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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第4章 似たもの同士の大行進

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第10話 誘惑に潜む罠

 思いついたら即実行ということで、レネは休日を使ってノバルト達を迷宮探索に誘った。ノバルト達にとっても魔法使いと組めるのは願ってもないことなので、恐縮しながらも喜んで承諾していた。

「本気を出すとひとりで処理してしまうので、私は裏方に徹します。制圧力だけが魔法使いの力じゃないことをしっかりと知って、今後の連携に役立ててください」

「よろしくお願いします!」

 現在いるのは第八階層である。ノバルト達では四人で挑んでも突破できない階層なのだが、レネは当たり前のように『踏破は簡単』と同じ言葉をのたまった。しかし、今更実力を疑う理由もないためノバルト達には頼もしく映った。

 ちなみに今のレネは背中に緊張の汗が流れ、手にも汗を掻いている。今現在、レネ原案、杜人監修の演技を実行中なのである。最初が肝心ということで、この辺りは表情から口調まで練習を繰り返したため自然に見えているのだ。

『上手だぞ。次に行こう』

 杜人も上々の出来に笑顔で飛び回る。その評価に安堵しながらレネは次の予定を頭の中に展開する。今はまだ失敗しても大丈夫なところなので、ある程度気楽にできる。

 レネは予定を読み込むと、楽しそうな微笑みを浮かべながら開発しておいた強化や障壁などの複合系支援魔法をかけていく。上級魔法の範囲だが個々の性能は中級止まりである。それでも一度に複数の効果を発揮するので、戦闘中にかけなおす手間を大幅に省くことができるのだ。

 ちなみにレネが最適化して組み上げたから上級に収まっているのであって、他の魔法使いなら天級に相当する魔法である。そしてその他にも問題があるため複合系魔法の構想は誰もが持っているのだが、実際に作られても使われることの少ない魔法である。

 今回の探索にもシャンティナが付いて来ているが、手出しはせずに見ているだけの予定である。本人もレネの護衛が本分なので特に不満はなかった。

 魔法をかけられた四人とも、効果に驚いて笑みを浮かべている。特にセラルはいつもの限界を超えても壊れない身体に興奮気味である。

「えー、一応修練を続ければ、今の状態程度は皆さん単独で発動できるようになるはずです。感覚を忘れずに頑張ってください」

「分かりました!」

 レネの説明に四人とも満面の笑みで答えた。全員が今の力を試したくてうずうずしているのは見ただけで分かる。

『きちんと実感できる目標はやる気を促進する。考えた甲斐があったな』

「えへへ……」

 杜人に褒められてレネもこっそりとはにかむ。説明されたことをレネなりに解釈して実行したわけだが、きちんと理解して評価されたのだから喜びもひとしおである。そのためレネは緊張を少しの間忘れて上機嫌に出発を宣言した。

「それでは出発!」

「おー!」

 レネの掛け声に四人は勢い良く拳をあげる。今回はしっかりと教えてもらっていたので、やる気も手伝って元気な声で応えた。

「やっぱりこうでなくっちゃね!」

『元気なのは良いことだ』

 うまくいったレネはとても満足し、杜人も満足げに頷く。こうして一行は元気良く出発したのだった。




 レーンにおいて騎士と魔法使いは、仲が悪いが互いに認め合っている。その理由の一端を、ノバルト達は結果によって実感していた。

「居た、六体、右三、中一、左二」

「ノバルト左、私が右に行く。セラルは右から順次殲滅、ミアシュは牽制!」

「おうよ! ぬありゃあ!」

「行きます!」

「了解」

 いつも通りミアシュが索敵し、それを聞いたレンティが即座に指示を出して対処にあたる。前回も同様に動いていたのだが、結果は全く異なるものになっていた。

 ミアシュは強化された感覚によっていつもより遠くまで、そして出現の兆候もより早く感知できるようになっていた。おかげで準備する余裕が常に生まれるので、全員落ち着いて対処できるのだ。

 指示後に一番重装備なレンティが引きつけるために右に駆けていく。そうすると灰色狼は集団で動く習性があるので、突出した者を見逃すことなく襲い掛かってくる。前回は盾を振り回して防御することしかできなかったが、今回は違う。

「強撃!」

 武技発動の掛け声と共にレンティが淡い光に包まれる。そして駆ける勢いを保持したまま盾を構え、噛み殺そうと口を開けて飛びかかってきた灰色狼に突っ込んだ。たったそれだけの技術も何もない攻撃だったが、強化され増加した速度が乗った鉄塊とまともにぶつかった灰色狼は、そのまま跳ね飛ばされて動かなくなる。

「ひとつ!」

 レンティは強撃の効果が切れたのでその位置で立ち止まると、盾を豪快に振り回して寄って来た灰色狼を牽制しながら獲物が離れないように動いている。一人で三体を引き受けたわけだが、不安は全く見えない。

「重さは破壊力なのは分かるけれど……。意外と過激なんだね」

『一応指揮官の予定なんだがな……。まあ、良いことにしよう』

 レネは巨大な盾を武器代わりに振り回すレンティに少し引き気味である。杜人も後方で指示を出すことを想定していたため、困った顔で頬を掻いていた。

 次に接敵したのはノバルトである。ノバルトは迫る灰色狼に狙いを定めて、大剣を振り上げたまま突撃した。狙われた灰色狼は避けようと位置を変えるが、反射神経が強化されたノバルトは逃すことなくそのまま振り抜き、床に大剣を食い込ませるほどの勢いを持って引き裂き一撃で倒す。

「どりゃあ!」

 そして床に食い込んだ大剣を強引に引き抜いてそのまま振り回す。そのため他の灰色狼は近づくことができなくなった。

「あれならやっぱり鎚のほうが使いやすいかな? 少なくとも抜く手間は省けるよね」

『脆い武器では駄目だろうな。むしろ打撃面を気にせずに使える棍棒系が良いかもしれない』

 武器は未だに大剣だが、一回ごとに床にぶつけていてはすぐに使えなくなってしまう。それなら金属の塊のほうが良い。こちらは予想通りなのでレネも杜人も普通である。

 そして二人の盾役の活躍で動きが止まった灰色狼にセラルが駆け込んで長剣を一閃する。その剣筋は正確に首を支える骨の間に入り込み、そのまま振り抜いて首を刎ね飛ばした。

「……良し!」

 セラルは身体に異常が出ていないことに笑みを浮かべると、止まることなく次の獲物へと向かっていった。

「うわあ、速い。それに普通の剣でもあんなことができるんだね」

『たぶん剣技の一種だろう。全力を出せる状態なら魔法使いより強いのかもしれないな』

 灰色狼の首を長剣で刎ね飛ばしたのを見たレネは驚きで目を丸くしている。杜人は物語などでよくある『骨の接ぎ目を狙った』とかではないだろうなと、少しだけ引きつり気味に笑っていた。

 後はミアシュも盾を持ちながら牽制に加わり、隙ができたところをセラルが一撃で屠る。それを繰り返し、六体いた灰色狼を一人も怪我をすることなく殲滅したのであった。





 そしてしばらく同じような戦闘を繰り返し、強化魔法が切れる頃に休憩に入った。今回はレネが結界を張っているので奇襲の心配をしなくてよくなっている。

「だいたい感覚は掴めたと思いますけれど、不満なところはありましたか? あるなら次は個人用に調整します」

『レネ、なんて恐ろしいことを……』

 少し硬めだが笑顔で言い切るレネに、杜人も笑いを堪えながら漂っている。ちなみに返事はなく、結界内には四人分のうめき声が響いていた。

 レネの強化を受けたことによって、ノバルト達は疲れを忘れて連戦に連戦を重ねた。そして効果時間が過ぎた現在、使い過ぎた肉体が悲鳴をあげているのである。

 強化系魔法はとても効果が高い魔法であるが、ほとんどの魔法使いはあまり使いたがらない。

 何故かというと、中級までの強化魔法は疲労を消し去りながら肉体が壊れないように強化し続けるものなので、肉体を長時間使い続けているのと同義なのである。だから調子に乗ると惨劇が訪れるのだ。これを回避するためには上級以上を使えば良いのだが、そこまで使える魔法使いは多くない。

 これが強化系の魔法を使いたがらない理由である。そして、レネはわざと中級魔法相当で強化を行っていた。

「えー、無いようなので解説します。肉体に反動がこないようにするには上級魔法以上で強化しなければなりません。ところが皆さんはそこまで使えないと思います。つまり、調子に乗ると今のように疲労で動けなくなるというわけです」

『もう少しゆっくりでも構わないぞ。強調するところを少し声を大きくしてみようか』

 棒読み口調だが、疲労困憊している四人は気付かない。レネは背中に汗を掻きながら杜人の指導に小さく頷いた。台詞は完全に憶えているが、重要な部分に入ったので抑揚まで気が回せるようにはなっていないのだ。

 今回レネは言葉で説明するより実際に体験したほうが良いと判断し、実行した。これはもちろん杜人の入れ知恵によるものである。

 最初に効果を実感させて虜にしてから副作用を教える。一度良さを知ってしまえば副作用を知っても捨てることは難しいものだ。気を付ければなんとかなる程度なら尚更である。ちなみに強化魔法には肉体の限度を超えないようにきちんと制限を設けてあるので、苦しいが後遺症は残らない安心設計となっている。

 解説している最中にうめいている四人にはシャンティナが濃い砂糖水を飲ませている。そのためやっと身体を起こせる程度までには回復することができた。

「……よく、分かりました」

 レンティはがっくりと肩を落としながら返答し、その他も力なく頷いた。全員浮かれていたことは自覚しているので、事前にこのことを教えられていたとしても結果は変わらなかったと認識している。

 むしろそれなりに自重するだろうから被害も軽く、浮かれた影響で深刻に考えなかったかもしれない。そしていつか加減を忘れ、限界を超えたところで動けなくなって死ぬ。それを思えば今回のやり方はとても正しいと判断した。

 理解して落ち込む様子に杜人は良いことだと頷く。

『やはり素直に聞いてくれるから教え甲斐があるな。初めの頃のレネが懐かしい……』

 杜人はレネが会話に応じられないことを理解している上で、わざとらしく遠くを見つめる。レネは危なく反応しそうになったが、ここで反応すれば奇異の目で見られてしまうことは分かっていたので笑顔のままぐっと堪えた。そんなレネを見た杜人は笑顔になって拍手を送った。

『よく堪えた。これなら誹謗中傷が来ても大丈夫だな』

「……」

 レネは無言だが褒められたため口の端を少しだけ上げる。固まった笑顔に加算されたそれは、傍から見ればよからぬたくらみを思いついた印象を与える。それを見てしまったノバルト達はぎこちなく微笑み、杜人は予想通りの結果ににやりと笑った。

 今のレネに親しみを持つのはまだ時期尚早と判断したため、杜人は畏怖を自然に植えつけるように仕向けたのだ。今馴染んでしまうと甘えが出てしまう。そしてレネはそれを拒絶できる性格ではない。そしてそのまま行けば結果として互いが後悔して仲違いするかもしれない。だからこっそりと手を打ったのである。

 直接言ってもレネは理解しただろうが、本番に弱いレネが微妙な表情を上手にできるとは思わない。そのため杜人は何も言わずに、今までの観察結果からレネの行動を予測して実行したというわけである。もちろんこの後に何を言うかを知っているので、その効果も予測済みである。

「分かってもらえたところで出発しましょう。大丈夫、もう少しで次の階層に到達できますから、帰るまでは効果は持続するはずです。ただ、時間がかかると途中で切れるかもしれませんね。反動が倍になっても良いなら重ねがけします。希望者は遠慮なく言ってくださいね?」

「頑張ります!」

 レネは雰囲気に気が付かないまま、傍目には優しく微笑みながら酷いことをのたまい、ノバルト達は泣きそうな顔で唱和した。

 現在の状態では強化してもらわなければ歩くこともままならない。そして急げばまた地獄の苦しみが待っている。ゆっくりすれば往来で恥を晒すかも知れず、避けようとすれば倍返しが待っているのだ。

 そんな逃れられない悲壮感を漂わせる様子を見た杜人はこれで良しと頷く。そしてレネが魔法を再度かけ終えたところで、出発を促した。

『行こうか』

「それでは出発!」

「おー!」

 もはややけくそ気味にノバルト達は声をあげると、少しだけ早足で歩き始めた。杜人はどうやら急ぐほうを選択したらしいと考え、レネに近づく。

『上出来だ。おそらく筋肉痛で動けなくなるだろうから、明日の訓練は自習にしようか』

「そうだね。……最後までうまくやれて良かったよ」

 レネは繰り返せば身体が鍛えられて慣れると知っているが、そのことを言わなかった。これは杜人から言葉で言うだけが方法ではないと習ったからである。これから何度も繰り返せば、そのうち必ず気が付く。その時の驚きと喜びを想像して、ほんの少しだけ微笑んだ。

 レネはどうにもならない絶望を知っている。だがノバルト達はまだ改善の余地が残されているのだ。手を差し伸べることができる立場にいるレネに、それを放置する理由は無かった。

 そのために杜人と共に嫌がらずに繰り返すことができる方法を何度も検討し、話の持って行き方を練習した。その結果、嫌われることになっても構わないと既に結論を出している。この辺りの思考は杜人の影響をかなり受けているのだが、レネは気が付いていない。

『ところでレネ、次は台本無しでやってみる気はないか? きっと面白いことが起こると思うのだが』

「無理言わないで。これが精一杯だってば」

 杜人の軽口にレネは笑顔で答えた。こんなことを練習なしに行えば訳が分からないことを口走る自信がある。もちろん杜人も分かっているので、つついてからかうだけで終わらせた。

『それと最後に黒姫珠水を渡すのを忘れるなよ。あれは胃腸に優しく栄養があるから、万が一食べることができなくてもなんとかなる』

「分かってる。分かっているけど、……うぅ、恥ずかしい」

 否定したい名前だが、一応己の名を冠したものを人に勧めることになる。販促をしているわけでは無いが、レネとしては何となく恥ずかしい行為である。頬を赤く染め、もじもじと身をよじるレネを杜人はいつも通りの笑顔で見つめていた。

 こうして最初の休日は無事に終了し、ノバルト達は次の階層と自室まで辿り着くことができたのであった。




 帰り着いたノバルト達は、身体が動くうちに急いで部屋に戻ると着替えなどを素早く行い、もらった黒姫珠水を飲んでから寝台に横になった。そして魔法効果が切れるのを待ち、切れたところで気絶するように夜まで眠った。

 そして目が覚めたところで重く痛い身体をぎこちなく動かして食堂に集合していた。食堂には他の騎士見習いもいたのだが、ノバルト達の放つどんよりとした雰囲気にほとんどの者が微妙に顔を引きつらせながら目をそらしていた。

「……やめたい人はいる?」

「……」

 気だるげなレンティの声に、他の三人は無言で首を横に振る。レンティも同じ気持ちなので小さく微笑んだ。

「あれは、卑怯です。あの素晴らしさを知らなければ拒否もできます。ですが……、少なくとも私には、たとえ後でこうなると分かっていても、自分のものにしてみたいと思いました」

 もっとも強化魔法の恩恵を受けたセラルは手を見ながら呟く。頭の中で描いた動きに完全な形で反応する肉体。セラルが渇望してやまなかった完成形がそこにあったのだ。

「俺も、諦めるのは無理だな」

 ノバルトも今回の戦闘で、初めて力と技がかみ合った感触を得ていた。その興奮は今でもよく憶えている。

「世界が、違う」

 ミアシュも小さく頷いた。いつもより感覚が強化されたため、相手の動きがよく見えた。そのためおとりをしても余裕で回避でき、班の一員として動けたという喜びが生まれていた。

「私も調子に乗ったけれど、あんなに軽く動けるとは思わなかったな」

 レンティも内側から溢れる躍動感を思い出してため息をついた。普段は着込んだ鎧などの重量によって、力があっても鈍重な動きしかできなくなる。つまり、今までは攻撃を耐えるだけが主な役割だったのだ。それを覆す可能性を実際に示された今、諦めたくなどない。

 思い出した全員が一斉にため息をつき、沈黙がしばしの間周囲を支配する。それを破ったのは、最近ご無沙汰になっていた侮蔑の声だった。

「ん? なんだそのしょぼくれた顔は。遂に教官にまで見捨てられたのか?」

 発言自体はどちらとも取れる内容だが、声にはいつも通りの嘲りが乗っているので勘違いする余地はない。発言者は騎士見習いの中でも上位にいる男で、貴族の跡継ぎである。周囲にいる取り巻き達もにやにやと嫌な笑みを浮かべている。

 だが、ノバルト達は今までも同様の侮蔑を受けているので誰も反応しない。これもいつものことである。最初は応対しながら我慢していたのだが、ノバルト達の反応に関係なく言いたいことを言えば去っていくので、右から左へ聞き流しても問題ないと分かったからである。

 ちなみにまともに名前を呼ばないため、ノバルト達も名前を憶えなかった。ただ、無いと不便なので『若様』と名付けていた。これなら誰かに聞かれても、思わずそう呼んでしまっても大丈夫とレンティが笑顔で考えたものだ。もちろんそこに尊敬は欠片も含まれていない。

 無視された格好になった若様だったが、無教養な平民のすることなので気にしていない。浮かれた新興貴族の跡継ぎによく発生する、貴族至上主義者の見本のような考えを持っているのだ。

 レーンでは貴族と平民の間の隔絶はそんなに大きくない。これは探索者の大部分が平民であり、功績があった者を貴族の一員に迎えている事実があり、ほとんどの貴族がその重要性を理解しているからである。

 だが、中には貴族になったのだからと『貴族らしい考え方』を跡継ぎに教育してしまう者がいる。間違いでは無いが、勘違いが起こりやすいことは確かである。

 親しみを持たれることと低く見られることは似ているようで全く異なるものだ。そのため貴族は平民に対して頭を下げるようなことは滅多にしない。しかし、新興の貴族はそのことを頭で理解はしていても肌で理解はしていない。そして小さい頃に植えつけられた考え方はなかなか矯正できない。そういう者達が『貴族は偉い』という勘違いをしてしまうのだ。これが貴族至上主義者と呼ばれる者達である。

 ちなみにレーンの貴族は『与えられた役職を全うする義務』を持つ。貴族だから偉いのではなく、義務をきちんと果たしているから偉いのである。もちろん役得は否定しないが、そういう貴族はそれなり以上の働きをしているのが普通である。これは国が拡大する中で多くの王族がそのまま大貴族になったためと、元々そういう性格の者が多いからである。

 もちろん例外はどこにでも存在しているが、目に余る家はいつの間にか跡継ぎが死んでいたり、他家からの入り婿を迎えて少しずつ変わっていったりしている。平民との隔絶は大部分の貴族にとって利益の侵害であり、貴族は利益を侵す者に容赦しないものなのだ。

 そういう訳で、若様は熱心な教育の結果、役立たずを非難するのは当然と思っているのだ。

「やめるなら早めにしておけよ。長くいればいるだけ迷惑をかけるのだからな!」

 言いたいことを言い終えた若様は取り巻きと共に食堂から去っていく。ノバルト達の班が役立たずを集めていると気が付いても、自分達の班が貴族至上主義者を集めているとは認識していない。もちろん変な考えを他の騎士見習いに伝染されては困るからである。

 立ち去る背中を横目で確認し、ノバルト達は一斉にため息をつく。

「見ていろよ。いつかその口を開けないようにしてやる」

「ええ、その時は声を掛けてください」

「同じく」

「と、とりあえず何か食べようよ」

 物騒なことを考える仲間にレンティは頭を抱えそうになる。今までは対抗手段が無かったが、希望は既に示されているのだ。そのうち売られた喧嘩を正面から買うかもしれない危険な状態と見て取った。そのためレンティは重い身体を動かして立ち上がり、火消しに走る。

「俺は具なしスープで良い」

「同じく」

「手伝う」

 食べると吐きそうであるが、食べないと回復も遅くなる。暗い思考が途切れため、レンティはほっとしながらミアシュと共にスープを取りに行った。

 見た目は小さくて頼りないのに、班の中でもっともまともな思考を持っているので実は一番頼りになり、そのためいつも苦労しているのは間違いなくレンティである。

 もちろんノバルト達も分かっているから、レンティの言うことに逆らわない。特にノバルトは、うっかり聞き逃すと容赦のない攻撃が来ることを、身体でしっかりと憶えたのだから……。
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