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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第5章 祭りと騒ぎとその後と

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第02話 よくある勘違い

 大国レーンが誇るフィーレ魔法学院。そこには様々な者が魔法使いになるために学んでいる。その一角にある図書館にて、レネは華奢な身体とは思えない動きで元気に臨時司書として働いていた。

 レネは静かな図書館が大好きである。そのため後頭部で束ねた腰まである長い黒髪を揺らしながら、紫の瞳を嬉しそうに細めて本を取り出したりしていた。服装はいつも通り、制服である白のブラウスに紺色のフレアスカート、深藍色の上着を着ていて、胸元には上級魔法使いを示す徽章と赤いリボンを付けている。

「あっ、新しい本がある!」

『……相変わらず読むのが速いな』

 杜人は嬉しそうに立ち読みを始めたレネの横を漂っている。こちらも変わらず白系統の狩衣と烏帽子姿である。透けているのと本程度の大きさなのも変わらない。後ろに居る護衛のシャンティナも変わらず、レネと同じ制服を着て、長い黒髪を三つ編みにしている。今では気配がほとんど感じられなくなっているので、見なければ存在を忘れそうであった。

 そんな静かな図書館であったが、最近はいつもより人が増えて幾分賑やかになっている。外を歩いていても、どことなく楽しげな印象を杜人は受けていた。

『ところで、最近周囲が賑やかだが何かあったのか?』

「ん? ……ああ、違うよ。何かあったんじゃなくて、これからあるの。学院祭の準備だね。だから講義も少なくなっているんだよ」

 レネは顔をあげて質問に答えると記憶し終わった本をしまい、仕事を続ける。杜人はといえば『学院祭』の言葉に首を傾げ、周囲を見渡し、もう一度問いかけた。

『去年は無かったと思うが。何年かごとにやるのか?』

「去年はセリエナの研修に付き合ったときにあったんだよ。そうでもなければ仕事を一月も空けられるわけが無いじゃない」

 あっさり言われた答えに、杜人はまず驚きの表情を浮かべ、次にがっくりと肩を落として漂った。

『な、何たることだ。そんな楽しいことを逃していたなんて』

「去年は仕方ないでしょ」

 大げさに嘆く杜人にレネは微笑んだ。もちろん冗談と分かっているからである。そしていつも通り、杜人は即座に復活した。

『ちなみに、どんな感じなんだ?』

「んー、色々。申請参加型で、条件は学院生で一名以上、内容は魔法を使っていること。飲食物なら魔法薬系統、道具なら魔法具系統、演劇などは魔法を関連させる。日頃の成果発表をするところもあるみたいだね」

 杜人は期待をにじませて聞いたのだが、レネは特に変わらず状況報告のように答えた。その返答から嫌な予感がした杜人は、念のために確認してみた。

『レネは今までどんなことをしてきたんだ?』

「え? 私は参加したことないよ。騒がしいのは嫌いだし、することもないし、お金も無かったからね。補助金は出るけれど、ひとりじゃ大したことはできない程度だし。だから大抵は六人くらいの班で動いているかな。補助金を引いた売り上げの半分は自分のものにできるんだけど、中には大赤字を出した人も居るみたいだね。私は休館中の図書館に司書として入って本を読んでいたからよく知らないけど」

 予想通りの答えに杜人は天を仰ぐ。そして今年も図書館にこもるつもりだと悟った。お祭り好きな杜人にとって、それは単なる拷問である。そのため阻止するべくレネの目の前に移動すると、笑顔でびしりと指を突きつけた。

『面白そうだから参加しようではないか!』

「え、嫌だよ。それにもう締め切りになるよ」

 一言で断られても、予想済みなので杜人はめげない。そのため『分かっていないな』というように指を振ると、胸を張って話し始めた。

『甘いぞレネ。売り上げの半分は自分のものにできるのだから、ここで資金を増やさんでどうする。迷宮の素材は大量に売るわけには行かないし出費も増えているから、こういう関係ないところで稼がないといつまで経っても貯金は増えないぞ』

 レネの収入は現在では色々あるが、大きいものは迷宮の素材売却である。しかし、大量に売却すると買い取り価格が下がり他の探索者に迷惑をかけるので、普通より少し多め程度で抑えているのだ。そして潜る度に魔法薬も消費するので、出費も増加している。そのため思ったより貯金が増えないのである。

「うっ……。それはそうだけれど、赤字になったら損するだけだよ。経験のない素人が売って黒字になるなんて滅多にないと思う」

 自信みなぎる声に押されながらも、レネは行わない理由を見つける。しかし、それも杜人の予想通りであった。そのため杜人はにやりと笑う。それを見たレネは、経験から負けを悟って背中に汗を掻き始めた。

『一度でうまく行くわけが無いのは当たり前だ。しかし、そう言ってやらなければいつまでもできない。だから今年は赤字の上限を決めて、経験を積むんだ。言うなれば、金を払ってやり方を学ぶということだな。足元だけ見ていると、先にある利益を見逃すことになる。もっと大きな視野を持って物事を見ないと、そのうち動けなくなるかもしれないぞ?』

「ううっ、け、けど……」

 視野が狭いのは自覚しているので、言い返せなかったレネはやっぱり駄目だったと呟いてがっくりと肩を落とす。

 年に一回程度稼いでも微々たるものとか、同じ時間迷宮に潜ったほうが利益率は良いとかの理由は、最初から勢いに飲まれてしまったので思いつかなかった。もちろん言われても杜人は笑顔で逃げ道を塞いでいた。そのため話題を出した時点で未来は確定していたとも言える。

 ここで押し込めば確定したのだが、抵抗が無駄と悟ったレネに対し、杜人は追い詰めずにわざと身を引く。

『そうは言っても、こういうことは無理強いするものでもない。腹案はあったのだが、今回は諦めよう』

「え?」

 杜人は少しだけ寂しそうに微笑むと、意外そうなレネを放置してシャンティナに話し掛けた。

『済まないな。不思議なおやつはまだおあずけだ。浮かれ気味の賑やかな場所で食べるものだから、次の機会に期待しよう』

「はい」

「う……」

 シャンティナの表情は変わらないが、残念そうにリボンをしょんぼりさせる。了承しないのは単に騒がしいのが嫌だからという好みの問題だけなので、レネはその様子に罪悪感を覚えた。

 そのため、まだ断ったわけじゃないと自分に言い訳しながら、興味を引いた聞きなれない言葉を聞き返した。

「ねえ、不思議なおやつってなに?」

 興味を引いたのは確かだが、まだ参加しようとは思っていない。聞いて出してもらえば大丈夫と思った結果である。だが、これも杜人にとっては予定通りの行動であった。そのため諦めたように首を振る。

『残念ながら、事前に教えては楽しみが半減する。それに特別においしいというものではなく、楽しいときに食べるからおいしく感じる程度のものだから気にしなくて良いぞ。そのうち機会があるだろうから、それまではおあずけだな』

「むぅ……」

 気にするなと言われると余計に気になるものである。そして杜人は普通のおやつに出すつもりはないと明言した。甘い物に目が無いレネにとって、おいしくないおやつは今のところ存在しない。特に杜人が作る物は食堂では食べられない物もあるので、知ってしまったからには食べたいと思ってしまった。

 そして食べられない障害はレネ自身で取り去ることができるものであり、理由は目の前に転がっている。そのため小さく咳払いを行うと、少し恥ずかしそうに杜人を見た。

「つ、次の機会は一年後になっちゃうし、それまで我慢させるのもなんだし……、て、手伝ってくれるなら参加しても良いよ?」

 それでもあくまで『しても良い』と言うあたりに、複雑な心情がうかがえた。杜人としてはもう少しいじって楽しみたいところだったが、へそを曲げられても困るのでここで終わりにしておく。

 杜人がレネを参加させるために一拍おいた理由。それは、自らの意思で『参加する』と言わせるためである。どんな理由であれ、肯定的な意思で自ら決めたものは積極性が出る。こういう行事は説得してやらせるものではなく、楽しむために自ら行動するものだという信念が杜人にはあるのだ。

 そういうわけで、引きこもりを無事更正させることに成功した杜人は、笑顔を浮かべてその場で無意味に回転する。

『それはありがたい。ぜひお願いする。ついでにエルセリアとセリエナも巻き込めば、それなりに楽しくやれるだろう。内容はそれなりに考えているからお任せあれ!』

「うん、期待しているからね」

 こうして杜人の策略にはまったレネは、自らの意思で初めて学院祭に参加することになったのだった。




 そしてお昼。食堂でエルセリアとセリエナにちょうどよく出会えたため、杜人は学園祭への参加を打診した。レネに言わせても良かったのだが、言い出したのは杜人であるのでこの程度は責任のうちと考えている。

 ちなみに二人とも授業があったために制服姿である。違いは等級の違いを表すリボンと徽章のみだ。エルセリアが上級の赤、セリエナが中級の青である。

「ごめんなさい。私はルトリスのほうに参加するから無理なの」

 エルセリアは悲しそうに紫の瞳を伏せると、肩口で結わえた長い銀色の髪を触りながら断った。エルセリアとしてはレネと一緒に参加したいのだが、貴族としての義務を放棄し結果としてレネに不利益を被らせることはできない。そのため来年以降も無理なのである。

「私は大丈夫です。というか、無理でも参加したいです」

『……何かあったのか?』

 セリエナからは良い返事が来たのだが、言い方がどことなく寂寥感が漂っていた。そのため聞き返したのだが、セリエナは疲れたように紫の瞳を細めると、金色に輝く髪を後ろに流しながら頷いた。

「この間、何故かは知りませんがフォーレイアの一門が大量に編入してきたのを見ました。まだ顔を合わせていないので何も言われていませんが、今からとても憂鬱です」

「あー、それは嫌だね」

『気持ちは分かる』

 それなりに吹っ切れているのでセリエナとしては放っておいて欲しいのだが、エルセリアと親しくしている以上、絶対にちょっかいを出してくると確信していた。判断した情報源が以前の自分なため行動が読めてしまい、忘れたい過去を指摘されたような感覚に陥って憂鬱なのである。

 レネと杜人は理由を聞いて力が抜けた笑みを浮かべる。そこにエルセリアが申し訳なさそうに謝ってきた。

「ごめんなさい。それは多分、侯爵家同士の遊びのせいだと思う」

 エルセリアはそう言って、兄であるライルから言い訳と共に聞いた事情を説明した。

「なるほど、のけ者にされそうだと思ったのですね」

「面倒な人達だね……」

 レネは知られざる大貴族の生態に笑みを引きつらせ、できるだけ関わらないようにしようと思った。もちろんエルセリアは別枠である。

『なんにしても、平民であるこちらには関係ないことだ。それについては気にする必要はないだろう。……そうだな、話から判断すると構ってほしがる性格傾向のようだから、もし来られたら徹底的に見知らぬ他人として扱えば良い。不安なら後で予行練習をしてみるか?』

「……お願いします」

 杜人の提案にセリエナは少し考えてから頷く。さすがに心構えだけでできるとは思えなかったためである。そのため夜に練習することにし、この場はお開きになった。




 お昼を終えたレネと杜人は、手続きを行うために早速事務局に立ち寄った。そして空いている場所を見て、思わずレネは担当の女性事務員に聞き返してしまった。

「あのう、本当にこれだけしか空いていないのですか?」

「はい。例年なら今の時期でももう少し中央部に空きがあるのですが、今年は早々に埋まってしまいました。その代わり、今空いている場所には補助金が三倍でますし、人員の枠も五倍になります。しかし、ここで何かをしてもお客様はそこまで行かないようなので、いつも赤字を出していますね」

 示された平面図には、入口の正面にある庭の割り当てと建物内の各部屋の割り当てが記入されているのだが、そのすべてが埋まっている状態だった。そして空いているのは人が来なさそうな奥の離れた部屋や、中央部から離れたところにある屋外訓練場だけだった。

 親切に裏事情まで説明されたレネは、これでは練習にもならないのでやる意味が薄れてしまうと思い、どうしようと不安そうに杜人を見る。

『まさかここまで無いとはな。ま、出遅れたのだから仕方がないな。レネ、屋外訓練場は少数で独占して良いか聞いてみてくれ』

 杜人はレネの不安を吹き飛ばすように微笑むと、聞いたことを気にすることなくレネに指示を出す。そのためレネは安堵して聞き返すことができた。聞かれた職員は困惑した表情を浮かべたが、それでもきちんと答える。

「それは大丈夫です。もうすぐ締め切りになりますし、今のところ他の班の申し込みもありません。場所も離れていますから、屋外訓練場なら独占しても問題ありません。それでは全域でよろしいですか?」

「はい。お願いします」

 杜人が頷いたのでレネはそのまま参加申請を行った。参加者はレネ、シャンティナ、セリエナである。そして規則等が書かれた小冊子と補助金代わりの換金札をもらってから自室に帰っていった。





「それで、どうするつもりなの?」

「さすがに遠いですよね」

 夜。いつもの和室にて、学院祭に向けての打ち合わせを行う。当然のようにレネとセリエナはこれでうまくいくのかと首を傾げている。シャンティナも脇に居るが、意見は無いのでおいしそうに配られたプリンを食べている。

 おやつを出したジンレイはいつも通りのいぶし銀であり、家令として一分の隙もない服装である。そして出し終えると邪魔にならないように姿を消した。といっても、屋敷全体がジンレイそのものと言えるので、呼べばすぐさま駆けつけることができるので問題は無い。

『では最初に、その不安から取り除こうか』

 杜人は座卓に広げられた平面図を指差しながら解説を始める。

『まず、来場者が屋外訓練場に来るためには、この目立たない通路を通らなければならない。問題は裏手のほうなので周囲に出し物がなく、普通に見学している場合はこの入口まで来ないということだ。これは良いか?』

 中心部分を横向きの楕円とし、上が入口で下側に建物がある。そして屋外訓練場の入口は楕円の下側から接続されていて、来るためには建物を突き抜けるか迂回しなければならないのだ。中心部分も広いので、目的が無ければまず来ない配置である。

 二人が頷いたところで続きを話す。

『これを回避するために人を呼び込まねばならないわけだが、実は長期間は無理でも、短期間なら人を呼ぶのは意外と簡単なんだ。例を出せば、レネが試験で灯明の練習をしていたとき、最初は珍しそうにみていた人が多かったが、最後には居なくなっただろう? これは最初は物珍しさから注目を集めたが、次第に慣れて注目しなくなったためだ。このように、いつもと異なる何かがあると人はそこに注意を向け、常態化すると注意を向けなくなるんだ』

「あー、確かにそうだね」

 レネは実体験から納得し頷いた。

『で、注意を向けた先に興味を引くものがあれば、客を呼ぶことができる。もちろん周囲の出し物でも同様のことは行うだろうから方法は後で考えるとして、呼ぶこと自体はそんなに難しいことじゃないんだ。爆発音だけでも注目は集まるからな。これで立地についての不安は解消されたか?』

 杜人は確認のため二人を見回し、セリエナが小さく手をあげた。

「それでは、なぜ今まで屋外訓練場の出し物は赤字続きなのでしょう」

 杜人の案は突飛なものではなく、誰にでも考えつく程度のことである。それなのに赤字続きという情報があるので、疑問に思ったのだ。それに対して杜人は当然の疑問なので淀みなく答えた。

『呼び込みと出店が中途半端だからだろう。中央にある出し物と同じ呼び込みや出店をしても埋もれるだけだ。要するに、看板や声をあげた程度では継続効果は無いということだな。この辺りは出し物を決めたり規則を調べたりしないと何とも言えないから、具体的な方法はまだない。だが、今までの傾向から考えて、危険が無ければ許可されると思う』

 試験などの規則から推測すると、魔法学院では己で工夫し考えることを推奨していると感じていた。そのため安全なものならば奇抜なものでも許可されると予想している。

『というわけで、まずは規則を調べて出し物を決めよう』

「そうだね」

 そうして三人で規則を熟読した結果、思っていたより色々できることが判明した。

「ふーん、学院生は直接班に参加していなくても、手伝い希望の形で班に編入可能なんだね。原則無償労働だけれど、赤字になっても責任を負わなくて済むんだ。だから人によって雰囲気が違ったのかな」

『貴族の出し物に参加できれば、自分達ではできないものでも作り手になれるからな。それにこれなら俺達の出し物も人手を確保できるから大規模にできる。詳細を詰めたら考えてみよう』

 この方式の利点は参加したいけれど企画が浮かばないとか、赤字が怖いとか、責任を負いたくないが楽しみたい人などが大規模な出し物に参加できるところである。中には赤字を出してもやりたいと思う人がいるので、需要は結構あったりする。

「その代わり外部協力者は制限がきついですね。学院生の行事だから当たり前ですけど」

『おそらく昔に丸投げした班がいたんじゃないか? あくまで儲けるのは副産物であり、自ら考えて行うことが主眼だろうからな』

 外注する場合は、飲食及び物品系なら素材加工までで、劇などは裏方のみ。そしてどちらも魔法関係は不可となっている。その代わり、規定の金銭を学院に支払えば班員の数を上限として学院生扱いで組み込み可能となっていた。これは貴族への配慮だと全員が理解している。レネ達の場合は班員が三人なので、五倍の十五名まで連れて来ることが可能となる。

『さて、そろそろ希望を聞こう。前提条件として、雇ったときに簡単な説明で理解でき、自分がやってみたいものだ。利益は今回気にしない。突飛な物でも検討するから遠慮しなくて良いぞ』

 規則の理解が終えたところで杜人は笑顔で意見を募集した。この辺りからが楽しくなるところなので、盛り下げるような無粋なことは言わない。

「はい! 私は甘い物を出す店をやりたい!」

 レネは満面の笑みで欲望垂れ流しの希望を言う。そこに妥協や無理という言葉は存在していない。杜人は当然予想済みのため鷹揚に頷く。

『それは案があるから大丈夫だ。内容は後で説明する。セリエナは何をやりたい?』

 希望が通って浮かれるレネを放置して、考えているセリエナに問いかけた。それを受けてセリエナは恥ずかしそうに希望を述べた。

「お金もかかりますし抽象的なもので申し訳ないのですが、いかにも魔法使いの店というような品物を売りたいです。……おとぎ話で出てくる不思議なお店のような」

 魔法陣を自力で構築できないセリエナにとって、魔法陣を使わない魔法使いの店は子供の頃の憧れだった。成長して、魔法を使うためには魔法陣を構築できなければ無理と分かっても、夢の中にある不思議なお店は色褪せることはなかった。そのためやりたいことと言われて一番に浮かんできたことだったのだが、おとぎ話に憧れているというのはさすがに恥ずかしかった。

「あー、それも良いなぁ」

『両立しないわけでも無いから、合わせれば大丈夫だ。それでは、その二つを基本にしよう』

「……ありがとうございます」

 しかし、聞いていたレネはあっさりと賛成し、杜人も馬鹿にすること無く採用した。そのためセリエナは何とも言えない温かい気持ちになり、俯いて小さく礼を言う。

 こうして夜遅くまで話し合いが行われた結果、大雑把ながら形が整ったのでようやく動き出す準備ができた。

「よおし、やるぞー! えへへ、楽しみ……」

 やる気に満ち溢れるレネの様子に、セリエナと杜人はこっそりと話し合う。

「良いのですか教えなくて」

『夢を見る時間はあっても良いと思う。……慰める準備はしておこうか』

 世の中には『趣味を仕事にしてはいけない』という言葉がある。意味は幾通りか存在するが、ほとんどは良い意味ではない。

 その後に杜人から、売り物を目の前にして食べられないことを教えられたレネは、やけ食いしてから枕を涙で濡らしたのであった。
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