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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第4章 似たもの同士の大行進

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第15話 一人前の証

 セラルが無事復活し、四人一丸となってひたむきに努力を重ねた結果、不安定ながらも全員が最初の壁を突破することに成功していた。もちろんこれにはレネも喜び、何かお祝いをしようと杜人と話し合っていた。

 現在レネが居る場所は迷宮の第四十一層である。ここは再び閉鎖型迷宮となり、この辺りから罠も強くなるので、レネは安全のため動人形の玄武を先に歩かせながら地図魔法で罠を回避しつつ進み、完成したレネ専用の端末石の試用を兼ねて、出会う敵を端から殲滅していた。

「記念品は完成したから、それは大丈夫だよね」

『ああ、いつでも大丈夫だ。そうだな、どうせなら第三十階層に到達したときにでも渡そう』

「良いね。それじゃあそうしよう。……炸裂氷結槍」

 話をしながらもレネの二人分はある胴体を持つ黒大蜘蛛に向けて、宙に浮かぶ端末石から順番に魔法を放って殲滅する。

 本来ならば通路の空間に巣を張るので近接職にとっては動きを制限されてしまう厄介な魔物なのだが、魔法使いにとっては動かない大きな的である。たまに出現したばかりで歩いているのも見かけるが、それはシャンティナやタマで十分対処できていた。そのためジンレイは表に出ずに回収のみ行っている。

 回収されれば蜘蛛の巣も消滅するので、レネと杜人は前を向いたまま笑顔で歩みを進めていた。

 ノバルト達の迷宮探索も進み、ここまで来れば一人前と呼ばれる第三十階層にもうすぐ到達する。そこで渡すのならば不自然ではないと考えた。終わりでも良かったのだが、試合があるので負けた場合に微妙な雰囲気になると考え、使い方も実際に教えたいので事前に渡すことにしたのだ。

 ちなみに加工はダイル商会にお願いした。言うなれば初めての弟子に師匠が一人前の認定を出すようなものである。手を抜く選択肢はレネにも杜人にも存在しなかった。集めた資金は目減りするが、二人にとってそこは今回気にする問題ではないのである。

『きっと記念品を見るたびに、いつでもレネにいびられたことを思い出して涙してくれるだろう……』

「むっ、嬉々として魔法を撃ちこんでいたのはそっちでしょ!」

 レネは濡れ衣を着せて来た杜人を笑いながら捕まえる仕草をするが、特に機嫌は悪くなっていない。杜人も分かっているので少しだけ避けてから元の位置に戻った。

『ところで、端末石の使い心地はどうだ?』

「すごく良いよ。練習用と違って魔力の通りも良いし、滑らかに動くから操作も楽。後は同時発動がきちんとできるように練習すれば大丈夫じゃないかな」

 レネは嬉しそうに笑いながら周囲に浮いている八つの端末石を動かす。練習の成果もあり、その動きにぎこちなさはない。さすがに杜人のように十六個も動かすことはできないが、八個もあれば殲滅には十分である。

「これで魔力にも余裕ができるし、離れたところから攻撃できてより安全。良いことずくめだね」

 レネはくふふと笑いながらご機嫌に歩く。杜人は浮かれすぎとは思ったが、今の状況では仕方がないかと何も言わない。しかし、そろそろ放置もできないので話し合うことにした。

『それなら良いんだ。……ところで、後ろの集団はやはり最後までついてくると思うか?』

「う……、たぶん、ね。帰れないだろうし……」

 杜人は、今まであえて無視していたことに触れる。レネは思い出したくないのでしばらく固まった笑みを浮かべていたが、やがて諦めてため息交じりに答えた。

 レネがこの階層に降り立ったとき、入口には結構な数の探索者が待機していた。最初は第四十階層を狩場にしている人達が休憩していると思っていたのだが、レネが奥に歩き始めるとぞろぞろと後ろをついてきたのだ。

 最初は偶然と思い気にせず移動していたのだが、分岐に差し掛かっても、戻るような道に入ってもついてきた。そのためレネは万が一を考えて蓄えていた情報を検索し、その理由を知った。

 その理由とは、この階層を突破するとき、上級魔法が使える魔法使いの有無で難易度が変わるというものだった。

 資金があれば転移石を購入するのだが、そこまで余裕が無い者達は魔法使いがいる組に便乗するのだ。きちんと声をかけて断られれば付いていくことができず、大抵は責任が伴うので断られてしまう。かといって断るほうも見捨てるのは心苦しい。そのため『偶然同じ道を歩くだけ』という暗黙の了解事項が生まれていた。

 もちろん魔法使いが次の階層に行くとは限らないが、一度ついて来たら元へは戻れないため帰るまで引きつれることになるのだ。

 そのため現在、レネの行動は後ろの集団から観察されている最中なのである。もちろん逃げ出さないのは暗黙の了解を知ったからであり、本当は一目散に逃げ出したい気分であった。

『そうか……。端末石を使えばよけいに目立つが良いのか?』

 杜人は観察されているのでからかうのは自重し、いつもなら嫌がるであろう目立つ行動を行っている理由を今更ながら尋ねる。もし無理をしているならば何か考えようと思っていた。それに対してレネは乾いた笑みを浮かべ、首を小さく横に振る。

「これからも使うから、どうせそのうち同じことになるはずだし……。この程度は今更だよ」

 主を大々的に倒してしまっているので、まさしくこの程度である。珍しい魔法具程度では実感できる変化はないのだ。もうどうにもならないと開き直ったレネに、強くなったと喜びながら杜人も同意して笑顔になる。

『それもそうだな。……おっと、炸裂氷結槍』

 杜人は集団を囲むように配置してた端末石から後方に黒大蜘蛛の発生を検知し、少しだけ振り向くと炸裂氷結槍にて一掃する。ここまでする必要はないのだが、放置して死人を出しても気分が落ち込むためである。そのため理由が分かった時点で端末石にて守っていたのだ。ついでに罠があるところでは点滅して存在を教えたりもしていた。

 後方で倒された魔物は探索者達によって魔石と取りやすい素材のみ回収されている。それが徐々に他の素材も取り始めるなど大胆になって来ていたが、杜人はさすがだと苦笑するだけに留めた。

 ちなみにレネと杜人は中級魔法では回数が必要なため上級魔法を使用して魔物を倒しているが、普通の魔法使いがそんなことをすれば、最後までもたずに魔力が枯渇してしまう。

 そのため上級魔法使いでも中級魔法を中心に運用するのが普通であり、それを知っている探索者達から見れば殲滅のついでに足手まといまで守るレネは『名前に恥じない実力者』となる。実際は二人で行っているので見事な誤解ではあるが、そんなことは見ただけでは分からない。

 こうして『殲滅の黒姫』の異名を無自覚に広めつつ、レネ達は休憩を挟みながら集団をぞろぞろと引きつれて移動していく。そしてもう少しで次の階層へ到達するという場所に到達した。

 その場所はかなり広い大広間で、入口と出口に落とし格子がある。罠にはまった第三階層と同じ構造であった。これまでの階層にもあったのだが、通過するたびに緊張してしまう場所である。

『しかし、何度通過してもこの大広間は嫌なものだな。いつあの格子が落ちるかと思うと気も抜けない』

「せめて法則性が分かれば対処できるんだけどね。けど、逆に言えばもう経験済みだから大丈夫じゃないかな」

 笑い話として語る杜人にレネも笑顔で同調する。一生に一度遭うかどうかの罠に、一年も経たないのに再び遭うわけがないと双方思い込みたいのだ。それほど悪いことに対する遭遇率が高いと自覚していた。

『そういえば、まだ遭遇していないな……』

「だ、大丈夫だよ。ほら、少し前に主に出会ったじゃない。あれだって危険なんだよ? ……一応」

 杜人は固めに笑いながら不吉なことを言った。それに対してレネは慌てて否定を行う。しかし、焦りはしても一撃で倒せたので危険と思わなかったため、作り笑いの杜人の視線に耐えられずに最後にそっと視線をそらした。

 しばらく無言の時間が流れ、いつも小さな事件が起きてから大きな事件に遭遇したのを思い出したレネと杜人は、同時に諦めのため息をついた。

『あれだな、警戒だけは忘れずにいようか』

「おかしいなぁ、やっぱり呪われているのかなぁ……」

 今回は何事もなく通過できたためほっとしながらも、悪いことが起きそうな予感に泣きたくなったレネと杜人であった。





 どんよりとした雰囲気のまま家に帰ったレネと杜人は、それを吹き飛ばすために楽しいことを考えようという意見で一致し、どうやって記念品を渡すかを決めることにした。

「うーん……、到達した順に手渡しする……、駄目かぁ」

 レネは情景を思い浮かべるが、それならいつもと変わらないと首を振った。レネは長らく引きこもりを行ってきたので、本の中の情報には強いが実際行われている式典などは見ていない。そのためうまくまとまらないのだ。

 そんなレネに杜人はふらふらと浮きながら近づいていく。

『ふふふ、お悩みのようですなお嬢様。私めに全てお任せくだされば、きっとご満足頂けるかと』

「良いけど、変なのや複雑なのは駄目だよ?」

 練習ややり直しは感動を薄れさせるので、行うのは一度きりが条件となる。そのため複雑なものは駄目なのだ。物語では宣誓したりする式典があるが、今回は驚かせたいので採用できない。今までのことから杜人は上手だが意外と難しいことを要求すると感じていたため、このような言葉になった。

 そんなレネに、杜人はいつも通り自信を持って答える。

『なに、叩き込まれているだろうから基本は閲兵式のものを使うつもりだ。ジンレイなら上手に統率してくれるだろう。な?』

「はい。お任せください」

「おー」

 ジンレイには騎士も混じっていることを思い出したレネは、それならうまく行くと感心して笑みを浮かべる。

『式典の名前は魔法騎兵認定証授与式だ。それらしいだろう?』

「良いけど、魔法騎兵なんて役職はないよ?」

 レネはこてんと首を倒し、杜人は分かってないなというように指を横に振る。

『例えば魔法騎士としてしまうと、騎士認定は国が出すものだから詐称になる。だが、騎兵は兵種を表しているに過ぎない。つまり、名乗っても問題ないんだ。そして存在しない以上、レネが認定しても咎められずに済むんだ。要するに、仲間内のお遊びで済むんだよ』

「あ、そっか。私は騎士についての認定を出す権限を持っていないから、関連させたら駄目なんだね。あくまで認定は個人が行ったと分かる形にしないと、後で困ったことになるんだ」

 理解したレネはぽんと手を叩き、杜人もその通りと頷いた。要するに、公的な認定と私的な認定を明確に分けなければならないのだ。

『大丈夫だとは思うが、用心に越したことはない。もし将来貴族になったとして、足を引っ張るために使われる可能性がある。そのときは一蓮托生になるからせっかくの記念品が台無しになるかもしれない。それは嫌だろう?』

「当たり前だよ。じゃあ名称はそれで行こう」

 レネは小さく笑って答える。喜んで欲しいと思って贈ったもので不幸を呼んではお話にならないのだ。

『良し、それでは細かいことを決めようか』

「うん」

 こうしてしばらくの間、レネと杜人は時間を忘れて詳細をつめていった。





 そんなことをしながら平和に時間は流れ続け、教え子であるノバルト達がついに第三十階層に降り立つときがやってきた。ノバルト達は普通に降りるつもりだったのだが、レネの提案によって一人ずつゆっくり降りることになっていた。もちろん周囲に人が居ないのは確認済みである。

 このような儀式は通常行わないので、対象者達は恥ずかしそうにしているが内心は喜んでいたりする。

 水晶の広間にはレネが待機し、その後ろにシャンティナとジンレイがこの日のために買ってきた鉄製の槍を持って控えている。先端には白い布を付け、儀仗用らしさを演出しているが、やっつけ感は否めない。それでもそれなりに格好はついていた。

 そして服装は、この儀式には違和感があるいつも通りのものなのだが、全員常に同じ格好なのでノバルト達は違和感を覚えていない。しいて言えば、普段は持たない者も盾をきちんと持って来ているくらいだ。

『言った通りだろう。人は慣れれば変なことでも気にしなくなるものなんだ』

「むぅ……」

 レネは雰囲気を重視するために服装も変えようと提案したのだが、杜人は自信を持って必要ないと断言して思いとどまらせた。もちろん上を見るときりがないからであるが、正直には言わずに気にしないから大丈夫と説得していた。

『ふふふ、レネもまだまだよのう。それはともかく、始めようか』

「ふんだ、ばか。……こほん、それでは只今より、魔法騎兵認定証授与式を始めます」

 レネは気を取り直してから微笑み、嬉しそうに開会を宣言する。今回は私的なものなので緊張はしていない。そのため表情も自然なものである。

「第一期認定者、ノバルト!」

「はい!」

 ジンレイが呼び出しを行うと、待機していたノバルトが広間に降り立ち、レネの前まで歩いて姿勢を正して待機する。

 続けてジンレイはセラル、ミアシュ、レンティの順で呼び出し、横一列に整列して待機する。

「敬礼! なおれ! 第一期認定者、全員集合致しました」

『いや、さすがだな』

 ジンレイの号令にノバルト達は一糸乱れぬ動きで敬礼し、元に戻る。ちなみにここまで練習なしである。そのため杜人は感心し、レネも頼もしく感じて笑みを深める。

「ここは第三十階層、探索者ならば一人前と認められる階層です。そして今までの訓練によって、全員が武技を習得することができました。この二つを証明とし、魔法騎兵団を統べる長の名において、現時刻を持って皆さんを団員として認定します。おめでとう」

「ありがとうございます!」

 レネは近くに寄ると、頭を下げたひとりひとりの首に記念品の魔法具をかけていった。それは手の平大の盾形徽章であり、神鋼金の台座に精霊結晶がはめ込まれている。表面中央には盾と本が半分ずつ合わさり、盾の側に杖、本の側に剣が描かれていた。

 授与が終わったレネが元の位置に戻ると、ジンレイが締めの号令を行う。

「気をつけ! 敬礼! なおれ! ……以上です。お疲れ様でした」

 またもや一糸乱れぬ動きを行ったノバルト達であるが、どことなく顔がにやけていた。しかし、ジンレイは何も言わずに最後まで行い、終了を宣言した。もちろん水を差す必要はないと判断したためである。

『うむうむ、やはり良いものだな』

「うんうん」

 ほとんどジンレイのおかげでうまくいったようなものなのだが、レネも杜人も感謝はしても己の力不足を嘆くことはない。役割とはそういうものだと理解しているのだ。

 ノバルト達は喜んで徽章を手に持って観察している。立役者のジンレイはいつもの微笑みを浮かべながら温かく見守っていた。

『ふふふ、実に嬉しそうにしているな。良し、それでは機能の説明と行こうか』

 嬉しそうな杜人の声にレネは頷き、軽く手を叩いて注目を集める。

「まだ指導期間は残っていますが、後は反復になるので終わってからも頑張ってくださいね。それとその徽章は見ての通り魔法具です。主な使い方を説明します」

 魔法具との声にそれまで喜んでいたノバルト達は動きを止め、改めてよく観察を始めた。そしてその材質に思い当たると、全員が引きつり気味の笑みでレネを見つめてきた。

『ぐふふ、こうまで予想通りだと楽しいな』

 もちろんこの結果は予想していた。だからレネは何度も練習を行っているのだ。そのため、ノバルト達から無言で『おいくらでしょう』と見つめられても、レネはにっこりと微笑んで無言のまま『まさか無粋なことを言いませんよね?』という視線を返すことができた。

 そしてしばらくの間無言の攻防が続き、最後はレネが押し切った。そのときのレネの心は達成感で満ちていたため、僅かに笑みが緩くなった。

『ぬふふ、どうだ、癖になりそうだろう?』

 杜人は分かっているぞと言いたげな、によによした表情でレネの前を浮遊する。もちろんレネは無言のまま不可視念手で掴み取り振り回して放り投げたが、内心を悟られた羞恥で頬はほんのりと赤くなっていた。そのため挙動不審になりそうな衝動を、咳払いをして抑え込んでから説明を開始した。

「こほん、……まず一番の機能は騎獣を召喚できることです。魔法騎兵団の団員ですから当然ですね」

『死なないことも忘れずにな』

 普通に戻ってきた杜人の付け足しに小さく頷きながらレネは説明を続ける。

「呼び出される騎獣は術式で構成された魔力体ですから、倒されても徽章に魔力さえあれば再召喚が可能です。ですから、殺されたからといって動揺しないでくださいね。それでは呼び出してみましょう。手に持って騎獣召喚と言ってください」

 言われたからといって即座に行動できるわけがなく、ノバルト達は無言で視線を交わし合って最初のひとりを押し付け合う。そしていつも通り、ノバルトが最初に行うことになった。そしてその他の三人が手を握りしめて見つめる中で、ノバルトは覚悟を決めて合言葉を唱えた。

「騎獣召喚!」

 合言葉と同時に徽章が輝き、ノバルトより大きな魔法陣が正面に展開される。そしてそこから馬と同程度の体高を持った白狼が飛び出し、ゆっくりとノバルトに歩み寄り足元でうずくまった。

「おお……」

「すごい……」

『うむうむ、良い反応だ。苦労した甲斐があるというものだ』

 最初から最後まで見ていた四人は、言葉もなく出てきた白狼を見つめている。そして一斉に近づくと最初は恐る恐る、やがて大胆に確認し始めた。その反応に作った杜人もご満悦である。

「ちなみにセラルは同じ白狼で、ミアシュとレンティは白天馬です」

 その声で自分達も召喚すれば良いことを思い出し、レンティ達は期待に胸を膨らませて召喚する。そして現れた騎獣に目を輝かせて触り始めた。もはや値段のことなど吹き飛んでいる。

「その子達は主の意思を読み取って行動します。そして学習能力もありますから、使えば使うだけ賢くなっていきます。ですから可愛がってくださいね」

「分かりました。ありがとうございます!」

 全員が笑顔で唱和する。その顔はお気に入りの玩具を手に入れた子供のようであった。そしてそのまま可愛がり始める。騎獣に乗って戦場をかける光景を、騎士を目指すものなら誰もが一度は夢見るものなのだ。

 もちろんレネと杜人は夢中になってくれたほうが都合が良いので、不作法を咎めることはしない。

『やはり選択は間違いではなかったな』

「知らないほうが幸せなことってあるよね……」

 与えた騎獣の基本形は白珠粘液を用いたので、中身はぷよぷよぷにぷにである。ただし、形態を固定しているのでタマのように切り替えはできない。レネもそれを知っていたが、タマの性能を身をもって理解しているので何も口を挟まなかった。そして言わないほうが良いと思っているので、固まった表情から悟られないようにこっそりと両手でもみほぐしていた。




 そしてひと通り堪能して落ち着いたところで、ジンレイとシャンティナがセラルとレンティに鉄の槍を渡した。


「おまけです。量産品ですから壊れたら買ってください。ノバルトはこれをどうぞ」

 ジンレイがいつの間にか手に持っていた長く太い鉄の棒を手渡す。大柄なノバルトに丁度良い太さなので、それだけで凶悪な雰囲気を放っている。申し訳程度に先端が尖っているので、分類上は一応槍である。

「余った鉄人形の素材で作ったもので、溶かして成形しただけです。これなら曲がっても修理程度で済むと思います。ミアシュはこれです」

 レネは片手で包み込める程度の透明な珠を二つ取り出し、ミアシュの制御用魔法具と連結させてから手渡した。

「それは私が使っている端末石と同じ物です。頑丈ですので牽制などに使用してください」

『すまぬのう、わしにもっと腕前があれば、ぴかぴかの武器を渡せたのじゃが……』

 杜人は変な口調で泣き真似をする。一応外側に刃物が付いた円盤とか回転する刃物とかも試作してみたのだが、いびつになってまともに飛ばず、使い物にならなかったので断念したのだ。ちなみに杜人は老鍛冶師のつもりであったが、レネには分からなかったので笑顔で優しく放置した。

「というわけで、慣れるまでしばらく練習してくださいね。乗れば固定されるので落ちることはありませんが、運用は別ですから。その他にも機能はありますが、全て自動発動なので気にする必要はありません」

「了解しました!」

 元気な返事にレネも明るく微笑む。放置された杜人はがっくりと肩を落としながら漂っていた。そんな杜人をレネは仕方がないなぁと笑みを浮かべながら小さく声をかける。

「ねえ、そろそろ元に戻って。出発したいからタマを動かしてほしいの」

 レネとしては話題にする時期も過ぎた分からないことに触れないようにと遠慮したわけだが、無視された形の杜人にとっては『意味を尋ねる必要も無し』という刃となってぐさりと突き刺さった。善意は必ずしも有効に働くわけではないのだ。

『ぬぅ、これも我が落ち度か、心に刻もう』

 杜人は深く反省を行った後で一回転して復活し、タマを白狼形態に変えてしゃがませると通路の奥を指差した。

『良し、乗るのだ! ジンレイはここで見送ったふりをしてくれ』

 レネはいつも通りの光景に微笑み、タマにシャンティナと一緒に乗り込む。そして拳を握って天に突き上げた。

「それでは魔法騎兵団、騎乗! ……出発!」

「おー!」

「いってらっしゃいませ」

 こうしてジンレイに見送られながら、レネと杜人が作り上げた魔法騎兵団の進撃が始まったのであった。
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