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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第5章 祭りと騒ぎとその後と

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第10話 準備開始

 最近の杜人は多忙である。昼はレネと準備を行い、夜はジンレイとの打ち合わせと全体の調整をしている。しかし好きでしているので苦にしておらず、寝なくても支障がないことに感謝していた。

「ノバルト達が来ましたので、現在は店舗を一通りできるように仕込み中です。それとクリンデルさんの従業員にも同様に行っております」

『それなら店舗の人員は大丈夫そうだな。引き続きよろしく頼む』

「承知いたしました」

 ジンレイの報告を受けて杜人は予定を組み替え、経費を算出し調整していく。大量に高級品を卸したため、それなりに余裕ができてほっと胸をなで下ろした。

『それと、これの発注もリュトナさんにしておいてほしい。数は少し多めで良い』

 渡した図案には学院祭に着る予定の上着、いわゆるはっぴが描かれている。本当は制服を作りたかったのだが、時間と予算の都合により断念していた。これが手に入れた羊毛の使い道である。

 全体は赤を基調として、背中には魔法騎兵隊の紋章が描かれている。学院の制服の上から着ることになることと、帯はなじみがないので代わりに前で結ぶ飾り紐が付いている。裾部分はきちんと黒と赤の升目になっていて、単なる赤い上着ではないことを強調している。

 ちなみに、黒姫組と入れるのはレネが知ったら確実に泣くので断念した。着ることはレネと相談はしていないが、レネは服にこだわりを持っていないので変でなければ気にしないと分かっている。そして万が一があっても説得できる自信があった。そのため驚かすためにこっそりと製作することにしていた。

「依頼していた魔法具も少しずつ納品されていますので、部屋のほうに置いておきました」

『分かった。そのうち会場に設置する魔法具も発注すると伝えておいてくれ』

 こうしてレネの知らないところで、杜人はとにかく大変で終わりの見えない仕事をしているのである。

『来年は任せられると思うか?』

「まだ無理ではないかと」

 予想通りの答えに杜人は微笑むと、精力的にするべきことをこなしていった。





 朝。杜人は日課になっている体操を終えると、これまた日課になっている拝礼を行うべく正座して静かにレネが起きるのを待つ。こればかりはなんと言われようと、追い出されない限り止めるつもりはない。杜人なりのこだわりのひとつだ。だからこそ変人なのだが、自覚しているので治る見込みはない。

『……はて、起きないな?』

 普段のレネは、朝日が差し込むと目を覚まして寝ぼけながら這い出てくる。しかし、今日は既に部屋に光が差し込んでいるのに起きる様子が見られなかった。そのため疲れているのかと思い枕元に行くと、特に異常はなく横向きになったまま実に安らかな顔で眠っていた。

『ふむ……、実につつき甲斐がありそうだ』

 杜人は笑みを浮かべると不可視念手でレネの頬を軽くつつく。

『ふふふふふ、実に良い。癖になりそうだ』

 軽く押しただけで跳ね返る弾力に笑みを深めると、調子に乗って連続でつつく。そこまでされたレネは少しだけ身じろぎすると、僅かにまぶたを開いた。

『おはよう。目が覚めたか?』

「……」

『ん? どうし……ぬわ!』

 いたずらをしていたのにも関わらず、欠片も動揺せずに杜人は挨拶をした。それに対してレネは反応を見せず、全身をうっすらと光らせると覗き込んだ杜人をおもむろに掴み、胸元に引き寄せ再び安心したように目を瞑った。

『……あー、レネ? お誘いは嬉しいのだが、こういうことはきちんと実体化できるようになってからしてくれるとありがたいのだが』

 杜人の軽口に眠りについたレネは当然答えない。それどころか魔法が消え去る様子も見せず、握りしめる力が徐々に強くなっていた。

 ちなみにレネの握力は無意識の身体能力強化によってかなりのものである。下手をすると果物を握りつぶせるかもしれない。そして寝ている人の行動は、普段している抑制が働かない場合が多い。そのため高まる圧力に杜人はたらりと汗を落とす。

『レ、レネ? そんなに熱烈に愛情を表現しなくても大丈夫だぞ? もっとゆったりと……ぐぁ、こら、レネ、起き……ふぐぅ』

 止まらない圧力に最後に大きな声をあげるが、レネは杜人を更に抱き込んでその声を封じる。そして押しつぶす力も高まり、もはや杜人は僅かに手足を動かすことしかできなくなっていた。

 杜人は薄れていく意識を総動員して不可視念手を発動させると、レネとの間に無理矢理隙間をこじ開けた。その際しっかりと胸に不可視念手が触れていたが、それを気にする余裕などなかった。そこまでするとやっとレネは光るのを止めて杜人を解放した。

『のわっ!』

 杜人は魔法を解除する余裕もなく、突っ張っていた反動で飛ばされることになった。そして運良く座卓にぽてりと落ちると、力尽きてそのまま寝転がる。呼吸しているわけでもないのに激しく上下する胸が、杜人の必死さを現していた。

『し、死ぬかと思った……』

「……モリヒトうるさい」

 握りつぶされても本体である魔導書があれば大丈夫と理解していても、それはそれである。そのためぐったりとしていたところへ、騒ぎで目を覚ましたレネが目をこすりながら起きてきた。

『おはよう……』

「おはよ。……なんだか疲れているみたいだけれど、どうしたの?」

『大丈夫だ。気にしないでくれ』

「変なの。着替えるからあっち向いてね」

『了解だ』

 理由は分からないがすっきりとした気分で目覚めたレネは、上機嫌に鼻歌を歌いながら着替えを始める。その原因である杜人は、寝ているレネに近づくときは注意しようと固く誓ったのであった。





 食堂に来たレネは隅の席に座っていつも通りのまかないを食べている。内容もおいしいほうであり、長年続けてきたので今更変えようとは思わなかった。シャンティナも同じ物を食べているが、今のところ不満を見せたことは無い。

 そして学院に名が轟いているレネがまかないを食べ続けているため、今では同じまかない仲間も堂々と席に座って食べている。逆に今まで蔑んでいた者のほうがこそこそする傾向があった。

 本日はいつものスープに玉子を溶かした玉子スープとパンである。簡単な物だが手抜きではない。おまけは薄切りのハム三枚となっていた。

『バターを使うなら出すが、どうする?』

「大丈夫。ちゃんと中に練り込まれているから」

 他との差別化のため、まかないにはバターが付いて来ない。その代わり外からは分からないように中に練り込まれているのである。こうすれば贅沢だと言われることもなく、原価も算出しやすいのだ。

 そんな風に上機嫌に食べているときに足音が近づいてきたので杜人が顔を向けると、そこには使用人を連れたアイリスが微笑みながら立っていた。

「ごきげんよう」

「ん? おはようございます?」

 レネは食事を中断して挨拶を返すが、直接会ったことがないので声をかけられる理由が思いつかずに疑問形になった。その様子にアイリスはくすりと笑うと使用人に合図を出して、テーブルにパンの籠を置かせる。中身は一品物として売られている、高い部類のパン籠であった。

「これ、少し頼み過ぎてしまいまして。捨てるのもなんですから、差し上げますのでお友達と分けてくださいな」

『唐突だな』

 普通の内容だが前置きも無しに言われたことによって、立場の違いを明確にしようとしているのは分かった。貴族であるのは分かるので、良く取ればまかないを食べているレネへの憐みであり、悪く取れば蔑みである。

 どちらにしてもレネを下に見るための方法であり、紫瞳でありながら見たことのない顔だったので、杜人はレネの噂しか知らない最近入学した貴族なのだろうと推測していた。

 そして自ら悪意を向けて実行してくる者に配慮するつもりはないので、何もしないがそのうち跳ね返る方法を使うことにした。

『良し、喜んで受け取ることにしよう。物事は上げてから落としたほうが面白いからな。ぬふふふふ』

 レネは悪意を向けられるのは慣れているので、受け取れば蔑まれるであろうことは理解できていた。そのため、以前のレネならそのまま無視して立ち去っている。しかし、テーブルに居る杜人が楽しげに回転しているのを見て、遊ぶつもりだと分かったのでその企みに乗ることにした。

「ありがとうございます。……バターは無いのですか?」

『ぐふっ、なかなかやるではないか』

 レネは笑顔で籠を受け取ると中を確認し、笑顔を向けると『バターもください』というようにアイリスを見た。杜人から演技指導をさんざん受けてきたので、責任が伴わない遊びならばこの程度はお手のものである。

 そんなレネの機転に杜人は思わず吹き出しながら腹を押さえて笑い、アイリスは笑いながらも目を細めて蔑みの視線を僅かに向けた。

「あら、ごめんなさい。遠慮なく全部使ってください。それでは」

「ありがとうございました!」

 追加でバターの容器を受け取るとレネは元気にお礼を言った。そこに施しを受けた屈辱はまったく見受けられない。その様子にアイリスは己が何をしたのか理解していないのかと小さく笑い、背を向けると上機嫌に立ち去っていった。

『単純そうだから、これでしばらくは楽しめそうだな』

「次は何だろうね」

「おいしいです」

 レネとシャンティナは遠慮なくパンを平らげていく。この程度でレネの評価が変わるならば、引きこもりになどならない。そして一度開き直った者は強いのである。

 知らない者からは図太い貧乏人と嗤われていたが、知る者からは大貴族にすら臆さない大物ぶりに戦慄の視線を向けられている。そしてフォーレイアが殲滅の黒姫に喧嘩を売り、殲滅の黒姫も笑顔で買ったという噂が、密やかに流れ始めたのであった。





「これをお兄様に預けますので、良いように使ってください。現物はルトリス名義でダイル商会に保管しています。そのうち欲しい方々に情報が流れるでしょう」

「……」

 同じ部屋で同じように微笑むエルセリアの報告を聞き、差し出してきた品物一覧を見ながらライルは頼もしいはずの妹の好意に頭痛がしてきていた。

 品目は品薄になって高騰していた最高級茶葉や、品薄以前に入荷しない羊毛の最高級品等々。贈り物として使えば同等の金より喜ばれる品々である。

 品物を採取してくること自体は予想の範囲内なのだが、まさか昨日の今日で市場を動かせる量を採取してくるとは思っていなかった。そしてそれを手引きしたのがルトリスであると分かるようにしている。

 意趣返しとしては上等だが、フォーレイアの恨みを一身に受けるのは当主代行のライルなのだ。そのためこれからのことを考えるとため息が出てきそうになるのである。エルセリアはそれを理解しているが、気遣いはライルの実力を侮ることになるので何も言わなかった。

「これでルトリスが貧相だと笑われることはないと思います。後はよろしくお願いします」

「ああ、有効活用させてもらう」

 ライルは一度大きく深呼吸をしてから力強く返事をする。覚悟さえ決まれば今回のことはどうというものでもなく、大貴族としては遊びの範疇である。そのため頭を切り替えてライルも楽しむことにした。

「ところで、これからも持ってくるのか?」

「ええ、しばらくは資金稼ぎをしたいと言っていましたから、手伝うつもりです」

 ライルとエルセリアは優しそうな微笑を浮かべている。その光景は誰が見ても仲睦まじい兄妹が微笑ましい会話をしているようにしか感じられない。二人はとても似ている。それが世間の評価であり、実に正しい評価であった。





 午前中はジンレイが不在のため、司書としての仕事がなければ部屋にこもって準備をしている。今回は頼んでいた品物が届いたため、試験を兼ねた確認作業である。杜人はテーブルにあぐらをかきながら椅子に座ったレネと向かい合っている。横に居るシャンティナは飾り飴の練習に熱中しているため、騒がしい二人に見向きもしていない。

「剣の長さは普通で良かった?」

『重さがないからそれで良いだろう。打ち合うときに派手に光を散らしてくれれば問題はないさ』

「ふうん……、こんな感じ?」

 レネは幻影を作り出して打ち合わされたときの様子を再現する。幻影自体は見事だったが、単に光る剣がすごく光る剣になっただけだった。

『ちょっと違う。合わされたところから火花が散るようにしてほしい。……火花は見たことあるか?』

「あるよ。あんなので良いの? ……こんな感じだけど」

 次に再現された幻影は確かに火花が散っていたが、ものすごく現実に忠実で面白みがなかった。それを見て、基礎が異なるために言葉で理解させることが難しいと悟った杜人は、つたないが自ら幻影を構築して手本を見せることにした。

『ふむ……。少し話はずれるが、見せ方のこつを教える。まず、この道具は遊ぶためのものだ。実用性は考えていない。重要なのは何を強調するかだ。今回に関しては、本物を忠実に再現する必要はない。極端に言えば、剣の一振りで特級魔法が発動する幻影を付与しても良いんだ』

「ふむふむ」

 レネはメモを取りながら真剣に聞いている。

『そして強調する部分は、いかに格好良く見えるかだ。剣を振っただけで欲しくなるようなものにしたい。そこに現実は必要ないんだ』

 杜人は幻影で光の棒を作ると素早く動かし始めた。一振りするとその軌跡が残り、時間を置いて消えていく。連続で動かすと複雑な模様も描くことができた。

「わぁ、綺麗だね」

『普通の魔法具では意味がないから、こういう残像が発生することはまずありえないが、こうすると振りたくなるだろう? この他の工夫として、消える光を散らばるようにしたり、刀身から光がこぼれているように見せたりするのも手だ。打ち合うときもありえないくらい火花が散って良いんだ』

 言いながら杜人は参考になる幻影を大雑把に作っていく。さすがにレネのような精度は無いが、参考にするには十分である。

「あーなるほど。そういう意味だったんだ。要するに、伝承のような荒唐無稽のもののほうが良いってことだね?」

『そうだ。夢を売るのがこの魔法具の役割となる。現実は目の前を見れば十分だからな』

 漫画や映画が存在しないため、極端な描写がされているものは伝承などの文字やそれにまつわる絵しかない。杜人は慣れ親しんだものだから簡単に脳内で描き出すことができるが、レネは物語などからしか連想できないために現実に即した発想になってしまっていた。それを壊すために杜人は現実ではありえない幻影を作ったのである。

「なるほどぉ。炎だからといって上に燃え盛る必要はないし、水が下に落ちる必要もない。光も同じくすぐに消える必要はない。分かった。ちょっと待ってね」

 理解したレネはさっそく構築に取り掛かる。この辺りの柔軟な思考もレネの長所である。そしてしばらく静かな時間が過ぎたのち、自信ありげに手の平から魔法を発動する。現れたものは白く輝く長剣で、先程の幻影よりも本物に近く、それでいて内部から輝いているように見える。表面には実用性皆無の模様が描かれていて、浮き上がるように強く発光していた。

『見た目は良いな』

「でしょ? 振ってみるね」

 レネは椅子から立ち上がると光剣を縦に振り下ろす。通過した場所には光が残り、一呼吸おいてから光剣を追いかけるように消えていった。レネは更に横、斜め、円などに動かして最後に下から上に切り上げて光剣を掲げた。

『さすがだ。本当にレネは頼りになるな』

「んふふ、それほどでもあるよ」

 杜人の賞賛に気を良くしたレネはもう一方の手にも光剣を作り出して互いに打ち合わせた。すると接触したところから色とりどりの大量の細い光が流星のように飛び出して一瞬周囲が明るくなる。

「どうかな?」

『文句なしだ。素晴らしい!』

 杜人は笑顔で拍手を行い、レネも光剣を消して鼻高々に胸を張った。そしてレネの機嫌が天を突きぬけているのを確認した杜人はこれで良しと頷いた。

『それではこれに最後の仕上げを仕込もう。最後に全ての力を解放し、一撃に賭ける。これがないと片手落ちだからな』

「盛り上がる場面だね。外せば後がない一撃……、良いよね。ということは、防具にも同様の機能があると駆け引きができるかな?」

『それは良いな。ぜひ組み込むことにしよう』

 二人は視線を合わせると同時に頷いた。物語好きなレネには容易に想像できる場面である。そして最後の攻防は男の夢である。杜人は己の欲求を組み込むことに成功したため、嬉しそうに回転している。

 こうして細部をつめて仕様が決定され、レネは調子良く魔法具に術式を封入していった。その横ではシャンティナが黙々と飾り飴を練習している。

 杜人はそんな二人を見ながら、これなら大丈夫と微笑みながら宣伝のための台本作りに精をだすのであった。





「まったく、頭の固い人は駄目ね」

 自室にてアイリスは配置図を叩く。せっかく包囲していたルトリスが屋外訓練場に逃げ出したので追いかけようとしたのだが、全てレネが占有しているため受け付けてもらえなかったのだ。

 ちなみにルトリスが移動できた理由は、レネが場所を譲り渡したからである。そのため事務局でも直接交渉してくださいとしか言うよりほかないのである。そしてフォーレイアが敵対関係と認識してる者に頭を下げられるはずがなく、話し合いすら行われていなかった。もちろんレネはそのことを知らない。

「でも出店の品目は分かったし、この場所なら誰も行かないから良いかな。自滅するなんて意外と馬鹿なのね。客も入らず、もてなしも貧相なものを使って笑い者になりなさい」

 学院祭では出し物に制限があるため、商品の事前審査が必要である。そのためレネも簡単な物から審査を受けていた。そしてその情報は建前上公開されているわけではないが、貴族ならば入手は不可能ではない。そうやって入手した資料に目を落とすと、僅かに首を傾げる。

「聞いたことの無いものが多いわね。まあ、なんとかなるでしょう。うふふ……」

 アイリスの機嫌はとどまることを知らずに上昇していく。そして外出する準備をして、そのままの勢いで外に飛び出していった。

 外に出たアイリスの目的はエルセリアに会って勝利宣言することである。今までは避けていたが勝利を確信した今、我慢できるのはフォーレイアではない。そういうわけで、まるで位置が分かっているかのように移動したアイリスは、見事に廊下を歩くエルセリアと偶然出会うことができた。アイリスは楽しげな笑みを浮かべて近づくと挨拶を行い、さっそく話題を切り出す。

「何でも学院祭の場所を移動したと聞きましたが……」

 まるで関係ないことのように聞くが、双方了解済みと分かっているのでもちろん嫌がらせである。それに対してエルセリアは少しだけ済まなそうに微笑んだ。

「いいえ。私が外の広い場所が良いとわがままを言ったのです。お兄様には負担をかけてしまって申し訳ないと思っています」

 嘘ではない。エルセリアが提案したのは本当のことであり、ライルが苦労したのも本当のことである。そしてエルセリアは移動できて喜んでいる。しかし、言葉は鏡でもあるので、聞く者の心で意味も異なるものになる。

 当然追いつめていたアイリスには逃げ出した言い訳としか聞こえない。そのためルトリスは責任をエルセリアに押し付けるつもりだと判断した。そのため多少憐みの目でエルセリアを見る。

「あら、そうなの。けれど、あそこでは人が来ないのではないですか?」

「その辺りはお兄様に任せていますので大丈夫です」

 これも嘘ではない。調整はエルセリアがしているが、手配はライルの領域である。しかし、ルトリスに関しては発想が変になるフォーレイアである。そのため金を積んで偽の客を入れ、普通の客を誘導するつもりであると判断した。

 人の口を封じることはできないので、そんなことをすれば笑い者になると普通は簡単に分かるのだが、ルトリスが絡むと分からなくなるのがフォーレイアである。そのため眉根を寄せると自分から話しかけたのに構わず話を切り上げた。

「そう。色々大変だとは思いますが、頑張ってください。何か手伝えることがあれば、遠慮なくどうぞ」

「はい。ありがとうございます。兄にも伝えておきますね」

 エルセリアは気にせず静かに頭を下げると、そのまま立ち去った。それを見送ってからアイリスは早足で自室に向かう。

「やっぱりルトリスは汚い」

 そう呟きながら、客が流れないようにする方法を練るのであった。





「あからさまに妨害すると退去させられるから、看板とかでさりげなく通路を見えづらくしたり、似たような商品を売ったりするのかな? 無駄遣いが好きだよね」

 エルセリアは微笑みながら今後の展開を予想している。もちろん先程までの会話も誤解されると理解したうえで、あえて言葉を選んでいた。

 既に杜人が客引きを考えていると知っているので、今までの例から半端なことで終わらせるわけがないと推測していた。何といっても、派手にしようと思って増幅円環陣を作る発想の持ち主である。直接妨害しない限り、何をやっても無駄であると確信している。

「今年の学院祭は楽しいな。さ、早くレネのところに行かなきゃね」

 既にフォーレイアについての対処はライルに丸投げしたため、エルセリアはアイリスとの会話をあっさり忘れて楽しそうにレネの元へ歩いていくのであった。
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