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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第4章 似たもの同士の大行進

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第13話 感銘を受けた言葉

 発注を行った数日後、レネはダイル商会に立ち寄った際に出来上がった商品を受け取り、寮に帰って術式を封入していた。

「商売ってよく分からない……」

『先見の明とも違うしなぁ。ま、早く出来上がったのだから良しとしよう』

 出来上がりの品物を見ても急ごしらえとは思えなかったのでダイルに確認したところ、実は見積りを受けた時点で作り始めていたと教えられた。

 注文しなかったときはどうしたのかと尋ねれば、使いようはいくらでもありますと笑顔で返事があった。そのときのダイルの表情は、どうみても世間知らずのお嬢ちゃんを罠にはめようとしている悪徳商人であった。

 これには杜人も固まった笑いを浮かべることしかできず、レネは何とか笑顔を引きつらせる程度で耐えたが、身体が引き気味になったことを責めるのは酷というものである。ちなみに同行していたシャンティナは全く動じなかったので、ある意味一番の大物なのかもしれない。

 作成した魔法具の基本形状は全て同じで、手足に装着する分と胸元の制御装置で構成されている。材質は神鋼金を主に使用しているので、レネが固定化をかければ骨が砕ける攻撃を受けても魔法具が破損することはない。これでどうやってあそこまで安くできたのだろうと首を傾げる品質である。

 これは神鋼金を骨格として全体の強度を保てる形に整形し、それによって強度が不要になる部分に他の代用できる素材を用いたり、ダイルが受け取る儲けの分をいつもより少なくしたりしているのだ。もちろん損をする気は毛頭なく、防具としても一級品のためそのうち『殲滅の黒姫』が設計した装備として売り出すつもりである。つまり、レネに対する投資の一環であった。

 レネと杜人はさすがにそこまでは推測できないので、首を傾げることになったのである。

「封入するのはこれで良いよね?」

『ああ、後は頑張って使いこなしてもらおう』

 レネは事前に打ち合わせをしていた内容を確認してから封入している。おろそかにはできないので杜人も冗談を言ったりはしない。

 封入する術式は各種武技を共通として、個々に特殊な術式を封入している。これは部隊として動くことを前提として組み立てた。

 ノバルトは攻撃力よりも前面を支える盾としての役割を強化するために、軽度の疲労回復と自己治癒の魔法を任意で継続発動できるようにした。地味だが、倒れない盾の存在は重要なのだ。

 セラルは不足しがちな攻撃力を増加させるために手に持った武器を魔力で包み込み、任意で属性魔力の付与ができるようにした。慣れれば只の木の棒でも鉄剣を切り裂く武器にすることができる。

 ミアシュは端末石を追加装備として連結できるようにし、より広範囲の情報を集められるようにした。これも慣れが必要になるが、使いこなせれば暗闇を見通す目や遠くの音を拾う耳として使うこともできるようになる。

 レンティは全体を見通す指揮官となるので、範囲内の重量を任意に変動して臨機応変に動けるようにした。最大発動すれば宙に浮くことができ、そのときは障壁を展開して防御するようになっている。

 これらの術式はレネが全て構築したので消費魔力も小さい。そして個人に合わせて調整できるのは今のところレネだけである。そのため魔法具の材質から予測される性能を遥かに超える品物になっていた。

「良しっと、後は持って行って微調整後に固定化すれば完成だよ」

『では行くか。驚く顔が目に浮かぶようだ。レネ、外すなよ?』

 杜人は宙を漂いながら『つかみは大切だぞ』という意味を込めてからかうが、レネはきょとんとした表情になり魔法具をひっくり返して確認し始めた。

「どこか外れるようなところがあった?」

『……いや、何でもない。行こうか』

「変なの」

 冗談が通じず真面目に返された杜人は、がっくりと肩を落として宙を寂しげに漂う。まさか冗談の内容を解説するわけにもいかないので、無かったことにするより方法はない。杜人の基準では、冗談は通じないほうが悪いのではなく、通じるように言えなかったほうが悪いのである。

 レネは杜人を不思議そうに見ていたが、いつものことと納得してから放置して準備を始めた。

 それを横目で観察しながら、ぼけを殺すにゃ刃物は要らぬとはよく言ったものだと、己の力不足をこっそり嘆いた杜人であった。




 魔法具を渡された四人は出来上がりの早さにまず驚き、次に練習用の魔法具にあった異物感が全くないことにまた驚いた。そして最後に特殊術式を発動し、その性能の高さに言葉もなくなってしまった。

 実はあの後冷静になってから巨額な出費に少しだけ後悔していたのだが、それを吹き飛ばす性能であった。ノバルト達もそれなりに魔法具の価格を認識しているので、ここに封入されているものと同等の性能の魔法具を買おうとすれば、倍ではきかない価格になると分かったのだ。

 そのため全員が喜んで使用し、練習にも休日の探索にも熱が入ることになった。そして遂に、ノバルト達はレネの補助を受けながらも自力で第十七階層まで辿り着いたのだった。

 そして準備万端に整った次の休日、レネはいつもの面々にエルセリアとセリエナも加え、相変わらず人が居ない第十七階層に降り立った。

「ここからは魂魄珠が出てくるので十分に注意してください。それと今日は到達記念として、大いに暴れようと思います。皆さんにかける魔法も今日は上級魔法です。世界の違いを実感してもらえると嬉しいです。リア、良いよ」

「ええ、それでは今から各種支援魔法をかけます。効果が中級とは段違いなので、最初はゆっくりと慎重に動いてくださいね」

 エルセリアは柔らかく微笑みながら注意事項を伝え、上級魔法を瞬時に複数発動して短時間で全員にかけ終わった。その速さにノバルト達はレネの同類がいたと顔を引きつらせている。

『ま、こんなものだろう』

「大丈夫、そのうち慣れます」

 そっけないが、実体験なのでセリエナの言葉には重みが感じられた。もはやどっぷりとはまったので、この程度では前菜にもならないのだ。しかし、既にセリエナも傍から見ればその領域に片足を突っ込んでいることはまだ自覚していない。

 今日はお祝いという名目の金策作戦実行の日である。レネは何度か殲滅を繰り返してその数と大量発生する法則性を計算し、正確では無いが近似値を求めることに成功した。そのため事前に発生許容値寸前まで狩りを行い、本日に備えたのである。

 もちろん普通の騎士見習いが巻き込まれれば死ぬだけなので、安全を考慮してエルセリアとセリエナにも手伝ってもらい、名目上は上級魔法を体験させるための応援とした。

 ちなみに調査の結果、大量発生は誘発した本人がそのまま迷宮に居る場合、必ず目の前で発生することが判明した。普通は繰り返して長く殲滅など行わないため、気付かれなかった法則である。

『良し、作戦をおさらいする。まず出会う端から殲滅し、大量発生を誘発する。発生した場合は即座にレネを中心とした円陣を組んで殲滅を開始する。ノバルト達への指揮はジンレイが出す。シャンティナはタマを持って群れをすり抜けながら標的の近くまで運び、タマが標的を取り込んだら逃げるのを手伝ってくれ。殲滅の中心はノバルト達だからレネ達は適宜間引きを行うだけとし、危なくなったとき以外はなるべく手出しをしない。細かいところは随時修正する』

 ノバルト達が上級の強化魔法に驚きながら慣れようとしているうちに、杜人は本日の作戦を確認した。聞いていたレネ達は無言で小さく頷く。この人員なら余裕で殲滅可能なのだが、受け取りを拒否される可能性を小さくするためと自信を付けさせるために、殲滅は任せることにしていた。

 大量発生が起きたからといって確実に出現するとは限らないが、出ないときはまた後日気晴らしとでも銘打って開催するつもりであった。そのため今回駄目でも問題はないのだ。

 そして慣らしが終わったのを見て取り、レネは拳を握り締める。

「もう良いかな? それでは出発!」

「おー!」

 嬉しそうに笑うレネの掛け声に全員が楽しげに声を上げ、知られざる作戦は開始されたのであった。




 上級魔法で強化を施されたノバルト達は、いつにも増して嬉しそうである。その後ろで出番のない面々はゆったりとしながら戦いを観察していた。

「聞いていたより強いね。訓練の成果が出始めたのかな?」

「うん。連携も上手になったし、不完全だけれど武技が発動する兆候が現れ始めたよ」

 見ている先では、騎士見習い達が硝子天馬と戦っている。言われたエルセリアが魔力の流れを見てみると、発動の掛け声を上げたときに発動しそうになりながら霧散していた。

「やはり魔力を認識できないと大変ですね。無い感覚を身体に憶えさせなければならないのですから。前例ができれば訓練用の魔法具を欲しがる人も出ると思います」

「国は確実に欲しがると思うよ。優秀な人材はいくらでも欲しいだろうからね」

「んー、汎用でも大丈夫かなぁ……。それだとあまり効率が良くないんだよね。さすがに都度調整は無理なんだけど」

 セリエナは魔法具の有効性に頷き、エルセリアも賛成する。レネはそんなものかなと思いながらも、この術式は他の魔法使いでは個人毎に調整できないので困り顔である。レネもやっと感覚で理解した程度なので、他人に説明できる訳ではないのだ。

 現在使っている魔法具は特化品を調整しているので個人毎には最大効率になっているが、交換すれば一気に効率は落ちる。そして練習用は安いが重く、組み込める余裕もそんなにない。だから使うなら特化品になるのだが、効率はどうにもならない。

『もしその場合は、もっと他の人に使ってみて範囲を決める必要があるな。あれだ、普通に売っている服のように、範囲を何種類かに分ければ何とかなるかもしれない。そうすれば後はどの範囲なら大丈夫かを計れれば解決しそうな気がする』

「……そっか、あらかじめ決めて組み合わせすれば良いんだね。似たようなものをまとめれば、それほど多くはならないかな。それを一度流して、一番合うものを組み込むようにすれば大丈夫かな」

 杜人は電波の帯域や内部の部品を組み替える様子を思い描きながら発想し、レネは手を軽く叩いてそれは良いと微笑んだ。普通に使われている術式は全てを一体化してから使用するのが常識なので、個々に切り分けて範囲を決定しておき、調べてから組み合わせるという発想まで辿り着けなかったのだ。

 そんな話をしながら仕様を考えていく。とても戦闘中とは思えない雰囲気がかもし出されていた。




 こんな緩やかな雰囲気の中で時々手出しをしながら殲滅しているのだが、戦っているノバルト達からすれば『さすがレネ教官の友人だ』と感心するしかなかった。

「いくら全員紫瞳とはいえ優秀過ぎるだろう……」

「ひとりは上級魔法を瞬時に複数使用し、もうひとりもかなり速いですね。あれが普通ではないですよね?」

 次の獲物へと向かう途中で、ノバルトが感想を述べてセラルが苦笑しながら同意した。

「私が知る限り、教えに来ている上級魔法使いはレネ教官より少し速い程度だったよ。そこだけはレネ教官も普通なんだね」

「普通じゃない。無理」

 レンティが微笑むと、ミアシュが首を小さく振って否定した。現在ミアシュは端末石の特訓中である。汎用なので操作はそれなりに楽なのだが、普段見ているようには全く動かせていない。現状は決められた動きを指示して運用するのが精一杯だ。

 今まで見ている端末石は杜人が動かしているもので、レネもまだそこまでには至っていない。だがそんなことが分かるわけも無く、レネが動かしている認識であった。そのため実際に使ったから分かる非常識さをミアシュは実感していた。

「私もまだ使いこなせません。通常運用のみですね。それでも強力なのがなんとも……」

「調べたら、登録されている魔力付与の術式開発者はレネ教官だったよ。つまり、根本から理解して作られているものだからじゃないかな。私のなんて、登録すらされていない術式が使われていたんだよ。ぶつけて壊れるのが怖くて困ってるんだから……」

 セラルにとって強力な武器を与えられたと同じなので、それだけでも十分過ぎる強化となっている。そのため意気込みはあるが、現在は空回りのような状況である。

 セラルのぼやきにレンティが同調し、三人は揃ってため息をついた。内容は異なるが、気分は似たようなものである。即ち、どうしよう、である。

「骨が砕けても壊れないと言われているから大丈夫じゃないか?」

「良かったね楽で」

 ノバルトの特殊術式は自動制御のため楽なものである。そのため一斉に三人からじっとりと恨めしい目で見つめられ、背中に大量の汗を流した。

 そんな状況ではあったが、楽しいことは確かである。そして優秀な魔法使いが優遇される理由を理解できたノバルト達であった。




 そして、遂にそのときがやってきた。

「来ます。全方位」

「全員集結、方円陣! ミアシュは内側へ」

「了解!」

 大き目の広間を通過中に、シャンティナがいち早く感知し短く告げる。それを聞いたジンレイが素早く指示を出し、ノバルト達はいつも訓練を行っていたため考える前に行動していた。

「結界は私が担当します」

「私は支援ね」

 セリエナは準備していた味方を識別できる特級結界を構築し、エルセリアは念のために各種支援魔法をかけ直す。この段階でやっとミアシュが魔物の大量出現を感知し、驚愕の目でシャンティナを見た。そして周囲の床に現れ始めた大量の魔法陣に、ノバルト達も驚いていた。

「間引きはしますから大丈夫ですよ。落ち着いて対処してください」

「了解!」

 本来であれば、魔物の大量発生に遭遇したら死ぬだけである。しかし、落ち着いているレネの声を聞いて、ひとりで殲滅できることを思い出したため一気に緊張がほぐれていった。そして逆にこれほど頼もしいものはないと、気分が高揚し始める。

 そのためノバルト達は、押し寄せてくる硝子天馬を笑いながら迎え撃つことが出来たのだった。




 レネは戦いの様子を横目で見ながら地図魔法にて標的が出現していないかを確認していた。なかなか出てこないので今回は無理かなと思ったとき、待望の反応を発見し大急ぎでシャンティナに指示を出した。

「居た! ここ!」

『了解だ。出発!』

「はい」

 シャンティナはひと目で位置を把握し、タマを持って結界の外に走り出す。そして迫り来る硝子天馬の群れに接触する前に小さく呟いた。

「孤影」

 シャンティナは動かない置物の群れの中を通過するように気にせず入り込み、硝子天馬もシャンティナに反応しない。そのまま縫うように歩を進め、標的を発見するとタマを素早く投げつけた。

『上出来だ。回収してくれ』

 杜人もタマを操作して素早く標的をくるみ、気が付いた硝子天馬から一目散に逃げ出す。それをシャンティナが拾い上げ、またもや孤影にてすり抜けていった。

『完了した。もう良いぞ』

「それでは肩慣らしも終わったと思いますので、今から特級の支援魔法に切り替えます。存分に暴れてください」

 戻ったところでエルセリアがにこやかに告げ、素早く魔法をかけていく。その速度は上級をかけたときと変わらない。恐ろしい構築速度であった。

「やっぱりリアはすごいなぁ……」

『まさに切り札だな』

 レネが絡まなければエルセリアが焦ることはまずない。そしてここでは自重する必要もない。そのため天才と呼ばれるにふさわしい実力を遺憾なく発揮していた。構築速度が普通より遅いレネはうらやましそうにそれを見つめ、杜人も同意する。

 横で聞いているセリエナは、普通の人ならその程度の感想では済みませんと小さくため息をつく。セリエナ自身も上位にいける才能を持っているのだが、努力しても追いつけない存在を二人も知ってしまったので、自己評価はかなり低くなっている。しかし、残念ながら傍から見ればセリエナも同類なのである。

 そしてノバルト達は今までの戦闘を肩慣らしと言われて驚き、直後にかけられた特級支援魔法に更に驚きながら戦い続け、何とか殲滅に成功したのであった。





 その後、ノバルト達は無事に騎士学校の寮まで帰り、自主訓練をしてからいつも通り食堂に集まった。その顔には実に複雑な胸中が現れている。そして今日の出来事について、今までわざと全員が何も言わずに口を閉ざしていた。

「結局、最初から計画していたで決まりか?」

「おそらく。偶然にしては出来すぎです」

「最初から探していた」

 強力な助っ人を呼んでいるときに偶然大量発生に遭遇し、そこに希少な硝子天馬が発生していて、偶然捕らえる手段を持っていたとはさすがに思わない。結界の内側で待機していたミアシュは行動をつぶさに見ていたため、指示が流れるように出ていたのを知っている。

「探索時の分配は均等が基本だし、私達のために殲滅を任せたんだと思う。たぶん、かなり前から計画していたはずだよ。少なくとも休日の探索を誘った辺りからは確実に」

 レンティの推測に三人は静かに頷いた。別れる前にダイル商会にて清算を行ったのだが、その際に捕まえた硝子天馬の分も均等に分配されて、魔法具の支払いが完済となった。当然それはおかしいと言ったものの、なぜ均等割りが慣例として行われているかを笑顔のレネに説明されて、結局そのままとなった。

 なにより、この理由で強弁するなら殲滅をレネ達が行ったほうが安全なのだ。おそらく大量発生を自分達の力で切り抜けたという自信を付けさせる狙いもあったと全員が推測していた。そのため複雑な感情を抱きながらも、誰も今まで口を開かなかったのだ。

「あれだな、ここまで恩があると、どうやって返せば良いか見当もつかないな」

「少なくとも騎士になることは最低限ですね」

「武技の習得も」

 なぜレネがここまでしてくれるのかは皆目見当がつかない。だが、自分達が口に出して要求したことでは無いとはいえ、ここまでされたら後には引けない。その点については全員が一致していた。努力を続けて、いつか優秀な騎士となり後進を育てあげたとき、少しは返せたと言える。

 だからその困難な道に、全員が深いため息をついた。

「とにかく、こうなったらもう最後の試合で優勝することをとりあえず目標にしましょう。そうすれば指導が間違っていなかったことの証明になるから。ついでに私達も辞めなくて済むし、レネ教官の指導者としての名も高まるでしょう?」

「今はそれしかないか」

「やりましょう」

「うん」

 暗めの雰囲気を振り払うべく手を叩いたレンティの提案に全員が頷き、方針は決定された。

「いつか誰かに返してください、か」

「ええ、いつか」

「必ず」

「頑張ろうね」

 こうして役立たずと言われて孤立している騎士見習い達は、長く険しい道を自らの意思で歩き始めたのだった。





「明日はどういう顔で会えば良いんだろう……」


『いつも通りで構わないだろう? 何を悩む。ああ、いや……うぷぷ』

 寝巻き姿で布団に突っ伏すレネに杜人は最初は首を傾げ、最後は理由を思い出しで笑った。

『ふふふ、貸しだと思うなら、今度はあなた達がいつか誰かに返してください、だったか。実に良い言葉だな』

「うううっ……」

 レネは恥ずかしさで耳まで真っ赤になり足をばたつかせる。読んだ物語の中に書かれていて感銘を受けたので、いつか言ってみたいと思っていた台詞だった。そして言った当初は満足していたのだが、今になって恥ずかしさがこみ上げてきたのだ。

 だいぶ昔の物語なので知っている人はまず居ないが、知られたら恥ずかしさで死ねる自信があった。

「物語では格好良かったのにぃ……」

『読み物なのだから当たり前だ。格好悪いところで言ってどうする』

 嘆き始めたレネに杜人はそろそろまずいかと頬をかく。そのためからかうのはここまでにして、明るい声で励まし始める。

『安心しろ。たとえ真似だと知られても、今のレネが言えば絶対に笑われない。言葉というものは、どんなことでもやり遂げた者が言えば重みがあるものだからな。だから良い言葉なのだから自信を持て』

「うー……」

 まだまだ復活しそうにないので、杜人は困ったものだと思いながらも笑顔で励まし続ける。そのおかげでレネはその言葉に自信を持ち、胸を張って言えるまでになった。

 なんだかんだ言いながらも、レネには甘い杜人であった。
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