけに行った。

「皆、文章を読むのも音楽を聞くのも、すぐに嫌なことを忘れて気持ちよく幸せになりたいかららしい」
「なんてことだ、それじゃぁ文章と音楽をする以外のことは、そんなにも嫌で忘れたいことばかりということじゃないか」
「それは大変だ」
「それは大変だ」

 意気投合した文章と音楽は、文章と音楽をする以外のことが嫌でなくなるためにはどうしたらいいかを考えた。考えたあげく、嫌なことを嫌だと思わなくすればいいという結論に至り、文章はそのための方法を書き、音楽はより頭の中を掻き回す音を使って、書かれた文字を音に乗せて鳴らした。それは歌というものになった。

 “嫌なことは実は嫌じゃない
  いやだこわいさむいつらいいたい
  全部生きてることを知るための証拠
  生きるための重要な機能
  嫌だと突っぱねるのはもったいない
  もっと先まで行ってみませんか
  もっと進んでみませんか
  生きてることを嫌というほど知らしめられて
  もっと気持ちよく幸せになりませんか
  嫌なことは嫌じゃない
  実はそんなに嫌じゃない
  死んだら知れない特別な”

 歌を聞いた人は嫌なことが嫌でなくなり、寂しんだりねたんだり(ひが)んだり恨んだり攻撃したり人にも同じ嫌な気持ちを味あわしてやろうと思うことがなくなった。歌は口コミで有名になり、ありとあらゆる国で流された。その結果、世界は平和になった。



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